議論とは
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反論は相手の言っていることを否定することである。反論には2種類があり、主張型反論と論証型反論である。主張型反論とは、相手の主張とは反対の主張をすることである。
(例:原案が「全社員毎日出社すべきである」ならば、主張型反論は「出社かリモートワークかは選べるようにすべきである」など)
論証型反論とは、相手の理由/データが間違っているあるいは理由が主張を支えていないと突くことである。
(例:原案が「全社員毎日出社すべきである。なぜならオフィスの方がコミュニケーションは円滑になり、全体の生産性が上がるからだ」だとする。すると、論証型反論は「オフィスでコミュニケーションが円滑になっても、生産性は上がらない。なぜなら必要な話し合いはオンライン会議やチャットでできるし、オフィスだとムダ話が増えるからだ。」などがありうる)
議論が収束しない要因
2つありうる。
- 論点がずれたまま、議論が進む
- 議論が平行線になる
1. 論点がずれたまま、議論が進む問題への対処法
対処法は以下の通り。
1-1.論点を的確にとらえる
1-2.論点がずれないように予防する
1-3.論点がずれたら元の論点に戻す
1-1.論点を的確にとらえる
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論点となりうるのは、3種類である。
- 根拠と主張の結びつきは妥当か
- 主張の言う通りのメリット/デメリットがあるか
- そのメリット/デメリットがあるならどの程度か
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これらを具体的なケースで確認してみる。例えば、次のような主張と根拠があったとする。「もともとリモートワークを許可していたが、今後は全社員が出社すべきである。なぜなら、オフィスでは相手の様子が見え、相手が話せる状態かが分かる。それゆえ、より迅速に必要なコミュニケーションをとることができる。その結果、コミュニケーションは円滑になり、全体の生産性が上がるからだ。」この場合の論点は以下のようになる。
- 「オフィスにいたら、相手が話せる状態なのか分かる」は本当か?
- 「相手が話せる状態かが分かれば、より迅速に必要なコミュニケーションをとることができる」は本当か?
- 「より迅速に必要なコミュニケーションをとることができれば、全体の生産性が上がる」は本当か?
- その生産性はどれほど上がるのか?
1-2.論点がずれないように予防する
- 論点がずれるとは、目下で扱っていない論点について論証型反論をすること。さらに、論点がずれることを利用して、議論を煙に巻くことがある。これを揚げ足取りという。 論点のずれが起きやすいのは、一方にとって議論が不利になった時である。不利な側が逃げるように、無意識に論点を変える場合がある。
- 例:Aさん「リモートワークか出社かを当人の裁量で選べるようにすべきです。なぜなら、本人が働きやすい環境を選ぶことで生産性が高まるからです」Bさん「うちのオフィスは郊外なので遠いですよ」ここでの論点は本人が働きやすい環境を選ぶことで生産性が高まるか、あるいは選ばなくとも生産性が高まるか、それはどの程度の高まりか、というのが論点である。だが、Bさんはそれに反論をしていない。
- 論点がずれないような反論をする。上記のような論点に対し、論証型反論を使って反論する。すなわち、相手の根拠を否定する。あるいは、根拠と主張の繋がりを否定する。その否定の上で、主張を追加する。その主張に対して根拠を追加する。これを守ると、論点はずれない。
- 論点のずれの予防法は、相手が論証型反論を述べているかをチェックする。そして、もしも述べていないなら、相手の言っていることに直接答えるのを我慢する。代わりに、論点がずれたことを指摘する。論点のずれに気づくためのコツは、相手が述べるべきことを予測しておくこと。すなわち、相手が正しく論証型反論をするなら、相手は自分の述べた根拠を否定した形の主張をのべ、その後にその根拠を追加するはずだ。その形になっていないなら、論点がずれていると判別できる。
1-3.論点がずれたら元の論点に戻す
- 論点がずれた場合に、元の論点に戻すには、論点ずれを相手に指摘する。
例:
Aさん「リモートワークか出社かを当人の裁量で選べるようにすべきです。なぜなら、本人が働きやすい環境を選ぶことで生産性が高まるからです」
Bさん「うちのオフィスは郊外なので遠いですよ」
ここで、通勤しやすさについては論点ではありません。そのため、元の論点を指摘します。
Aさん「今議論しているのは、リモートワークか出社かを選べるようにすることで、生産性が高まるというメリットがあるかです。通勤しにくいというデメリットについてはその後で議論しましょう。」
議論が平行線になった時の対処法
議論が平行線になる要因
2種類ある。
- お互いが主張型反論をし、根拠に言及しない
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根拠を否定しているにもかかわらず、相手が元の主張を繰り返している
- 1の例:
Aさん「リモートワークか出社かを当人の裁量で選べるようにすべきです。なぜなら、本人が働きやすい環境を選ぶことで生産性が高まるからです」
Bさん「いえ、出社を義務化すべきです。なぜなら、出社する方がコミュニケーションの効率と質が上がるからです。」
Aさん「しかし、オフィスよりも自宅の方が生産性が上がるという方がいます。」
Bさん「いや、コミュニケーションを円滑化する方が重要です。」 - 2の例:
Aさん「リモートワークか出社かを当人の裁量で選べるようにすべきです。なぜなら、本人が働きやすい環境を選ぶことで生産性が高まるからです」
Bさん「本人が働きやすい環境を自覚しているとは限りません。そのため、選べるようにしても生産性が高まるとはいえないでしょう」
Aさん「しかし、本人が自由に働く場所を選ぶことで仕事はやりやすくなるはずです」
- 1の例:
対処法
議論が平行線になったら、無視されている論点についての意見を聞く。
1の例での対処法:Aさん「Bさんは、コミュニケーションの円滑さについて話しておられますが、本人が働きやすい環境を選ぶことで生産性が高まるという点については認められますか?」
2の例での対処法:Aさん「本人が働きやすい環境を自覚していないとしても、自由に働く場所を選べるようにして生産性が高まるという根拠を教えていただけますか?」
参考資料
論理が伝わる 世界標準の「議論の技術」 Win-Winへと導く5つの技法 (ブルーバックス 1914)