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スタブ関数とは何か? ~DLL、リンカーとの関係で理解する~

Last updated at Posted at 2025-06-15

スタブ関数とは何か? ~DLL、リンカーとの関係で理解する~

プログラミングの世界に足を踏み入れたばかりの方にとって、「スタブ関数」という言葉は聞き慣れないかもしれません。しかし、DLL(Dynamic Link Library)やリンカーといった用語と合わせて理解すると、その役割がグッと分かりやすくなります。

1. DLL(Dynamic Link Library)とは?

まずはDLLについて説明します。DLLは「ダイナミックリンクライブラリ」の略で、簡単に言うと複数のプログラムから共有して使える便利な機能の集まりです。

イメージしてみてください。あなたは、AというプログラムとBというプログラムを作りたいとします。どちらのプログラムも「文字列を逆順にする」という共通の機能が必要だとしましょう。

もしDLLがなければ、AとBのプログラムそれぞれに「文字列を逆順にする」コードを書き込まなければなりません。これは無駄ですよね?

そこでDLLの登場です。DLLの中に「文字列を逆順にする」機能を入れておけば、AとB 両方のプログラム内で、そのDLLの中の機能を使うだけで済むようになります。

  • メリット:
    • コードの重複をなくし、開発効率が上がる。
    • プログラムのサイズが小さくなる。
    • DLLを更新するだけで、それを利用しているすべてのプログラムの機能が更新される。

Windowsを使っていると、「.dll」という拡張子のファイルを見かけることがあると思いますが、それがDLLです。
以下のフォルダパスを見ると、大量に .dll ファイルが並んでいます。
C:\Windows\System32

2. リンカーとは?

次に「リンカー」です。あなたがC言語などでプログラムを書いたとします。それを実行可能なプログラムにするためには、いくつかのステップを踏みます。その中の一つに「リンク」という作業があり、リンカーがその役割を担います。リンカーの説明にあたり、「プログラムが実行可能になるまでの過程」を以下にまとめました。リンク、リンカーを初めて聞くという方は、以下の欄を参照してください。

プログラムが実行可能になるまでの過程
C言語などで書かれたソースコードが、実際にコンピューターで動く「実行可能なプログラム」になるまでには、いくつかの重要なステップがあります。「リンク」というステップは、その過程の最終段階の一つです。

以下に、その詳細なステップをテーブル形式で示します。

ステップ名 担当するツール/プログラム 概要 出力されるもの
1. プリプロセス プリプロセッサ ソースコード内の#include(ヘッダーファイルの読み込み)や#define(マクロの展開)といったディレクティブを処理します。 プリプロセス済みソースコード
2. コンパイル コンパイラ プリプロセス済みのソースコードを、コンピューターが理解できるアセンブリ言語に変換します。 アセンブリファイル
3. アセンブル アセンブラ アセンブリ言語で書かれたコードを、さらにコンピューターが直接実行できる機械語に変換します。これがオブジェクトファイルです。 オブジェクトファイル
4. リンク リンカー 複数のオブジェクトファイルや、DLLなどの外部ライブラリ(必要な機能の集まり)を一つにまとめ、実行可能なプログラムを作成します。 実行可能ファイル

このプロセスを経て、最終的に皆さんが普段ダブルクリックして起動するような「実行可能ファイル」が誕生します。それぞれのステップが、プログラムを正しく動かすために重要な役割を担っています。

リンカーは、あなたが書いたプログラムのコード(オブジェクトファイルと言います)と、DLLなどの外部にある必要な機能を「つなぎ合わせる」役割をします。

例えば、あなたのプログラムがDLLの中にある「文字列を逆順にする」機能を使いたいと指示していたとします。リンカーは、あなたのプログラムがその機能を呼び出せるように、DLLのどこにその機能があるのかを教えてあげる橋渡しを行います。

3. スタブ関数とは? ~DLLとリンカーの間の「代理人」~

さあ、いよいよ本題の「スタブ関数」(Stub Function)です。

あなたのプログラムがDLLの中の「文字列を逆順にする」機能を使いたいとリンカーに伝えたとします。このとき、あなたのプログラムがDLLの中の機能を直接呼び出すわけではありません。

実は、リンカーは、あなたのプログラムの中に**「スタブ関数」と呼ばれる小さな代理の関数**を作り出します。

このスタブ関数は、まるでDLLの中の機能の「電話番号」を知っている秘書のようなものです。

  1. あなたのプログラムが「文字列を逆順にして!」とスタブ関数に頼みます。
  2. スタブ関数は、DLLの中の実際の「文字列を逆順にする」機能(これをエクスポート関数と呼びます)がどこにあるかを知っているので、そこへ処理をバトンタッチします。
  3. 実際の機能が文字列を逆順にし、その結果をスタブ関数を通してあなたのプログラムに返します。

このように、スタブ関数はあなたのプログラムとDLLの間に入って、実際のDLLの機能を呼び出すための仲介役を果たすのです。

なぜスタブ関数が必要なのか?

「なぜ直接呼び出さずに、わざわざスタブ関数なんて挟むの?」と思うかもしれません。これにはいくつかの理由があります。

  • プログラムの柔軟性:
    DLLの機能の場所が変わったり、バージョンアップしたりしても、スタブ関数がその変化を吸収してくれます。あなたのプログラムは、常にスタブ関数を呼び出すだけで良く、DLLの内部構造の変化を意識する必要がありません。

  • 動的なリンク:
    DLLは「ダイナミック(動的)リンクライブラリ」という名前の通り、プログラムの実行時に初めてリンク(結合)されます。リンカーは、プログラムのコンパイル時にはDLLの具体的な場所を知らないため、とりあえず「ここにDLLの機能への入り口を作るよ」という目印としてスタブ関数を用意しておき、実行時に実際にDLLの場所が分かったら、その目印(スタブ関数)からDLLの機能へ飛ぶように設定するのです。

  • 開発時の仮実装:
    もう少し応用的な話ですが、開発中にDLLの機能がまだ完成していない場合でも、とりあえずスタブ関数だけ作っておいて、後から実際の機能をDLLに実装するというような使い方もあります。これにより、DLLの完成を待たずに、メインのプログラムの開発を進めることができます。

4. スタブ関数の例

ここでは、実際のWindowsに存在するDLLの関数を呼び出す際のスタブ関数について見てみましょう。

Windowsでは、多くのシステム機能がDLLとして提供されています。例えば、システムが起動してからの経過時間をミリ秒単位で取得する**GetTickCountという関数は、kernel32.dll**というDLLの中に含まれています。

あなたがC言語でGetTickCount関数を呼び出すプログラムを書くと、コンパイラやリンカーは以下のような処理を行います。

main.c (メインプログラム)

#include <windows.h> // Windows APIの関数を使うために必要

int main() {
    // GetTickCount関数を呼び出す
    // あなたのプログラムはこの関数を直接呼び出しているように見えますが...
    DWORD milliseconds = GetTickCount(); 

    printf("システム起動からの経過時間: %lu ミリ秒\n", milliseconds);

    return 0;
}

/*
出力例:
システム起動からの経過時間: 12345678 ミリ秒 (実行するたびに異なる値)
*/

舞台裏で起きていること (スタブ関数のイメージ)

main.c のコードを見ると、まるでGetTickCount関数があなたのプログラム内に存在しているかのように直接呼び出していますよね。しかし、実際にはGetTickCountkernel32.dllの中にあります。

ここでリンカーの仕事です。リンカーは、GetTickCountのような外部DLLの関数呼び出しを見つけると、あなたのプログラムの実行可能ファイルの中に、GetTickCountを呼び出すための**「スタブコード(スタブ関数)」**を自動的に生成します。
リンカーが自動で作成するコードは、アセンブリ言語のような低レベルなコードで実装されますが、疑似コードとして表現するのであれば、以下のようになります。

// リンカーが自動的に生成する「GetTickCountのスタブ関数」の擬似コード
// (実際にはアセンブリ言語などの低レベルなコードで実装されます)

DWORD __stdcall GetTickCount_Stub() {
    // 1. kernel32.dllがまだロードされていなければ、メモリに読み込む
    //    (これは通常、プログラム起動時に一度だけ行われる)
    if (kernel32_dll_not_loaded) {
        LoadLibrary("kernel32.dll"); // kernel32.dllをメモリにロード
    }

    // 2. kernel32.dll内で「GetTickCount」という名前の関数のアドレスを見つける
    //    (プログラム実行中に、動的にDLL内の関数の「住所」を探す)
    void* actual_GetTickCount_address = GetProcAddress(loaded_kernel32_dll, "GetTickCount");

    // 3. 見つけたGetTickCountの実際のアドレスに処理を「ジャンプ」させる
    //    これで、kernel32.dll内の本物のGetTickCount関数が実行される
    jump_to(actual_GetTickCount_address);

    // GetTickCountの実際の処理が終わると、その戻り値がここに返され、
    // さらに呼び出し元(main関数など)に返される
    return actual_result_from_GetTickCount; 
}

// main関数がGetTickCount()と書くと、内部的にはこのスタブ関数が呼び出される
// main.c:
// int main() {
//     DWORD milliseconds = GetTickCount(); // --> 内部的には GetTickCount_Stub() が呼び出される
//     ...
// }

この擬似コードが示すこと

  • LoadLibrary("kernel32.dll"): プログラムがGetTickCountを最初に呼び出す際、もしkernel32.dllがまだメモリに読み込まれていなければ、この命令によってOSがDLLをメモリに展開します。
  • GetProcAddress(loaded_kernel32_dll, "GetTickCount"): メモリにロードされたkernel32.dllの中から、「GetTickCount」という名前の関数がメモリ上のどこにあるのかを探し出し、その**正確なメモリアドレス(住所)**を取得します。
  • jump_to(actual_GetTickCount_address): 最後に、見つけ出した本物のGetTickCount関数のメモリアドレスに、プログラムの実行フローを**「ジャンプ」**させます。これにより、kernel32.dll内の実際の処理が実行されます。

この一連の動的なアドレス解決とジャンプの処理が、リンカーが生成するスタブコードの主要な役割です。プログラマはこれらの複雑な詳細を知らなくても、GetTickCount()と記述するだけでシステム機能を利用できるのは、この舞台裏の「代理人」のおかげなのです。

スタブコードの一般的な処理内容

スタブコードは、以下のような処理を行います。

  1. DLLをメモリに読み込む: まだkernel32.dllがメモリに読み込まれていなければ、それを読み込みます。
  2. 目的の関数のアドレスを見つける: kernel32.dllの中でGetTickCountという名前の関数がどこにあるかを調べます。
  3. そのアドレスに処理をジャンプさせる: 見つけたGetTickCountの実際のアドレスへ、プログラムの実行の流れを移します。

この一連の流れを担う小さなコード片が、実質的なスタブ関数の役割を果たしているのです。あなた自身がスタブ関数を明示的に書くことはありませんが、リンカーがあなたの代わりにこの「代理人」を用意してくれています。

なぜこの「代理人」が必要なのか?

  • 実行時の解決: GetTickCount関数のDLL内での正確なメモリアドレスは、プログラムがコンパイルされる時点では確定していません。なぜなら、DLLがOSによってメモリのどこに配置されるかは、プログラムが実行されるたびに変わり得るからです。スタブ関数(リンカーが生成するコード)は、プログラムの実行時にこのアドレスを動的に解決し、正しい場所へ処理を飛ばしてくれます。
  • 抽象化: プログラマはGetTickCountを呼び出すだけで良く、それがどのDLLのどこにあるか、どのようにメモリにロードされるかといった詳細を意識する必要がありません。スタブ関数がその複雑さを隠蔽してくれています。

この例のように、Windowsプログラミングにおいて頻繁に登場するDLL関数呼び出しの裏側には、リンカーによって生成された「スタブ関数」が隠れており、スムーズな実行を可能にしているのです。

5. 「スタブ関数」という用語が使われる 3 つのシナリオ

今回の記事においては、「動的リンクの仲介役」としての「スタブ関数」に焦点を置きましたが、一般的にスタブ関数は以下の 3 パターンのシナリオで用いられることがあります。

  • 動的リンクの仲介
    • DLL の関数を呼び出す際に、リンカーがスタブ関数を作成し、実際の関数へのジャンプを行う(橋渡しの役割)
    • 今回の記事で詳細に解説した役割
  • 開発時の仮実装
    • 実際の機能が未完成でも、プログラムの構造を先に作るために利用される。
    • 例えば、データベース接続が未実装でも、スタブ関数で仮データを返すことで開発を進めることができる。
  • テスト用の代替関数
    • 実際の処理を持たず、決められた値を返すことでほかの部分の動作を検証する。
    • 例えば、外部 API が未完成の場合、その API の代わりに一時的なスタブ関数を用意しててテストを進める。

まとめ

  • DLL: 複数のプログラムで共有できる機能の集まり。
  • リンカー: あなたのプログラムとDLLの機能を「つなぎ合わせる」役目を果たす。
  • スタブ関数: あなたのプログラムとDLLの実際の機能の間に入って、呼び出しを仲介する**「代理人」のような小さな関数**です。**スタブ関数は、それ自体が実際の処理を行うわけではなく、代理人として本当の実装側(DLL)に対して処理を「ジャンプ」させる役割を担います。**DLLの場所が実行時に確定される動的リンクを可能にし、プログラムの柔軟性を高めるために利用されます。

DLL、リンカー、そしてスタブ関数がそれぞれどのように関連し、スタブ関数がどのような役割を担っているか、概要を理解いただけたと思います。
プログラミングの学習を進める上で、これらの概念は非常に重要になってきますので、ぜひどんなものか知っておいてください。

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