はじめに
今回は、市民開発者の方が作成したアプリをリリースすることのメリットについて、私の考えを述べたいと思います。私の経験も踏まえた主観ですが、本内容が、何らかの理由でアプリのリリースを躊躇してしまう方を少しでも後押し、最初の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
なぜアプリをリリースすることを躊躇してしまうのか
私自身の経験やこれまでのご支援を通じて、個人的に以下のような不安があるかなと思っています。
もしかしたら、IT や開発経験がある人の方がより完璧にしてリリースしたいと思ってしまうかもと思います。
- もしかしたら重大なバグがあるかもしれない
- もっと機能を追加したい、もっと完璧に仕上げたい、そうしないと色々厳しい指摘や改善要望をもらうかもしれない
- 指摘や改善要望を貰った結果、自分の仕事が増えるかもしれない
- せっかく作ったけどもしかしたら使われないかもしれない
不安を取り除くために
取り急ぎ少しでも不安を取り除くために思いつくことを述べます。
今後実装予定の機能を明記しておく
リリースした際に、既に計画しているものの「この機能もほしい」と言われるのが嫌だ、億劫だという場合は、アプリの説明書やアプリ内のヘルプにて、今後実装予定の機能として書いておくと良いかと思います。そうすることでそのような指摘や改善要望は減ると思います。
展開範囲を徐々に広げていく
最終的に多くの人に共有する、したいと思っているアプリの場合、自分の身近な同僚、チーム、同じ部署など、少しずつ展開範囲を広げ、フィードバックをもらって改善したり、軽微なバグを修正してから利用範囲を広げて行くのがいいと思います。
私も、身近な同僚、チーム、部門、本部、組織全体のような感じで、展開範囲を徐々に広げていく事が多いです。もちろん、この際展開スケジュールを明確にしておくことも重要と思います。
Power Apps の開発アプローチを知っておく
以下に、従来の開発手法と Power Apps の開発アプローチの違いについての説明があります。
個人的に、最低限必要な機能は何かを検討して、その機能が実装できたらまずリリースする、
あったらいいなという機能は後ほど実装していくのが良いと思います。
最初から完璧を求めすぎないマインドセットが大切と思います。
また、最低限必要な機能はとっくに実装されているにも関わらず、あったらいいなと思う機能の実装に時間を要し、リリースのタイミングを遅らせてしまったり、UI/UX の好み、アプリ内の文言、文字のフォント、サイズなどの細かい点を含む過度なレビューやその対応のためにリリースを遅らせてしまったりするのは個人的にもったいないと思います。
そのため、ローコード開発のアプローチを組織に浸透させることも大切と思います。
時間の確保
当たり前ですが、ローコード開発による業務改善も立派な業務です。
業務時間内に取り組むことが難しい場合は、学習時間含め、アプリ作成時間を業務時間内に確保できるよう、必要に応じて、費用対効果も添えつつ、マネージャーらに相談していただけたらと思います。
組織としても、人材不足解消、生産性向上、DX 推進にもつながりますし、業務として時間を確保できるための取り組みをしていただけたらと思っています。また、リスキリングの取り組みとしてローコード開発を採用するのも良いかと思います。特に、紙の作業、転記、繰り返し作業などが沢山ある場合、業務を知っている人がローコード開発ができるようになると、費用対効果は絶大だと思います。
必要に応じて、事例などを交えて組織を説得するのも良いかと思います。
アプリをリリースすることのメリット
前置きが長くなってしまいましたが、不安を取り除きつつ、やはり、アプリの作成者本人がアプリをリリースすることのメリットを感じることも必要と考えます。
私の経験上ではありますが、アプリをリリースすることのメリットを述べたいと思います。
自分の仕事が楽になる
基本的には、業務を知っている人自身が、自らの業務を改善する、自分の仕事を楽にすることがアプリを作成する目的の一つだと思います。
例えば、以下の記事でも紹介している日程調整アプリは、私自身、打ち合わせの日程調整が面倒だったため、Power Apps でアプリを作成してみたことがきっかけで社内外に広がっていきました。
もちろん、このアプリのおかげで、私自身の日程調整業務が非常に楽になりました。
上記画像は、カスタマイズ版です。このようなカスタマイズも可能です。
同僚の仕事が楽になる、他者、組織に貢献できる
上記アプリはもちろん、これまで私が社内で作成して共有しているアプリは、同僚の業務改善、効率化にも貢献しています。
誰かのお仕事に貢献できるのってシンプルに嬉しいですよね。
私の場合、尊敬する同僚が沢山おり、そのような皆さんが私が作ったアプリを使ってくれていると思うととても嬉しくなります。
様々なフィードバックをもらえる
アプリをリリースすると自分が思ってもいなかったフィードバックを得ることができます。
それはちょっとしたバグだったり機能改善要望だったり色々ありますが、アプリをリリースしなければ気づけなかったことだと思います。
個人的に、アプリをリリースすることは、良質なアウトプットであり、ローコードのためフィードバックの取り込みも早くできるため、早いサイクルでデジタルフィードバックループを回すことで、DX を加速させることにもつながると考えます。
成長できる
デジタルフィードバックループを回すことで、間違いなく成長できると考えます。
もともと私はどちらかというとインフラ系のエンジニアで (Exchange、メールセキュリティ、Office 365 全般、認証、認可辺り)、サポートエンジニアとしてのキャリアが長く、トラブルシューティングが得意で、厳密には、プロ開発者としての経験はありませんでした。
そんな中、2 年少し前にマイクロソフト社内で Power Apps でアプリを作成してみて、自ら説明会を開くなどしてアプリを広めて行った結果、思ってもいなかったフィードバックを沢山もらえ、Power Platform のエンジニアに転身することができ、はじめてアプリを作成した時には考えられないようなアプリが作成できたり、仕事の幅も大きく広がりました。
成果につながる、市場価値が上がる
もちろん、自分自身、チーム、組織の生産性の向上に貢献するわけなので成果にも繋がります。是非、作成したアプリが組織にどれだけ貢献したか、できれば定量的なデータも添えつつ、マネージャーらにアピールしてもらえたらと思います。
このような活動を、所属する組織がどの程度評価してくれるかは分かりませんが、いずれにせよ、市場価値は間違いなく上がっていると思います。
既に業務スキルがある場合は、その業務スキルに加え、ローコード開発で組織に貢献した経験や実績について、間違いなく履歴書や職務経歴書にかけると思います。可能であれば、コミュニティや技術ブログなどを通じて組織外にも発信すると、更に市場価値は上がると考えます。
※転職するかは別として、履歴書、職務経歴書を定期的にアップデートすることは成長の実感につながりますし、市場価値を上げることは、今後の選択肢を広げ、心のゆとりにも繋がるので、個人的に重要と思っています
失敗できる
残念ながら作成したアプリがあまり使われなかった、思わぬバグがあった、UI/UX について大きな改善点が見つかったなど、少なからず失敗したかなと感じることもあります。
ただ、このような失敗を、ある意味容易に、早いサイクルで経験できるのもローコード開発のメリットの一つだと個人的に思っています。
もちろん、なぜ使われなかったのか、本当に必要なものはなんだったのかを考えることや、作成するにあたって学習したことは、次のアプリを作る際に大いに活かすことができます。
アプリを利用する方へ
最後に、アプリを利用する方に私がよくお伝えしていることを述べます。
感謝、称賛
まず、上述の通り、個人的に、市民開発者として初めてアプリをリリースすることは、とても勇気がいることだと思います。勇気を出して一歩踏み出したこと、少しでも業務を効率化させるために熱量を注いだことに感謝、称賛の言葉を伝えてほしいなと思っています。
完璧すぎを求めず、建設的なフィードバックを
アプリを作成したことがある方なら分かるかもしれませんが、個人的に、作成したアプリ、我が子のように可愛いです。
そのため、厳しいフィードバックをもらったりあら捜しをされたりすると非常に凹みますし、今後アプリを開発するモチベーションも落ちてしまうと思います。もしかしたら、組織における今後の市民開発の成長の芽を摘むことにもなるかもしれないですし、これは、非常にもったいないことだと思います。
そのため、改善点がある場合、是非、建設的なフィードバックをしてもらえたらと思います。
また、作成者もそうですが、利用者も完璧を求めすぎないマインドセットも大切と思います。
UI/UX の好み、アプリ内の文言、文字のフォント、サイズなどの細かい点についてフィードバックやするのもいいですが、アプリ作成者のモチベーションを下げないよう、伝え方には配慮してもらえたらと思っています。