『バナナの魅力を100文字で伝えてください』から学んだ技術コミュニケーションの知見をまとめました。
伝えること ≠ 理解してもらうこと
技術者として、この気づきは私にとって大きな反省となりました。
はじめに
エンジニアの日常には、技術的な知識や複雑な概念を他者に伝える機会が数多くあります。新しい技術の導入提案、アーキテクチャの説明、コードレビュー、技術ドキュメントの作成など。しかし、どれだけ丁寧に説明しても、相手の理解や行動に変化が見られないことがあります。
私もその課題に直面していました。資料は作る、説明はする。でも、その先の「相手の理解」「具体的な行動変容」までは至らない。この「伝えて終わり」の状態を改善するヒントを、柿内尚文氏の『バナナの魅力を100文字で伝えてください』から得ることができました。
本記事では、編集のプロフェッショナルである柿内氏の知見を、エンジニアの技術コミュニケーションに応用する方法をご紹介します。従来の「伝えて終わり」から、「相手の知りたいに応える」コミュニケーションへの転換を目指します。
なお、より詳細な手法やアプローチについては、ぜひ原著をお手に取ってご確認ください。本記事では、特にエンジニアの技術コミュニケーションに関連する部分にフォーカスして解説していきます。
「伝えて終わり」の罠
私の失敗談
あるプロジェクトで新しい技術スタックを導入した際、丁寧な技術文書を作成したものの、チームメンバーの実践的な理解までは至りませんでした。原因を分析すると:
- 技術の説明に終始していた
- 実際の業務での価値が見えづらかった
- 相手の視点に立った説明になっていなかった
バナナの本から学んだ転換点
柿内氏の本から学んだ重要な気づき:
- 「わかりやすさ」より「面白さ」を優先する
- 相手の「知りたい」を引き出す
- 具体的なイメージを喚起する
技術コミュニケーションの3つの柱
1. 面白くする
柿内氏は「面白さ」は「わかりやすさ」に先立つと説きます。技術的な内容であっても、受け手を惹きつける工夫が必要です。
- 具体例:
- 身近な例え話を活用する(「このAPIは24時間営業のコンビニのような存在です」)
- 問題解決のストーリー性を意識する(「あのバグから学んだこと」)
- 読み手の「なぜ?」を先回りして説明する
2. わかりやすくする
複雑な技術概念を、相手の理解レベルに合わせて説明します。
- 実践方法:
- 専門用語を必要最小限に抑える
- 図表やダイアグラムを効果的に使用する
- 段階的に理解を深められる構成にする
3. 役立つようにする
情報が実際の業務やプロジェクトで活用できるようにします。
- ポイント:
- 具体的なユースケースを提示する
- 実装時の注意点を明記する
- トラブルシューティングのガイドを含める
実践:コミュニケーション改善の具体例
検索機能改善の提案
Before(技術寄りの説明)
「Elastic Searchを導入して、全文検索機能を実装することを提案します。形態素解析により、検索精度が向上し、レスポンス速度も改善されます」
After(体験に基づく説明)
「先日、マーケティングチームから面白い指摘をいただきました。
『ユーザーが「お気に入り」と検索しても「お気にいり」という表記の商品が出てこない』
『「バック」で検索すると「リュック」が表示されない』
実は私も、先日「まぐろ」で検索したら「鮪」表記の商品が見つけられませんでした。
そこで提案があります。人間の感覚に近い検索の仕組みを作りませんか?
例えば...
- 「お気に入り」で検索 →「お気にいり」「おきにいり」もヒット
- 「バック」で検索 →「リュック」「デイパック」も表示
- 「まぐろ」で検索 →「鮪」「マグロ」も検索結果に
カタカナ、ひらがな、漢字が混在していても、探しているものが見つかる。
略語や言い換えでも、目的の商品にたどり着ける。
ユーザーにとって、それが自然な検索体験だと思うのです。
具体的な改善効果として:
- 検索結果が見つからない場合の問い合わせが減少
- 「検索したのに商品が見つからない」というストレスの解消
- 結果的に、購入機会の損失も防げる
まずは人気商品カテゴリーで試験的に導入し、効果を検証してみませんか?」
効果的な技術共有のテクニック
対話形式の活用
一方的な説明ではなく、対話を通じて理解を深める方法が効果的です。
- チーム内レビューでの実践:
- 「なぜこの実装方法を選んだのか?」
- 「他の方法は検討したか?」
- 「どのような課題が予想されるか?」
価値の可視化
技術的な優位性だけでなく、ビジネス価値も含めて伝えることで、より深い理解を促します。
- 例:
- パフォーマンス改善→ユーザー体験の向上
- コード品質向上→保守性とスケーラビリティの確保
- 自動化導入→開発効率とリリース品質の向上
まとめ:私の継続的な取り組み
現在も以下の点を意識して改善を続けています:
- チーム内でのフィードバックを積極的に求める
- 説明の前に相手の興味・関心を引き出す
- 具体的な業務上の価値を示す
柿内氏の本からは、技術コミュニケーションに関する多くの示唆を得ることができました。より詳しい内容や実践的なテクニックについては、ぜひ原著をお手に取ってみてください。
参考文献
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『海馬 脳は疲れない』池谷裕司×糸井重里
この本を読むきっかけとなった動画
この動画を視聴すると、本の内容がより分かりやすくなるかもしれません。