梅田悟司さんの「勘と生成AI」記事から学びを図解にまとめました📊
「生成AIの特徴は何でもできることだが、それゆえに何から始めればいいか迷う」という逆説がすごく腑に落ちました。
現場を知る私たちだからこその価値:
課題を見つける「勘」
品質を判断できる目
業務フローへの実装力
技術の進化と実務知識は対立でなく補完関係にあるという視点が新鮮でした。
はじめに
生成AIの台頭により、「AIに仕事を奪われる」という不安の声も聞かれますが、実務家(ビジネスパーソン)こそが生成AIを最も効果的に活用できる立場にあるという逆説をご存知でしょうか。
梅田悟司氏(元電通コピーライター)の記事「生成AIには『勘』がない? 生成AIで生産性を"爆上げ"する2つの視点」をきっかけに、生成AIと実務家の関係性について考察してみました。なぜ技術に詳しくないビジネスパーソンが、エンジニアよりも生成AIを使いこなせる可能性があるのか、その理由と活用法を探ります。
生成AIの根本的な課題:「なんでもできる」が混乱を招く
生成AIの最大の特徴は「なんでもできる」という点です。ChatGPTの入力画面には「お手伝いできることはありますか?」と表示され、テキスト入力さえできれば何でも質問できます。
しかし、この「なんでもできる」という特性が、逆に「何から始めていいかわからない」という混乱を招いています。可能性が無限にあるからこそ、何をすべきか決められなくなるというパラドックスが生じているのです。
実務家の「勘」が最大の武器になる理由
ここで実務家の強みが発揮されます。日々の業務経験から培われた「勘」、つまり「業務の土地勘」を持っているビジネスパーソンには、以下の強みがあります:
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不足情報の補完と目標調整能力
- 生成AIの出力に足りない情報を補える
- 状況に応じて目標設定を変更できる
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「あんなことできるかな」という効率化のニーズを具体的に持っている
- 日々の業務の中で「こんなことが自動化できたら」というニーズがすでにある
- これが生成AI活用の出発点になる
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「こうやったらできるかも」という仮説を立てられる
- 業務知識を基に具体的な解決策の仮説を持っている
- エンジニアは技術は知っていても業務ニーズがわからないことがある
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出力品質の判断ができる
- 生成AIの出力が実務レベルで使えるかどうかを判断できるのは実務家だけ
- システムエンジニアや生成AI専門家ではなく、実務家の判断が最も正確
漢字変換との類似性:文脈依存と予測不能性
生成AIの挙動は漢字変換に似ている面があります。どちらも文脈に依存し、時に予期せぬ「変換」が生じます。
例:
「今日は生成AIについて」→(意図)「考えます」(出力)「探究します」
実務家は漢字変換のように、生成AIの出力が意図と異なった場合に軌道修正する能力を持っています。これは日々の業務でフィードバックを行い調整する経験から培われた能力です。
投資対効果の高いユースケース特定
以下の図は、あくまで一例です。
生成AIの「なんでもできる」という特性の中から、本当に業務効率化につながるユースケースを見つけ出す能力も実務家の重要な貢献です。
例えば:
- 「資料作成の下書き生成」と「顧客対応の自動化」のどちらが先に取り組むべきか
- どの業務プロセスにAIを導入すれば最も効果があるか
これらの判断には業務全体の流れと各タスクの重要度を理解していることが不可欠です。
自律的なAIと人間の役割
以下の図では、現在地を仮にこの場所と想定して説明しています。
現在の生成AIは人間の指示に従って動作しますが、将来的には (現在進行形?) 、問題設定から思考錯誤までを自律的に行うAIが登場する可能性があります。そのとき、どの程度AIに任せるか、どこまで人間が関与すべきかの判断にも実務家の勘が必要になるでしょう。
実践的アプローチ:生成AIを業務に取り入れるステップ
1. 実験フェーズ:理解と可能性の探索
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まずは触ってみて楽しむ
- 業務に限らず、日常的な質問や相談から始める
- 「心理学者として」「親友として」など役割指定で実験する
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プロンプトの調整と実験
- 思ったような結果が得られなかった場合は指示を変えてみる
- 同じ質問でも表現を変えて効果を観察する
2. 業務実装フェーズ:仕組み化と定着
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要件整理と課題設定
- 解決すべき業務課題を明確に定義する
- 生成AIで解決可能な部分と人間が担当すべき部分を区別する
- ROI(投資対効果)の観点から優先順位をつける
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システム化と標準化
- 効果的なプロンプトテンプレートの作成と共有
- 有効だった使い方を業務フローに組み込む
- 既存システムとの連携方法の検討(APIの活用など)
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業務への段階的導入
- 小さな非クリティカルな業務から始める
- 成功体験を積み重ねる
- ユーザーマニュアルや社内ガイドラインの整備
3. 持続的改善フェーズ:評価と最適化
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効果測定と検証
- 定量的・定性的指標の設定(時間削減率、エラー減少率など)
- 定期的なフィードバック収集の仕組みづくり
- 想定外の使用事例や課題の発見
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現場主導の改善サイクル構築
- トップダウンではなく「ミドルリード × ボトムアップ」で進める
- 現場のリーダーを中心に組織に浸透させる
- 改善提案を集約・評価・実装するプロセスの確立
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知識の蓄積と共有
- 成功事例とベストプラクティスのデータベース化
- プロンプトライブラリの構築と継続的な改善
- 社内コミュニティやナレッジシェアの場の設置
実務家に求められる新たなスキルセット
生成AIの業務実装においては、従来の実務スキルに加えて、いくつかの新たな能力が求められるようになります:
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要件整理と課題設定能力
- 業務課題を生成AIで解決可能な形に翻訳する力
- 抽象的な問題を具体的なタスクに分解する能力
- AIの得意・不得意を見極める判断力
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プロトタイピングとデザイン思考
- 小さく始めて迅速に検証するアジャイル的アプローチ
- ユーザー視点での使いやすさの考慮
- フィードバックを取り入れた継続的改善
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変化マネジメントスキル
- 新技術導入に伴う組織の抵抗感への対応
- 従来のやり方からの移行をサポートする能力
- AIと人間の協働を促進するリーダーシップ
これらのスキルは、必ずしもエンジニアリング的な専門知識ではなく、むしろ業務と技術の架け橋となるような能力です。技術と業務の両方の言語を理解することで、真の価値を生み出せるのです。
おわりに:技術の進化と実務家の価値
以下の図には、自分の実務経験やAI活用への思いも反映されています。技術の進化によって、実務家の知見や判断力がより重要になると実感しています。
生成AIという新技術の波は、むしろ実務家の暗黙知の重要性を浮き彫りにしています。技術が進化するほど、その技術をどう活用するかの判断には、より高度な実務知識が求められるようになるでしょう。
成功の鍵は、一時的な「AIブーム」に飛びつくことではなく、持続可能な形で業務に組み込み、継続的に改善していくプロセスを確立することにあります。これは一朝一夕で達成できるものではなく、実務家の知恵と忍耐が試される長期的な取り組みです。
梅田氏が指摘するように、生成AIはまだ出てきたばかりの技術です。今からでも十分に活用の波に乗ることができます。実務家の皆さんは、自分の「業務の勘」を信じて、生成AIとの対話を楽しみながら、新しい可能性を探ってみてはいかがでしょうか。
参考資料