はじめに
Salesforceを初めて触る方が最初に戸惑うのが「取引先(Account)」という概念です。この記事では、Salesforceにおける取引先の基本的な考え方から実際の活用方法まで、図解を交えて分かりやすく解説します。
取引先(Account)とは
Salesforceにおける「取引先(Account)」は、法人や組織を管理するためのオブジェクトです。企業や団体全体を「取引先」として登録し、その組織に属する個人は「取引先責任者(Contact)」として管理されます。たとえば、「株式会社○○商事」が取引先であり、その会社に所属する「田中太郎 営業部長」が取引先責任者に該当します。
取引先の種類
Salesforceでは取引先を主に2つのタイプに分類できます。最も一般的なのは「法人取引先(Business Account)」で、株式会社ABCや学校法人XYZ大学のような企業や団体を表します。
一方、B2C事業で個人顧客を管理する場合には「個人取引先(Person Account)」を使用し、これは取引先と取引先責任者が一体化したもので、一般消費者や個人事業主などが該当します。
取引先の主要項目
取引先オブジェクトには多くの項目が用意されていますが、特に重要なものとして基本情報、連絡先情報、関係情報の3つのカテゴリがあります。
基本情報では取引先名、種別(顧客・見込み客・パートナーなど)、業界、従業員数、年間売上といった企業の基本的な属性を管理します。連絡先情報では請求先住所、電話番号、FAX番号、Webサイトなどの連絡手段を記録し、関係情報では親取引先(グループ会社の親会社)や所有者(担当営業担当者)といった組織間や担当者との関係性を管理できます。
取引先を中心とした関連オブジェクト
Salesforceでは、取引先を中心として様々なオブジェクトが関連付けられます:
取引先(Account)
├── 取引先責任者(Contact)- 企業の担当者
├── 商談(Opportunity)- 営業案件
├── ケース(Case)- サポート問い合わせ
├── 契約(Contract)- 契約情報
├── 活動(Activity)- メール、電話、会議の記録
└── その他カスタムオブジェクト
関係性の例
取引先を中心とした関係性は、例えば「株式会社サンプル商事」という取引先の場合、田中部長や佐藤課長といった取引先責任者、新システム導入案件(500万円)のような商談、システムトラブルの問い合わせなどのケース、年次保守契約といった契約、そして先週の訪問記録や今日の電話対応などの活動が全て関連付けられて管理されます。
このように取引先を軸として、人、案件、問題、契約、やり取りの履歴が一元的に把握できる仕組みになっています。
取引先階層の活用
大企業やグループ会社を管理する場合、取引先階層を活用できます:
○○ホールディングス(親)
├── ○○商事(子会社)
├── ○○製造(子会社)
└── ○○サービス(子会社)
この階層構造により:
- グループ全体の売上を集計
- 親会社での一括契約管理
- グループ会社間の関係性を可視化
実際の業務での活用例
1. 営業活動
見込み客として取引先を作成
↓
取引先責任者を登録
↓
商談を作成して営業活動を記録
↓
受注後、契約情報を関連付け
2. カスタマーサポート
既存取引先からの問い合わせ
↓
ケースを作成して取引先に関連付け
↓
過去の購入履歴や契約内容を参照
↓
迅速で適切なサポートを提供
3. マーケティング
取引先の業界・規模でセグメント分け
↓
キャンペーンやイベントの対象を絞り込み
↓
効果的なマーケティング活動を実施
取引先設計のベストプラクティス
取引先を効果的に運用するためには、以下の4つのポイントを押さえることが重要です。
-
命名規則の統一を図りましょう。「株式会社」や「有限会社」などの法人格表記を統一し、英語表記と日本語表記のどちらを使用するかといったルールを事前に決定しておくことで、データの一貫性を保てます。
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重複データの防止に取り組みます。新しい取引先を作成する前には必ず既存データを検索し、同じ企業が既に登録されていないかを確認してください。また、Salesforceの重複ルール機能を活用することで、システム側でも重複を自動的に検知できるようになります。
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項目の整理も欠かせません。自社の業務プロセスに本当に必要な項目を明確にし、使用しない項目については非表示にすることで、ユーザーにとって使いやすい画面を提供できます。これにより入力作業の効率化と入力ミスの削減につながります。
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データ品質の継続的な維持を心がけましょう。定期的なデータクレンジングを実施して古い情報や不正確なデータを整理し、入力規則やバリデーションルールを設定することで、質の高いデータを維持できます。
これらの取り組みにより、Salesforceを最大限に活用した顧客管理が実現できるでしょう。
まとめ
Salesforceの「取引先」は単なる顧客リストではなく、ビジネス関係を管理する中核的な概念として機能します。
取引先を中心に営業、マーケティング、サポートなどすべての顧客接点を統合的に管理することで、360度の顧客視点での情報一元管理、過去の履歴や関係者情報への迅速なアクセスによる営業効率向上、部門を超えた情報共有によるチーム連携強化、正確な顧客データに基づくデータドリブンな意思決定といったメリットが得られます。
Salesforce導入を成功させるためには、まず取引先の概念をしっかりと理解し、自社の業務に合わせた適切な設計を行うことが重要です。