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今さら森博嗣「笑わない数学者」のビリヤードの問題を解く(1)~導入編

Last updated at Posted at 2024-01-21

0. はじめに

2023年10月,将棋棋士の藤井聡太さんが前代未聞の八大タイトル全制覇を成し遂げた。既にタイトル戦以外の一般棋戦4つも制していたことから,イニシャルのFより

す べ て が F に な る

とも言われた。元ネタは森博嗣氏の小説S&Mシリーズの第一作である。初版は今から30年ほど前であるが,その後,何度もコミカライズ,テレビドラマ化,アニメ化され,息の長いコンテンツとなった。ちなみに自分はテレビドラマ版が一番好きだ。周囲の目を惹く美人という西之園萌絵くんのイメージに一番しっくりくる。原作小説もその時に集めたものだ。

1996年04月05日 小説「すべてがFになる」講談社,森博嗣
1996年09月02日 小説「笑わない数学者」講談社,森博嗣
2002年02月24日 漫画「すべてがFになる」全1巻,幻冬舎,浅田寅ヲ
2014年10月21日 テレビドラマ「すべてがFになる」全10回,フジテレビ
2015年05月28日 漫画「すべてがFになる THE PERFECT INSIDER」全2巻,講談社,霜月かいり
2015年10月09日 テレビアニメ「すべてがFになる THE PERFECT INSIDER」全11回,フジテレビ

さてシリーズ第3作の「笑わない数学者」はドラマ化されてはいないが,作中に登場するビリヤードの問題はそれなりに有名なようで検索すると挑戦者が何人も見つかる。当時と違って今ならビリヤードの問題も余裕で解けるはずだ。

1. 問題

問題を引用する。ちなみに作中に解答は記載されていない。
「五つのビリヤードの玉を真珠のネックレスのようにリングにつなげてみるとしよう。玉にはそれぞれナンバーが書いてある。さて,この五つの玉のうち幾つ取っても良いが,隣どうし連続したものしか取れないとしよう。一つでも二つでも五つ全部でも良い。しかし離れているものは取れない。この条件で取った球のナンバーを足し合わせて1から21までのすべての数ができるようにしたい。さあ,どのナンバーの玉をどのように並べてネックレスを作ればよいかな?」

2. 解法

五つの玉から隣どうし連続するものを取り出す組み合わせは21通りである。仮に玉をA~Eとして図0のように並べた場合,取り出す組み合わせは以下のようになる。これらの組み合わせによる数が重複せず1~21の数に1対1で対応する必要があり,まさにギリギリの条件である。

表1 五つの玉から隣どうし連続する玉を取り出す組み合わせ
個数 組み合わせ 組み合わせ数
一個 A,B,C,D,E
二個 AB,BC,CD,DE,EA
三個 ABC,BCD,CDE,DEA,EAB
四個 ABCD,BCDE,CDEA,DEAB,EABC
五個 ABCDE
合計 21

1と2だけは組み合わせで作れないので五つの玉の中に必ず含まれてなければならない。加えて総和が21になる組み合わせとなると以下の7つしかない。

  • その1(1,2,3,4,11)
  • その2(1,2,3,5,10)
  • その3(1,2,3,6,9)
  • その4(1,2,3,7,8)
  • その5(1,2,4,5,9)
  • その6(1,2,4,6,8)
  • その7(1,2,5,6,7)

その1(1,2,3,4,11)の場合 ⇒ NG

1の両隣に2と3を置くことはできない。1+2=3であるし,1+3=4であるが,3と4の玉は既に存在しており,重複してしまうからである。ギリギリの問題なので,重複すると1~21までの全ての数を作ることができない。この結果,1の両隣には4と11の玉を置くことになる。※以後,重複するとNGとなる論理を多用する。

しかしながら,いずれも1+4=2+3で重複してしまい,NGとなる。

その2(1,2,3,5,10)の場合 ⇒ OK

1の隣には2を置けない。また2の隣にも3を置けない。これより1の両隣の組み合わせは(3,5)(3,10)(5,10)の3つあるが,このうち(5,10)は残る2と3が隣同士になるのでNGである。

図2-1は正解である。すなわち(1,3,10,2,5)が正解の配置である。
一方,図2-2は3+5+2=10となって重複するのでNGである。

その3(1,2,3,6,9)の場合 ⇒ NG

1の隣には2を置けない。また3の隣にも6を置けない。これより1の両隣の組み合わせは(3,6)(3,9)(6,9)の3つある。

図3-1と図3-3は1+3+2=6で重複,図3-2と図3-4は1+6+2=9で重複するのでNGである。

その4(1,2,3,7,8)の場合 ⇒ NG

1の両隣に2と7を置くことはできないので,3と8の玉を置くことになる。

いずれも1+8=2+7で重複してしまい,NGとなる。

その5(1,2,4,5,9)の場合 ⇒ NG

1の隣には4を置けない。また4の隣にも5を置けない。これより1の両隣の組み合わせは(2,5)(2,9)(5,9)の3つあるが,このうち(2,9)は残る4と5が隣同士になるのでNGである。

いずれも1+5=2+4で重複してしまい,NGとなる。

その6(1,2,4,6,8)の場合 ⇒ NG

2の両隣に4と6を置くことはできないので,1と8の玉を置くことになる。

いずれも2+8=4+6で重複してしまい,NGとなる。

その7(1,2,5,6,7)の場合 ⇒ NG

1の両隣に5と6を置くことはできないので,2と7の玉を置くことになる。

図7-1は2+5=7で重複,図7-2は1+7=2+6で重複してしまい,NGとなる。

まとめ

以上より,左右対称形,回転対称形を除けば正解は以下の一つしかない。

3. 問題の一般化

さてビリヤードの玉を $n$ 個に拡張した場合を考える。$n$ 個の玉の総和は $n(n-1) + 1$ となる。こうして $n \le 17$ まで調べた結果を以下に示す。

表2 一般化したビリヤードの問題の解
$n$ 総和 正解 解の数
(1)
(1,2)
(1,2,4)
13 (1,2,6,4)
(1,3,2,7)
21 (1,3,10,2,5)
31 (1,2,5,4,6,13)
(1,2,7,4,12,5)
(1,3,2,7,8,10)
(1,3,6,2,5,14)
(1,7,3,2,4,14)
43 なし
57 (略)
73 (略)
10 91 (略)
11 111 なし
12 133 (略) 18
13 157 なし
14 183 (略) 20
15 211 なし
16 241 なし
17 273 (略)

もちろんこれらの結果は手計算で求めたわけでなく,プログラムを作成して求めた。このプログラムの紹介をするには本記事は長くなり過ぎたので次回にする。

4. 参考文献

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