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結婚相談所の成婚率について考察する

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本記事は特定企業もしくは特定業界について批評・批判するつもりはなく,あくまで数学の問題として考察することを意図したものです。

はじめに

まず「成婚率」とは何か?

経済産業省の定義によれば,

\textsf{成婚率} = \frac{\textsf{一定期間の成婚退会者数}}{\textsf{一定期間の平均総会員数}}

とのこと。一方,多くの結婚相談所では

\textsf{成婚率} = \frac{\textsf{一定期間の成婚退会者数}}{\textsf{一定期間の総退会者数}}

という定義を採用しているところも多いとのこと。

どちらが正しいのか?ではなく,それぞれどのような性質を持っているのか考察する。

数学モデルその1

簡単のため次のように定義した。

  • 会員が一年の間に成婚退会する確率を $x$ とする。この確率は在籍期間中は不変とする。通常,婚活は若さが最大の武器とされ,市場競争力が最高なのは入会一年目とされるが,ここではシンプルなモデルに努める。
  • 相談所の総会員数は一定とする。会員数が徐々に増えていく隆盛期や,逆に会員数が減っていく衰退期の場合も興味はあるが,これもシンプルな定常モデルで考える。
  • 在籍十年で卒業(強制退会)とし,それ以外の事由で中途退会しない。

総会員数

毎年の新入会者数を $1$ とした場合の総会員数

1 + (1 - x) + (1 - x)^2 + (1 - x)^3 + \cdots + (1 - x)^9 = \frac{1 - (1 - x)^{10}}{x} \tag{1}

となる。

毎年の成婚退会者数

総会員数と成婚確率 $x$ の積なので

x \cdot 式(1) = 1 - (1 - x)^{10} \tag{2}

となる。

毎年の非成婚退会者数

在籍期限十年のうちに成婚できなかった確率である。

(1 - x)^{10} \tag{3}

毎年の総退会者数

毎年の新入会者数 $1$ と釣り合っているので総会員数は一定に保たれる。

式(2) + 式(3) = 1 \tag{4}

経済産業省の成婚率の定義

何のことは無い。一年のうちに成婚退会できる確率 $x$ に等しい。

\frac{式(2)}{式(1)} = \frac{\hphantom{X}1 - (1 - x)^{10}\hphantom{X}}{\displaystyle \frac{1 - (1 - x)^{10}}{x}} = x \tag{5}

結婚相談所の成婚率の定義

これも在籍期限十年のうちに成婚退会できる確率を意味しており,定義としてはさほど不自然ではないと考える。

\frac{式(2)}{式(4)} = 1 - (1 - x)^{10} \tag{6}

二つの定義の違い

結婚相談所の定義する成婚率が 50%($1/2$)だったとして,経済産業省の定義する成婚率,すなわち一年あたりの成婚確率 $x$ はどのくらいだろうか?

1 - (1 - x)^{10} = \frac{1}{2} \\
x = 1 - \left( \frac{1}{2} \right)^{1/10} = 0.067 \tag{7}

すなわち 6.7% である。

数学モデルその2

  • 会員が一年の間に成婚退会する確率を $x$ とし,それ以外の事由で退会する確率を $y$ とする。この確率は在籍期間中は不変とする。
  • 相談所の総会員数は一定とする。※定常状態になっているものとみなす。

総会員数

毎年の新入会者数を $1$ とした場合の総会員数

1 + (1 - x - y) + (1 - x - y)^2 + \cdots = \frac{1}{1 - (1 - x - y)} = \frac{1}{x + y} \tag{8}

となる。

毎年の成婚退会者数

総会員数と成婚確率 $x$ の積なので

x \cdot 式(8) = \frac{x}{x + y} \tag{9}

となる。

毎年の非成婚退会者数

総会員数と非成婚退会確率 $y$ の積なので

y \cdot 式(8) = \frac{y}{x + y} \tag{10}

となる。

毎年の総退会者数

毎年の新入会者数 $1$ と釣り合っているので総会員数は一定に保たれる。

式(9) + 式(10) = 1 \tag{11}

経済産業省の成婚率の定義

何のことは無い。一年のうちに成婚退会できる確率 $x$ に等しい。

\frac{式(9)}{式(8)} = x \tag{12}

結婚相談所の成婚率の定義

\frac{式(9)}{式(11)} = \frac{x}{x + y} \tag{13}

これは結婚相談所にずっと在籍していれば,いつかは成婚できる確率を意味する。

x + x \cdot (1 - x - y) + x \cdot (1 - x - y)^2 + \cdots = \frac{x}{1 - (1 - x - y)} = \frac{x}{x + y} \tag{14}

二つの定義の違い

結婚相談所の定義する成婚率が 50%($1/2$)だったとする。これは成婚退会確率 $x$ と非成婚退会の確率 $y$ が等しいことを意味する。一方,経済産業省の定義する成婚率が10%だっとすると $x = y = 0.1$ ということになる。

この場合,所属会員の在籍年数の平均値 $z$ は

z = \frac{1 \cdot 1 + 2 \cdot (1 - x - y) + 3 \cdot (1 - x - y)^2 + \cdots}{式(8)} \tag{15}
(1 - x - y) \cdot z = \frac{1 \cdot (1 - x - y) + 2 \cdot (1 - x - y)^2 + 3 \cdot (1 - x - y)^3 + \cdots}{式(8)} \tag{16}

式(14) - 式(15) = (x + y) \cdot z = \frac{1 + (1 - x - y) + (1 - x - y)^2 + \cdots}{式(8)} = 1 \tag{17}
z = \frac{1}{x + y} \tag{18}

となるので,$x = y = 0.1$ を代入すると $z = 5$(年)となる。

$x = y = 0.5$ でも $x = y = 0.05$ でも結婚相談所の定義する成婚率はともに50%で変わらないが,平均在籍年数は前者だと $z = 1$(年)で後者だと $z = 10$(年)になってしまう。

一方,経済産業省の定義では前者は50%,後者は5%と明確な差が出る。

平均在籍年数 $z$ が分かれば,その逆数 $1/z$ が成婚退会確率と非成婚退会確率の和 $x + y$ なので,結婚相談所の定義する成婚率 $x / (x + y)$ から経済産業省の定義する成婚率 $x$ への換算が可能になる。ただし,非成婚退会者を含めた総会員の平均在籍年数は公開されていないように思える。

数学モデルその3

婚活市場における競争力は(おそらく)加齢とともに徐々に低下していくと思われるので,成婚確率を一定ではなく年を追うごとに低下していくモデルを考えた。

  • 入会一年目に成婚退会する確率を $x$ とし,以降,$x/2$,$x/4$ と低下していく。
  • 相談所の総会員数は一定とする。
  • 在籍三年で卒業(強制退会)とし,それ以外の事由で中途退会しない。
表1 年次の成婚確率と在籍者数・成婚退会者数の関係
確率 在籍者数 成婚退会者数 非成婚退会者数
$1$ $x$ $1$ $x$ $0$
$2$ $\displaystyle\frac{x}{2}$ $1 - x$ $\displaystyle(1 - x)\frac{x}{2}$ $0$
$3$ $\displaystyle\frac{x}{4}$ $\displaystyle(1 - x)\left(1 - \frac{x}{2}\right)$ $\displaystyle(1 - x)\left(1 - \frac{x}{2}\right)\frac{x}{4}$ $\displaystyle(1 - x)\left(1 - \frac{x}{2}\right)\left(1 - \frac{x}{4}\right)$
$\displaystyle 3 - \frac{5}{2}x + \frac{1}{2}x^2$ $\displaystyle\frac{7}{4}x - \frac{7}{8}x^2 + \frac{1}{8}x^3$ $\displaystyle 1 - \frac{7}{4}x + \frac{7}{8}x^2 - \frac{1}{8}x^3$

経済産業省の成婚率の定義

成婚退会者数と在籍者数の比なので

\frac{\displaystyle \frac{7}{4}x - \frac{7}{8}x^2 + \frac{1}{8}x^3}{\displaystyle 3 - \frac{5}{2}x + \frac{1}{2}x^2} = \frac{x(14 - 7x + x^2)}{4(6 - 5x + x^2)} \tag{19}

となる。とくに $x \ll 1$ の場合,

式(19) \approx \frac{7}{12}x \tag{20}

と近似できる。これは三年間の成婚確率の平均値に等しい。

\frac{1}{3}\left(x + \frac{x}{2} + \frac{x}{4}\right) = \frac{7}{12}x \tag{21}

結婚相談所の成婚率の定義

総退会者数(成婚退会者数と非成婚退会者数の和)は $1$ に等しいので

\frac{7}{4}x - \frac{7}{8}x^2 + \frac{1}{8}x^3 = \frac{x(14 - 7x + x^2)}{8} \tag{22}

となる。とくに $x \ll 1$ の場合,

式(22) \approx \frac{7}{4}x \tag{23}

と近似できる。これは三年間の成婚確率の和に等しい。

x + \frac{x}{2} + \frac{x}{4} = \frac{7}{4}x \tag{24}

二つの定義の違い

いずれの定義も一年目の成婚確率に応じて成婚率が単調増加する特性になる。ただし,一年目の成婚確率がゼロ近傍(原点付近)では,結婚相談所の定義する成婚率は経済産業省の定義する成婚率の約3倍になってしまう。

経済産業省の定義する成婚率:式$(19)$
結婚相談所の定義する成婚率:式$(22)$

まとめ

以上よりまとめると,おそらく以下のような意味になると考えられる。

  • 経済産業省の定義:単年の成婚確率(平均値)
  • 結婚相談所の定義:長期的に在籍する間(退会するまで)の通算の成婚確率

いずれの定義も自然であり,それなりに妥当性があると考えられる。

経済産業省の定義の課題

結婚相談所が毎年発表している報告書(白書)を読むと「活動している会員」という言葉がよく出てくる。すなわち所属はしているが活動を全く行っていない幽霊会員のような存在がいるらしい。本業が多忙で婚活に時間を割けず,一時的に活動を停止しているのかもしれない。休会制度というものもあるようだ。いずれにせよ,このような幽霊会員がそれなりの割合を占めていると成婚率の分母に入れて良いのか悩ましい。

結婚相談所の定義の課題

長期的に活動といっても具体的にどの程度の期間を覚悟しなくてはならないのだろうか?成婚率の情報だけでは分かりにくい。たとえば入会費や成婚時の成功報酬を高くして,その分だけ月会費・年会費を安くする(いっそ無料にする)などの極端な施策を取れば,経済的な理由で婚活を諦めて退会する圧力が下がり,非成婚退会確率 $y$ が下がるものと考えられる。この場合,成婚確率 $x$ が低くても成婚率 $x / (x + y)$ は限りなく 100% に近づいてしまうのだ。

おまけ

本記事では簡単のため会員数一定の定常モデルを採用した。しかしながら,日本の人口は以下に示すようにエグいくらいに若年世代が減少しており,日本国内市場のみをターゲットとする業界では緩やかな市場縮小モデルを覚悟せざるを得ないだろう。

男性,女性,100歳は100歳以上を示す

参考文献

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