※この記事の文章は、元々自分用に書いていたメモになります。変な箇所などあればご指摘ください。
はじめに
信用取引を行うようになってから、「どのくらい建玉を建てていいか(レバレッジを掛けていいか)」、もっと言うと「暴落に見舞われても追証や不足金が発生しないような建玉の額はいくらなのか」を知りたくなりました。以下はその計算メモになります。
委託保証金率
委託保証金(Margin)を$M_{mar}(0 < M_{mar})$[円]、信用取引(Credit transaction)による建玉評価損を$M_{cre}(M_{cre} \leq 0)$[円]、建玉代金(Position、Open interest)を$M_{pos}(0 < M_{pos})$[円]、現金(Cash)を$M_{cash}(0 \leq M_{cash})$[円]、現物取引(Spot transaction)による代用有価証券評価額を$M_{spot}(0 \leq M_{spot})$[円]とします。
話の単純化のため、決済損益や手数料は一旦無視すると、委託保証金率$r_{mar}$は次のように書けます。
\begin{align}
r_{mar} &= \frac{M_{mar} +M_{cre}}{M_{pos}} = \frac{M_{cash} +M_{spot} +M_{cre}}{M_{pos}}
\end{align}
この式を変形して、信用取引を行う前の資産(現金と現物)総額$M_{0}(0 < M_{0})$[円]に対して、どの程度の建玉ポジションを持っていても良いかという、建玉代金のレバレッジ比率(Leverage ratio)$r_{lev}=\frac{M_{pos}}{M_{0}}(0 < r_{lev})$を求めてみることにしました。
金額の変数を比率に置き換えてみる
まず、委託保証金率の式は「金額」を表す変数が使われていますが、$M_{0}$や$M_{pos}$に対する「比率」で置き換えられないか考えてみました(これにより、委託保証金率の式を、なるべく$M_{0}$や$M_{pos}$で表すことを狙う)。
現金比率(Cash ratio)を$r_{cash}(0 \leq r_{cash} \leq 1)$、現物取引による評価損益率を$r_{spot}(-1 \leq r_{spot})$、証券の担保掛目(Assessment rate of collateral)を$r_{coll}(0 \leq r_{coll} \leq 1)$、信用取引による評価損率を$r_{cre}(r_{cre} \leq 0)$とすると、次式が成り立つと考えました。
\begin{align}
&M_{cash} = M_{0} r_{cash}
\\
&M_{spot} = M_{0} (1 -r_{cash}) (1 +r_{spot}) r_{coll}
\\
&M_{cre} = M_{pos} r_{cre}
\end{align}
そして、上式を委託保証金率$r_{mar}$の式に代入し、分母と分子を$M_{0}$で割ると、
\begin{align}
r_{mar} &= \frac{M_{0} r_{cash} +M_{0} (1 -r_{cash}) (1 +r_{spot}) r_{coll} +M_{pos} r_{cre}}{M_{pos}} \nonumber
\\
&= \frac{r_{cash} +(1 -r_{cash}) (1 +r_{spot}) r_{coll} +(M_{pos}/M_{0}) r_{cre}}{M_{pos}/M_{0}} \nonumber
\\
&= \frac{r_{cash} +(1 -r_{cash}) (1 +r_{spot}) r_{coll} +r_{lev} r_{cre}}{r_{lev}} %\geq r_{minmar}
\end{align}
%(r_ca +(1 -r_ca)*(1 +r_sp)*r_co +r_le*r_ap)/r_le
求めたい$r_{lev}$を式中で作り出せました。そこで、$r_{lev}$について解くと、
\begin{align}
r_{mar} r_{lev} &= r_{cash} +(1 -r_{cash}) (1 +r_{spot}) r_{coll} +r_{lev} r_{cre} \nonumber
\\
(r_{mar} -r_{cre}) r_{lev} &= r_{cash} +(1 -r_{cash}) (1 +r_{spot}) r_{coll} \nonumber
\end{align}
\begin{align}
\therefore r_{lev} = \frac{r_{cash} +(1 -r_{cash}) (1 +r_{spot}) r_{coll}}{r_{mar} -r_{cre}}
\end{align}
%r_l = (r_ca +(1 -r_ca)*(1 +r_sp)*0.8)/(0.3 -r_ap)
最低保証金率を$r_{minmar}$とすると、$r_{minmar} \leq r_{mar}$なので、
\begin{align}
r_{lev} \leq \frac{r_{cash} +(1 -r_{cash}) (1 +r_{spot}) r_{coll}}{r_{minmar} -r_{cre}}
\end{align}
この式を使うと例えば、現物取引と信用取引での評価損益率が-50%になったとしても、追証が発生しない最大レバレッジ比率$r_{lev}$を求められます。例えば、$r_{cash}=0.1$、$r_{spot}=-0.5$、$r_{coll}=0.8$、$r_{minmar}=0.3$、$r_{cre}=-0.5$とすると、$r_{lev} \leq 0.575$となります。
具体的な金額に置き換えると、初期の資産(現金と現物の合計)として$M_{0}=1000$[万円]を持っていた場合、許容される建玉代金は$M_{pos} \sim 575$[万円]と計算できます。ポジション生成時の委託保証金率$r_{mar}$は、$r_{spot}=r_{cre}=0$で計算して$r_{mar} \sim 1.426$となりますが、$r_{spot}=r_{cre}=-0.5$まで下がると$r_{mar}=0.3$となります。
不足金の問題
上では追証のことだけを考えていましたが、現金より評価損が大きい場合($M_{cash} +M_{cre} < 0$)に決済すると、不足金が発生してしまいます。という訳で、不足金が発生しない条件も考えてみました。
評価損$-M_{cre}$よりも現金$M_{cash}$が大きければよいので、次のように計算しました($-r_{cre}$は正のため、第2式から第3式への計算で不等号は反転しない)。
\begin{align}
-M_{cre} &\leq M_{cash} \nonumber
\\
-M_{pos} r_{cre} &\leq M_{0} r_{cash} \nonumber
\\
\frac{M_{pos}}{M_{0}} &\leq -\frac{r_{cash}}{r_{cre}} \nonumber
\end{align}
\begin{align}
\therefore r_{lev} \leq -\frac{r_{cash}}{r_{cre}}
\end{align}
$r_{cash}=0.1$、$r_{cre}=-0.5$という上の条件を使うと、許容される最大レバレッジ比率は$r_{lev}=0.2$となります。
おわりに
今回、2階建て信用取引でどのくらい建玉を建てていいかを計算してみましたが、例えば「建玉を持ったまま意識不明になっている間に-50%の暴落が来ても、追証や不足金が発生しない建玉額はいくらか?」などを知りたい時に、上の計算が役立つかと思います。
ただ、トレードへの応用で言えば、「繰り返し取引を行っても追証が発生しない建玉額はいくらか?」が分かった方が嬉しい気がしています。今はそこまで考えられていないのですが、マネーマネジメント(資金管理)系の話を応用できないか考え中です。単純な解決策などご存知の方がいたら、教えていただけると嬉しいです。