私たちの身の回りにある様々な物やデジタルインターフェースには、ユーザーに直感的な使い方を伝えるための工夫が散りばめられています。その中でも「シグニファイア」という概念が、特にデザインの中で重要な役割を果たします。
シグニファイアは、物やインターフェースがどう使われるべきかを明確にする「手がかり」のことです。この記事では、シグニファイアについて具体例を挙げながら解説します。
シグニファイアとは?
シグニファイアとは、「人の行動を誘導するサイン/ヒント」という意味です。
例えば水道のハンドルには青色と赤色の印や表示がありますが、私たちはその表示をみて「青が冷たい水、赤が暖かい水」であることを認知して、出したい水が使えるようにハンドルを操作します。
また、Webサイトやアプリにおける「ボタン」は立体的にデザインされてたり、色やサイズの違いがつくられていることで、「ここをタップ/クリックすればいいんだな」と分かったりします
アナログな物体におけるシグニファイアの例
アナログな物体におけるシグニファイアの例として、ドアの取っ手が挙げられます。
縦長の取っ手であれば「引く(引けそう)」、平らなプレートであれば「押す(押せそう)」という情報を手がかりに、私たちは自然とドアを通過するための動作を選ぶことができます。
Webサイトなどデジタル領域におけるシグニファイアの例
Webサイトやアプリなどにおいて、シグニファイアはユーザーにとっての使いやすさを大きく左右します。
【ボタン】
Webサイトやアプリでよく使われる「ボタン」は、シグニファイアの典型的な例です。ボタンが平面的であったり、リンクと区別がつかない場合、ユーザーはその部分をクリックできることに気づかないかもしれません。これを防ぐために、影や立体感を持たせたデザインが施され、ボタンであることが視覚的にわかりやすくなっています。また、「クリックしてください」といったラベルを付けることで、さらに明確なシグニファイアを追加できます。
【フォームの入力フィールド】
フォームの入力フィールドもシグニファイアの一つです。入力ボックスが枠で囲まれていたり、下線が引かれていることで「ここに文字を入力できる」とユーザーに伝えています。プレースホルダーとして「名前を入力してください」と書かれていれば、ユーザーはそのフィールドにどの情報を入れるべきかを瞬時に理解できます。
シグニファイアは受け取る人のメンタルモデルに左右される
物や環境からシグニファイアを受け取ることで、私たちは特定の行動を促されます。しかし、すべての人が同じようにシグニファイアを認識するわけではありません。これはシグニファイアが、その人のメンタルモデルに影響されるからです。
メンタルモデルとは、物事の見方や行動に大きく影響を与える「思い込み」や「暗黙の前提」のことで、簡単に言えば、私たちが無意識に抱いている固定観念です。
例えば、神社の入り口に立つ「鳥居」は、神聖な領域の入り口を示すシグニファイアです。鳥居をくぐることで参拝者は「ここから神域に入る」という認識を持ち、無意識のうちにその後の礼儀や作法を意識し始めます。これは、鳥居が参拝者に対して境界を示し、行動を自然に導いているためです。
一方で、もし鳥居を初めて目にする人や、日本文化に馴染みがない人であれば、鳥居が持つシグニファイアを認識できないかもしれません。その結果、神聖な場所だと気づかず、適切な行動を取らない可能性もあります。
このように、シグニファイアの解釈や反応は、その人が持つメンタルモデルに大きく依存しているのです。
まとめ
シグニファイアは、物やインターフェースの使い方をユーザーに明確に伝える重要な要素です。適切なシグニファイアが配置されていることで、ユーザーは直感的に操作を理解し、スムーズに目的を達成できます。
一方で、シグニファイアが不十分であったり曖昧な場合、ユーザーは混乱し、操作に戸惑うことが増え、結果として離脱する可能性も高くなります。
デザインの現場では、シグニファイアとメンタルモデルを意識することで、UIや画面、さらにはプロセス全体が直感的で使いやすく、ユーザーに迷わない体験を提供することができるでしょう。