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ボルダルール(スコアリングルール)による民主的採択方式の実装

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多数決って本当に民主的?

2022年7月参議院議員選挙が近づき、政治に関心の高い方はどこに投票しようか思案しているのではないでしょうか。
もっと関心の高い方は投票しても意味がないと諦めているかもしれません。
さらに関心の高い方は選挙システムのあり方そのものについて考えていることでしょう。
ここでは政治的な話は抜きにして、多数決は投票者の意思を適切に反映する民主的な採択方式なのか について考えます。

旅行先を決めたい

10人で旅行先を決めようとしています。4人は海外、6人は国内に行きたいと考えています。
旅行先の候補は、ハワイ、北海道、沖縄の3つです。
もし国内に行きたいと思っている6人が、北海道と沖縄に半々に分かれた場合、多数決ではハワイが選ばれます。

ハワイ 北海道 沖縄
4人 3人 3人

しかし、もともと国内旅行に行きたいと思っていた人数の方が多数なので、「海外か国内か」という二択であれば国内が選ばれていたはずです。
それなのに、国内の選択肢が2つあって国内票が割れたことにより、結果的にハワイが選ばれてしまったのです。

ボルダルールの導入

ここで多数決のルールを変えてみます。
投票者には旅行に行きたい順に1位、2位、3位を決めてもらいます。そして、1位には3点、2位には2点、3位には1点を加算していき、最も点数が高い場所を選出します。

さて、先の10人に再度投票してもらい、下記の表を得たとします。

ハワイ派
4人
北海道派
3人
沖縄派
3人
1位 ハワイ 北海道 沖縄
2位 沖縄 沖縄 北海道
3位 北海道 ハワイ ハワイ

表の見方ですが、先の結果と比較しやすくするため、先ほどハワイを選んだ人をハワイ派、同様に北海道派、沖縄派とラベリングしています。
そして、列ごとに順位付けのパターンとそれを選んだ人数を記載しています。
1位にハワイ、2位に沖縄、3位に北海道を選んだ人が4人、という具合です。
ハワイ派は南国好きなので、ハワイ>沖縄>北海道という順位をつけ、
北海道派と沖縄派は国内旅行が好きなので、北海道>沖縄>ハワイ、沖縄>北海道>ハワイという順位を付けたと動機付けしておきます。

では先のルールに基づいて、旅行先それぞれについて採点します。
ハワイは1位が4人、3位が6人で18点。
北海道は1位が3人、2位が3人、3位が4人で19点。
沖縄は1位が3人、2位が7人、3位が0人で23点。
つまり、投票結果は 沖縄が1位 ということになりました。
国内に行きたいと思っていた多数派にも、南国気分を味わいたいと思っていたハワイ派にも、良い結果となったのではないでしょうか。

ボルダルールは多数決より民主的か?

先ほど新しく導入した選出ルールはボルダルールと呼ばれます。
ボルダルールはスコアリングルールの一種です。
投票者は選択肢から1つを選ぶ代わりに、順位付けを行います。そして、順位ごとに加算点数を定義し、最も高い点数を獲得した選択肢を選出する方法がスコアリングルールであり、
1位に3点、2位に2点、3位に1点を与えるスコアリングルールを特に ボルダルール と言います。
また、多数決は1位に1点、それ以外に0点を与えるスコアリングルールの一種だと言えます。

実は ボルダルールは多数決よりも優れている と言える特徴があります。
それはペア勝者・ペア敗者という概念で説明できます。

ペア勝者とペア敗者

選択肢の中から2つを選び、その2つのうちどちらが良いか多数決を行います。全てのペアの組み合わせについて多数決を行った結果、 他のどの選択肢に対してもペアごとの多数決で勝った選択肢をペア勝者 と呼びます。
反対に、他のどの選択肢に対してもペアごとの多数決で負ける選択肢をペア敗者と呼びます。

例えば先の例を使って、順位付けの結果をもとにペア勝者を確認します。
3つの選択肢から2つを選ぶ組み合わせは3通りです。
(ハワイ、北海道)のペアについては、ハワイ派の4人がハワイに、それ以外の6人が北海道を選びますので、北海道の勝ちです。(北海道派、沖縄派はどちらもハワイを3位に位置付けているため。)
(ハワイ、沖縄)のペアについても同様に、ハワイが4人、沖縄が6人選びますので、沖縄の勝ちです。
(北海道、沖縄)のペアについては、ハワイ派は北海道より沖縄の順位が高いので、沖縄が7人、北海道は3人なので、沖縄の勝ち、ということになります。

したがって、沖縄はどのペア投票においても勝利しているため、沖縄と他の旅行先とそれぞれ比較しても沖縄に行きたいと思っている人が多い ということがわかります。

多数決ではペア勝者である沖縄を選出することはできませんでしたが、ボルダルールではペア勝者を選出することができたのです。

ボルダルールよりもさらに優れた採択方式は存在するか?

まず、ボルダルールは必ずペア勝者を選出する方式ではないことに注意してください。
投票者の数や選択肢の数がいくつであっても、そしてあらゆる順位付けの組み合わせに対してもペア勝者が選出される採択方式を ペア勝者基準を満たす と言います。
また、同様にいかなる場合でもペア敗者が 選出されない 採択方式を ペア敗者基準を満たす と言います。
ボルダルールはペア勝者基準を満たしているわけではありません。ペア敗者基準を満たしているのみです。
さらにいえば、どんなスコアリングルールもペア勝者基準を満たしません。

そうなると、ペア勝者基準を満たす採択方式がないか気になりますよね。実はコンドルセ・ヤングの最尤法という方式はペア勝者基準を満たすことが知られています。
最尤法という言葉でピンとくる方もいるかもしれませんが、これは統計学的な手法です。
そのため、ペア勝者基準を満たす採択方式ではあるものの、現実の投票方式として使うには少し難解です。また、投票を棄権することによって自分に有利な結果を選出させうる(棄権防止性を満たさない)ため、これも現実では使われない理由となっています。

ペア敗者基準 ペア勝者基準
多数決             × ×
ボルダルール   ○  ×
コンドルセ・ヤングの最尤法   ○  

ボルダルールのデメリット

一方、ボルダルールのデメリットとしては、投票者が各選択肢に対して順位を付けなくてはならず、選択肢が多い場合にはその順位付けの作業が大変になるということが挙げられます。
また、どうしても嫌な選択肢にも点数がついてしまうという特性上、確実に採択されなさそうな選択肢の順位を上げて、どうしても嫌な選択肢はできるだけ下位に設定するなど、戦術的な順位付けを行われる可能性があります。

ボルダルールの実装

加算点数の定義は(選択肢の数-順位+1)点、選択肢ごとに投票者数×加算点数を総和し、点数が最も高い選択肢を選出します。
(加算点数の定義は等差であることが大事なようです。)

さらに詳しく知りたい方へ

今回のお話は下記の本に詳しく記載があります。薄い本なので、是非読んでみてください。
『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』
著者 ‏ : ‎ 坂井 豊貴
出版社 ‏ : ‎ 岩波書店 (2015/4/22)
発売日 ‏ : ‎ 2015/4/22
新書 ‏ : ‎ 208ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4004315417
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4004315414

多数決に不平等を感じている方、選挙システムに不満を持っている方などに向けて、公平で民意を適切に反映した採択をするための手法や研究が記載されています。
また決選投票方式やトーナメント方式など、スコアリングルール以外の投票方式についても考察があります。
私は、ちょうど政治に関して色々思うところがあったので、この本はドンピシャに刺さりました。
(何がすごいって、1762年に『社会契約論』の中で民主主義の基礎を説いたルソーがすごい。)

最後に

みんなで何かを決めようというときは、安易に多数決にせず、ボルダルールを提案してみてください!

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