なぜCursorを使いこなせないのか
Cursor Editorを試したものの「思い通りにコードが書けない」「指示通り動かない」——そんな経験はありませんか?あるいは、一見便利に見える生成AIが、少し複雑な指示になるとカオスを生み、逆に生産性が下がったという声も耳にします。
そんなあなたに伝えたいのが、AI Codingの新常識 として私が提唱する「Rules and Roles」という概念です。これは単なるプロンプトエンジニアリングではなく、AIにメタ的なコンテキストとワークフローを与える、極めて実践的かつ強力なフレームワークです。
対象読者
- Cursorを試したが、使いこなせなかった方
- Cursorでコードが崩壊し、怒りに震えた経験がある方
- 本気でAIと共に開発生産性を10倍にしたい全ての開発者
Rules and Rolesとは
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Rule:AIが従うべきルールや制約、メタ的な作業方針(例:要件定義は
.cursor/PRD.md
に記述する、タスクリストは.cursor/tasks/sprint{number}.md
に記載し、必ずステータスを記載するなど) - Role:AIが担う役割(例:PM、実装エンジニア、レビュアーなど)
Cursorではこの概念をCursor Rules(ルール)とCustom Modes(ロール)という機能で実装しています。Custom Modesはv0.48(2025年3月)で登場したばかりであり、それ以前のTipsはすでに時代遅れ です。
なぜ必要なのか?AIが迷子になる構造的な理由
多くの人が直面するAIコーディングの失敗例:
- 「とりあえず」書かせたコードが崩壊していく
- 要件を忘れ、意図しない挙動をする
- 不要ファイル・重複コード・過去のコンテキストを保持しないなどの混乱
これはすべて、「コンテキストの欠如」が原因です。
Claude Codeのベストプラクティスに見る「Rules and Roles」の概形
Anthropic社の公式ガイド「Claude Code: Best practices for agentic coding」では、AIコーディングにおける効果的な手法が紹介されています。これらの手法は、「Rules and Roles」の概念と密接に関連しており、以下の点で補完し合っています。
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CLAUDE.md
によるコンテキストの明示
Claude Codeでは、プロジェクトのルールや作業方針をCLAUDE.md
ファイルに記述することで、AIが作業時に参照するコンテキストを提供します。これは、Cursorの「Rules」に相当し、AIが一貫した行動を取るための指針となります。 -
ワークフローの明確化と段階的実行
Claude Codeは、以下のような段階的なワークフローを推奨しています。- 探索と計画:AIにコードベースを読み込ませ、問題解決の計画を立てさせる。
- テスト駆動開発:まずテストコードを作成し、その後実装を進める。
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反復的な実装とレビュー:実装とテストを繰り返しながら、コードの品質を高める。
これらのステップは、Cursorの「Custom Modes」を活用した「Roles」の設定と一致しており、AIが各フェーズで適切な役割を果たすことを可能にします。
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明確な指示とコンテキストの維持
Claude Codeでは、AIに対して具体的で明確な指示を与えることが推奨されています。これは、AIが誤った解釈を避け、期待通りの出力を得るために重要です。また、CLAUDE.md
やワークフローの活用により、コンテキストの維持が容易になります。
AI開発ワークフローの構築
このシーケンス図は、各エージェントが明確な役割(Role)と作業ルール(Rule)に従って連携し、AIが迷子になることなく開発を進める理想的なワークフローを表しています。
特に、定型的なドキュメントを共有することによって、一貫性・再現性を維持することが重要です。
これらのドキュメントは、.cursor配下に置くことが一般的となっており、Git管理することでチーム間での共有も可能となるでしょう。ただし、これらはAIエージェントによる更新が前提のドキュメントであるため、人が直接編集すべきではありません。適格なロールに指示を与え、ルールに従ってメンテナンスさせるべきです。
従って、各ロールが 「何をすべきか」だけでなく「どのようにすべきか」までを事前に明文化しておくことが極めて重要です。以下はその具体例です。
# PM Mode(Technical Product Manager)
## 役割:
* ユーザーやビジネス側からの要望を受け、実装可能な粒度にまで分解したPRD(Product Requirements Document)に落とし込む責任を担う。
## ルール:
* 要件を明文化する際に、UI/UX、技術制約、スコープの範囲(MVP/Post-MVP)を必ず確認・整理する。
* PRDの構成はテンプレートに準拠し、「目的・技術選定・想定ディレクトリ構造・リスク・未知の要素」を明示する。
* 最終成果物(PRD)は、開発と設計の「出発点かつ唯一の真実」として後続工程に連携される。
# DEV Mode(Developer Agent)
## 役割:
* PRDに基づき、ストーリー単位で正確に実装し、完全にテストされた成果物を作成する。
## ルール:
* 着手前に、story-*.mdファイルをチェックし、現在の開発ストーリーの状態を明確に認識すること。
* ストーリーが Approved でなければ実装に入らない。開発中も、完了ごとに必ず状態を更新・記録する。
* 自動テストの合格はストーリー完了の必須条件。テスト未実施のコードは完成と見なさない。
* ドキュメント更新、アーキテクチャファイルとの整合性確認、命名規則・分離責務の遵守など、コード以外の品質維持にも責任を持つ。
ShowCases
より実践的な具体例として、以下に紹介するプロジェクトは、Rules and Roles思想に基づいたワークフローを実装しています。
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- Research / Innovate / Plan / Execute / Review の5段階で構成
- 各段階をAIが明示的に遷移していく。メモリバンク機能が先進的
- 難点:スタートアップコマンドなど事前準備が必要
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- 最新のCursor RuleとCustom Modeに準拠
- シンプルで扱いやすい構成。ドキュメント生成が中心
- YouTubeで解説あり。初心者にもわかりやすい
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- Claude向けで少し趣旨からそれるが、Cursorでも応用可能
- タスクベースの管理により、AIが目的を見失わない
- task-masterとプロンプトを紐づけるルールを作ることができれば有用になりそう
よくある誤解と本質的な違い
- Rules and Rolesは「プロンプトエンジニアリング」とは別次元
- MCPやプラグイン多用が目的ではない。ワークフロー管理こそが本質
- 「思い通りにいかなければ、AIに聞け」——彼らは自分たちに与えられたコンテキストを理解している
おわりに:今日から始めるAIコーディング
生成AIを開発プロセスに活用する上で最も重要なのは、「何を、どのように進めるか」を明確に定義することです。
ここで求められているのは、人が逐一タスクリストを作成してAIに指示を与えることではありません。
そうではなく、要件の抽出からタスクの分解、実装、テストに至るまでの一連の開発サイクルを、明確なワークフローとしてAIに遵守させることが鍵となります。
その基盤となるのが、Rules(ルール)とRoles(役割) の明文化です。
Cursorはこの構造を柔軟かつ強力に定義・実行できる、現時点で最も優れたAIコーディング環境のひとつです。
たとえ過去にCursorを挫折した経験があっても、あるいはこれから新たに始めようとしている方であっても、「AIコーディングが進化する瞬間」 に立ち会うことができます。
今こそ、AIとともに開発を再定義する第一歩を踏み出しましょう。