数多くのOracle GoldenGate (OGG) プロジェクトを手掛けてきた経験から、私たちが最初にお客様へお伝えするアドバイスは「運用・保守プロセスの標準化」です。エンタープライズレベルのデータ同期の要であるOGGの安定性は極めて重要であり、その安定性は効率的かつ標準化された管理から生まれます。しかし、数十、数百ものOGGインスタンスが環境内に展開されると、従来のggsci
コマンドラインツールはすぐにボトルネックとなります。DBAは異なるノードに何度もログインし、info all
やview report
など同じコマンドを繰り返し実行しなければなりません。この作業は非常に煩雑で、ミスも発生しやすくなります。
このような課題を解決するため、私たちのチームはゼロから新しいツールの開発を決意しました。目標は、複数のOGGインスタンスを並列で管理し、複雑な操作を単一コマンドに集約し、モダンで構造化された出力を提供するCLIユーティリティを作ることです。数ヶ月の開発と社内テストを経て、**ggutil
**が誕生しました。本記事では、そのコア設計、技術的実装、そしてGoを選んだ理由を解説します。
1. ggutilの主な機能
まず、DBAにとって最も時間がかかり、繰り返し発生するOGG管理作業を特定し、それらをggutil
のコア機能としました。
グローバル監視(mon
):
これが最も基本的かつ頻繁に必要とされる機能です。ggutil mon
コマンドは、設定されたすべてのOGG Homeに並列で問い合わせを行い、バージョン情報やinfo all
の結果を取得し、OGG Homeごとにグループ化して表示します。従来は手作業で数分、場合によっては十数分かかっていた確認作業が、1回のコマンドで数秒で完了します。
$ ggutil mon
==== Home: /acfsogg/oggo, OGG for Oracle, Version 19.1.0.0.4 ...
Program Status Group Lag at Chkpt Time Since Chkpt
MANAGER RUNNING
EXTRACT RUNNING EXTORA 00:00:00 00:00:03
----------------------------------------------------------------------
==== Home: /acfsogg/oggp, OGG for PostgreSQL, Version 21.14.0.0.0 ...
Program Status Group Lag at Chkpt Time Since Chkpt
MANAGER RUNNING
EXTRACT RUNNING EXT_PG 00:00:00 00:00:07
REPLICAT RUNNING REP_PG 00:00:00 00:00:01
設定・パラメータの可視化(config
& param
)
トラブルシューティング時には、プロセスの設定を素早く把握することが重要です。ggutil config
は、すべてのプロセスの概要情報(ソース、ターゲット、パラメータファイル内のTABLE
やMAP
文の数など)を集約表示します。ggutil param <process_name>
は、特定プロセスのパラメータファイル内容を表示し、ファイルパスを探し回る手間を省きます。
# 特定プロセスのパラメータファイルを表示
$ ggutil param extora
==== OGG Process [ EXTORA ] Under Home: [ /acfsogg/oggo ] ====
Param file [ /acfsogg/oggo/dirprm/extora.prm ] content for 'EXTORA':
EXTRACT extora
USERID c##ogguser@oracledb/orcl, PASSWORD ogguser2025
exttrail ./dirdat/or
TABLE TUSER.TTAB1;
パフォーマンス統計(stats
):
ggsci
のstats
コマンドも便利ですが、出力内容の可読性と情報範囲には限界があります。ggutil stats <process_name>
は、合計および日次のI/U/D(Insert/Update/Delete)操作統計を解析・表示するだけでなく、**TPS(transactions per second)**ビューも提供します。これはパフォーマンス評価やキャパシティプランニングに非常に有用です。
$ ggutil stats rep_pg
==== OGG Process [ REP_PG ] Under Home: [ /acfsogg/oggp ] ====
==========================[total stats]===========================
*** Total statistics since 2025-07-05 14:53:19 ***
+----------------------------+---------+---------+---------+
| Table Name | Insert | Updates | Deletes |
+============================+=========+=========+=========+
| source_schema.source_table | 5000.00 | 4000.00 | 3000.00 |
+----------------------------+---------+---------+---------+
=======================[hourly stats/sec]=========================
*** Hourly statistics since 2025-07-05 14:53:19 ***
+----------------------------+--------+---------+---------+
| Table Name | Insert | Updates | Deletes |
+============================+========+=========+=========+
| source_schema.source_table | 0.01 | 0.01 | 0.01 |
+----------------------------+--------+---------+---------+
ワンクリックバックアップ&収集(backup
& collect
)
ggutil backup
は、すべての重要なOGG環境ファイル(設定、ログ、レポート等)をワンクリックでバックアップし、タイムスタンプ付きのtar.gz
に自動でまとめます。ggutil collect <process_name>
は、特定プロセスに関連する診断ファイルを迅速に収集でき、トラブル対応の時間を大幅に短縮します。
2. 技術アーキテクチャ:
ggutil
の強みは、よく考え抜かれた技術アーキテクチャにあります。
並列処理重視:GoのGoroutine活用
図:ggutil CLIの並列ワークフローアーキテクチャ。ユーザーコマンドは複数のOGG Homeへ並列Goroutineで分配され、生の出力がパース・集約され、最終的に構造化レポートとしてユーザーに返されます。
上記の図は、ggutil
の並列ワークフローアーキテクチャを示しています。ユーザーがコマンドを実行すると、ggutil
は複数のGoroutineを立ち上げ、各OGG Homeと並列にやり取りします。各Goroutineは必要なggsci
コマンドを実行し、生のテキスト出力を中央のパーサー・集約器に送信します。結果は構造化されたレポートとして整形され、ユーザーに分かりやすく提示されます。
最初の技術的決断はプログラミング言語の選定でした。Goを選ぶ 主な理由は3つです:
- ネイティブな並列処理:GoのGoroutineとChannelにより、高並列プログラムをシンプルかつ効率的に記述できます。多数のOGG Homeを同時に操作する本ツールには最適です。数百、数千のGoroutineを軽量に生成でき、従来のスレッドモデルより優れています。
-
クロスプラットフォームなバイナリ配布:GoはLinux、Windows、macOS等、どの環境向けにも単一の依存不要なバイナリを簡単に生成できます。これにより、複雑なランタイム不要で
ggutil
を配布可能です。 -
充実した標準ライブラリとエコシステム:Goの標準ライブラリ(
os/exec
、regexp
等)や活発なOSSコミュニティは、迅速な開発の基盤となりました。
ggutil
のコア並列モデルは以下の通りです:
ユーザーがコマンド(例:ggutil mon
)を実行すると、メインプログラムは設定からOGG Homeリストを読み込み、各OGG HomeごとにGoroutineを起動します。sync.WaitGroup
で全Goroutineの完了を待ちます。
// 疑似コード:並列実行モデル
var wg sync.WaitGroup
// resultsChanは並列タスクの出力を安全に収集
resultsChan := make(chan string, len(oggHomes))
for _, home := range oggHomes {
wg.Add(1)
go func(oggHome string) {
defer wg.Done()
// このGoroutineでggsciコマンドを実行
cmd := exec.Command(filepath.Join(oggHome, "ggsci"), ...)
output, err := cmd.CombinedOutput()
if err != nil {
// エラーハンドリング
return
}
// 結果をチャネルに送信
resultsChan <- string(output)
}(home)
}
// すべてのGoroutineの終了を待つ
wg.Wait()
close(resultsChan)
// チャネルからすべての結果を読み取り処理
for result := range resultsChan {
// 出力をパース・整形
}
この分割統治アプローチにより、従来は直列だった作業が並列化され、全体の実行時間は最も遅いタスクの時間で決まります(合計時間ではありません)。
出力:生テキストから構造化レポートへ
ggsci
のもう一つの課題は、人間向けの非構造化テキスト出力であり、プログラムによる解析が困難な点です。私たちはこれを徹底的に解決しました。
私たちの解決策は正規表現です。各ggsci
コマンドごとに、必要なフィールド(プロセス名、ステータス、ラグ、テーブル名、操作件数など)を抽出する精密な正規表現パターンを作成しました。この地道な作業が、構造化出力の鍵となります。
抽出後は、優れたオープンソースライブラリgithub.com/bndr/gotabulate
を使い、Goの構造体スライスを美しく整列した表形式でレンダリングします。これにより、ターミナル出力がプロフェッショナルに見えるだけでなく、結果をそのままメールやレポートにコピペできるようになります(再整形不要)。
堅牢性とユーザー体験
優れたツールは、強力なだけでなく、使っていて心地よいものでなければなりません。
-
モダンなCLI:
github.com/urfave/cli/v2
を採用し、ggutil
のCLIを構築しました。これにより、豊富なサブコマンドやフラグ(--debug
など)、自動生成されるヘルプドキュメント(-h
)が利用できます。 -
柔軟な環境設定:各企業には独自の運用習慣があります。
ggutil
は、-g
/--gghomes
CLI引数やGG_HOMES
環境変数でOGG Homeパスを指定でき、既存の自動化スクリプトにも簡単に組み込めます。 -
徹底したエラーハンドリング:ファイルI/O、コマンド実行、パスチェックなど、エラーが発生しうるすべての操作に詳細なエラーメッセージを用意。エラー発生時は明確なプロンプトを表示し、
--debug
有効時はGoroutineのエラーログやスタックトレースも出力、迅速なトラブルシューティングを支援します。
3. オープンソース、コミュニティ、そして今後の展望
私たちは、優れたツールは共有されるべきだと考えています。ggutil
はMITライセンスのもと、GitHubで完全にオープンソース化されています。
- GitHubリポジトリ: https://github.com/goodwaysIT/ggutil
オープンソースは単なるコード公開ではなく、アイデアの共有です。すべてのOGGユーザー、Go開発者の皆様にggutil
を試していただきたいです。Issue、Pull Request、提案の一つ一つが本プロジェクトの成長の原動力となります。
今後の展望として、さまざまなアイデアがあります:
- Web UI:より直感的な監視・管理のためのWebインターフェース開発
-
監視連携:
ggutil
の統計情報をPrometheusメトリクスとしてエクスポートし、Grafanaで可視化 - より広範なプラットフォーム対応:新しいOGGバージョンや、MySQL、PostgreSQL、BigDataなど多様なDBタイプへの対応
ggutil
は、現場の課題を解決するための技術的挑戦の成功例です。Goのモダンなエンジニアリング力と伝統的なDB運用を融合し、古いツールから脱却し、より効率的でエレガントなソリューションを生み出せることを証明しました。オープンソース化により、皆様の業務に本当の価値をもたらせることを願っています。