■ はじめに
はじめまして!@Sekimendyと申します。
今回が初めての投稿となるので軽く私の経歴を説明いたします!
海外PMとして複数ソーシャルゲームタイトルのゲームローカライズ現場に従事した後、この11月より翻訳QA(以下、LQA)として別の角度からゲームのローカライズに携わっています。
今回は、ゲーム翻訳をする側とそれをQAする側の両方を経験した上で、翻訳側の視点から感じた気づきや、それを踏まえてのより良いゲームローカライズのための私の考えなどをご紹介できればと思います。
QAやLQAに従事している方のみならず、翻訳する側からの発見等もあるかと思いますので、すでにゲームローカライズに従事されている方や、これから携わる方の参考になればと思います。
■ LQA(Linguistic Quality Assurance)とは
まず、ゲームローカライズの話に入る前にLQAについて少し説明させてください!
LQAとは、翻訳QAともよばれ、「言語品質保証」という訳のされ方が世間一般になるかと思います。
ゲームにおいては、翻訳テキストの画面上でのテキストの収まり具合や、ゲーム全体における翻訳の一貫性、翻訳先言語の文化や習慣から見て問題ないか、といったことを確認する業務が一般的なようです。
ただ、ゲームQAの対応範囲にある程度の通念があることに対して、ゲームLQAの対応範囲は未だ発展途上であり、各プロダクトやサービスが求める形に変化するものであると考えます。
実際に私が現状携わっているチームでは、翻訳者とは別に各言語ごとにネイティブのLD(Linguistic Director)が配置されており、LD監修のもと翻訳の一貫性、翻訳先言語の文化や習慣から見てニュアンス等に問題がないかを担保している形となっているため、
LQAはそれ以外の、翻訳が仕様通りにゲーム内に表示されているかや、ニュアンス違いによる優良誤認のリスクをはらんでいないかなどの範囲を主に検証しています。
■ 「良い翻訳」の観点の違い
ゲームローカライズの進行管理を行う海外PMからLQAに転向してまず気がついた点が
「翻訳品質担保」の観点の違いです。
映画の字幕に「名翻訳」があるようにゲームもエンタメである以上、ユーザーの心を震わせるような所謂「良い翻訳」が良いゲーム作品には必要不可欠であると考えています。
一般的に翻訳者は、現地の文化圏の人に共感されやすいように原文を「意訳」(transcreation)することでこれを達成しており、多くのシナリオ重視のゲームで機械翻訳でなく、プロの翻訳者を採用しているのもこれに起因していると思います。
ゲームのローカライズチームにいた時は、誤訳や翻訳に揺れがないことももちろん大切ですが、この文脈における「良い翻訳」であることが「翻訳品質担保」の観点として大きな意味を持っていました。
しかし、LQAチームに転向してからは、
「言語品質保証」としての「翻訳品質」とは翻訳が仕様通りにゲーム内に表示されているかが第一であり、誤訳や表記揺れがなく、ユーザーに誤解を生む表現になっていないか、といった点が観点として大きな比重を締めていることに気付かされました。
翻訳品質の第一優先 | *プロダクトへのバリュー | |
---|---|---|
ローカライズチーム | 現地の文化圏のユーザーに刺さる、共感してもらえる翻訳を提供する | 世界中のユーザーに作品を楽しんでもらえる |
LQAチーム | 誤訳や表記揺れがなく、返金リスクをはらんでいない翻訳であることを担保する | 優良誤認などのリスクを回避させる |
*プロダクト:ローカライズ元の国内版(日本語版)を含めたゲームタイトル全体のことをここでは指しています。
「翻訳品質」を担保することで作品に没入してもらいユーザーに楽しんでもらうという点ではLQAチームもローカライズチームも共通していますが、ゲームをエンタメであると同時に一つの商用のサービスであることを鑑みた時、
LQAとしては、「意訳」のような原文とは異なる翻訳の表記には品質を担保する上では注意しなければならない点が最初の学びとしては大きかったです。
■ ゲームローカライズのすれ違い
私がLQAの品質に対する観点をLQAチームに携わってみて初めて知れたように、
ローカライズチーム内で同様の観点を持って翻訳されている方は少ないかと思います。
実際に現在携わっているチームでも、ローカライズチームがLQAから受ける指摘は
こういった観点のズレからくるものが多いように感じます。
注意書きの定型文の揺れや、訴求文言の意味合い確認に対する指摘など、
LQAとしては最も注意すべきポイントが翻訳者にとって重要度が低いために根本的な改善がなされず、同じ指摘が繰り返されているという状況があります。
・ゲーム内お知らせのキャラクターの訴求文言の翻訳が前回と違った時の例
LQA側:文章全体の意味合いが同じでも、前回リリースした定型文と違うと
不必要なリスクを負う可能性もあるし、多分問題ないんだろうけど指摘せざるをえない。
翻訳者側:全体の文脈を考えると今回の言い回しの方が伝わりやすい。
原文通りの意味は通っているので毎回指摘しないでほしい。
↓ 修正後
LQA側:結局新しい言い回しで問題ないことが確認できたけど、
今度は過去の言い回しで使っているところがそのままになっているので、
そちらも指摘しておかなければ。一箇所直したら関連するところも一緒に直してほしい。
→言い回しの違いによる誤認リスクを回避しておきたい。
翻訳者側:都度ユーザーに伝わりやすい方向で訳すが、言い回しを統一する範囲は特段決めていない。
もし指摘がきたらその時直そう。
→訴求部分の言い回しの誤認リスクを加味していない。
↓
再度、同様の修正が別の箇所で発生。
→課金が絡むお知らせに含まれるリスクが翻訳者の中に浸透していないことが原因
(もちろん意識して翻訳している方もいらっしゃいます。)
お互いにユーザーへの良い商品の提供のためにゲームのローカライズに向き合っていることには変わらないのですが、翻訳品質の観点にズレがあることをお互いに理解しないままでは、LQAチームからの翻訳への指摘を減らすことはできないと感じました。
もちろんお互いに指摘と修正は少ないほうが良いはずです。
■ 歩み寄りのすゝめ
上記では極端な例を挙げたので、お互いに全く理解がないように捉えられたかもしれないですが、実際は日々翻訳側もより指摘を受けないように改善をしてますし、LQAチームもただ指摘するだけでなく指摘の原因や、今後注意した方が良い点などを海外PMと連携を取ることで改善を図っています。
ただ、この根本的な「翻訳品質」に対する観点の違いは、お互いに一つのゲームローカライズチームとして共有し合うことで、より良いバリューをユーザーに提供できると思います。
加えて、国内版(日本語版)が先行しているゲームタイトルにおいては、仕様変更の連絡漏れや、プロダクトチームとの連携ミスなどの場面が多くなってしまうローカライズ現場の状況を鑑みると、
「国内プロダクトチーム」<>「ローカライズチーム」<>「LQAチーム」 の構図ではなく、
一つの 「ゲームローカライズチーム」 として翻訳者とLQAがより密接に連携し、国内プロダクトチームに対しても存在感をアピールしていける体制づくりが、本当の意味での「良い翻訳品質」の提供につながると思います。
■ さらなる発展のために
ローカライズチームとLQAチームが歩み寄ることが、より良いローカライズへの解決策として今回述べましたが、第三者的視点で当事者が見出せなかった視点を「言語品質保証」の観点で提供することにもLQAの存在意義があると思います。
お互いがお互いを忖度しすぎる状態は良くなく、
上記を例にしてみると、
LQA:言い回しの違いを見つけたけど、きっと意図した意訳だから今回は指摘しないでおこう
→検知漏れにつながる可能性
翻訳者:指摘されるかもしれないから、言い回しは統一しよう。
→違和感のある翻訳が残ってしまう可能性
といったような、
個々人での判断が生まれる可能性が出てしまう点などが懸念として挙げられます。
ただ歩み寄って理解を示し合うのではなく、お互いが担当しているパートに対してプロ意識を持ちつつ、定期的な情報共有で連携を強められて行くことが強い一つのゲームローカライズチームを形成していけると思います。
すでにLQAに従事されてきた方々からすれば、基礎的なお話が多くなってしまったかもしれませんが、ゲームローカライズ現場にある痒いところに少しでもリーチできるような気づきを提供できていたなら幸いです。