注意
この記事は法律の専門家によって書かれた記事ではないため、記事の正確性については100%の保証をするものではありません。
個別の事案について筆者が回答できるものではありませんので、弁護士などの法律の専門家にご相談ください。
Apache License 2.0とは
Apache License 2.0は、主にソフトウェア向けのオープンソースライセンスです。
私がコードを掲載する際のライセンスにも使用しています。BSDライセンスに似ています。
時々見かけるApache License 2.0が適用されたフォントに対する文言
Apache License 2.0が適用されたフォントに対して、以下のような記述がされることがあります。
以下は自家製フォント工房の「フォントのライセンスについて」からApache License 2.0のフォントについての記述を一部引用したものですが、ほかの一部サイトでも似たようなことが書かれていることがあります。
できないこと
フォントの原作者の許可を得ず、改変した派生版フォントに、元のフォント名と同じ名前を含めることはできません
元のフォントデータ、および改変した派生フォントデータに、他のライセンスを適用することはできず、必ずこのライセンスを適用する必要があります。
……というように、Apache License 2.0にはライセンスの感染性があるかのような記述を時々見かけますが、結論から言うとApache License 2.0にライセンスの感染性はありません。
ライセンスの感染性とは?
GNU GPL、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのうち「継承」(以降「CCL継承」と略)がついた制作物を改変した場合、改変したものに対しても同じライセンスを適用しなければならないことを喩えた言葉です。
これは、GPLやCCL継承の制作物やプログラムを自身のプロジェクトに組み込んだ場合も同様で、それが組み込まれた制作物は全てがGPLやCCL継承となってしまいます。
これをウイルスが感染していく様に例えて、「ライセンス感染」とか、「GPL汚染」とか言ったりします。
なお、筆者はライセンスを継承しなければならないことが困るのでGPLやCCL継承のコードを組み込むことは避けていますが、GPLライセンスをつけたいと思えばつけてもいいと思いますし、「ライセンス感染」とか「GPL汚染」という言葉も暴力的なニュアンスを含むように思います。
Apache License 2.0が改変・再配布に求めるもの
Apache License 2.0が改変・再配布に求めることは大きく6つです。日本語訳から引用します。
なお、「成果物」が元の制作物、「派生成果物」が改変した制作物のことを言います。
「4. 再頒布」より
あなたは、ソース形式であれオブジェクト形式であれ、変更の有無に関わらず、以下の条件をすべて満たす限りにおいて、成果物またはその派生成果物のコピーを複製したり頒布したりすることができます。
- 成果物または派生成果物の他の受領者に本ライセンスのコピーも渡すこと。
- 変更を加えたファイルについては、あなたが変更したということがよくわかるような告知を入れること。
- ソース形式の派生成果物を頒布する場合は、ソース形式の成果物に含まれている著作権、特許、商標、および帰属についての告知を、派生成果物のどこにも関係しないものは除いて、すべて派生成果物に入れること。
- 成果物の一部として「NOTICE」に相当するテキストファイルが含まれている場合は、そうしたNOTICEファイルに含まれている帰属告知のコピーを、派生成果物のどこにも関係しないものは除いて、頒布する派生成果物に入れること。その際、次のうちの少なくとも1箇所に挿入すること。(i) 派生成果物の一部として頒布するNOTICEテキストファイル、(ii) ソース形式またはドキュメント(派生成果物と共にドキュメントを頒布する場合)、(iii) 派生成果物によって生成される表示(こうした第三者告知を盛り込むことが標準的なやり方になっている場合)。NOTICEファイルの内容はあくまで情報伝達用であって、本ライセンスを修正するものであってはなりません。あなたは頒布する派生成果物に自分の帰属告知を(成果物からのNOTICEテキストに並べて、またはその付録として)追加できますが、これはそうした追加の帰属告知が本ライセンスの修正と解釈されるおそれがない場合に限られます。
あなたは自分の修正物に自らの著作権表示を追加することができ、自分の修正物の使用、複製、または頒布について、あるいはそうした派生成果物の全体について、付加的なライセンス条項または異なるライセンス条項を設けることができます。ただし、これは成果物についてのあなたの使用、複製、および頒布が、それ以外の点で本ライセンスの条項に従っている場合に限られます。
「6. 商標」より
本ライセンスでは、成果物の出所を記述したりNOTICEファイルの内容を複製するときに必要になる妥当で慣習的な使い方は別として、ライセンサーの商号、商標、サービスマーク、または製品名の使用権を付与しません。
これを要約すると……
- Apache License 2.0の内容が記されたテキストファイルをつけるなどして、元の制作物がApache License 2.0であることを知らせる。
- 改変した場合、改変者が改変したということがよくわかるような記述をする。
- ソースコード形式でそれを改変したり組み込んでいる場合、ソースコードに含まれている著作権・特許・商標・帰属についての記述をすべて改変した制作物にも入れる。
- 元の制作物に「NOTICE」、またはそれに類するテキストファイルがある場合、改変したものを配布する場合にそれに記述されている帰属についての記述を「NOTICE、あるいはそれに類するテキストファイルに含める」「ソースコードかドキュメントの中に含める」「改変したものに生成される表示」のどれかに含める。
- 4で含めたものは情報告知にとどめ、Apache License 2.0そのものを修正しない。(Apache License 2.0そのものが変わるような修正をしてはいけないのであって、元の制作物のライセンスを継承しなければならないという意味ではない)
- 改変したものに対して元の制作物と同じ名前にしたり、元の制作物を含める名前にしてはいけない。
結論
「本ライセンスを修正するものであってはなりません」という記述から、一見Apache License 2.0には「ライセンスの感染性」があるように見えてしまいますが、後に書かれている以下の記述があり、この点からApache License 2.0には「ライセンスの感染性はない」ことがわかります。
あなたは自分の修正物に自らの著作権表示を追加することができ、自分の修正物の使用、複製、または頒布について、あるいはそうした派生成果物の全体について、付加的なライセンス条項または異なるライセンス条項を設けることができます。ただし、これは成果物についてのあなたの使用、複製、および頒布が、それ以外の点で本ライセンスの条項に従っている場合に限られます。
フォントファイルも一種のプログラムファイルですので、Apache License 2.0ライセンスを当てることは不自然なことではありません。
事実、Apache License 2.0である「Roboto」を改変したフォントが「SIL Open Font License 1.1」に変更され、そのフォントがGoogle Fontsにあることからも、「ライセンスの感染性」が存在しないことがわかります。
Appendix: SIL Open Font License 1.1のライセンスの感染性
SIL Open Font License 1.1には、一部条件下でライセンスの感染性があります。日本語訳から引用します。
フォントソフトウェアの複製を入手した誰もが、フォントソフトウェアの改変された複製および改変されていない複製を使用、研究、複製、統合、埋め込み、改変、再配布および販売を行う権利を、次の条件に基づいて無料で付与されます。
1)フォントソフトウェアおよびその各コンポーネントは、オリジナルバージョンでも改変バージョンでも、それ自体を販売することはできない。
2)フォントソフトウェアのオリジナルバージョンまたは改変バージョンは、その複製に上記の著作権表示およびこのライセンスが含まれている限り、他のソフトウェアとバンドル、再配布および販売を行える。著作権表示およびライセンスは、独立したテキストファイル、人間が読み取れるヘッダー、または、ユーザーが簡単に読み取れる限り、テキストファイルまたはバイナリファイル内のコンピュータが読み取れる適切なメタデータフィールドに含めることができる。
3)フォントソフトウェアの改変バージョンで、予約されたフォント名を使用することは、その著作権所有者が書面による明示的な許可を与えていない限りできない。この制限はユーザーに示される主要なフォント名だけに適用される。
4)フォントソフトウェアの著作権所有者または著作者の名前は、著作権所有者および著作者の貢献に対する謝辞の場合、または彼らの書面による明示的な許可がある場合を除き、改変バージョンの推奨、支持または宣伝に使用することはできない。
5)フォントソフトウェアは、改変の有無にかかわらず、一部または全体を問わず、すべてをこのライセンスに基づいて配布しなければならず、また、他のライセンスに基づいて配布することはできない。フォントをこのライセンスに基づいた状態に保つという要件は、フォントソフトウェアを使って作成されたいかなるドキュメントにも適用されない。
条件を要約すると、
- 改変の有無にかかわらず、フォントそのものを販売しない。(無料で配布することは認められている)
- 改変の有無にかかわらず、配布する際は著作権表示とライセンス情報(テキストがある場合はテキスト)を含める。これは、わかりやすい場所にあるテキストファイルに記述するなど、人間が容易に読み取れるものでなければならない。
- 改変した場合、フォント名に書面による特別な許可がない場合予約されたフォント名を使ってはならない。
- 元のフォントの著作権所有者・著作者の名前を、貢献に対する謝辞・書面による特別な許可がない限り改変したものの推奨・支持・宣伝に使ってはならない。
- 改変の有無に関わらず、フォントそのものの全てをこのライセンスに基づいて配布しなければならない。(フォントを使って作ったドキュメントや画像などを除く)
条件の5から、SIL Open Font License 1.1にはフォントそのものを改変した場合に限り、ライセンスの感染性があります。
なお、フォントをプログラム自体に組み込んだ場合(DXライブラリで言うとDXアーカイブに変換したSIL OFLのフォントが入っている場合、またプログラムのバイナリそのものに組み込むなど)どうなるかは未調査です。
2020/11/10追記
あくまで筆者による解釈となりますが、SIL Open Font License 1.1のフォントは条件5から事実上DXアーカイブに組み込むことはできず(そのフォントが含まれるアーカイブ内のファイル全てにライセンス感染を起こす可能性がある)、独立したアーカイブにしたり暗号化などを施すことも条件3から不可能である(改変後のフォントに予約されたフォント名を使うことになってしまうため)と思われます。