本記事は Classi Advent Calendar 2020 23日目の記事です。
こんにちは。@seigaです。今回はRailsのscopeのアンチパターンとその解消法について解説します。
**scope(named_scope)**はRails2.1の目玉機能として野良gemからRails本体に取り込まれた経緯を持つ機能です。RubyKaigi2008で松田さんが話されたのが周知の初めでしょうか。これまでクエリの組み立てを直接行っていたのが、そのクエリ断片を名前のついたscopeとして定義、動的に組み合わせることで一つの集合とすることが出来るようになりました。
scope :published, -> { where(published: true) }
> SomeModel.published == SomeModel.where(published: true)
> true
ですが便利な分、安易に使うとすぐに質の低いコードを生み出してしまうことになります。
Railsのscopeを使いこなすためには、以下のような点で相応の検討が必要です。
ユースケースを表現するscopeは地雷。クエリオブジェクトに置き換えろ
scopeは記述されたModelに対しパブリックなメソッドとして振る舞います。すると以下のような問題が発生します。
二つのControllerで同じscopeが利用されているパターンを考えてみましょう
Aさんがある日Some1Controllerとそこで呼び出されるscopeを実装しました。scopeがこのユースケース専用の挙動になっているように見えますが、Controllerでクエリ書くよりかはましでしょ、と完了
scope :in_some_scope, ->(param) do
.published
.eager_load(SomeBelongsToModel)
.where(some_belongs_to_model: {someparam: param})
end
SomeModel.in_some_scope(param)
しばらく経った後、BさんはSome2Controllerを実装しました。その際、Modelを眺めたらなんとぴったりのscopeがあるではありませんか!喜んで流用しました
SomeModel.in_some_scope(param)
その後、Some1Controllerでだけ並び順の制御が必要になったため、Aさんはin_some_scopeというscopeにorderを追加します
scope :in_some_scope, ->(param) do
.published
.eager_load(SomeBelongsToModel)
.where(some_belongs_to_model: {someparam: param})
.order(created_at: :desc)
end
するとなんということでしょう、Aさんの預かり知らぬところでバグが発生してしましました。それは同じscopeを使っていたBさんの作成したSome2Controllerでした...fin
このようにscopeは修正に対して弱く、影響範囲も広くなりがちという特性があります。
上記の例はユースケースを表現していたscopeを安易に使いまわしてしまったことによる暗黙的な結合でした。
ユースケースとはざっくり言うと特定のワンアクション専用の状態のことです。これをscopeにしてしまった場合、おそらくscopeの命名でしっくりくるものがないはずです。
それに対し、published
、のようにドメインとしての抽象化ができているscopeもあります。これは「公開済み」と言うドメインを表現するscopeになるので変更耐性も強く、使いまわしても悪い作用が起こることは少ないです。
# 特定のアクション状態に依存しない、普遍的な「公開済み」を表すscope
scope :published, -> { where(published: true) }
クエリがユースケースによって複雑に組み立てられる場合、scopeをまとめたscopeを新たに用意する、Modelのクラスメソッドにする、などの選択肢があります。が、どちらもパプリックアクセス可能なので別場所で呼び出される可能性があり、潜在的な結合を生む要因となります。
オススメはクエリオブジェクトを作ってそちらにクエリ組み立てを委譲する方法です。こうすることで暗黙的な結合を防ぎつつ、ユースケース依存の複雑なクエリを組み立てることができます。
::Some::Some1ListQuery.call(param)
module Some1
class Some1ListQuery
class << self
def call(param)
SomeModel.published
.eager_load(SomeBelongsToModel)
.where(some_belongs_to_model: {someparam: param})
.order(created_at: :desc)
end
end
end
end
::Some::Some2ListQuery.call(param)
module Some2
class Some2ListQuery
class << self
def call(param)
SomeModel.published
.eager_load(SomeBelongsToModel)
.where(some_belongs_to_model: {someparam: param})
end
end
end
end
こうすることで各ユースケースでの暗黙的な結合が解消され、各自のユースケースのみに集中することができます。ちなみにこの場合クエリオブジェクト内でドメインを表現するscope以外にアクセスしないようにしましょう。せっかくユースケースを表現していたクエリオブジェクトの意義が失われます。
条件分岐があるscopeを置き換えたい場合はどうすべきでしょうか?
この場合はthenを使ったチェインを用意することで、同じ構造にすることができます。
# 公開状態の一覧を取得。タイトル検索、順序指定あれば追加で適応
def call(search_tilte: nil, sort_order: nil)
SomeModel.published
.then { |relation| search_by_title(relation, search_title) }
.then { |relation| sort_by_order(relation, sort_order) }
end
private
# 名前検索検索あれば追加
def search_by_title(relation, search_title)
return relation if search_title.blank?
relation.where('title LIKE ?', "%#{search_title}%")
end
# 順序指定で並び替え
def sort_by_order(relation, sort_order)
case sort_order
when 'desc'
relation.order(created_at: :desc)
when 'asc'
relation.order(created_at: :asc)
else
relation
end
end
ActiveRecord::Relationは遅延評価なのでこのようにチェインすればscopeのようにクエリが組みあがります。ただしこの際thenの戻り値はActiveRecord::Relationを返すようにしないと、scopeと同じ挙動とは言えないので気をつけましょう。
scopeのメリットはクエリの抽象化
scopeを使ってドメインを表現する集合を引っ張ってくるときに、どんなカラムにどんな絞り込みをかけるのかは抽象化することができます。これはscopeのメリットです。
つまりどんな手続きでドメインを表現する集合を得るのかを隠蔽することができます。
が、往往にして
scope :by_column_name, ->(param){ where(column_name: param) }
のようにscope名に「どのカラムでどんな操作をするか」が記述されたscopeが実装されてしまうことがあります。確かにscopeを挟むことでModelへの直接操作はしていないように見えますが、これだとscope呼び出し側で「どのカラムで絞り込むか」という知識を持っていることになります。つまり
SomeModel.by_column_name(param)
と
SomeModel.where(column_name: param)
は全く同質であり、隠蔽になっておらずscopeにするのは無意味です。こうするぐらいならControllerで直接ActiveRecord::Relationメソッドを呼び出しちゃう方がまだマシです。
また、スコープの命名がシンプルすぎるため、他のユースケースでも便利だからとなんとなく利用される場合が発生します。つまり結合度が不用意に増加するため、このスコープの挙動を変えたい時に結合度に応じて修正コストが肥大化してしまいます。
scopeの命名ではドメインを表現する抽象化された集合の名前をちゃんと考えて命名しましょう。
scopeの戻り値として設定するのはActiveRecord::Relationだけにすべき
scopeでは戻り値の設定は自由にできます。
scope :some, -> { 1 }
> SomeModel.some
> 1
ただし戻り値がnilやfalseになった場合だけallを返します。
scope :some, -> { false }
> SomeModel.some == SomeModel.all
> true
scopeはscope同士でチェインできる事もメリットです。が、scopeの戻り値がバラバラだった場合、チェインする事なんてできませんよね?scopeのチェイン順に気をつけてチェインしましょう、というのはあまりにも本末転倒です。
また、nilやfalseが置き換えられてallの結果が返るのもコントロール外と感じられますね?
ですので、scopeの戻り値として設定するのはActiveRecord::Relationだけにすべきです。
ちなみにscopeがActiveRecord::Relationを返さない実装が可能になっている点については、warningを出そうという提案がなされたことがありますが、パフォーマンスが低下するとのことでクローズ。代わりにドキュメントにてなるべくActiveRecord::Relationかnilを返そうね、という形に落ち着いた経緯があります。
https://github.com/rails/rails/pull/32846
https://github.com/rails/rails/issues/34532
また、Rails5.2までのガイドでは
どのスコープメソッドも、常にActiveRecord::Relationオブジェクトを返します
となっており、いかにもフレームワーク側で戻り値をActiveRecord::Relationに変換しているような書き方になっていて紛らわしかったのですが、
Rails6のガイドでは
どのスコープボディも、ActiveRecord::Relationかnilを返す必要があります
という文言に変更されています。
scopeはクラスメソッドのエイリアスではない
Railsガイドには
スコープでのメソッドの設定は、クラスメソッドの定義と完全に同じ (というよりクラスメソッドの定義そのもの)です。
という記述があったのですが削除されました。
経緯としては、このstackoverflowの回答を軸に
スコープが常にActiveRecord::Relationオブジェクトを返すという点を除いては、クラスメソッドの定義と*ほぼ*同じ
と言う文言に改変するPRがマージされたのですが、
改変された説明が、既にあった条件文の使用の内容と重複することになったため削除されたという流れです
ただし1つ注意点があります。それは条件文を評価した結果がfalseになった場合であっても、スコープは常にActiveRecord::Relationオブジェクトを返すという点です。クラスメソッドの場合はnilを返すので、この振る舞いが異なります。したがって、条件文を使ってクラスメソッドをチェインさせていて、かつ、条件文のいずれかがfalseを返す場合、NoMethodErrorを発生することがあります。
よって、Rails6.1のRails Guideにおいては、引数付きのscopeはクラスメソッドに置き換えた方が良いとの記述は消されています。上記のようにscopeとクラスメソッドの挙動は異なるためです。
default scope is evil
これはもう一大ムーブメントのようなものがあって叩かれまくっているわけで、知らない方はこのセクションタイトルで調べていただくとして、弊社ではこれ起因のバグ踏んだ経験多く反対派が多数です。unscopeやイニシャライズ時に注意して使えば便利だと思うのですが、地雷度高いので厳しいですね...ちなみに私はnested_attributesとacts_as_paranoidとcomposite_primary_keyの合わせ技を食らって大変な目にあったことがありますので反対派です。
まとめ
「Railsのscopeを使いこなす」なんて事を言いながら、半分ぐらい脱scopeの話をしていたような...?
scopeは確かに便利です。一見簡単にクエリ隠蔽できるのでかるーくいっぱい使いたくなる気持ちはとてもよく分かります。ですがその分アンチパタンな使い方されやすいと感じます。何事も用法用量、発行されるクエリが果たしていいものなのか、潜在的なリスク生んでないかなど、scopeにすべき部分そうでない部分、しっかり考えて使っていく必要がありますね。
参考文献
https://github.com/rails/rails/blob/master/guides/source/active_record_querying.md
https://nekogata.hatenablog.com/entry/2012/12/11/054555
https://qiita.com/SoarTec-lab/items/6e5f7781edf8d3fe4889
https://www.slideshare.net/moro/namedscope-more-detail-webcareer-presentation
https://techracho.bpsinc.jp/hachi8833/2018_06_14/57526
https://techracho.bpsinc.jp/hachi8833/2018_11_13/64284