論文「Large Language Models for Information Retrieval: A Survey」(Yutao Zhu 他著)をgpt-4oを用いてまとめたものになります。
1. イントロ
IRシステムの重要性
情報検索システムは、日々の情報取得に不可欠であり、検索エンジンなどがその代表例です。また、対話システム、質問応答システム、レコメンダーシステムなどの重要なコンポーネントとしても機能しています。
IRの進化
情報検索システムは、従来の用語ベースの方法から高度なニューラルモデルへと進化してきました。ニューラルモデルは、複雑な文脈シグナルや意味のニュアンスを捉えることに優れていますが、データの不足や解釈の難しさといった課題も抱えています。
LLMsの統合
大規模言語モデル(LLMs)の登場により、自然言語処理は飛躍的に進化しました。LLMsは優れた言語理解、生成、一般化、および推論能力を備えており、これらを活用してIRシステムを向上させる研究が進められています。
IRシステムのコンポーネント
本調査では、クエリリライタ、レトリーバー、リランカー、およびリーダーといったIRシステムの重要なコンポーネントにLLMsを統合する方法を詳述しています。また、検索エージェントの可能性についても探っています。
LLMsの利点
ChatGPTやGPT-4などのLLMsは、人間のような応答を理解し生成する優れた能力を示しています。これらをIRシステムに組み込むことで、情報検索の正確性と関連性を向上させることが期待されています。
課題と今後の方向性
ただし、LLMsには、文脈的には適切だが誤った情報を生成する可能性があるなどの課題もあります。本調査は既存の方法論をまとめ、LLMsを活用したIRシステムの今後の研究方向について洞察を提供することを目的としています
2. IRとLLMsの背景
2.1 情報検索 (Information Retrieval, IR)
情報検索(IR)は、ユーザーのクエリに関連する情報を大規模なリポジトリから効率的に取得することを目的とする、コンピュータサイエンスの重要な分野です。一般的には、ユーザーはテキスト形式のクエリをシステムに提出し、その後、IRシステムはこれらのクエリをインデックス化されたデータベースに対してマッチングおよびランク付けし、最も関連性の高い結果を取得します。
2.1.1 モデルの進化
ブールモデル: 初期のIRモデルで、ブール論理演算子を使用してクエリ用語を結合し、特定の条件を満たすドキュメントを取得します。
ベクトル空間モデル: ドキュメントとクエリを用語ベースの空間でベクトルとして表現し、クエリとドキュメントベクトル間の語彙的類似性を評価して関連性を推定します。
統計的言語モデル: 用語の出現確率を推定し、文脈情報を組み込むことで、より正確で文脈に敏感な検索を実現します。
ニューラルIR: ニューラルネットワークの強力な表現能力を利用して、クエリとドキュメント間の意味的関係を捉えることで、検索性能を大幅に向上させます。
2.1.2 課題と対策
IRシステムは、クエリの曖昧さや検索効率といった課題に直面しています。これらの課題に対処するために、研究者は検索プロセス内の重要なモジュールに注目し、特定の問題を解決し、対応する改善を行うことを目指しています。
クエリリライタ: ユーザーのクエリをより効果的にするために、初期のクエリを再構成する技術。
レトリーバー: 早期段階で文書をリコールするための技術。従来の「bag-of-words」モデルであるBM25は、強力なパフォーマンスと高い効率性を示しています。
リランカー: レトリーバーによって取得された限定されたセットの関連ドキュメントをさらに調整する技術。
リーダー: 取得されたドキュメントを要約し、ユーザーに提供するコンポーネント。
2.2 大規模言語モデル (Large Language Models, LLMs)
言語モデル(LMs)は、前の単語からの文脈情報を考慮して単語列の生成確率を計算するように設計されています。これにより、特定の単語選択戦略(例:貪欲デコーディングやランダムサンプリング)を用いて、自然言語テキストを生成することができます。
2.2.1 モデルの進化
統計的言語モデル: マルコフ仮定を使用して、前の単語に基づいて次の単語を予測します。
ニューラル言語モデル: 特にリカレントニューラルネットワーク(RNN)を導入して、テキストシーケンスの確率を計算し、言語モデルを構築します。
文脈化単語表現: ELMoやBERTのように、大規模コーパス上で事前学習されたバイディレクショナルLSTM(biLSTM)ネットワークやトランスフォーマーエンコーダを使用します。
生成的PLMs: GPT-2やBART、T5のような生成タスク向けに開発されたモデルで、要約、機械翻訳、対話生成などのテキスト生成問題に対応します。
2.2.2 課題と対策
LLMsは、言語理解、テキスト生成、および推論において驚異的な能力を示しており、これらの能力を活用してIRシステムを向上させる研究が進められています。しかし、これらのモデルには、膨大なパラメータと高い計算コストが伴うため、実際の応用においては遅延やリソースの問題が発生します。このため、より効率的なモデルの設計やデータ拡張技術の研究が進められています
3. クエリリライタ
3.1 クエリリライタの役割
クエリリライタは現代の情報検索(IR)システムにおいて、検索クエリの有効性と精度を向上させるために不可欠です。これは、ユーザーの元のクエリを再構成し、曖昧なクエリやクエリとターゲット文書間の語彙の不一致などの問題を緩和する役割を果たします。単なる同義語の置き換えを超え、ユーザーの意図とクエリの文脈を理解する必要があります。特に会話型のクエリでは、効果的なクエリリライティングが検索エンジンのパフォーマンスを向上させます。
3.1.1 アドホック検索
アドホック検索におけるクエリは、しばしば短く曖昧です。クエリリライティングの主な目的は、語彙の不一致に対処するために同義語や関連用語を追加し、ユーザーの意図により正確に一致するように曖昧なクエリを明確にすることです。大規模言語モデル(LLMs)は、クエリの意味をより効果的に捉える深い言語理解能力を持ち、また、多様なデータセットでのトレーニングを活用して、文脈的に関連する同義語を生成し、クエリを拡張します 。
3.1.2 会話型検索
会話型検索におけるクエリリライティングは、検索体験を向上させる上で重要です。アドホック検索とは異なり、会話型検索では対話のようなインタラクションが含まれ、文脈とユーザーの意図がインタラクションごとに進化します。LLMsは、複数ターンの会話の文脈内でユーザーの検索意図をよりよく理解し、より強力な生成能力を発揮します 。
3.2 クエリリライティングの知識
クエリリライティングには、初期クエリを洗練するために追加のコーパスが必要です。LLMsはそのパラメータ内に世界知識を組み込んでおり、自然にクエリをリライティングする能力を持っています。これらの方法は、LLMのみを使用する方法と、ドメイン固有のコーパスでLLMの性能を強化する方法に分類されます 。
LLMのみの方法:HyDEやQuery2Docなど、LLMsの内在する知識を活用してクエリを生成し、関連する文書を取得する手法が提案されています 。
コーパス強化LLMベースの方法:ドメイン固有の知識が不足している場合、LLMsは誤ったクエリを生成することがあります。これに対処するため、外部のドキュメントコーパスを活用してLLMsのクエリリライティング能力を強化するハイブリッドアプローチが提案されています 。
3.3 クエリリライティングアプローチ
LLMsをクエリリライティングに活用する方法は、大きく分けてプロンプト方法、ファインチューニング、および知識蒸留の3つに分類されます。
プロンプト方法:具体的な指示や文脈を提供してモデルの生成を誘導する技術です。ゼロショットプロンプティング、フューショットプロンプティング、チェイン・オブ・ソートプロンプティングの3つに分けられます 。
ファインチューニング:事前に訓練された言語モデルを特定のデータセットやタスクに合わせてさらに訓練することで、ドメイン固有のパフォーマンスを向上させる方法です 。
知識蒸留:LLMの知識を軽量モデルに転移することで、検索強化の複雑さを簡素化する方法です 。
3.4 制限事項
LLMsを使用したクエリリライティングには、以下のような制限があります。
コンセプトドリフト:LLMsは詳細で冗長なコンテンツを生成する傾向があり、これがクエリを豊かにする一方で、無関係な情報を生成するリスクも伴います 。
検索パフォーマンスと拡張効果の相関:最近の研究では、検索モデルの性能と拡張効果の間に負の相関があることが示されています。これは、拡張が弱いモデルのスコアを向上させる一方で、強いモデルには逆効果となることを示唆しています 。
4. レトリーバー
4.1 概要
レトリーバーは、情報検索(IR)システムにおいて、ユーザーのクエリに関連する文書を広範囲に収集するための第一段階のフィルターとして機能します。レトリーバーの効率は、検索エンジンの性能を維持するために重要であり、また高いリコール率も必要です。これは、取得された文書がランカーに供給され、ユーザーに最終結果を提供するためです。
4.2 モデルの進化
レトリーバー技術は、統計アルゴリズムからニューラルモデルへの移行を経て進化してきました。ニューラルレトリーバーは、複雑なユーザーの意図を理解する優れたセマンティック能力を持ちます。ニューラルレトリーバーの成功は、データの質とモデルの代表能力に大きく依存しています。
4.2.1 高密度レトリーバー
一般的なレトリーバー: テキスト埋め込みモデルの能力がレトリーバーの効果に大きな影響を与えるため、テキスト埋め込みモデルの進化はレトリーバーの開発の進展に大きく寄与します。例えば、OpenAIの研究では、隣接するテキストセグメントをポジティブペアとして扱い、一連のテキスト埋め込みモデルの教師なし事前トレーニングを行っています。これにより、大規模なモデルスケールが教師なし学習と転移学習において改善された性能をもたらすことが示されています。
タスク認識レトリーバー: LLMsをテキスト埋め込みモデルとして使用するだけでなく、タスク固有の指示を統合することで検索性能を大幅に向上させることができます。例えば、TARTモデルは、タスク固有の指示を質問の前に導入し、ユーザーの検索意図をより正確に捉えることができます。
4.2.2 生成的レトリーバー
従来のIRシステムは「インデックス-検索-ランク」パラダイムに従い、ユーザークエリに基づいて関連文書を検索します。しかし、このパラダイムは、最適化が困難であり、またインデックスの保管に追加のスペースが必要です。これに対して、モデルベースの生成的レトリーバーは、クエリに関連する文書識別子(DocIDs)を直接生成する統一モデルを使用します。これにより、インデックスのための追加のストレージスペースが不要となります。
4.3 制限事項
LLMを使用した検索には、いくつかの制限があります。特に、高速な応答が求められるレトリーバーにおいて、既存のLLMは巨大なモデルパラメータと長い推論時間を持つため、応答時間の短縮が課題です。さらに、生成されたテキストと実際のユーザークエリとの間に不一致が生じる可能性があり、これが検索の有効性に影響を与えることがあります。また、タスク固有のデータセットでのファインチューニングが必要です。
このセクションは、レトリーバーの役割とその進化、またLLMを活用した新しい手法について詳述し、現行の制限事項と今後の課題を明らかにしています。
5. リランカー
5.1 概要
リランカーは情報検索(IR)システムの第二段階のドキュメントフィルタリングとして機能し、レトリーバーによって取得されたドキュメントリスト(例:BM25)をクエリとドキュメントの関連性に基づいて再ランク付けします。既存の大規模言語モデル(LLM)ベースのリランキング手法は、LLMを使用する方法に基づいて、教師ありリランカー、教師なしリランカー、およびトレーニングデータの増強にLLMを使用する方法の3つのパラダイムに分類されます。
5.2 教師ありリランカーとしてのLLMの利用
教師ありファインチューニングは、事前学習されたLLMをリランキングタスクに適用するための重要なステップです。事前学習中にはランク付けの意識が欠如しているため、LLMはクエリとドキュメントの関連性を適切に測定できず、リランキングタスクを完全に理解することができません。MS MARCOパッセージランキングデータセットなどのタスク固有のランキングデータセットでLLMをファインチューニングすることで、LLMはパラメータを調整し、リランキングタスクでより良いパフォーマンスを発揮するようになります。
5.2.1 エンコーダのみ
エンコーダベースのリランカーは、ドキュメントランキングタスクにLLMを適用する上で重要な転換点となります。例えば、monoBERTは、クエリとドキュメントのペアをシーケンスとしてモデルに入力し、リランクモデルはクロスエントロピー損失に基づいて最適化されます。
5.2.2 エンコーダ-デコーダ
この分野では、既存の研究は主にドキュメントランキングを生成タスクとして定式化し、エンコーダ-デコーダベースのリランキングモデルを最適化しています。例えば、T5モデルはクエリとドキュメントのペアに基づいて「true」または「false」のトークンを生成するようにファインチューニングされます。推論時には、生成されたトークンのログイットにソフトマックス関数を適用し、関連性スコアを計算します。
5.2.3 デコーダのみ
最近の試みでは、デコーダのみのモデル(例えば、LLaMA)をファインチューニングしてドキュメントをリランクする方法が提案されています。例えば、RankLLaMAは、クエリとドキュメントのペアをプロンプトとしてフォーマットし、最後のトークンの表現を関連性の計算に使用します。
5.3 教師なしリランカーとしてのLLMの利用
LLMのサイズが大きくなるにつれて(例えば、10億パラメータを超える)、リランキングモデルのファインチューニングはますます困難になります。これに対処するため、最近の取り組みでは、LLMをプロンプトして教師なしでドキュメントリランキングを強化する方法が試みられています。これらのプロンプト戦略は、大きく分けてポイントワイズ、リストワイズ、およびペアワイズの方法に分類されます。
5.3.1 ポイントワイズ法
ポイントワイズ法は、クエリと単一のドキュメント間の関連性を測定します。例えば、あるプロンプトに基づいてLLMがドキュメントがクエリに関連するかどうかを「Yes」または「No」で出力する方法があります。
5.3.2 リストワイズ法
リストワイズ法は、ドキュメントのセット全体を考慮し、リスト全体の関連性を評価します。GPT-4のような大規模モデルを使用することで、優れたパフォーマンスを発揮しますが、APIコストが高く、再現性が低いという欠点があります。
5.3.3 ペアワイズ法
ペアワイズ法は、ドキュメントのペアを比較し、最も関連性の高いドキュメントをトップに昇格させるアルゴリズムを使用します。これにより、トップkランキングにおいて有用です。
5.4 トレーニングデータの増強にLLMを利用する
リランキングの領域では、トレーニングデータの増強にLLMを統合する方法が探求されています。例えば、ExaRankerはGPT-3.5を使用して説明を生成し、それを元にシーケンス間ランキングモデルをトレーニングします。
5.5 制限事項
LLMを使用したリランキングにはいくつかの制限があります。特に、LLMの巨大なパラメータ数と長い推論時間が、応答時間の短縮に課題をもたらします。また、生成されたテキストと実際のユーザークエリとの間に不一致が生じる可能性があり、検索の有効性に影響を与えることがあります。
6. リーダー
6.1 概要
LLMs(大規模言語モデル)の優れたテキスト理解、抽出、および処理能力により、IRシステムはコンテンツのランク付けを超えて、回答生成へと範囲を拡大しています。この進化に伴い、リーダーモジュールが導入され、IRシステム内のドキュメントコーパスに基づいて回答を生成します。リーダーモジュールを統合することで、IRシステムはユーザーにリストの代わりに結論的なパッセージを直接提供でき、ユーザーはランクリストを分析する必要がなくなります【13:0†source】。
6.1.1 パッシブリーダー
パッシブリーダーアプローチは、LLMsがIRシステムから提供されるドキュメントを受動的に利用する方法を示します。具体的には、以下の3つの方法に分類されます:
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単回取得リーダー:
初期のクエリに基づいてトップドキュメントを取得し、これらをLLMsに供給して回答を生成します。REALMやRAGのようなモデルがこの方法を採用しています。 -
定期取得リーダー:
長い回答を生成する際に、単回取得では不十分な場合があるため、定期的にドキュメントを取得して追加の知識を提供します。RETROやRALMなどがこのアプローチを採用し、生成中に追加のドキュメントを取得します。 -
不定期取得リーダー:
生成されたテキストの確率に基づいて自動的に取得タイミングを決定し、必要に応じて追加の知識を取得する方法です。FLAREがこの戦略を採用しており、低確率の用語が出現した場合にIRシステムを使用して参照を取得します。
6.2 アクティブリーダー
アクティブリーダーアプローチは、LLMsが検索エンジンと能動的にやり取りする方法を示します。これにより、LLMsは単に提供された参照を受動的に利用するのではなく、自らのクエリを発行して情報を収集できます。Self-AskやDSPなどの方法がこのアプローチを採用し、LLMsが必要に応じてクエリを発行して情報を収集します。
6.3 コンプレッサーモジュール
既存のLLMsは入力長が限られているため、IRシステムが取得するドキュメントが長い場合、それらを短い入力トークンや高密度ベクトルに圧縮する必要があります。LeanContextやRECOMPなどの方法が、取得されたドキュメントを抽出的または要約的に圧縮する技術を提供しています。
6.4 分析
リーダーアプローチの急速な発展に伴い、多くの研究者がLLMsとIRシステムの統合特性を分析しています。例えば、参照の位置が生成性能に与える影響や、取得した知識の順位付けの必要性についての分析が行われています。
6.5 応用
リーダーアプローチは、医療や金融などの特定の分野においても適用され、外部知識を活用してLLMsの性能を向上させています。例えば、ATLANTICは科学分野に適用され、科学QAシステムを構築しています。
このセクションでは、リーダーモジュールの役割とアプローチ、課題、応用について詳述し、IRシステムにおけるLLMsの利用方法を総括しています。
7. 評価
7.1 概要
大規模言語モデル(LLMs)は、情報検索(IR)分野でのコンテキスト理解とテキスト生成能力の強さにより、注目を集めています。LLMを活用したIRアプローチの効果を検証するためには、適切な評価指標を開発することが重要です。特に、読者モジュールがIRシステムの不可欠なコンポーネントとなっているため、ランキングパフォーマンスと生成パフォーマンスの両方を評価する必要があります。
7.2 ランキング評価
生成指向のランキング評価:
従来のランキング評価指標は主にIRモデルの取得結果とグラウンドトゥルース(関連性)ラベルを比較することに焦点を当てています。代表的な指標には、精度、再現率、平均逆順位(MRR)、平均適合率(MAP)、および正規化割引累積ゲイン(nDCG)があります。これらの指標は、ランキング結果と人間の好みの一致度を測定します。しかし、これらの指標は、文書がパッセージや回答の生成に果たす役割を十分に捉えられない可能性があります。したがって、文書の有用性を包括的に評価するための形式的かつ厳密な評価指標が必要です。
7.3 テキスト生成評価
LLMsのIRへの広範な応用により、生成能力が著しく向上しています。このため、パッセージや回答生成の性能を効果的に評価するための新しい評価戦略が求められています。従来のテキスト生成評価指標にはいくつかの制限があります。
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語彙的マッチングへの依存:
BLEUやROUGEなどの方法は、n-gramマッチングに基づいて生成された出力の品質を評価しますが、語彙の多様性や文脈的なセマンティクスを考慮することができません。この結果、モデルは一般的なフレーズや文構造を生成する傾向があります。 -
微妙な違いに対する鈍感さ:
従来の評価方法は、生成された出力の微妙な違いに鈍感である可能性があります。例えば、生成された出力が参照回答と比較して小さな意味的な違いを持つ場合、従来の方法ではこれらの微妙な違いを見逃す可能性があります。 -
事実性の評価の欠如:
LLMsは「幻覚」問題に陥りやすく、生成されたテキストが事実に基づかないことがあります。既存の方法ではこの問題を特定するのが難しく、知識ベースや参照テキストのような追加の知識源を取り入れることで、この課題に対処する可能性があります。
7.4 まとめ
このセクションでは、LLMsを用いたIRシステムの評価方法に関する課題と今後の方向性について詳述しています。ランキングとテキスト生成の両方のパフォーマンスを評価するための新しい評価指標の必要性が強調されています。
8. 今後の方向性
このセクションでは、LLM(大規模言語モデル)を活用した情報検索(IR)システムの将来的な研究方向性について議論しています。これには、クエリリライタ、レトリーバー、リランカー、リーダーの各モジュールに関する潜在的な研究課題が含まれています。また、LLMの評価とバイアスに関する問題も取り上げています。
8.1 クエリリライタ
クエリリライティングのランキングパフォーマンスに基づく改善:
LLMをプロンプトとして用いる方法は、ユーザーの意図を識別する能力があるものの、リライトされたクエリの検索品質を評価する意識が欠如しています。ランキング結果との連携を強化するため、強化学習を用いた研究が進められていますが、この分野にはさらなる探求が必要です。
会話型検索におけるクエリリライティングの向上:
従来のクエリリライティングはアドホック検索に焦点を当てていましたが、会話型検索ではユーザーの過去の対話情報を取り入れることで、システムの応答をユーザーの好みに合わせることが可能です。これにより、より効果的な会話体験が提供されます。
個別化クエリリライティングの実現:
LLMはユーザー固有のデータを分析する能力があり、検索履歴を基にユーザープロファイルを構築し、個別化されたクエリリライティングを実現することが可能です。
8.2 レトリーバー
LLMベースのレトリーバーの遅延の削減:
LLMは大規模なパラメータを持ち、推論プロセスで高い遅延を伴うため、実際のアプリケーションでの使用に課題があります。LLMの能力を小型モデルに移行することや、IRタスク向けの量子化技術を探ることが必要です。
リアルなクエリをシミュレートするためのデータ拡張:
LLMを用いて生成されたクエリが実際のユーザークエリと整合しないことが多いため、強化学習を用いて実際のクエリ発行方法をシミュレートする技術の探求が重要です。
生成的レトリーバーのインクリメンタルインデックス化:
新しい文書が追加されるときにインデックスを効率的に更新できる方法の研究が必要です。
マルチモーダル検索のサポート:
既存のLLM強化IRシステムは主にテキストベースのコンテンツに対応していますが、GPT-4のようなマルチモーダルモデルを統合することが考えられます。
8.3 リランカー
LLMのオンライン利用の強化:
LLMはパラメータが多いため、オンラインアプリケーションでの展開が難しいです。小型モデルへの蒸留など、LLMのオンライン利用性を向上させる効果的な方法を模索することが求められます。
個別化検索の改善:
ユーザー固有の情報を組み込むことで、個別化されたリランキングタスクの効果を高めることができます。
多様なランキングタスクへの適応:
ドキュメントランキング以外にも、応答ランキング、エビデンスランキング、エンティティランキングなど、多様なランキングタスクに適応する方法を探ることが重要です。
8.4 リーダー
LLMの参照品質の向上:
既存のアプローチでは取得された文書を直接LLMに供給していますが、文書内の一部のパッセージがクエリに関連しない場合があり、生成中にノイズを引き起こす可能性があります。関連するスニペットを抽出する技術の探求が必要です。
LLMの回答信頼性の向上:
取得された参照文献を取り入れることで、LLMの「幻覚」問題を大幅に軽減しましたが、LLMがこれらの参照文献を回答生成中にどの程度参照しているかは不確かです。これを調査し、信頼性を向上させる必要があります。
8.5 サーチエージェント
LLMの信頼性の向上:
LLMがウェブをブラウズする際、取得した文書の有効性を確保することが重要です。自己検証プロセスを導入することで、収集した情報の信頼性と正確性を評価するメカニズムを組み込むことが求められます。
バイアスと攻撃的なコンテンツの軽減:
LLMの出力にはバイアスや攻撃的なコンテンツが含まれる可能性があり、トレーニングデータに内在するバイアスを改善するための多面的なアプローチが必要です。
8.6 評価
ランキング評価の生成指向:
従来のランキング評価指標は、生成されたパッセージや回答における文書の役割を十分に捉えられない可能性があります。生成品質に基づくランキングの評価指標が求められます。
テキスト生成の評価:
LLMの生成能力の向上に伴い、パッセージや回答生成の性能を効果的に評価するための新しい評価戦略が必要です。
8.7 バイアス
LLMが生成するコンテンツの増加に伴い、これらのコンテンツがフィクション情報を提供する可能性があります。LLMが生成するテキストに対する「ソースバイアス」を考慮し、バイアスのないIRシステムを構築することが求められます。
このセクションは、IRシステムの各モジュールにおけるLLMの応用と、その将来的な研究方向性について詳述しています。
セクション9:結論
このサーベイでは、LLMs(大規模言語モデル)が情報検索(IR)システムに及ぼす変革的な影響を様々な観点から徹底的に探求しました。クエリリライティング、レトリーバー、リランカー、リーダーモジュールの機能に基づいて既存のアプローチを整理しました。
主な発見
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クエリリライティング:
- LLMsは曖昧なクエリや多面的なクエリを理解し、意図の識別精度を高める効果を示しました。
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レトリーバー:
- クエリと文書の間でより微妙なマッチングを可能にし、文脈を考慮して検索精度を向上させました。
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リランカー:
- LLMsを使用したモデルは、結果の再ランク付けの際により詳細な言語的ニュアンスを考慮します。
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リーダーモジュール:
- IRシステムにおけるリーダーモジュールの統合は、単なる文書リストではなく包括的な回答を生成するための重要なステップです。
統合の影響
LLMsの統合により、IRシステムはユーザーが情報や知識にアクセスする方法を根本的に変えました。クエリリライティングから検索、再ランク付け、リーダーモジュールに至るまで、LLMsは各プロセスを豊かにし、高度な言語理解、意味表現、文脈に敏感な処理能力を提供しました。この分野の進展に伴い、LLMsがIRにおいてどのように応用されるかが今後も重要な研究課題となります。
将来的な研究方向
このサーベイは、LLMsを異なるIRコンポーネントに適用する最近の研究をレビューし、LLMsを検索エージェントとして活用する研究も取り上げました。さらに、LLMsの登場により、従来のIRフレームワークが今後も必要かどうかという問題も提起しています。例えば、従来のIRはクエリに関連する文書のランキングリストを返すことを目指していますが、生成型言語モデルの発展により、入力質問への直接回答生成という新しいパラダイムが導入されました。これにより、IRが多様なシステムの基本サービスとして進化する可能性があります。
このサーベイは、IRとLLMsの交差点についての洞察を提供し、今後の研究における新しいチャレンジと方向性を示しています。