上司が積ん読していたHit Reflesh - サティア・ナデラ著を拝借して読みました。最高です。
読後感としては師匠のビル・ゲイツ 未来を語るのようなテイストでした。自信と強気が本から湧き出てて、爽快でした。
ただ、惜しむらくは彼が未来の技術論を語る197ページまでは、自叙伝となるのですが色々な時点の回想が織り込まれていて、これはいつの話なんだっけっていうのが多くて読みづらかったです。このままではこの本の良いところが現代の悩めるエンジニアに伝わらないと思い、時系列でサマライズし、エンジニアコメントを追加しました。
次の人事異動で課長や部長や事業部長になるもしくは、目指している方には、ナデラのその時々の思いや判断はとても参考になると思いますので是非書籍を読んで見てください。
Microsoft CEO就任前 1992-2014/2
サティアはSunからの転職組
サティアはMSのプロパー(新卒入社ではないという意味)ではありません。大学卒業後にSunに就職して、2年後25歳でMSにWindowsNTのエバンジェリストとして転職しています。転職の理由はSunの朝令暮改なスタンスが気に食わなくなったという事ですが、この時に「Hit Reflesh」して、Sunを変えていれば、今のIT業界も変わったかも。
エンジニアメモ
転職組でも内部昇格でMSのCEOになれる!ただ、転職するのも大いに結構だけど、もうすぐ昇格しそうな貴方はもう少し先を読んで、今の会社を変えてみるといいですね。
MSでも停滞期はあった。その時、サティアは
2008年頃はPCの出荷台数も頭打ち、クラウドが登場し始めてきておりMSの株価は停滞期にあった。それまでサティアが何を担当していたのかはあまり書かれていないのだが、Microsoft Dynamicsの事業部長的な役職を担当していたようだ。しかし、この時期にスティーブ・バルマーからBing事業部(広告・検索)の「事業部長やってよ、お願いー」と言われて「やりましょう」と回答している。この辞令がのちに彼をCEO候補の筆頭へ押し上げたことはこの時点では誰も予期していない。
エンジニアメモ
当時最大の利益部門としては、Windows部門、オフィス部門、サーバー&ツールズ(STB)部門なので、そこではない「事業部長になってよ」と言われたら、かなりモチベーション下がる人もいると思います。「あっ、俺そろそろ転職しよかな」的なこともあったんじゃないかと思うのですが、サティアはここで次期CEO候補への階段を登っていきます。なので、主流じゃない部門でも一発逆転有るので頑張りましょう!
Bing事業部での先見性
着任早々、サティアはBing事業部に必要なスキルに気づいてしまいます。それは、分散コンピューティング、コンシューマー向け設計、オンラインビジネスにおける二面性、機械学習の応用です。そして、それを活かしたBingを2009年6月に公開します。
この後にクラウド事業部を手がけるに当たって、Bingの事業経験はなくてはならないものとなりました。
エンジニアメモ
この4つが必要だと事業部長は見抜くって凄すぎますよね。皆さんの会社に一つでも説明できる事業部長はいらっしゃいますか?まあ、でもBingって日本だと使ってると情弱扱いされるのは大きな声では言えません。
STB事業部というタコツボ
当時のMSは事業部ごとにタコツボ組織だったようです。2008年ごろから2010年にかけてはレイ・オジーがSTB事業部でRedDogというコードネームでクラウドインフラの構築を進めていました。サティアはせっかく似たようなことやっているんだったらと、接触を試みるのですが名門のSTB事業部からしたら、教えてやらねーという感じで、派閥の温床とサティアも認識していたみたいです。
エンジニアメモ
この構造はどこの会社でも散見されますよね。STBはまだ若きサティアの未来を知る由もなかったというのは不幸でした。レイ・オジーはLotus Notesをつくった伝説の開発者です。
レイ・オジーの辞職とサティアのSTB事業部長就任
2010年暮れにレイ・オジーは自らMSを去ります。そして、サティアはその後釜となります。
2011年当時、AWSはクラウドでダントツトップでした。MSは製品すら出していない状態です。サティアはその時、モバイル革命に乗り遅れた上に、クラウド革命にまでは絶対乗り遅れないという強い意志を持っていました。
サティアはSTBの事業部長になったのですが、STBにもともといた人は、「あのオジー」だからよかったけど、なんでサティアなのと考える人が少なくありませんでした。
ここがおそらくサティアの人生の分かれ目なのですが、サティアはここを乗り切ります。一人一人と面談し、クラウドとオンプレの新たな枠組みを提示して、みんなを納得させていったのです。
そして、本物のガチのエース級を社内から集めて、Windows Azure(のちのMicrosoft Azure)に経営資源を投入したのです。
そして彼はCEOとしても必要な以下の心構えを身につけました。
"外部のビジネスチャンスと内部の文化や能力、それらの相互の関係に目を向けて、遅くならないうちに対応することが必要"
エンジニアメモ
これもよくある状況ですよね。
サティアにとってよかったのは、相手もエンジニアだったということでしょう。エンジニア同士が腹を割って、プロダクトについて話せば正しいものは正しいと感じるでしょう。これが、エンジニアリングを20年前に卒業したような人たちと話そうとすると、そううまく行かなかったと思います。あっ、でもMSならそんな人はすぐにファイアーされてしまってますね。
そして、金の使えるSTB事業部で一気に投資する姿勢は肝が座っていてとてもいいですね。
Microsoft CEO就任時 2014/2
就任前のMSでは柔軟性に欠けた文化であり、自らが優れた人材であると吹聴して回らなければいけない状態にあった。階級や序列が幅を利かせ、自発性、創造性がおろそかになっていた。
また、AppleやGoogleの躍進はMSの社員自身に自社のイノベーション能力に疑問を持足せるような状況であった。
そういった状態の改善に必要なことを彼はSTB事業部の経験で学んでいた。それはコミュニケーションやビジョンの共有であった。
Microsoft CEO就任後 2014/2 - 現在
サティアは中間管理職のことを忘れない
いろんなことを彼は実行しました。彼は上級幹部に対して自分の理想やビジョンを語りました。
そして、それは上級幹部やエンジニアにはうまく伝わりました。しかし、中間管理職には伝わっていないことを理解したのです。サティアが語る未来や製品は、今の時点でお客さんと対峙している中間管理職たちには正直どうでもよかったのです。彼らはサティアの雄弁を聞いても、「自分には関係ない」そういう感じなのでした。
しかし、サティアはそこに対して策を打ちます。ここは本書のP167あたりをお読みください。
エンジニアメモ
社長がいくら雄弁に語っても、「俺とは関係ない」という感じはどこでもありますよね。しかし、この問題に対して向き合ったサティアは偉い。正直いうと具体的な策は書いてないのですが、まあ頑張ったんでしょう。
"成長マインドセット"がついに登場
ついに本書の中心を占めると言っても良いマインドセットが登場します。サティアの妻から2015年のはじめにこの本をプレゼントされます。
マインドセットとは「自分が採用した考え方は人生に甚大な影響を与える」という考え方がベースになっています。固定マインドセットと成長マインドセットの2つに分類され、社員は皆成長マインドセットを持つべきだという流れになります。
そして、この成長マインドセットこそが、サティアCEO時代のMSの成長エンジンという風にサティア自身は考えます。
エンジニアメモ
まず、奥さんから本をもらうっていうのがなかなかないですね。素晴らしい奥さんです。
そして、成長マインドセットは2015年から知ったようですが、それ以前にも彼はそう言った意識を持っていたのでしょうね。彼自身の意識が言語化されたのがこの時期なのだと思います。
サティアCEOが他にやったこと
- 経営執行チームに最高のチームを集めた。
本人曰く、スーパーヒーロー軍団だそうです。 - 恒例の慰安旅行の改革
慰安旅行中に顧客訪問するとかというスパルタです - 恒例のワンウィークでハッカソンを実施
これはまあいいですね - マインクラフト買収
これもいいですね
エンジニアメモ
サティアはコミュニケーションを重視し、できるだけ事業部の壁ができないように上記のような施策を打っていったようです。当社でも開発合宿やPM合宿を行っていて、コミュニケーションの質をあげて行きたいと常々思っています。
その他サティアの考える未来
あとはMSの宣伝がほとんどとなりますが、せっかくここまで来たので簡単に紹介しましょう。
以下の3つを未来の画期的なテクノロジーとしてサティアはあげています。
- MR(複合現実)
- 人工知能
- 量子コンピュータ
しかし、未来だけでなく以下のように投資方針の分類分けもしています。
- 現在の核となるテクノロジーを成長させる
- 近い将来に向けて新たな戦略や製品を生み出す
- 遠い将来の画期的なテクノロジーに投資する
エンジニアメモ
こういったような自社の注力すべきことを明確にして表現することは社員にとってもわかりやすいですね。エンジニアリングの会社なのに、顧客第一とかって言われても、「それは正論だけど、でっ」となりますので。
サティアは最初からCEOを目指していたわけではないと思います。レイ・オジーの辞任もありますが、Bing事業部や、クラウド事業部など現代のITの潮流に乗れたこと。そして、そこで成果を出したことが彼の出世の主因ですね。
そして、我々エンジニアが彼から学べることは、異動などの状況に置かれた時に初めて技術を勉強するのではなく、常に先取って技術を学んでおくこと。それが身を助けるということを常々理解しておくことが必要だと感じました。
まだ読んでいない方はぜひ、手にとってみてください。
Hit Reflesh - サティア・ナデラ著