固有表現抽出の手法についての紹介
固有表現抽出とは何か?
固有表現抽出(Named Entity Recognition, NER)は、テキストから人名、組織名、場所、日付などの固有名詞を特定し、分類する技術です。例を挙げると、「レオナルド・ダ・ヴィンチがモナリザを描いた」という文において、レオナルド・ダ・ヴィンチ(人名)とモナリザ(絵画)を固有表現として抽出します。
固有表現抽出の使用が考えられるケース
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情報抽出: ニュース記事や科学論文から重要な情報を抽出するのにNERが使われます。例えば、ニュース記事から主要人物や地名を特定し、その情報を要約やデータベースへの入力に活用することができます。
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顧客サポートとCRM: 顧客からの問い合わせやフィードバックに含まれる重要な情報(製品名、場所、日付など)を抽出し、それに応じた対応や分析を行うのにNERが役立ちます。
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自然言語理解 (NLU): チャットボットや音声認識システムでは、ユーザーの質問や要求から固有名詞を特定して、より適切な応答を生成します。
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医療分野: 医療記録から患者の名前、症状、薬の名前などを抽出し、より良い診断支援や治療計画を立てるのにNERが使用されます。
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法的文書の解析: 法律文書や契約書から特定の固有表現(人名、企業名、法的用語など)を抽出し、文書の管理や分析を容易にするためにNERが使われることがあります。
固有表現抽出の手法
固有表現抽出の方法としては、以下の3つの主要なアプローチがあります。
ルールベース
この手法では、あらかじめ定められたルールをテキストに適用します。例えば、「〇〇様」や「〇〇さん」のような表現には、通常人名が含まれることが多いです。これらのルールを正規表現としてプログラムに組み込むことで抽出が可能になります。
正規表現の例
[\u3041-\u3096\u30A1-\u30FA\u4E00-\u9FAF]+[様さん]
この正規表現は日本語の文字を指定します。\u3041-\u3096
はひらがな、\u30A1-\u30FA
はカタカナ、\u4E00-\u9FAF
は漢字の範囲を表し、+
は1文字以上の日本語文字列を表します。
メリットとデメリット
メリット: シンプル、データセットが少ない場合でも使える
デメリット: 柔軟性に欠ける
、手動で規則を考える必要がある
機械学習 (CRF)
機械学習手法の中でも時系列分析で使われるのがCRF(Conditional Random Field;条件付き確率場)です。CRFは、それぞれの単語のラベルが前後のラベルに依存するという文脈依存性をモデリングします。
具体的には、観測確率(その単語が固有表現であるか)と遷移確率(その前の単語の次に固有表現が来るかどうか)の積が最大のものを採用する手法です。
メリットとデメリット
メリット:ルールベースよりも抽出の柔軟性が向上する
デメリット:大規模なアノテーションデータが必要・特徴量エンジニアリングが必要
深層学習 (RNN, LSTM, BERT)
深層学習を使ったアプローチには、以下のような手法があります。
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LSTMとCRFの組み合わせ
LSTMは文中の単語間の長距離依存関係を捉えることができます。CRFを組み合わせることで、全体として最も可能性の高いタグのシーケンスを割り当てます。 -
BERT (Transformers)のファインチューニング
BERTはアテンション機構を使用して、単語間の相互作用と関連性を評価します。これを固有表現抽出に特化させるために、データセットを用いてファインチューニングします。 -
LLM(大規模言語モデル)のファインチューニング
GPTなどの生成系LLMモデルは、特に少量のデータセットでも高度な精度を出せるため、データの量よりも質を重視して学習させることが可能です。
まとめ
固有表現抽出のタスクには多くの手法があり、それらを組み合わせて使うことも、固有表現のラベルによってはルールベースの方が精度が良い場合もあります。また、使用可能なデータセットの量も手法を選ぶ際の重要な考慮事項です。
自然言語処理の道を歩み始めたばかりです。記事に何か誤りや改善すべき点が見つかれば、コメントでご指摘いただけると幸いです。皆様のご意見や知見を拝聴できることを心待ちにしております。
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