1.2024年~2025年にかけてAI駆動開発が本格化していく
2023年11月のChatGPTショックを皮切りに、社会的に生成AIの活用に一気に関心があつまり、ビジネスや生活に生成AIの活用が徐々に浸透していっています。
ソフトウェア開発の現場においても、「AI駆動開発」と呼ばれ、生成AIを活用した開発手法が取られ始めています。
AI駆動開発は当たり前になっていくと思いますが、その中でWebシステムに関する技術をどのように選定していくのかについて、考察してみます。
私はAIの専門家ではなく、20年近くWebシステム開発の現場に従事してきたプログラマーです。その観点から、どのように技術選定をしていくのか、AIをどのように活用していくのかの視点を模索するのがこの記事の目的です。
予測記事ではなく、どのように技術を選定したらよいのかの観点を提示する記事となります。
2.~2023年:Webシステムの開発技術は、人間の認知や作業能力の限界を前提としていた
この記事の前に、1995年~2025年までのWebアプリ開発の技術変遷を整理してみました。(一部、書きかけですが)
2024年のAI駆動開発が始まるまでは、以下のような背景のもとに技術が変遷してきたと思います。
AI駆動開発が登場する以前の技術変遷の背景
・インターネット活用の社会的なニーズが高まり、Webシステムが大規模化し、UI/UXが高度化してきた。
・人間の認識や作業能力を前提として、コーディングや設定を効率化する方法が模索されてきた。
製造するものが複雑になれど、人間の認知や作業の能力には限界があります。この限界の中で、できるだけ問題を少なく、快適に製造する方法を2023年までにおいて模索してきたのだと思います。
完全に問題が解決したわけではないと思いますが、2023年~2024年を見た感じ大体Webシステムの開発をする技術は落ち着きを見せているように見えます。たとえば、フロントエンド、バックエンドを分けて開発する、Reactなどのコンポーネントライブラリをつかう、サーバレスのサービスを採用するなど。
そして、2024年辺りからAI駆動開発という新しい流れができて、Webシステムの開発技術は新しい変化の局面を迎えていると思います。
3.2025年2月時点:生成AI活用に関する懸念はあれど改善の兆候はある
2025年以降、Webシステムを開発する際に、AI駆動開発をするのは当たり前になっていくと思います。確かに、2025年2月時点では、AIの利用についてはコストの問題や技術が安定化していないという課題はあります。
ただ、これもDeepSeekショックがあったように、今後もAIに関するブレークスルーが起こり、コストや精度の問題はクリアされていくと思います。
少なくとも2025年2月時点でも、低コストで、便利さを体験できるツールやサービスはあります。
4.AI駆動開発時代のWebシステムの技術選定視点(開発時、実行時、AI親和性)
さて、AI駆動開発が本格化した場合、Webシステムの技術、または、開発技術はどのように変化していくのでしょうか?
2023年までの技術は、人間の認知と作業能力の限界を前提としていましたが、2024年以降はAIの機能を前提に考えていくことができます。一方で、AIが導入されても変わらない技術もあります。それを分ける視点の考えてみます。
(1) 「開発時の技術」はAI活用の比率が高まり、大きく変化する
生成AIは、コーディングや設定をすることができます。それも人間よりも正確に速く、広範囲に成果物を作成できます。私も2024年辺りから、小さいツールは生成AIに作らせています。いきなりコーディングするのではなく、マークダウン形式で仕様を整理して、生成AIにそれに従ってコーディングするように伝えてツールをつくるようにしています。仕様がしっかりしていれば、ほぼ100%要求どおりのものができます。
人間がコーディングや設定をしなくてよい技術は2025年2月時点ですでに実現しています。ChatGPTなどのチャットサービスを使ってもできますし、VSCodeの拡張である、「Github Copilot、Cline、Continue」やCursorやWindserfなどのAI機能を実装したエディタを使うことでも可能です。
2025年はAIエージェントの時代といわれています。人間の指示で動くAIアシスタントが作業を代行し、更にそれらのアシスタントの機能を自律的に調整するAIエージェントが普及すると言われています。
設計書の作成、プログラミング、コーディング、テスト実施、デプロイ、運用後のサポートなどもAIエージェントが対応する日もそう遠くないように思います。
いずれにしろ、これまで開発時に人間がしていたデジタルの成果物を生み出す作業はAIに大体されていくと思います。そうした場合、以下のような技術の採用はこれまでとは違うものになると思います。
変化すると思われる開発時の技術
・プログラム言語:自然言語だけでコードができるのであれば、書きやすい、読みやすい、コードの好き嫌いなど選定基準が変わると思います。
・プログラムパラダイム:オブジェクト指向や関数型プログラミングなどのプログラム書き方については、人間の限界に従って採用されていたところもありますので、変化する可能性があります。
・ビルドなど開発支援ツール:今は、人間の理解がしやすいようなコードを、実行形態に変換したりするビルドツールがあります。ただ、コーディングなどをしないのであれば、これらの中間的な開発支援ツールについても変化があると思われます。
以上、開発時の技術は、AIの活用によって変化する可能性が高いと思われます。これからは、AIの精度を保つという視点で技術の発展や採用がされると思います。
(2) 「実行時の技術」はAI利用システムとAIを利用しないシステムでは影響が異なる
システムが稼働するときに関係する技術については、人間の影響が少なくなるため、AIの影響も受けにくい気はします。ただ、そもそもシステムがAIを使ったものとなると話は別になります。
a. AIを使わない旧来通りのシステム
これは、純粋にシステムの物理的な状態をどのようにするかに関係しますので、AIが登場したからといって変化はうけないと思います。たとえば、インフラやアーキテクチャについては、AIの登場による影響は、開発時の技術ほどではないと思います。トラフィック、脆弱性、資源やエネルギー不足など、AIではない別の物理的な要因によって変化すると思います。
ただ、構築や運用保守で利用されるAIに応じて変化するということは、勿論考えられます。
c. AIを使うシステム
AIを組み込んだシステムはこれからたくさん生まれてくると思います。そうすると、実行時の技術も当然変わります。モデルとの更新、その結果の加工、UI/UXの変化などAIに特化した設計、UI、システム構成などが新しく登場すると思います。そして、AIシステムアーキテクチャ設計など新しい分野もうまれると思います。
以上のように、2023年時点で人間の動きが影響しない領域については、AIの影響はそこまで大きくない 気もします。一方で、AIを利用したシステムという新しい領域が生まれますので、ここは大きな変化になると思います。
(3) AIの精度や効率性を高める「AI親和性」の高い技術
AI駆動開発がはじまると、できるだけAIの恩恵をうけるような技術が選定されるようになると思います。AIは人間の限界を超えていけるとはいえ、AIに与える指示が複雑になったり、成果物の精度が低い技術では困ります。
AIへの指示ができるだけ簡単に、そして、成果物の精度も高いこと技術であるかを判断されるようになるでしょう。
できるだけ、AIの処理で完結するのがAI駆動開発の目的だと思いますので、人間の調整ができるだけ入らない技術を模索されていくと思います。
たとえば、ChatGPTやPerplexityに、AIが生成するコードの精度が高いプログラミング言語について質問しました(質問したのは2025.02.24)。回答によると、いずれもPythonやJavaScriptが該当するそうです。ChatGPTの回答が端的でわかりやすかったので掲載します。
コーディング精度に与える要素
AIのコーディング精度は、以下の要素によって変わります。
学習データの豊富さ
→ 使われているコードの量が多い言語ほど、AIが高精度に生成できます。
言語の明確さと構造化
→ 型安全な言語やルールが明確な言語ほど、バグの少ないコードを生成しやすいです。
精度が高くなりやすい言語
✅ Python(AIの学習データが豊富、シンプルな構文)
✅ JavaScript/TypeScript(Web開発のコードが大量に存在)
✅ C#(構文が明確、型安全でバグを減らしやすい)
✅ SQL(データクエリのパターンが一定で学習しやすい)
精度がやや低めの言語
⚠️ C/C++(メモリ管理が複雑でバグを生みやすい)
⚠️ Perl/PHP(古いコードスタイルが混在しやすい)
⚠️ Shell Script(環境依存が強く、特殊なケースが多い)
上記の裏付けとなる文献は以下のようです。
ChatGPT 3.5を用いた10種類のプログラミング言語でのコード生成比較研究
この研究では、ChatGPT 3.5が10種類のプログラミング言語においてコード生成を行い、その性能を評価しています。結果として、言語ごとに生成精度に差異があることが示されています。
論文PDF:A Comparative Study of Code Generation using
ChatGPT 3.5 across 10 Programming Languages
あくまでも一部の生成AIの2025年2月時点の情報に基づくものなので、これが絶対的な評価ではないです。もし、あまり期待通りのコードにならないと感じたら、こうした評価をもとに、採用言語をかえてもよいと思います。
以上のように、AIの精度が高くなる、人間のAI利用の負荷が減るような技術選定も大切な視点だと思います。
5.今後は、既存のフレームワークやライブラリがAI機能を実装する
以下の記事において、2000年~2025年までのWebフレームワークやライブラリの変遷を整理しました。
ここに記載した技術は、2025年時点でもいろいろな場所で使われています。ただ、フレームワークやライブラリ自体がAI機能を実装しているものは少ないです。
ただ、これからは、AIによる生産性向上の機能を取り込んでいくことになると思います。
たとえば、サーバレスアプリケーションを構築できるフレームワークの「Skeet」は、独自のAIコンソールを実装しており、AIを利用した開発がしやすくなっています。
このように、フレームワークやライブラリ自体にAIをつかった製造支援機能が組み込まれるものが増えると思ます。逆に、そうしたフレームワークが主流になるのかもしれません。
それから、フレームワークやライブラリなど、技術にドキュメントは必要ですが、ドキュメントを検索したり、ドキュメントをAIに使いやすくすることも一般化していくと思います。
たとえば、PythonだけでWebアプリが作れるReflexの公式ドキュメントはAIのサポートがついており、AIに効きながら開発を進めていけます。
6.さいごに
以上、AI駆動開発時代の技術選定視点の模索でした。
生成AIによって、いろいろな技術の変化が予想されますが、どのように採用していいのかを考えるヒントになればと思います。