1.はじめに
『 ITと障害者 』を考える 〜 障害と向き合うITの力と工夫 〜 Advent Calendar 2024の9日目です。
このカレンダーを通じて、障がい者の方が、ITを利用して日常生活の課題を解決したり、また、ITエンジニアとして就労するヒントが発信できればいいなと考えています。
私は、企業が障がい者を雇用したり、フリーランスエンジニアに仕事を発注したりすることについて投稿します。
企業による障がい者エンジニア雇用促進の参考になればと考えています。
ちなみに、12/3から12/9までは障害者週間です。障害は誰しもが事故や疾病で経験するものです。健常者の人も意識しておく必要があると感じます。
2.IT業界は依然として人材不足
IT業界の人材不足は、業界の人であれば周知の事実だと思います。2024年12月現在でも引き続き状況はかわっていないと思います。
以下の帝国データバンクの2024年8月のレポートにも、「正社員不足を感じている企業は 51.0%」という記載があります。
3.障がい者雇用率は上昇している
それでは、障がい者の雇用についてはどうでしょうか?
法律では、規模に応じて企業の障がい者雇用は義務化されています。
2024年10月現在は従業員数40.0人以上、2026年7月以降は従業員数37.5人以上のすべての企業が、法定雇用率以上の障がい者を雇用する義務を負うことになります。
もし、雇用率に達しない場合、納付金を支払う必要があります。
障がい者の雇用状況が上記の法定雇用率に満たない場合、障害者雇用納付金の納付義務が生じます。この納付義務は常用労働者が101人以上の企業に課せられ、法定雇用率に照らして、「不足する障がい者数1人につき毎月5万円」を国に納付する必要があります。この納付金は障がい者を積極的に雇用する企業に分配される調整金や助成金などの財源になります。
近年、障がい者雇用は増加しています。以下は、厚生労働省の「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」に掲載された障がい者雇用数の推移です。
出典:厚生労働省「令和5年障害者雇用状況の集計結果」
4.IT業界の障がい者雇用率は低い
全体的には、障がい者雇用は増加していますが、翻って、IT業界の障がい者雇用は低いようです。
産業別の雇用状況を見ると、「情報通信業」の実雇用率は1.84%で、産業計の2.25%や他の産業と比べると低い水準に留まっています。また、法定雇用率達成企業の割合も27.2%と産業計の48.3%を大きく下回っています。
上記の記事では、IT業界の障がい者雇用が低い理由を以下のように示しています。
障害者雇用が進まない理由としては次の点が課題として考えられます。
・必要な専門知識やスキルを持った障害者が少ない
・クライアント先に常駐するなど業界特有の勤務形態
・勤務時間や休日、勤務地が不規則なケースがある
たしかに、常駐となると障害の種類によっては難しいと思いますが、コロナ禍以降のリモートワークによりこうした課題は解決できると思いますし、実際、私がいっしょに働いている障がい者のフリーランスエンジニアは問題なく就労しています。
5.フリーランスエンジニアになりたい障がい者の案件紹介をした感想
私自身は障がい者ではないので、障がい者視点の経験はありませんが、案件紹介をした経験を書いてみたいと思います。
2019年あたりにあるエンジニアコミュニティで、身体障害のあるITエンジニアの方と知り合いました。
この方は、現在、フリーランスエンジニアとして様々な案件を受注して活躍されています。
私も案件をお願いしたり、同じ案件で働いています。以下、Aさんと呼ぶことにします。
Aさんは、フリーランスエンジニアになる前は、比較的大きな会社でITエンジニアをされていました。就労形態は、リモートワークではなく、会社に通勤されていました。通勤は、ご家族が車で送迎する形でしたが、ご家族の高齢化なども考慮して、リモートワークで稼げる仕事を模索したようです。
その一つの回答として、フリーランスITエンジニアを選ばれました。そして、前掲のコミュニティで私と知り合いました。
私は、自分自身がフリーランスから一人法人になった経験もあり、いろいろビジネス上のコネクションもありましたので、独立化をサポートすることにしました。
Webエンジニアになりたいということでしたが、それまで専門的にしたことがありませんでした。そこで、最低限のWeb開発のスキルを学ぶために、他のコミュニティメンバーにも手伝ってもらって、個人開発プロダクトをつくるという体で開発を経験してもらいました。
それは数年まえのアドベントカレンダーの記事にしました。
そして、ある程度開発ができるようになったので、Aさんは常駐という形でWeb開発案件に参画するための活動を開始しました。最初は障がい者用のエージェントなどを使ったりしましたが、未経験ということもありなかなか案件がきまりませんでした。
私の方でも、何社か知り合いの会社に提案してみました。
そこでいわれた回答をきいたとき、単なる未経験だからというものではないものを感じました。
6.障がい者に対する偏見が依然として存在する
私は、知り合いの企業に時々人を紹介しています。もちろん、未経験の人もいます。
そのときには、比較的スムーズに採用してもらえていました。
ただ、今回Aさんを紹介したときはかなり難しいという反応がありました。常駐でお客さんの現場に通勤する場合、難しいのはよくわかります。ただ、リモートワーク案件に関しても断られました。
つっこんできいてみると、「よくわかんなけど、障がい者の人と仕事したことないから、なんか対応がわからない」といわれました。
確かに、「障がい者」と聞いてなんにも感じない人はいないと思います。障害のタイプにもよりますので、簡単に採用に至らないのもわかります。
ただ、面接すらせずに断れてしまい、個人的には「偏見」を感じずにはいられませんでした。
こういう状況を実際に経験して、「これは、なんとかしたい」と逆に感じるように思いました。
もちろん、障害のタイプによっては、就労が難しくいろいろなサポートを必要とするケースもあります。一方で、リモートワークであれば、健常者と差異がない方もいらっしゃいます。
とにかく、面接もせずに断るというのだけは避けてほしいなというのが個人的な感想です。
7.比較的大きな企業で案件がきまる
Aさんの案件獲得は、なかなかうまくいきませんでした。
ただ、幸いにも、私が当時手伝っていたお客さんが、すごい困っていて誰かいないですかと言われたので、Aさんを紹介することにしました。
Web開発ではなく、もともとAさんが前職でされていたVBAマクロに関する案件でした。
スキルマッチしたのが一番大きいかもしれませんが、このお客さんはすでに障がい者雇用をされていたので、偏見もなく、面談してくださいました。
やはり大きめの企業で、すでに障がい者雇用をされているところは、比較的、採用してもらいやすいのだと感じました。
Aさんは人柄もよく、面談もうまくいき、案件がきまりました。
その職場では、VBAマクロ開発にとどまらず、AWSを使ったECSの構築など幅広い業務をこなしてもらっています。また、私の会社からWebの案件を発注したこともあります。
個人的には、かなりパフォーマンスの高い人だし、コミュニケーションもとりやすく、助けられることが多いです。
8.多くの企業へお願いしたいこと:偏見をもたず面談をしてほしい
以上、ある特定のケースについてお話しました。
障がい者を雇用するというのは、障害のタイプによっては困難なことは理解できます。
ただ、前述のとおり、リモートワークを利用すれば場所やケアの問題は解消できます。特に、IT業界の仕事は、デスクワーク中心ですので、リモートワークには適していると思います。
大企業はすでに雇用促進法に従い、一定数の障がい者雇用をされているので、比較的、障がい者雇用については前向きだと感じます。メガベンチャーでも、障がい者の方が活躍されているのをみかけます。
とにかく、「障がい者」というだけで採用を見送ったりせず、面談をして自社の仕事ができるか、冷静に判断してもらえればと願ってます。
IT業界は人材不足といわれていますが、障がい者雇用により、その人材不足の一端を解消できればよいと思います。
以下、障がい者でエンジニアを目指す方を支援するコミュニティです。
ご興味あれば参加してみてください。