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開発力強化Advent Calendar 2022

Day 18

観察のススメ -人間の行動からシステムやデザインの入り込む余地を探す-

Last updated at Posted at 2022-12-18

この記事は、開発力強化 Advent Calendar 2022 の18日目の記事です。

はじめに

今まで 「観察」 に関して、いまいちピンときておらず、うまく活用することもできませんでした。IDEO社ブラウンにより広まったのデザイン思考のステップの1つであったり所属研究室のテーマ「インタラクションデザイン」のアイデア発想の手法として出てきたりして何となく知っているけれど...といった感じです。

しかし、最近モノづくりのネタを観察から得ることが多く、観察の仕方や自分なりの活用方法がようやく少しだけ分かってきた気がするので記事に残します。様々な界隈のモノづくりをする方々にアイデア発想の手法の一つとして、お!観察を取り入れてみても良さそう!と思って頂けたら嬉しいです。

とはいえ十分に理解ができているわけではないド素人ですので、認識相違あればコメントでご指摘お願いします。
また記事内のアイデア例は実用化を目指して十分な検討を行ったものではなく、あくまでもアイデアの出し方の提示することを意図して出したものです。実用化する場合に起こりうる問題等には目を瞑っていただけると幸いです。

観察とそのメリット

そもそも観察とは

Wikipediaには以下のように記述されています。

観察(かんさつ、英: observation)とは、対象の実態を知るために注意深く見ること。その様子を見て、その変化を記録すること。どれだけその変化を見つけられるかが重要である。
観察 - Wikipedia. 2021-03-15. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%B3%E5%AF%9F, (参照 2022-12-17).

この定義から少し発展して、 人間の普段の何気ない行動を注意深く見て、小さな違和感からモノづくりのアイデアに結びつけるアプローチ を「観察」と呼ぶことにします。人間の性質を踏まえたアイデア発想法です。

活用方法とメリット

本来、この観察手法は以下を目的にアイデアの発想法として使用することが多いかと思います。

  • 表面化していなかったニーズ発掘・課題解決
  • 未だ世になかった新たな価値創出
  • エクストリームユーザをターゲットにした価値提供
    (エクストリームユーザ: 本質的欲求より想定外のものの使い方をするユーザ)
  • 人間の自然な行動に逆らわない心地の良いプロダクトのデザイン

などなど

例えば、Apple社はユーザが音楽を聴くステップを観察し、音楽配信サービスと紐づき簡単に音楽を同期し持ち運べるiPodを世に送り出しています。観察により潜んでいたニーズの発掘・課題発見を行い価値創出を行うコンセプト決めやプロダクトデザインに繋げました。
観察によって、開発者どころかユーザも認知していなかった改善点の洗い出しや価値ある体験の創出を行った成功例です。

この例のように、観察によって有用な課題解決アイデアの発想や潜んでいるビジネスチャンスの発掘も可能ですが、個人的には有用性を度外視したモノづくりのアイデアの源泉として利用することも可能だと思っています。
どちらも観察によって「システムやデザインが入り込める余地」を探してアイデア発想を行っていることには変わりません。
ですのでこの記事ではどちらかにこだわらずに観察からアイデア出しをしてみたいと思います。

早速観察してみよう

実際に人と物とのインタラクションを観察し、アイデアを出してみましょう。

①床のタイルの目地に引っ掛けられた傘

床のタイルの目地に引っかかる形で壁に立てかけられた傘の写真です。

↑深澤直人(2005). デザインの輪郭 TOTO出版. より状況を再現

この写真より、溝と壁の組み合わせは傘立てになるポテンシャルを持っていることに気づきます。また、私たち人間はそれを無意識のうちに発見し利用していることにも気づきます。

ここからどんなアイデアが出せるでしょうか。
例えば、

  1. 自然の行動に溶け込ませたインテリアを邪魔しない傘立て (深澤さんが言及)
  2. 溝に傘を置くと滴る水により模様が浮かび上がるタイル
  3. 傘から水滴をセンシングしヒータを作動させる結露防止タイル

などなど、人間の無意識の行動1つから様々なアイデアが挙げられます。

1. 自然の行動に溶け込ませたインテリアを邪魔しない傘立ての例は深澤さんが著書『デザインの輪郭』内で述べられたアイデアです。正確には「傘立てを作る」という内容ではありませんが...

壁と平行に床に引かれたタイルの目地のような溝は「傘立て」であり,その「傘立て」は行為の流れの中に溶けてしまっている.その用意された配慮の機能の意味は,そのものを見た時にはわからない.むしろ意識せずに流れている行為の中で,急に立ち現れてくるものである.
深澤直人(2005). デザインの輪郭 TOTO出版.

つまり、敢えて傘立てを作らなくても、既に人間がそのインタラクションのポテンシャルを無意識に探し出し活用していることです。

このように、人間がそのインタラクションをするポテンシャルとしての性質が物や環境に備わっている状態を 「アフォーダンス」 を持っていると言います。認知心理学者のギブソンの言葉です。
観察からアイデア発想を行う際に、この「アフォーダンス」に着目して観察すると、アイデアを出しやすいかもしれません。

余談ですが、自然に備わっているのではなく敢えてそのインタラクションを促すよう手がかりをデザインした場合は、アフォーダンスではなく 「シグニファイア」 と言います。使い分けがややこしいですね。元々は認知科学者のノーマンがデザインの世界にアフォーダンスという言葉を輸入して現在のシグニファイアの意味で使用していたのですが、ギブソンの意図とは異なっていたために、ノーマンが後程シグニファイアという名称に改めています。

シグニファイアを用いた問題解決例としては、NEXCO東日本北海道支社とベストの共同開発であるスマホ置きになる鍵のついた個室トイレが話題になりました。個室の鍵の上にスマホを置く行動を促すよう、鍵がトレイのように広くデザインされています。また、置いたスマホをどかさないと鍵を開けられないので、必然的にスマホを回収するといった行動を促すという仕組み自体もエレガントです。


↑生憎北海道に写真を撮りには行けなかったため拙いイメージ図です。すみません。

話を戻します。2. 溝に傘を置くと滴る水により模様が浮かび上がるタイルの例は、社会課題の解決や新たな価値創出ではないため有用性と言われると弱いですが、遊び心を加えて心の豊かさにアプローチしています。「観察」を「モノづくりのアイデアの源泉」として利用した例ですね。
3. 傘から水滴をセンシングしヒータを作動させる結露防止タイルの例は、人間の無意識の行動により起きてしまう問題を観察により再認識し、それを解決するデザインを行っています。

②置き忘れられた網棚の荷物

(撮影できなかったためイラストに替えさせて頂きます。画像はこちらよりお借りしました。)

このイラストでは、「網棚の荷物を置き忘れる」という問題が発生しています。実際に体験したことがある方も多々いらっしゃるのではないでしょうか。今回は、観察から原因や解決策を考えてみましょう。
次に、電車を利用している人々の行動を観察してみます。

敢えて観察しなくても分かるかもしれませんが、手元のスマホや本に視線が向いていて網棚の荷物が全く視界に入っていないことに気づきます。特に座っているときは頭上を見上げないと荷物を確認できません。

ここからどんなアイデアが出せるでしょうか。
例えば、

  1. 【不十分】非混雑時に限り座る際にユーザは向かいの網棚を使う
  2. 駅に停車時に網棚に設置されたランプが点滅する
  3. ICカードに登録済の降車駅近くになったらスマホの振動付き通知で網棚荷物をお知らせ

と3つ挙げてみました。

まず1. 非混雑時に限り座る際にユーザは向かいの網棚を使うの例は、観察から得た「視界に荷物が入っていない」という気づきをもとに、荷物を頭上の網棚ではなく向かいの網棚に置くことで視界に入りやすくしています。新しく導入するシステムがないためコストもかかりません。

しかし、個人的には「不十分」としました。その理由は、人間は視界に入りこんでいても動きや変化のないものに注意を向けるのが苦手だからです。
網棚の荷物は動かないため、一度荷物を置いて手元のスマホに視線を向けてしまうと、環境に溶け込んでしまいなかなか気づくことができません。目の前の網棚に荷物を置いて立っていたのに荷物を忘れて降りてしまった、という経験がある方はこれを実感されていると思います。

逆に、人間は 視界の片隅でも動きや変化に気づくことが得意 です。網膜の桿体細胞の特性上、周辺視野の明るさの変化に敏感なためです。動的知覚においては中心視野よりも周辺視野の方が感度が高いことがわかっています(Hartmannら, 福田)。

ここで2. 駅に停車時に網棚に設置されたランプが点滅するの例に移ります。観察から得た「視界に荷物が入っていない」という気づきに加えて、人間の特性を考慮してみました。
車両の左右に網棚が存在するため、どちらかが視界の片隅に入っている可能性は高いと思います。この状態で網棚が光れば、視界の片隅に入っていた網棚に注意が行き、自分の荷物を確認するきっかけとなるのではないでしょうか。
自分の降車駅でなくても点灯し気が散ってしまったり慣れてしまったりといった問題は存在しますが、複雑な機構のいらないアイデアです。

このように、 観察から得られた気づきに加えて人間の特性を考慮する ことでよりアイデアを発展させることもできます。

3. ICカードに登録済の降車駅近くになったらスマホの振動付き通知で網棚荷物をお知らせの例は、多くのひとがスマホに視線を向けているという気づきからのアイデアです。
交通系ICカードは入退場時刻を記録しており、中でもSuicaやPASMOなどはスマホに登録することが可能です。スマホの位置情報機能やBluetooth機能と組み合わせることで、降りる駅に近づいたら通知を送ることができそうです(GPSで位置情報と照らし合わせたり、BLEビーコンを定期的に受け取ることで所在駅を特定...等)。
スマホを見ていなくても、通知の際の振動をONにしていればポケットに入っている状態でも気づく可能性が上がります。

おわりに

「観察」という手法は、有用なアイデアの発想はもちろん、モノづくりのアイデアの源泉にもなる可能性を秘めている旨を書きました。また、個人的に実際にどんなふうに観察してアイデアを出しているのかを例を挙げながら書いてみました。ぜひ皆さんのモノづくりやアイデア発想に観察を活用して頂けたらと思います。

記みなさんも記事中の写真・イラストを見て思いついたアイデアなどあればぜひシェアして頂けたら嬉しいです。歓迎です!

参考文献

書籍

観察や人間の行動に即したデザインに興味を持った方へおすすめの書籍たちです(Amazonリンク)。

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