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別府大学・別府大学短期大学部で「数理・データサイエンス・AI 授業」の講師を務めるためにやっていること

Last updated at Posted at 2024-05-23

はじめに

本年度、当社株式会社オーイーシーは別府大学・別府大学短期大学部で「数理・データサイエンス・AI 授業」を実施します

この授業は文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」における「応用基礎レベル」の教育プログラムに基づいています

当社は以下の3つの講義において教材を作成し、講師を務めます

  • データエンジニアリング基礎
  • AI基礎
  • AI/データサイエンス実践

私はその中でも「データエンジニアリング基礎」を担当しています

今まで社内での講義・ハンズオンや、大学での単発の特別授業は行ってきましたが、大学の教育カリキュラムに組み込まれた授業の実施は初めてです

本記事では、私が「データエンジニアリング基礎」を担当するにあたってやっていることを紹介します

講義の形式

私が担当する「データエンジニアリング基礎」は動画によるオンデマンド型講義(全8回)になります
従って、教材として作成するものは以下のものです

  • スライド
  • 動画

基本的にスライドに沿って説明する動画を撮影することになります

動画撮影は Zoom で行うことにしました
今まで社内教育で使ってきたため、慣れています

動画には、常に右側に講師の顔を映す形を採用しました
(視線が下に行ってしまっているのは要改善)

スクリーンショット 2024-04-13 12.14.45.png

スライドに顔を映すことで、少しでも対面に近づけようとしています
やはり顔を出している方が、受ける側にも一定の緊張感が生まれますし、こちらの表情、身振り手振りからニュアンスも伝わります
普段の社内教育ではライブ配信なので、受講側にもできるだけ顔出しをお願いしています

また、 Zoom ではスライドを背景にすることもできますが、このやり方だとスライド以外を写せないため、試したものの不採用になりました
授業ではスライドだけでなく、様々な Web サイトを表示する必要があるためです
スライドを背景にすると、どうしてもスライドの一部が隠れる形になるため、スライド作成時に「右下を常に空ける」という制約もできてしまいます

教材の作り方についての学習

オンデマンド型の動画講義は対面ではないため、独学できるように工夫する必要があります
そのため、以前 @zacky1972 さんに教えていただいた書籍を改めて読み直しました

鈴木克明さんの書かれた名著「教材設計マニュアル - 独学を支援するために」です

教材を作る上で非常に参考になりました

この本自体が「独学のための教材」になっているという「メタ構造」なのも面白いです

教育目標の確認

「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の Web サイトなどを参照し、求められている内容を確認します

また、私たち「現場のエンジニア」が講師を務める意味を出すため、できるだけ自分が携わってきた実務からの知見を基に、単なる知識の習得「〇〇を知っている」ではなく、習慣の獲得「〇〇の考え方ができるようになる」を目標として考えます

授業全体の目標と各回のゴールを設定し、スライド作成時の指針にします

授業全体の目標、各回のゴールは具体的に「〇〇することができるようになる」「〇〇について説明できるようになる」というように設定します

教育対象の確認

別府大学・別府大学短期大学部の学生に対して教えるため「どのような学生なのか」を別府大学の Web サイトで確認しました

科毎に卒業後の進路も書いてあるため、教材の中で出す例えや事例なども、できるだけその業界に近いものを選びます

カリキュラムの確認

シラバス等から「最低限、授業に含まなければならない内容」を確認します

テキストとしては以下の書籍を使用するので、こちらも読みます

「応用基礎としてのデータサイエンス - AI×データ活用の実践」
https://www.kspub.co.jp/book/detail/5307892.html

「数理・データサイエンス・AI(応用基礎レベル)モデルカリキュラム」に完全準拠した内容になっているため、この内容をしっかり押さえた上で、教育対象や自信の経験を踏まえた授業内容にしていきます

アウトラインの作成

前述のテキストとシラバスを元に、全8回の各回それぞれで何をするのか、ざっくりとしたアウトラインを Markdown で作ります
アウトラインには「最低限含む内容」と「テキストで太字になっているキーワード」が入るようにします

アウトラインは何回も書き直すため、 GitHub にプライベートリポジトリーを立てています

GitHub はコードだけでなく、ドキュメントの変更管理にも適しています

Backlog プロジェクトの作成

いつまでにスライドを作成し、動画を撮影するのか、スケジュールを組んで Backlog でタスク管理します

当然納期が存在するため、うっかり期日を過ぎたりすることがないようにします

ChatGPT に助けてもらいながらのスライド作成

テキストはベースではありますが、「もっと分かりやすく伝えたい」という思いがあるため、より分かりやすい説明を模索します

そんなとき、 ChatGPT が大いに役に立ちます

ChatGPT を説明文の参考にする

以下のように ChatGPT に質問することで、教材の材料となる文章が生成されます

  • 「〇〇について、 中学生でも分かるように具体例を挙げて 説明して」
    「中学生でも分かるように」は大学生を侮っているわけではなく、「誰にでも分かりやすい言葉」にしてもらうためです
    専門用語や難しい言葉を使わずに説明してくれます
    また、「具体例を挙げて」と指定することで、分かりやすく例を使ってくれます

  • 「〇〇と〇〇の 違い について、中学生でも分かるように具体例を挙げて説明して」
    教材設計マニュアルでも紹介されていますが、何かを覚えるとき、似ている別のものと比較することで覚えやすくなります

  • 「〇〇の 身近な例 を示してください」
    あまり自分たちから離れたことを話されてもピンと来ません
    身近な例をいくつか挙げてもらいます

  • 「〇〇に関する 注意点 を教えて」

  • 「〇〇の 抱える課題 を教えて」

  • 「〇〇は 将来どのようになると考えられていますか
    もっと深掘りした内容を足すため、注意点や課題、将来の展望などを聞いてみます

もちろん、これをそのまま使うのではなく、更に噛み砕いたり、具体的な事例にしていきます

AI が生成した文章を使うのではなく、 AI の説明を参考に自分の言葉で説明するようにしましょう

また、 ChatGPT の回答が正しいかどうかを検証するため、示された説明内容や例を Web 検索等で確認します

ChatGPT の Team プランで GPT4 を使っているため、それなりにいい感じの回答をもらえます

ChatGPT に聞くことで、改めて自分でも気づくようなことがあるので自身の学びにもなります

ChatGPT の指示、応答例

指示

ビッグデータとは何か、中学生でも分かるように身近な具体例を挙げながら説明してください

応答

ビッグデータとは、とても大きな量のデータのことを指します。
普通のデータと違って、ビッグデータはその量があまりにも多く、速いスピードで集まり、様々な形式で存在します。
これを使って、人々は新しい発見をしたり、より良い決定をするための情報を得たりします。

中学生にも分かりやすく例を挙げるなら、YouTubeを考えてみましょう。
YouTubeには毎日何百万ものビデオがアップロードされ、それらのビデオは世界中の何億もの人々に見られます。
YouTubeは、どのビデオがどれくらい見られているか、どんなビデオが人気か、どの時間帯に多くの人がビデオを見ているかなど、膨大なデータを集めています。

この情報からYouTubeは、どのようなビデオをおすすめとして表示するかを決めたり、広告をどのビデオにどう表示するかを決めたりします。
また、ビデオの制作者たちは、視聴者がどんな内容やスタイルのビデオを好むのかを知ることができ、それに基づいて新しいビデオを作ることができます。

このようにビッグデータは、単に大量の情報を持っているだけでなく、それを分析して有用な洞察を得るために使われます。
この情報を活用することで、より良いサービスを提供したり、効率的な決定を下したりすることができるのです。

ChatGPT で画像を生成する

ChatGPT では DALL-E を使った画像生成も可能なので、スライドで使う画像も作ってもらいます

どういう感じの絵にしたいかも伝えましょう
ただし、必ずしも一回でいい感じの絵ができるわけではありません
以下の例では「中学生」という言葉に引っ張られて、こどもっぽすぎる感じになってしまいました

指示

ビッグデータを表すイラストを生成してください。中学生にも伝わりやすいよう、身近なイメージにしてください。

結果
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こちらがビッグデータのコンセプトを表すイラストです。
中学生にも理解しやすいように、様々なオブジェクト(本、ビデオゲームのコントローラー、スマートフォン、映画のチケットなど)が数値やチャートとともに積み上げられており、これらがデータの蓄積を象徴しています。
背景には、生徒と教師がそのデータの山を観察し、議論し、メモを取っている様子が描かれています。
興味深い情報の分析を象徴しています。

なお、 ChatGPT の利用規約で権利は全て利用者に譲渡されています

Ownership of Content. As between you and OpenAI, and to the extent permitted by applicable law, you (a) retain your ownership rights in Input and (b) own the Output. We hereby assign to you all our right, title, and interest, if any, in and to Output.

ただし、生成 AI を使って作成した画像である旨を説明しておきましょう

これらに自身の経験に基づく内容や、その他の具体的な事例で肉付けをして、スライドを作っていきます

小テスト、課題の作成

独学であるため、毎回講義をするだけだと平坦になってしまいます
授業内に小テストや課題を設けることで、こまめに振り返りと確認を行い、知識と考え方の定着を促します

小テストは知識の定着(言葉の定義の理解・記憶)のために行います
各回のゴールとして示した「〇〇を説明できるようになる」を満たすため、「データサイエンスとは、〇〇のためにデータを〇〇する技術でる」というような穴埋め問題や、言葉とその具体例の組み合わせ問題などにします
基本的に授業内容さえ聞いていれば満点になることが前提のものです

課題は考え方の定着(自分ならどうするか、と考えられるようになる)のために出します
こちらは小テストと違って「考えること」を要求するため、授業には出ていない具体例を自由入力で出してもらいます
「身近な〇〇の具体例と、それが〇〇である理由を示してください」「あなたが〇〇で〇〇をする場合、どういった点に注意しますか」といった出題になります

アンケートの作成

フィードバックを受けるため、アンケートを作成します

教育の対象によって「簡単すぎる」「難しすぎる」ということが出てくるので、調整が必要になります

そのため、アンケートで授業の理解度、満足度、意見を集め、次回以降の参考にします

このアンケート結果は最終的な報告資料にも使用できます

理解度、満足度はグラフや表に視覚化するため、定量的に 0 - 10 などの数値で答えてもらいます

意見や感想は「気付き」を得るために自由入力にします

動画の撮影

前述した通り、動画は Zoom で撮影します

せっかく撮影するので、社内のメンバーにリアルタイムで見てもらって指摘をもらいます
途中で画面の操作ミスなどした場合、編集でカットします

撮影した動画は別府大学・別府大学短期大学部の先生に確認してもらいます

e-learning システムへの登録

別府大学の e-learning システムは Moodle というオープンソースの LMS (学習管理システム)を基盤としています

私自身、 Moodle を使ったことがなかったため、自分のローカルで動かして「どういうものなのか」確認しました

まとめ

現在は第6回の動画撮影を行い、第4回まで学生に公開しているところです

アンケートや課題提出からフィードバックを受け、またこちらからも学生にフィードバックしています

また、近日別府大学に直接行き、学生とコミュニケーションする場も設ける予定です

まだまだこれからなので、この機会が全員にとって良いものになるよう、全力を尽くしていきます

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