はじめに
この記事は新卒のみでスクラムチームを半年超行った経験をもとに、「恩恵と弊害」を整理したものです。
「スクラム開発を新人にやらせたい。でもアサインした時にどうなってしまうのか。良いのか悪いのか。」
この問いに、メリットもデメリットの両面を通してその是非を考えてみます。
私が考える結論:本人の素養を見極めた上で、向いている人には絶対にアサインした方が良い
スクラム開発に関してweb検索以上の知識がない方は、
施策を実施する前に、最低でも以下の2冊は書籍を読み、
アジャイルとスクラムの意味と思想を理解することをお勧めします。
より深く、細かいところまで知りたい方はこちらのブログがお勧めです。
前提条件
開発経験なし・少しある新人を5~6人の開発チームとし、
POには5~10年目の社員(スクラム経験なし)をアサインする。
「恩恵」
1. 価値と目的を見つめるクセがつく
スクラム開発では、バックログというもので仕事を定義します。このとき、バックログはタスクではなく、価値であることが求められます。価値を定義するにあたり「誰の、どういった課題を解決するんだ or 何の為に必要か」を全てのバックログにおいて毎回、明確にします。
これにより、「作業をこなす」ことは許されず、「価値を生む」という観点で仕事に向かい続けることが求められます。
その仕事に対して、全員がオーナーシップをもち、その成功を定義する。
これはOJT形式では身につき辛いスキルの一つではないでしょうか。
それでも、気を抜くとタスクになってしまうこともしばしばあるので、根気強く習慣づけることが大切です。。。
2. 失敗を通して、主体性が鍛えられる
POはいるものの、スクラムでは仕事をどう進めるのかは開発チームの裁量に委ねられます。
そのため、バックログを完了するために、必要なタスク、生じるリスク、全体と日々のスケジューリングを常々考えながら進めていく必要があります。
もちろん最初から完璧にできる人はいないので、多くのチームは失敗しながら学んでいくことになると思います。
そこで、振り返りを行います。スクラムには、約2週間のスプリントごとにチーム全体でチームの課題を共有し、改善を行うイベントが枠組みにあるため、自分で考え、PDCAを回すことができるようになります。
失敗し、改善する行為こそがスクラム開発の教育における良い点だと考えています。
デメリット
納期とクオリティへの意識
アジャイル開発では、コストとスケジュールは固定されており、スコープを可変させる方針が基本となります。
本当に大事なことを優先順位に従って現実的な範囲でやり切りましょうという考え方です。
成熟したチームであれば、顧客への提供価値・プロダクトの価値を作りきることが可能です。
一方で、いくらでも甘えようと思えば甘えることが可能です。
商用開発のお作法が身につきにくい
製品開発におけるプロセスの実施・品質保証等において、観点漏れが多く発生します。
これはアジャイル開発やスクラム開発の大きな弱点の一つだと筆者は考えています。
ウォーターフォール開発には長年積み上げてきた、製品を確実に作りきってデリバリーするプロセスや観点が網羅されています。
一方で、アジャイル開発では開発プロセス自体はチームの裁量に任されています。
アジャイルなのでそれはそれで良いのですが、経験の少ない技術者がこれを行った際、
機能要件で体験は考慮するが業務要件が漏れている、非機能要件が一切考慮されていない、テストの実施が曖昧といったことが発生します。
開発経験が豊富な方がレビュワーとして積極的にサポートすることが必要となります。
チームとしてビジネス的に大きな成果を出すことは困難である
スクラムではクロスファンクショナルなチームであることが良いとされています。
クロスファンクショナルとは、フロントエンド・バックエンド・UIデザイナー・QAなど様々なスペシャリストが横串で編成されることです。
これにより、様々な職能の知見をチームとして柔軟に活用できるほか、個々人が様々な能力を身につけることが可能となります。結果として、縦割りの組織よりも、素早く・クリティカルなビジネス価値を生むことができるというのがスクラムの考えの一つです。
一方で、新人が寄ってたかったとて、スペシャリストは一人もいません。
結局は少ない知識で考える、勉強する、外部に聞きにいくといったことが必要になります。
この場合、クロスファンクショナルなチームが有機的に動くことで成果が最大化されるといったスクラムの目的は一切果たされません。
スクラムが外部によって飲み込まれてしまう
プロジェクト関係者に、アジャイルやスクラムの思想が理解されていない場合、
しばしばその枠組みから外れたような依頼やタスクが行われることがあります。
基本的にはスクラムマスターやメンバー自身がブロック or 調整することが望ましいですが、
新人が強く主張する、納得させるということは心理的・実績的に非常に困難です。
そうした場合、スクラムはいともたやすく形骸化してしまいます。
結論
私が考える結論:本人の素養を見極めた上で、向いている人には絶対にアサインした方が良い
再掲です。え?デメリットの方が多いじゃないかって?
違います。メリットがすごく大きいのです。
主体的に価値を定義し、計画・学習し、周囲の協力を得ながら自律的に推進し、仕事の最初から最後までを見ることができる。
この経験はかけがえのないものだと思います。
※本人の素養を見極めた上でについて:
スクラムは自律的に動ける人が過半数でないと崩壊します。
また、著しくやる気がない人、タスクとしてもらわないと進められない人にとっては苦痛でしょうがないと思います。その為、トレーナーをつける教育体制の方が合っているかどうかを本人の希望や性格を踏まえて必ず考えましょう。