Transformer(トランスフォーマー)は、近年の自然言語処理(NLP)分野において非常に重要な役割を担うニューラルネットワークモデルです。2017年にGoogleの研究チームによって提案され、特に自然言語理解や文章生成タスクにおいて従来のモデル(RNNやCNNなど)よりも大幅に性能を向上させました。
ここでは、わかりやすく技術的な詳細を具体的な例を用いて説明します。
Transformerの技術的特徴
1. Self-Attention(自己注意機構)
Transformerの最も重要な仕組みが「自己注意機構(Self-Attention)」です。これは、文章中の各単語がほかの単語とどの程度関連しているのかを判断し、その重要度に応じて情報を調整する方法です。
例文:「私はりんごが好きで、毎日りんごを食べます。」
- 「りんご」という単語が2回登場しますが、Self-Attentionにより、「好き」と「食べます」という単語が特に「りんご」に強く関連付けられるようになります。
Self-Attentionは以下のようなステップで計算されます。
- 入力された単語ごとに、Query(質問)、Key(キー)、Value(価値)という3つのベクトルを作ります。
- 各単語のQueryベクトルは全単語のKeyベクトルと比較され、どれくらい関係性があるかを評価します。
- 評価した関係性を元にValueベクトルを組み合わせ、新しい特徴表現を作ります。
2. Multi-Head Attention(マルチヘッドアテンション)
Self-Attentionを複数同時に行うことで、異なる視点から情報を理解する仕組みです。
例文:「彼は映画を観て笑い、感動しました。」
- 一つのアテンションヘッドは「映画」と「観て」を関連付け、別のヘッドは「笑い」と「感動」に注目します。これにより、複数の文脈を同時に捉えることができます。
3. Positional Encoding(位置エンコーディング)
Transformerは並列に全ての単語を処理するため、単語の順番情報を自然には学べません。そのため、各単語の位置情報をベクトル化して加えます。
例:
- 「猫が犬を追いかけた」と「犬が猫を追いかけた」は単語の順番が違い、意味も異なります。Positional Encodingによって単語の順序情報を付加し、正しく文の意味を理解します。
4. Encoder-Decoder構造
Transformerは「Encoder(入力を処理する部分)」と「Decoder(出力を生成する部分)」から構成されています。
- Encoderは入力文章を分析し、意味や文脈を特徴表現として捉えます。
- DecoderはEncoderで作られた特徴表現をもとに、翻訳文や生成文などの出力を作ります。
例:
- 英語の文「I like apples.」を日本語に翻訳する場合、Encoderが英語の文を処理し、Decoderが「私はりんごが好きです。」という日本語の文を生成します。
Transformerモデルの応用例
Transformerは以下のようなさまざまな用途で使われています。
- 翻訳:Google翻訳など
- 文章生成:ChatGPTなど
- 感情分析:商品のレビューが良いか悪いかを判定するなど
- 質問応答システム:検索エンジンのように質問に答えるシステム
- 画像認識:画像の分類や物体検出を行うVision Transformer(ViT)など
- 画像生成:文章を元に画像を生成するDALL-EやStable Diffusionなど
Transformerの発展型モデル
BERT
BERTは、前後の文脈を同時に理解することで、文章の意味をより深く理解できるモデルです。検索エンジンや質問応答システムで広く使われています。
例:「彼は銀行に行った」という文で、「銀行」が「金融機関」なのか「川岸」なのか、前後の文脈から正確に理解できます。
GPT
GPTは、次の単語を予測しながら文章を生成するモデルです。ChatGPTのように人間と自然な対話ができるよう設計されています。
学習方法
Transformerモデルは以下の2段階で学習します。
- 事前学習(Pre-training):インターネット上の大量の文章データを使って言語の知識を学びます。
- 微調整(Fine-tuning):特定のタスク(翻訳や質問応答など)に合わせてモデルを調整します。
例:
- 大量のウェブテキストで一般的な言語の使い方を学習し、その後翻訳用のデータで微調整します。
Transformerの課題と改善策
Transformerは大量の計算資源を必要とするため、GPUやTPUなど高性能なハードウェアが必要です。また、文章が長くなると計算量が非常に多くなります。
これを解決するために、長文処理などで必要な箇所だけに注目して計算量を削減するSparse Attentionや、低ランク近似を活用して効率化するLinFormerなどの改良が提案されています。
まとめ
Transformerは、文章の意味や文脈を非常に深く理解できる画期的な技術であり、自然言語処理の分野に大きな進展をもたらしました。今後もさまざまな分野で応用や改善が期待される重要な技術です。