Building the System of Record for the AI Era ft Workday CEO Carl Eschenbach
https://www.youtube.com/watch?v=i5zEDZBqCtI
目次
- はじめに:企業AIの変革的価値
- 第1部:システム・オブ・レコードの進化
- 第2部:企業AIの収益化戦略
- 第3部:企業文化を保ちながらのAI実装
- 第4部:代替から共存へ - 人間とAIの新しい関係性
- 第5部:スキルベース経済の台頭
- 結論:AIを活用した持続的成長への道筋
はじめに:企業AIの変革的価値
企業テクノロジーの進化において、人工知能(AI)は事業運営の方法を根本から変えつつあります。しかし、AIに関する議論の多くは、コスト削減と効率性向上のみに焦点を当てる傾向があります。これは純粋なROI(投資収益率)の視点です。
Workday CEOのCarl Eschenbachは次のように述べています:
「企業のCEO、CFO、CIOと話すとき、すぐにROIの会話になります—『これで大量のお金が節約できる』というものです。確かにそういう場合もあります。しかし、ROIの利益だけに焦点を当てると、従業員はすぐに『自分の仕事が置き換えられる』と考え始めます。私たちはこの見方を変える必要があります。この技術を活用してROIを高め、ビジネスに再投資し、成長を促進する方法を考える必要があります。AIをROIの価値提案としてではなく、成長の価値提案として語るべきなのです。そうすることで、従業員、エージェント、AIが企業内で平和に共存し、企業の成長を本当に促進することができます。」
この成長志向のアプローチこそが、AI時代の企業変革の核心となるのです。
第1部:システム・オブ・レコードの進化
企業システムの歴史的変遷
企業システムは経済のパラダイムシフトと共に進化してきました。製造業経済の時代には、SAPなどのERPシステムが物理的資産を管理し、財務の基盤として機能していました。知識経済への移行に伴い、Workdayのようなプラットフォームが台頭し、人的資本と財務を統合管理するようになりました。
そして現在、私たちはAI駆動型経済へと移行しつつあります。この新たな経済では、システムは人間の従業員だけでなく、AIエージェントも含めた複合的な労働力を管理する必要があります。Workdayは伝統的に「人とお金」の記録システムでしたが、今やAIエージェントも包含するシステムへと進化しています。
エージェント・システム・オブ・レコードの誕生
「エージェント・システム・オブ・レコード」という革新的な概念が登場しています。これは人間の従業員とデジタルワーカー(AIエージェント)を統合的に管理するシステムです。
従来、人間の従業員は以下のようなプロセスを経ています:
- オンボーディング(入社手続き)
- 組織への割り当て
- 福利厚生の付与
- パフォーマンスの追跡・監視
- 評価
AIエージェントにも同様のプロセスが必要になります。企業は次のような問いに答える必要があります:
- AIエージェントはどのように企業に導入されるのか?
- 誰がオンボーディングを担当するのか?
- どの部門に属するのか?
- どのようなアクセス権を持つのか?
- 誰が管理・評価するのか?
Workdayの「エージェント・システム・オブ・レコード」は、人間とデジタルワーカーを共通のプラットフォームで統合し、真の「ハイブリッド労働力管理」を可能にします。これにより企業は全労働力—人間とAIの両方—を効果的に計画・管理できるようになります。
第2部:企業AIの収益化戦略
Workdayは企業AIの収益化に3つのアプローチを採用しています。これらのモデルは、AI技術の価値をさまざまな形で企業にもたらします。
シートベースの価格設定
AIがすべての従業員に価値をもたらす場合、従来のシートベース(1席あたり)の料金体系に追加料金を設定します。従業員一人ひとりにAI機能の恩恵がある場合に適しています。
例:全社員向けのAIアシスタント機能に対して1ユーザーあたり月額X円の追加課金
役割ベースのエージェント価格設定
特定の役割を担うAIエージェントに対して、固定価格で提供するモデルです。人間が同じ役割を果たす場合のコストと比較して価格を設定します。
例えば、給与計算担当のAIエージェントを年間500万円で提供する場合、現在の給与計算担当者のコストが年間2,000万円であれば、明確なコスト削減になります。
重要なのは、これによって人間の従業員が必ずしも不要になるわけではないということです。むしろ、日常的・反復的な業務からより戦略的な業務へとシフトできるようになります。AIエージェントが基本業務を処理する一方で、人間は高度な判断や創造的な業務に集中できるのです。
消費ベースのAPI価格設定
さまざまなAIエージェントがWorkdayのデータにアクセスする必要がある場合、APIアクセスに基づく従量課金モデルを適用します。これはクラウドサービスのような消費ベースのモデルで、利用量に応じて課金されます。
第3部:企業文化を保ちながらのAI実装
価値観と変革のバランス
AIの導入は企業にとって大規模な変革を意味しますが、成功するためには何を変え、何を維持するかを見極める必要があります。
Workdayの事例では、創業者が20年前に確立した6つの核心的価値観は不変のものとして維持されています:
- 人を第一に
- 顧客サービス
- 誠実さ
- イノベーション
- 楽しさ
- 収益性
「収益性」が6番目に置かれているのには理由があります—前の5つの価値観を正しく実行すれば、収益性は自然と生まれるという考え方です。
一方で、企業文化は企業の成長とともに進化します。AIの導入に伴い、以下のような変革が必要になります:
- より効率的な運用
- より厳格な業務管理
- より洗練された市場戦略
- より強力なパートナーエコシステムの構築
トップダウン型販売アプローチの復権
近年のSaaSビジネスではプロダクトレッドグロース(PLG)が主流となっていましたが、企業向けAIソリューションでは従来型のトップダウン販売アプローチが復活しています。AIは部門責任者やCIOといった上層部への提案から導入が決まるケースが多いのです。
企業全体への影響が大きいAI導入は、個々のユーザーからボトムアップで広がるというよりも、経営層の判断によってトップダウンで推進されるのが現実です。
全社的AIトレーニングの重要性
Workdayが実施している「Everyday AI」のような全社的なAIトレーニングプログラムは、従業員のAI受容と活用を促進する重要な取り組みです。
このようなプログラムの特徴:
- 全従業員が参加
- AIツールの使い方を体系的に学習
- 個人の生産性向上につながる具体的な応用方法の習得
- AIに対する恐怖や抵抗感の軽減
- テストで理解度を確認
従業員がAIを「脅威」ではなく「ツール」として活用できるようになれば、企業全体のAI活用度が高まります。
第4部:代替から共存へ - 人間とAIの新しい関係性
技術関係の転換点
AIにおける最も重要な変化は、人間とテクノロジーの関係性の根本的な転換です。
従来:人間がテクノロジーのために働く
- デスクに座ってコンピュータを操作
- テクノロジーとの日常的なインタラクション
- テクノロジーを使いこなすために努力
未来:テクノロジーが人間のために働く
- AIが自律的にタスクを実行
- バックグラウンドで動作し、存在を意識させない
- 人間は創造的・戦略的な業務に集中できる
AIと人間のユニークな役割
AI時代において、人間とAIはそれぞれが得意とする領域で補完的に機能します。
特にエージェンシー(行為主体性)—何を達成したいのか、どのような目標を設定するか、どのような問いを投げかけるべきか—という能力は、依然として人間特有のものです。Google検索が知識を民主化し、OpenAIが知能を民主化しつつあるとすれば、エージェンシーは依然として人間の領域にあるのです。
ヒューマンインザループの実践
特に採用や重要な意思決定などの領域では、AIが完全に人間に取って代わることはできません。「ヒューマンインザループ」のアプローチが依然として重要です。
例えば採用プロセスでは、AIが候補者のスキルと職務要件のマッチングを効率化できますが、最終的な判断—その人が組織文化に合うか、チームと協働できるか—は人間の直感と判断に委ねられるべきです。
第5部:スキルベース経済の台頭
学歴からスキルへのシフト
AIによって、雇用における重要な変化が起きています:学歴や経歴(pedigree)からスキルベースの評価へのシフトです。
例えば大手コンサルティング企業のAccentureでは、新入社員の30~35%が大学の学位を持っていません。これは革命的な変化です。
AIを活用することで、企業は以下のことが可能になります:
- 求められるスキルの正確な把握
- 候補者の実際のスキルの評価
- 学歴や経歴に依存しない多様な人材の採用
- より公平で客観的な採用プロセス
AI主導の内部モビリティ強化
AIを活用した人材最適化・人材モビリティツールは、社内の人材異動を劇的に改善できます。例えば、Workdayのこのようなツールを導入することで、退職率が最大40%も削減されたケースがあります。
その仕組みは以下の通りです:
従業員は自分のスキルや興味に合った社内の新しい機会を見つけやすくなり、企業は適材適所の人材配置を実現できます。これは従業員の満足度向上と人材流出防止に直結します。
スキル革命の到来
AIが日常的・反復的なタスクを担うことで、人間は新しいスキルの習得に時間をかけられるようになります。特に重要なのは、テクノロジー革命からスキル革命へのシフトです。
具体的には以下のような人間特有のスキルがより重要になります:
- ネットワーキング能力
- フィードバックの提供と受容
- コラボレーション
- 共感を持ったリーダーシップ
- メンタリングとコーチング
リモートワークの普及により一部弱まった対人スキルは、AIがルーチン業務を担うことで再び磨く時間が生まれます。技術が人間の代わりに働くことで、人間はより「人間らしい」スキルを発揮できるのです。
結論:AIを活用した持続的成長への道筋
企業システムへのAI統合は、単なる技術的変化ではなく、組織の機能方法を根本から再考する機会です。AIを単なるコスト削減手段としてではなく、成長の推進力として捉えることで、企業は人間とAIの協働による新たな価値創造が可能になります。
成功する企業は以下の要素を備えることになるでしょう:
-
人間とAIエージェントを統合管理するシステム
両者を統一的に把握し、最適な労働力ミックスを実現 -
柔軟な収益化モデル
シートベース、役割ベース、消費ベースを組み合わせた価格戦略 -
価値観を守りながらの変革
企業の核となる価値観を維持しつつ、文化と運営を適応させる -
人間とAIの補完関係の構築
それぞれの強みを活かした役割分担 -
継続的なスキル開発投資
従業員のためのスキルアップ機会の提供
最後に、AIに関する議論は「代替」から「強化」へ、「コスト削減」から「成長」へ、「恐怖」から「機会」へとシフトする必要があります。このパラダイムシフトこそが、人間とAIが共に繁栄する未来への鍵となるのです。