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Google: Google チーフサイエンティストが語るバーチャルエンジニア時代

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Google’s Jeff Dean on the Coming Era of Virtual Engineers
https://www.youtube.com/watch?v=dq8MhTFCs80

目次

  1. はじめに:Jeff Dean氏とその功績
  2. AIと神経ネットワークの進化(2012年〜現在)
  3. 現代AIモデルの特徴と将来展望
  4. AIエージェント:実態と可能性
  5. 大規模言語モデルの展望
  6. AI専用ハードウェアの重要性
  7. 科学分野におけるAIの影響
  8. AI向け次世代コンピューティングアーキテクチャ
  9. 人間レベルのAIシステムへの道
  10. 将来のモデルアーキテクチャ:疎モデルの可能性
  11. まとめ

はじめに:Jeff Dean氏とその功績

Alphabet(Googleの親会社)のチーフサイエンティストであるJeff Dean氏は、現代のAI革命の立役者の一人として広く認識されています。BERTの開発からTPU(Tensor Processing Unit)プログラムの立ち上げまで、Dean氏はGoogleにおいて数多くの革新的技術の開発をリードしてきました。

Sequoia CapitalのBill Korn氏(元Google幹部)との対談から、最先端AI技術の現状と将来展望について体系的に解説します。この対談では、AI技術の発展の軌跡、モデルのスケーリング、ハードウェアの進化、そしてAIエージェントの可能性など、幅広いトピックが議論されました。

AIと神経ネットワークの進化(2012年〜現在)

AIの進化は一般認識よりも長い歴史を持っています。Dean氏によれば、現在のAIブームは2012年頃から始まりました。この時期、研究者たちは当時としては「大規模」な神経ネットワークを使って、視覚、音声、言語といった問題を同一のアルゴリズム的アプローチで解決できることを発見しました。

2012年、GoogleのDean氏らのチームは既存のニューラルネットワークの60倍の規模のモデルを16,000のCPUコアを使って訓練し、優れた結果を得ました。これにより「スケーリング」がAIの性能向上に重要であるという確信が生まれました。

Dean氏は「より大きなモデル、より多くのデータ、より良い結果」(bigger model, more data, better results)という表現を使い、これが過去12〜15年間比較的真実であり続けたと説明しています。

この進化の過程で確立された重要な原則は次のとおりです:

  1. モデルのスケーリング:パラメータ数を増やすことで表現力が向上
  2. データの拡大:多様で大量のデータによる学習効果の向上
  3. ハードウェアの進化:TPUなどの専用チップによる計算能力の飛躍的向上
  4. アルゴリズムの改善:より効率的な学習方法の開発

現代AIモデルの特徴と将来展望

現在のAIモデルは驚くべき能力を持つようになりましたが、すべての問題を解決できるわけではありません。しかし年々その能力は向上しており、モデルの大規模化、アルゴリズムの改善、ハードウェアのスケーリングによって解決できる問題の範囲が拡大し続けています。

マルチモダリティの進化 🔄

現代のAIモデルは、テキスト、画像、音声、ビデオ、コードなど多様な形式のデータを入出力として処理できるようになっています。これにより、より自然な形でAIとのインタラクションが可能になり、応用範囲が大幅に広がっています。

強化学習とポストトレーニング手法 🧠

モデルの訓練後に強化学習などの手法を適用することで、AIの行動をより望ましい方向に導くことができるようになっています。これはAIシステムの振る舞いを人間の価値観や要求に合わせて調整する上で非常に重要です。

知識蒸留による効率化 ⚗️

知識蒸留(Knowledge Distillation)とは、大規模なモデルの知識を小型のモデルに転移させ、計算コストを大幅に削減する技術です。Dean氏はこの技術について、2014年にNeurIPS会議で却下された共著論文が「影響力を持たないだろう」と評価されたエピソードを紹介しながら、現在のAI開発において重要な役割を果たしていると指摘しています。

AIエージェント:実態と可能性

近年、AI業界では「エージェント」に大きな注目が集まっています。AIエージェントとは、特定のタスクを自律的に実行し、必要に応じて他のツールやシステムと連携できるAIシステムです。Google自身もエージェントフレームワークを導入していますが、Dean氏はこの分野の現状と将来について現実的な見方を示しています。

現状と課題

現時点でのAIエージェントは、仮想コンピュータ環境内で特定のタスクを実行できますが、人間が日常的に行うほとんどの作業をこなすことはまだできません。しかしDean氏は「能力を向上させる道筋は合理的に明確」であると述べています。

発展の道筋

AIエージェントの能力向上は以下のプロセスで進むと考えられます:

  1. より多くの強化学習の実施
  2. エージェントが学習できる経験の蓄積
  3. 初期製品の開発(一部のタスクのみ対応)
  4. ユーザーからのフィードバックによる改善
  5. 能力の段階的な拡大

物理的ロボットエージェントの展望 🤖

同様の発展パターンは物理的なロボットエージェントにも適用できます。Dean氏は「今後1〜2年のうちに、部屋で20の役立つことができるようになる道筋が見えている」と述べ、以下のような段階的な進化を予想しています:

  1. 特定の20のタスクを実行できる高価なロボット製品の登場
  2. 経験からの学習による能力向上
  3. コスト削減エンジニアリングによる10倍安価なロボットの開発
  4. 1,000のタスクを実行できる能力の獲得
  5. さらなるコスト削減と能力向上の継続的なサイクル

大規模言語モデルの展望

Dean氏は、最先端の大規模言語モデル(LLM)の開発には多大な投資が必要であり、そのような先端モデルの数は「50ではなく、おそらく数個程度」になるだろうと予測しています。GoogleのGemini、OpenAIのGPTシリーズなど、一部の企業が最先端モデルの開発をリードしていくでしょう。

しかし、一度優れたモデルが開発されれば、知識蒸留などの技術を使って、より軽量で特定の用途に適したモデルを派生させることができます。これにより、さまざまなプレイヤーが異なる形状のモデルや特定の分野に特化したモデルを開発することが可能になります。

AI専用ハードウェアの重要性

AIの計算需要に対応するため、Googleをはじめとするテクノロジー企業は専用のハードウェアを開発しています。Dean氏は2013年にGoogleのTPU(Tensor Processing Unit)プログラムの立ち上げを支援し、最初のTPUは推論(inference)に特化していました。その後のTPUv2は訓練(training)と推論の両方に対応するように設計されました。

Dean氏は、AI計算に特化したハードウェアの要件について次のように説明しています:

  1. 精度を下げた線形代数演算に特化したアクセラレータが必要
  2. 世代を重ねるごとに性能向上が必要
  3. 超高速ネットワークで多数の計算デバイスを接続することが重要
  4. モデル計算を可能な限り多くの計算デバイスに分散させる必要がある

GoogleはPathwaysという分散システムを2018年から開発しており、これにより単一のPythonプロセスから数千のデバイスを制御できるようになっています。これはML研究者に「1万のデバイスがあるかのように」見せる抽象化を提供し、開発者体験を向上させています。

Dean氏はPathwaysの利点について「最大のGeminiモデルは、単一のPythonプロセスが数万チップ全体を駆動して訓練されており、非常にうまく機能している」と説明しています。最近のGoogle Cloud Nextイベントでは、このPathwaysがクラウド顧客にも提供されることが発表されました。

科学分野におけるAIの影響

AIは科学研究の方法論そのものを変革しつつあります。この事実は、2023年にAI研究者(Demis HassabisとJohn Jumper)がタンパク質立体構造予測の功績でノーベル化学賞を受賞し、Jeff Hinton(Googleの元研究者)らもAI分野の功績でノーベル物理学賞を受賞したことでも証明されています。

Dean氏によれば、AIが科学に与える最も重要な影響の一つは、計算シミュレーションの高速化です。例えば、気象予報、流体力学、量子化学シミュレーションなどの分野では、非常に計算コストの高いシミュレーターが使用されています。これらのシミュレーターをニューラルネットワークの訓練データとして利用することで、シミュレーターを近似し、「30万倍高速な」モデルを構築することが可能になります。

これにより、科学研究の方法論が根本的に変わります。例えば、「1千万の分子を昼食休憩の間にスクリーニングする」ことが可能になり、これまでは「持っていない計算リソースで1年かけて実行する必要があった」ような計算が現実的になります。

AI向け次世代コンピューティングアーキテクチャ

コンピューティングの世界は現在、大きな転換点にあります。ムーアの法則とデナード・スケーリングが終焉を迎える一方で、AI計算需要は急速に拡大しています。Dean氏は、このようなコンテキストの中で将来のコンピューティングインフラについての洞察を提供しています。

コンピューティングの根本的な変化

Dean氏によれば、過去5〜10年間で「コンピューターで実行したい計算の種類が劇的に変わった」といいます。これはAIの台頭によるもので、現在は「信じられないほど大きなニューラルネットワークを、信じられないほど高いパフォーマンスと低い電力で実行したい」という需要が生まれています。

訓練と推論の異なる要件

訓練(training)と推論(inference)は異なる特性を持つワークロードであり、これらに対して異なるソリューションが必要になるとDean氏は指摘しています。特に推論においては、電力効率が非常に重要になります。

アルゴリズム分析の新たな視点

従来のコンピュータサイエンスにおけるアルゴリズム分析は主に演算回数(operation count)に基づいていましたが、現代のAIコンピューティングでは、ネットワーク帯域幅やメモリ帯域幅などの要素も考慮する必要があります。

Dean氏によれば、現代のML計算では「データの移動」が非常に重要であり、SRAMからアキュムレータにデータを移動させるコストは実際の演算コストよりもはるかに大きいことを指摘しています。

Dean氏は「現代のML計算では、ピコジュール単位のエネルギー消費を意識することが重要になっている」と述べています。SRAMからアキュムレータへのデータ移動は「ごくわずかなピコジュール」を消費しますが、それは実際の演算コストよりもはるかに大きいのです。

人間レベルのAIシステムへの道

対談の最後の部分で、Dean氏は「ジュニアエンジニアのレベルで24時間365日動作するAI」がどのくらい遠い未来かという質問に対し、「そこまで遠くない」「おそらく来年までに可能」と予測しています。これは、AIが単なる補助ツールから実質的な「デジタルワーカー」へと進化する可能性を示唆しています。

ジュニアエンジニアレベルのAIに必要な能力 👨‍💻

Dean氏によれば、ジュニアエンジニアレベルで機能するAIには、コード生成だけでなく、以下のような幅広い能力が必要です:

  1. テストの実行方法の理解
  2. パフォーマンス問題のデバッグ能力
  3. 各種ツールの活用能力
  4. ドキュメントの読解と知識の適用能力

人間のジュニアエンジニアはこれらのスキルを経験豊富なエンジニアから学んだり、ドキュメントを読んだりして獲得しますが、「仮想ジュニアエンジニア」はドキュメントの読解に優れ、仮想環境でさまざまな試行錯誤を行うことでこれらのスキルを習得できると考えられます。

将来のモデルアーキテクチャ:疎モデルの可能性

現在のAIモデルは主に「密(dense)」な構造を持っていますが、Dean氏は将来のモデルアーキテクチャがより「疎(sparse)」で専門性を持った部分から構成される可能性を示唆しています。この考え方は、人間の脳が持つ効率性からヒントを得ています。

専門家混合(Mixture of Experts)モデル

Dean氏は「専門家混合(Mixture of Experts)」というアプローチに取り組んでおり、初期の研究では2,048の専門家を持つモデルを実験しました。これにより訓練のフロップ(浮動小数点演算)あたりのモデル品質が「10倍から100倍」向上することを示しています。

より有機的な継続学習システムのビジョン 🌱

現在の専門家混合モデルは非常に規則的な疎性を持っていますが、Dean氏はもっと不規則で柔軟な構造が有益かもしれないと考えています:

Dean氏が理想とするモデルには以下のような特徴があります:

  1. モデル内の異なるパスが「100倍または1000倍」計算コストが異なる
  2. モデルの一部は非常に少ない計算を必要とし、他の部分は大量の計算を必要とする
  3. 異なる部分が異なる構造を持つ可能性がある
  4. 新しいパラメータやスペースでモデルを拡張できる
  5. モデルの一部を蒸留プロセスで圧縮し、サイズを1/4にするなどの最適化が可能
  6. バックグラウンドでの「ガベージコレクション」のようなプロセスがメモリを最適化

Dean氏は「シェイクスピアの詩の部分は、車の中でゴミ収集車がバックしてくるのを心配しているときには活動していない」という人間の脳の例を挙げ、AIモデルもタスクに応じて部分的に活性化できるようになるべきだと述べています。

まとめ

Jeff Dean氏との対談から浮かび上がる主要な洞察は以下のとおりです:

  1. AIの継続的進化 🚀:2012年頃に始まったAIの進化は、モデルの大規模化、データの拡大、ハードウェアの進化、アルゴリズムの改善によって継続的に加速しています。

  2. マルチモダリティの重要性 📊:テキスト、画像、音声、ビデオ、コードなど複数の形式を扱えるAIモデルが、より自然で幅広い応用を可能にしています。

  3. AIエージェントの発展 🤖:段階的な能力向上を経て、仮想および物理的な環境で人間の能力に近づいていく可能性があります。

  4. 大規模言語モデルの集約と多様化 🔍:最先端モデルは少数に集約されるが、知識蒸留により多様な特化型モデルが広がります。

  5. 専用ハードウェアの進化 💻:AIの計算需要に対応するTPUなどの専用チップが、AIの発展に不可欠です。

  6. 科学研究の変革 🔬:AIによるシミュレーション高速化が科学的発見のプロセスを根本的に変えています。

  7. ジュニアエンジニアレベルのAI実現 👨‍💻:来年までには実現の可能性があり、専門分野での人間同等の能力を持つAIが現実になりつつあります。

  8. 疎モデルアーキテクチャの可能性 🧩:より効率的で柔軟な「専門家混合」モデルが、AIの次の進化形態となる可能性があります。

AIの進化は止まることなく続いており、技術的な進歩だけでなく、社会や産業、科学研究にも深い影響を与えつつあります。Jeff Dean氏の洞察は、この急速に発展する分野の現状と将来への道筋を明らかにしています。

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