How AI is Reinventing Software Business Models ft. Bret Taylor of Sierra
https://www.youtube.com/watch?v=xlQB_0Nzoog
目次
- はじめに:Brett Taylorとは
- AIエージェント革命:企業のデジタルインターフェースの変革
- AI市場の3つの層:基盤モデル、ツール、応用AI
- Sierra社のアプローチ:成果ベースの価格設定と顧客対応AIエージェント
- 垂直型vs水平型AI:なぜ業界特化型ソリューションが重要か
- AIビジネスの企業営業:顧客の言語で話す重要性
- ビジネスモデルのイノベーション:スタートアップの優位性
- 既存企業がAIで成功するために
- AIエージェントの価格戦略:コスト削減vs収益成長
- まとめ:AI起業家のための重要なポイント
はじめに:Brett Taylorとは
Brett Taylorは、Googleの初期のAPM(Associate Product Manager)プログラムの一員として、伝説的にはわずか週末でGoogle Mapsを書き直したエンジニアとして知られています。その後、複数の企業を創業し、Facebookの最高技術責任者(CTO)を務め、現在はAIエージェントを構築するSierra社を経営し、同時にOpenAIの取締役会議長も務めています。
彼はテクノロジー業界において、卓越したエンジニアでありながら、ビジネスと企業営業の両面でも成功した稀有な人物です。Brett Taylorの経験と洞察は、特にAI時代において企業がどのように変革し、スタートアップがどのように成功するかについての貴重な示唆を与えてくれます。
AIエージェント革命:企業のデジタルインターフェースの変革
Brett Taylorは、Sierra社の創業に際して一つの大胆な仮説を立てました:「すべての企業の主要なデジタルインターフェースは、AIエージェントになる」というものです。
20年前、企業のデジタルプレゼンスといえばウェブサイトでした。Yahooディレクトリへの掲載が重要視された時代です。そして10年前からはソーシャルメディアプロフィールやモバイルアプリが企業の重要なデジタル接点となりました。
Taylorの予測によれば、5年後には大多数のデジタルインタラクションがエージェントを通じて行われるようになります。そしてすべての企業は、複数ではなく、自社ブランドを体現する単一のAIエージェントを必要とするようになるでしょう。
Sierra社は、ADTホームセキュリティからSirius XMまで多くの企業と協力して、このようなブランド化されたAIエージェントの構築を支援しています。AIエージェントは単なる技術ではなく、ブランドと事業の表現となるのです。
例えば、ADTホームセキュリティの場合、アラームが作動しているかもしれないし、アラームが故障しているかもしれません。Sirius XMの場合は、プロモーション期間が終了したことによる料金プランの変更についての問い合わせかもしれません。これらすべての顧客体験をAIエージェントが担うようになるのです。
AI市場の3つの層:基盤モデル、ツール、応用AI
Brett TaylorはAI市場を3つの主要な層に分けて考えています:
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基盤モデル(Foundation Models):
- 資本集約型のビジネス
- データセンター構築と同様に大規模な設備投資が必要
- 市場の統合が進み、少数のプレイヤーが残る
- 比較的低いマージンだが非常に高いスケール
- AI生態系全体から「税金」を集める立場に
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AIツール(ゴールドラッシュの「つるはし」):
- データbricksやSnowflakeなどの既存企業も含む
- 基盤モデル企業に脅かされる可能性がある市場
- 各クラウドインフラ企業がこの領域に参入
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応用AI(Applied AI):
- AIエージェントとして具体化される市場
- 法律業界向けのHarveyのようなエージェント
- 顧客体験向けのSierraのようなエージェント
- マーケティングやビジュアルエフェクト向けのエージェント
- 「新しいSaaS(Software as a Service)」
特にTaylorが最も興味深いと考えるのは応用AI市場です。彼は、ソフトウェアの消費形態はエージェントを通じたものになると予測しています。多くの大企業は、ChatGPTブームの後にモデルのライセンスを取得しましたが、実際に価値を生み出せているわけではないと指摘します。
応用AIエージェントの市場は巨大になる可能性があります。従来のSaaSは生産性向上を売っていましたが、AIエージェントは具体的な成果を売るようになるでしょう。その結果、市場規模はさらに拡大し、従来のSaaS企業(Salesforce、ServiceNow、SAP、Oracleなど)を超える企業価値を持つ企業が登場する可能性もあります。
Sierra社のアプローチ:成果ベースの価格設定と顧客対応AIエージェント
Sierra社は「成果ベースの価格設定(outcomes-based pricing)」を採用しています。これは従来のシートベース(ユーザー数ごと)のSaaSモデルとは大きく異なります。
Sierra社の典型的な顧客の場合、AIエージェントが顧客の問題を自律的に解決した際に、事前に交渉された料金が発生します。もし人間へのエスカレーションが必要になった場合は無料です。この方式は顧客のビジネスモデルと整合性があります。
これはソフトウェアの自然な進化とも言えます。かつてはボックス型のパーペチュアルライセンス(永続ライセンス)が主流でしたが、ブラウザベースでのソフトウェア提供が一般化すると、継続的なR&D(研究開発)を支えるためにSaaSのサブスクリプションモデルが誕生しました。
AIが仕事を完了するソフトウェアとなる時代には、「仕事がうまくいった時に支払う」というビジネスモデルが自然だとTaylorは考えています。これは営業担当者が成約時に歩合を得るのと同じように、AIも成果に応じた報酬を得るべきだという考え方です。
このアプローチはソフトウェア企業の構築方法を根本から変えます。従来のエンタープライズソフトウェアでは、売り手と買い手の間に距離があり、ソフトウェアが実際に使用される段階では売り手はすでに不在でした。成果ベースの価格設定では、ソフトウェアベンダーは顧客の成功と直接結びついた責任を持つようになります。
垂直型vs水平型AI:なぜ業界特化型ソリューションが重要か
Brett Taylorは垂直型(業界特化型)AIソリューションを強く信じています。通信会社、商業銀行、保険会社、健康保険会社など、それぞれの業界によってAIエージェントに求められる役割は大きく異なります。
各業界の中核的なワークフローに特化したAIソリューションは、迅速に価値を提供できます。一方で、水平型AIプラットフォームには懐疑的な見方をしています。これは水平型AIが成功しないという意味ではなく、オープンソースのLangChainのように、水平型ビジネスを発展させるには異なるアプローチが必要だということです。
純粋なエンタープライズビジネスにおいては、水平型プラットフォームでの勝負は難しいと考えています。「十分に良い」自社開発ソリューションが多く存在し、「NIH(Not Invented Here)症候群」も障壁となります。少し優れたマウストラップを持っているだけでは、「ビタミン」から「鎮痛剤」への閾値を超えることは難しいのです。
Taylorの経験則では、企業の問題解決に近づけば近づくほど、ビジネスは成功する可能性が高まります(エンタープライズビジネスの場合)。Salesforceでの学びから、1つの成功事例を2つに、2つを10に、10を100にすることの重要性も強調しています。
AIビジネスの企業営業:顧客の言語で話す重要性
Brett Taylorは、何かを売る上での重要なポイントは「顧客の言語で話し、共感すること」だと強調します。多くの起業家がやりがちな失敗は、ミーティングで自社の製品を一方的に売り込むことです。
優れた営業担当者が最初に行うことは、多くの質問をすることです。そして次に重要なのは、顧客の言葉に耳を傾け、理解すること。その上で、顧客が述べた問題を通して、自社の技術がもたらす価値を伝えることが大切です。
現在、AIベンダーは毎日20社もの競合と戦っており、多くが同じように聞こえます。顧客と信頼関係を築くためには、まず相手の事業を理解し、急性のビジネス問題を解決するパートナーとして現れることが重要です。
Taylorのアドバイスとして、顧客との会議の前に徹底的な調査をすることを推奨しています。ChatGPTを使用した深い調査も有効です。自社の次の機能よりも、顧客のニーズ理解に時間を費やすほど、会話はうまくいくでしょう。そして、自社の差別化ポイントと実際のビジネス価値の交点を見つけることが成功の鍵となります。
ビジネスモデルのイノベーション:スタートアップの優位性
Brett Taylorは、AIの登場によって新しい配信モデル、新しい技術モデル、そして何よりも新しいビジネスモデルが生まれると予測しています。そして、これがスタートアップにとっての大きなチャンスだと考えています。
歴史を振り返れば、技術的なギャップを埋めることは難しいが不可能ではありません。一方で、ビジネスモデルを変えることは非常に困難です。MicrosoftがWindowsからAzureへ、Adobeがサブスクリプションモデルへ移行する際の苦労は有名です。
公開企業の投資家は忍耐がなく、多くのCEOがビジネスモデル移行の過程で解任されています。これは既存企業の大きな弱点であり、スタートアップにとっての機会です。
スターブックスは、AI時代において重要なのは単なる技術ではなく、「どのようにビジネスモデルを再構築するか」だと考えています。これこそがスタートアップが既存企業に対して持つ最大の優位性です。
既存企業がAIで成功するために
競争の激しい市場にいるホームセキュリティ企業やSiriusXMのような独自のコンテンツを持つ企業にとって、AIは大きな機会です。AIは、これまでソフトウェアによる恩恵が少なかった部門に対して、驚異的な生産性向上をもたらします。
例えば、2万人規模のコンタクトセンターを運営している企業は、毎年数億ドルのコストがかかっています。AIを活用することで、このような運用コスト(Opex)を削減し、事業の成長に再投資することができます。これにより価格を下げることも、新たな成長分野に投資することも可能になります。
Taylorは、これがインターネットの誕生時と似ていると指摘します。ウォルマートはアマゾンの存在にもかかわらずブラウザ時代に適応して成功した一方で、ブロックバスターのように失敗した小売業も多くありました。
今日の多くの経営幹部は、ウェブブラウザの誕生、スマートフォンの成長、InstacartやDoorDashなどの登場を経験しています。彼らは変化を予測し、自社産業の未来を模索しています。このようなリーダーとの対話において重要なのは、彼らの言語で話し、彼らの問題を理解することです。
AIエージェントの価格戦略:コスト削減vs収益成長
AIエージェントの価格設定について、Brett Taylorはコスト削減と収益成長の両方に価値があると考えています。
プライベートエクイティが所有する企業や多額の負債を抱える企業は、コスト削減(EBITDA向上)に強い関心を持ちます。一方、競争の激しい市場にいるCEOは、一般的にコスト削減よりも成長を重視します。
実際には、AIによるコスト削減は、その節約分を成長に再投資することで、最終的には企業の成長に寄与することになるでしょう。これは資本主義の本質です。企業はただ節約するためではなく、競合に勝ち、成長するために節約するのです。
価格設定の考慮事項として重要なのは、顧客の部門ごとの購買特性です。例えば、LinkedInが採用担当者向けのサービスを変動料金からサブスクリプションモデルに変更した例があります。これはHR部門が変動費用に対する承認権限が限られていたため、調達プロセスを容易にするための変更でした。
このように、コスト削減か収益向上かという質問の答えは「両方」ですが、さらに重要なのは「誰に売るのか」「彼らはどのように購入するのか」「誰が承認者なのか」「どのように予算化されるのか」を理解することです。
まとめ:AI起業家のための重要なポイント
Brett Taylorの洞察から、AIエージェントビジネスを構築する起業家にとっての重要ポイントをまとめます:
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垂直特化型AIを構築する:
業界特化型のAIエージェントは、具体的な問題を解決し、より大きな価値を提供できます。水平型プラットフォームでは差別化が難しく、多くの「十分に良い」自社開発ソリューションと競合することになります。 -
成果ベースの価格設定を検討する:
AIがジョブを完了するソフトウェアになる時代には、「仕事がうまくいった時に支払う」モデルが自然です。これにより、顧客との利害が一致し、責任ある関係を構築できます。 -
顧客の言語で話し、深く理解する:
営業において最も重要なのは、自社の製品を売り込むことではなく、顧客の問題を理解し、その文脈で自社の価値を伝えることです。徹底的な事前調査が重要です。 -
ビジネスモデルのイノベーションを恐れない:
AIは新しい配信モデル、技術モデル、ビジネスモデルを可能にします。既存のビジネスモデルに縛られないことは、スタートアップの大きな優位性です。 -
少数の成功事例から拡大する:
1つの成功事例を2つに、2つを10に、10を100に拡大していく戦略が重要です。理論的な優位性より、実際の顧客成功が真実を語ります。 -
顧客の部門特性を理解した価格戦略を立てる:
各部門の購買特性、予算構造、承認プロセスを理解することが、適切な価格モデルを設計する鍵となります。
Brett Taylorが強調するように、AI時代のソフトウェアビジネスは、生産性向上ではなく「成果」を売ることになります。そして成果は価値があり、適切に価格設定すれば、これまでのSaaS企業を超える大きな市場を創造することが可能になるでしょう。