KDDI が生成 AI 活用を加速、その 1 つである「ミドル業務革新」では Azure OpenAI Service などの活用で営業準備時間を 約 74% 削減
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目次
- Part 1: KDDIの挑戦 - 生成AI活用の号砲
- Part 2: ミドル業務革新 - 営業現場の課題解決へ
- Part 3: テクノロジーの選択とシステム構築
- Part 4: 成果と未来への展望
- Part 5: まとめ
Part 1: KDDIの挑戦 - 生成AI活用の号砲
Chapter 1: はじめに - KDDIが描く未来と生成AI
本章では、KDDIが推進する「KDDI VISION 2030」と、その実現に向けた生成AI活用の位置づけについて概観する。
Section 1.1: KDDI VISION 2030と「つなぐチカラ」の進化
KDDIは、2022年5月に「KDDI VISION 2030」を策定し、「ありたい未来社会」の実現を目指している。その核となるのは、5G通信をさらに磨くことで進化させる「つなぐチカラ」である。このビジョンは、単に通信インフラを提供するだけでなく、それを通じて社会全体のDXを推進し、新たな価値創造を目指す意志の表れと言えるだろう。
KDDI VISION 2030とは?
KDDIが掲げる2030年に向けた目標であり、「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる」ことを目指す。生活者の暮らし、企業のビジネス、社会全体の持続可能性に貢献する多様な取り組みが含まれる。
Section 1.2: 生成AI社会実装への積極的な取り組み
中期経営戦略では「新サテライトグロース戦略」を打ち出し、「データドリブン」の実践と「生成AI」の社会実装を積極的に推進している。社内での生成AI活用を広げるため、2023年5月には社員1万人を対象にしたAIチャットサービス「KDDI AI-Chat」をリリース。社内での利用経験を顧客への提案に活かしていくことを目指している。これは、生成AIのポテンシャルを早期に認識し、全社的に活用を推進しようとするKDDIの強い意志を示す動きと考えられる。
Chapter 2: 全社横断組織「KGA CoE」の発足
本章では、KDDIにおける生成AI活用を加速させるための組織体制「KGA CoE」の設立背景と構造について解説する。
Section 2.1: 生成AI活用加速の必要性 - 木村氏の視点
KDDI 経営戦略本部 Data&AIセンターでセンター長を務める木村塁氏は、「各部門のボトムアップだけでは生成AI活用は加速しない」と語る。この認識のもと、経営層との合意の上で、2023年夏に会社横断のCoE(Center of Excellence)組織である「KDDI Generative AI (KGA) CoE」を立ち上げることになった。トップダウンとボトムアップ双方からのアプローチで、生成AIの全社的な浸透と活用を促進する狙いが見て取れる。
CoE (Center of Excellence) とは?
特定の分野における専門知識、ベストプラクティス、サポートなどを組織内に集約し、横断的に提供・推進する専門チームや組織のこと。効率的な知識共有や標準化、イノベーション促進を目的とする。
Section 2.2: KGA CoEの構造と役割
KGA CoEは、Data&AIセンターが事務局となり、システム環境PodやガバナンスPod、外販ソリューションPodなど、領域ごとのPodと呼ばれるチームで構成されている。また、社内でのユースケースを生み出して検証していくため、複数のユースケースPodも活動している。
Topic 2.2.1: 各Podの紹介とミドル業務革新Podの位置づけ
KGA CoEの体制は、生成AI活用の多岐にわたる側面をカバーするように設計されていると考えられる。
以下にKGA CoEの概念的な構造を示す。
この中で、本記事で注目する「ミドル業務革新Pod」は、具体的な業務課題の解決を目指すユースケースPodの一つとして位置づけられる。
Part 1 まとめ
KDDIは「KDDI VISION 2030」達成に向け、生成AIの社会実装を重要戦略と位置づけている。その推進力として、全社横断組織「KGA CoE」を設立し、トップダウンとボトムアップの両面からAI活用を加速。本記事で取り上げる「ミドル業務革新」は、KGA CoEのユースケースPodの一つとして、具体的な業務課題解決に挑むものである。
Part 2: ミドル業務革新 - 営業現場の課題解決へ
Chapter 3: 「ミドル業務」とは何か? - 潜在する非効率
本章では、KDDIが生成AI活用のターゲットとした「ミドル業務」の具体的な内容と、そこに潜む課題について掘り下げる。
Section 3.1: 営業準備に潜む時間泥棒 - 高橋氏の課題認識
「ミドル業務」とは、営業フロントとバックオフィスの間に存在する雑多な業務を指す。これには、顧客提案に使われる資料の作成や、打ち合わせの日程調整などが含まれ、汎用的な業務が多いと木村氏は指摘する。
ビジネスデザイン本部 ビジネスイノベーション推進部 DX/AIビジネスグループでグループリーダーを務める高橋達也氏は、ミドル業務の課題を次のように説明する。「ビジネスデザイン本部はKDDIのソリューションを法人のお客さま向けに提供しているが、営業準備にかなりの時間がかかっている。KDDIは非常に多くの商材を取り扱っており、お客さまごとに最適なご提案をするための情報収集や整理に多くの時間を取られている」。この課題を生成AIで解決し、社内で蓄積した知見を顧客提案に繋げることが目指されている。
Section 3.2: データで見る業務実態 - 顧客接点の少なさ
高橋氏によると、営業担当者が顧客と接している時間は業務全体のわずか23%程度であったという。ミドル業務革新Podが2024年4月にスタートし、本部内でヒアリングを行った結果、資料作成のための情報収集と情報整理にほぼ5割の時間がかかっていることが判明した。また、資料作成自体には3割、レビューには2割の時間が費やされていた。これらのデータは、営業担当者が本来注力すべき顧客との対話や提案活動以外の業務に、多くの時間を割かざるを得ない状況を示唆している。
Chapter 4: 課題解決へのロードマップ - 3つのフェーズ
ミドル業務革新Podは、洗い出された課題に対し、大きく3つのフェーズで問題解決に取り組むことを決定した。
Section 4.1: フェーズ1 - 資料検索の効率化 🚀
第1フェーズは「資料検索の効率化」である。これは、情報収集にかかる時間を大幅に削減することを目的としている。開発は2024年5月に始まり、わずか1ヶ月半後にはβ版をリリース。改善を重ね、2024年9月に第1フェーズのシステムが完成した。このスピード感は、アジャイルな開発体制と明確な目標設定の賜物と言えるだろう。
Section 4.2: フェーズ2 - 資料作成の効率化と共有促進 📝
第2フェーズは「資料作成の効率化とレビュー/共有の促進」である。検索効率化の次に、資料作成そのものの手間を減らし、チーム内でのレビューや情報共有を円滑にすることを目指す。このフェーズは2024年11月から開始されている。
Section 4.3: フェーズ3 - 資料作成の高度化(半自動化)🤖
第3フェーズは「資料作成の高度化(半自動化)」である。将来的には、生成AIを活用して資料作成プロセスの一部を自動化し、さらなる効率向上と質の高い提案活動の実現を目指す。
以下に、ミドル業務革新のフェーズを示す。
Part 2 まとめ
KDDIの法人営業における「ミドル業務」は、情報収集や資料作成に多くの時間を費やし、顧客接点の時間を圧迫していた。この課題に対し、ミドル業務革新Podは「資料検索の効率化」「資料作成の効率化と共有促進」「資料作成の高度化」という3フェーズでの解決を計画。迅速な開発でフェーズ1を完了し、現在フェーズ2を推進中である。
Part 3: テクノロジーの選択とシステム構築
Chapter 5: なぜAzure OpenAI Serviceだったのか?
本章では、KDDIが生成AI基盤としてAzure OpenAI Service
を選択した理由について、関係者の言葉を交えながら解説する。
Section 5.1: ChatGPTの衝撃とセキュリティ懸念 - 木村氏の洞察
木村氏は、「かつてデータサイエンティストとしてAIに携わっていた立場から見て、ChatGPT
の登場は非常に革命的だった」と述べる。しかし、OpenAI社のAPIにはセキュリティ上の懸念があった。企業が機密情報を扱う上で、この点は看過できない重要なポイントとなる。
Section 5.2: Azure OpenAI Serviceの優位性 - 安全性と信頼性
このセキュリティ懸念に対する解をいち早く提示したのがMicrosoftであった。木村氏は、「Azure OpenAI Service
は、ユーザーの入力内容を学習しない、日本国内リージョンで使えるなど、機密情報を扱うのに適した生成AIだと評価した」と語る。エンタープライズ利用において、データのプライバシーとセキュリティは最優先事項であり、Azure OpenAI Service
がこれらの要件を満たしていたことが採用の大きな決め手となったと考えられる。
Azure OpenAI Serviceとは?
Microsoft Azure上で提供される、OpenAI社の強力な言語モデル(GPTシリーズなど)を利用できるサービス。エンタープライズレベルのセキュリティ、コンプライアンス、リージョン対応などを特徴とし、企業が安心して生成AIを導入・活用できる環境を提供する。
Section 5.3: 開発の容易性とエコシステム - 岡澤氏の評価
実際の開発を担当したKDDIアジャイル開発センター株式会社でVPoEを務める岡澤克暢氏は、「これまでもAzureを使っており、Azure OpenAI Service
の利用も今回が初めてではなかったが、Microsoftの協力的な姿勢によって疑問点を解決しやすく、アプリの作成も容易だと感じている」と述べる。また、「Microsoft Entra ID
との連携でセキュリティを強化しやすいことや、多くの日本企業が活用しているSharePoint Online
などと親和性が高いことも、エンタープライズでの利用に向いている」と評価している。既存のMicrosoftエコシステムとの連携のしやすさも、導入と開発をスムーズに進める上で重要な要素となったようだ。
Chapter 6: 生成AIモデルの選択 - GPT-4oとGPT-4o miniの使い分け
本システムでは、生成AIモデルとしてGPT-4o
とGPT-4o mini
が採用され、ユースケースに応じて使い分けられている。
Section 6.1: GPT-4o: 高度な資料解析の頭脳 🧠
営業資料の解析にはGPT-4o
が使用されている。マルチモーダルモデルのメリットを活かした図表を含むスライドの内容理解、資料単位での要約生成やキーワード抽出など、より高い性能が求められる場面でその能力を発揮する。複雑な情報を正確に処理する必要があるタスクには、高性能なモデルが適しているという判断だろう。
Section 6.2: GPT-4o mini: 軽快なプロンプト補完アシスタント 💬
一方、GPT-4o mini
は検索プロンプトの補完機能で使用されている。コスト面に優れながらも必要十分な性能であること、さらに応答時間が非常に短いというメリットがある。これにより、開発や運用面だけでなく、サービスを利用するユーザー体験の向上にも貢献していると考えられる。ユーザーが検索窓に文字を入力する際のサジェスト機能など、リアルタイム性が求められるインタラクションには、応答速度の速いモデルが適している。
以下に、GPT-4o
とGPT-4o mini
の主な役割分担を示す。
Chapter 7: システムアーキテクチャ解剖 🛠️
本章では、KDDIが構築したミドル業務革新システムの概要と、その技術的な構成について解説する。
Section 7.1: 5つの主要機能 - 松浦氏による解説
KDDIアジャイル開発センター ビジネスデザイン部 副部長 仙台サテライトオフィス長/POリードの松浦洋介氏は、このシステムには大きく5つの特徴があると述べている。
-
事前資料取得:
SharePoint Online
から事前に資料を取得することで、検索時の効率を高めている。 - スライド画像と要約の自動生成: 各ページのスライド画像と要約が自動生成されるため、内容の把握がスムーズに行える。
-
セキュアなアクセス:
Microsoft Entra ID
を使用したログインにより、セキュリティを確保しながら簡単にアクセスできる。 -
高速なスライド検索:
Azure AI Search
を活用したスライド検索機能により、目的の情報に素早くたどり着くことができる。 - 検索プロンプト補完: ユーザーの検索効率を高める検索プロンプト補完機能を搭載している。
検索結果ページではスライド画像と要約が表示され、プレビュー画面では、検索キーワードとの関連度が高いスライドのページにマークが付与されるため、必要な情報を短時間で見つけることができる。
Section 7.2: PlantUMLで見るシステム構成図と処理フロー
このミドル業務革新システムのアーキテクチャと主要な処理フローを以下に示す。
システムアーキテクチャ図
資料検索・要約生成
ユーザーの資料検索
Chapter 8: アジャイル開発とユーザーフィードバック
本システムの開発は、スプリントを1週間に設定したアジャイル開発で実施された。
アジャイル開発とは?
「計画→設計→実装→テスト」といった開発工程を機能単位の小さいサイクルで繰り返す開発手法。変化への迅速な対応や、早期のフィードバックループを重視する。
Section 8.1: 迅速な改善サイクル
開発期間中にはユーザーヒアリングを実施し、そのフィードバックを開発内容に反映すると共に、ユーザーへのアンケート調査も行っている。このような短いイテレーションでの開発とフィードバックのループが、ユーザーニーズに即したシステムの迅速な構築を可能にしたと考えられる。
Section 8.2: ユーザーの声が形になるプロセス
岡澤氏は、「生成AIは使ってみないと実際の効果はわからない」と述べる。そのため開発チームはKDDIの企画部門や利用部門と密に連携し、ヒアリングによるフィードバックを積極的に取り入れていった。これに対し高橋氏は「KDDI側の声を吸い上げてすぐに反映してくれたことに感謝している」と述べており、開発チームと利用部門の良好な協力関係が、プロジェクト成功の重要な要因であったことがうかがえる。
Part 3 まとめ
KDDIは、セキュリティと信頼性、開発の容易性、既存エコシステムとの親和性を評価し、Azure OpenAI Service
を生成AI基盤として選択した。資料解析には高性能なGPT-4o
を、プロンプト補完には応答速度に優れたGPT-4o mini
を使い分ける。システムはSharePoint Online
からの資料取得、Azure AI Search
による高速検索、Microsoft Entra ID
によるセキュアなアクセスなどを特徴とし、アジャイル開発と密なユーザーフィードバックを通じて構築された。
Part 4: 成果と未来への展望
Chapter 9: 驚異的な時間削減効果 - 営業現場の変化
本章では、導入されたシステムがもたらした具体的な効果と、ユーザーからの評価について紹介する。
Section 9.1: ユーザーアンケート結果 - 約74%の削減効果 📊
ユーザーへのアンケート調査結果によれば、80%のユーザーが情報収集時間の削減を実感しており、削減効果は1人あたり平均で約74%に上ることがわかっている。これは、営業担当者が資料作成準備にかけていた時間を大幅に短縮できたことを意味し、生産性向上への大きな貢献と言えるだろう。
削減効果のポイント
- 80% のユーザーが情報収集時間の削減を実感
- 1ユーザーあたりの資料作成における情報収集時間が平均で 約74% 削減
Section 9.2: 直感的な情報把握が可能に
この高い効果の背景には、検索結果としてページのイメージ画像(スライド)と要約が表示されることで、どの資料が自分に必要なものなのかが直感的に把握しやすくなったことがあると考えられる。従来のようにファイルを開いて中身を確認する手間が省け、目的の情報へ迅速にアクセスできるようになったことが、時間削減に繋がったと推察される。
Chapter 10: フェーズ2への期待 - さらなる効率化へ
2024年11月からは、第2フェーズである「資料作成の効率化」に向けた取り組みも始まっている。
Section 10.1: KDDIテイスト資料作成とサマリー生成 - 小林氏の展望
現在実装が進められているのは、KDDIテイストの資料に仕立てる機能と、資料を短くまとめたサマリーの作成機能である。KDDI ビジネス事業本部 ビジネスデザイン本部 ビジネスイノベーション推進部 DX/AIビジネスグループでコアスタッフを務める小林正佳氏は、「情報収集の効率化に加えて、パワーポイント資料の作成業務の時間にも生成AI活用を広げることで、営業サイクルをより高速で回すことを目指している。例えば、KDDIテイストの資料に仕立てる作業やサマリースライド作成など、定型化できる業務は生成AIに代替していく」と語る。
Section 10.2: 営業サイクルの高速化と会議の質の向上
小林氏はさらに、「生成AI活用の効果は営業担当だけでなく、標準化されたサマリーが全ての資料にあることで、レビューや会議時間の短縮や質の向上も見込めると考えている」と期待を寄せる。資料作成の効率化は、営業活動全体のスピードアップに繋がり、標準化されたサマリーは関係者間の情報共有を円滑にし、意思決定の迅速化や議論の質の向上にも貢献する可能性がある。
Chapter 11: KDDIのネクストステップ - 市民開発と知見の横展開
ミドル業務革新プロジェクトで得られた成果と知見は、今後のKDDIにおけるAI活用戦略にも影響を与えそうである。
Section 11.1: 「クライアントゼロ」としての経験価値
高橋氏は、フェーズ2の効果がある程度見えてきた段階で、「外販に向けた活動を本格化していく」と述べる。また今後は他の本部にも使ってもらうことで、知見の共有化やナレッジの蓄積を進めていくことも視野に入っている。KDDI自身が最初のユーザー(クライアントゼロ)としてシステムを徹底的に活用し、その経験とノウハウを顧客へのソリューション提供に活かしていく戦略が見て取れる。
Section 11.2: Microsoft Power PlatformとCopilotの活用
木村氏は、「これまではミドル業務革新のように重点テーマを決めて取り組みを進めてきたが、今後は市民開発も加速していきたい」と語る。生成AIで何がしたいのか、どのような業務課題を解決したいのかといったアイデア出しを活発に行うことで、生成AIの活用はさらに加速するはずだと言う。
「社内にはMicrosoft Power Platform
もあり、これとMicrosoft Copilot
を組み合わせることで、ゼロから作らなくてもさまざまなツールを実現できる。既に開発部門ではGitHub Copilot
の活用も進んでいる。これらに関する『クライアントゼロ』としての経験も、お客様に積極的に提案していきたい」と、今後の展開に意欲を見せている。ローコード・ノーコードプラットフォームと生成AIの組み合わせは、専門家でなくともAIを活用したツール開発を可能にし、イノベーションの裾野を広げる可能性を秘めている。
Part 4 まとめ
導入されたシステムは、営業担当者の情報収集時間を約74%削減するという顕著な成果を上げた。現在は資料作成の効率化を目指すフェーズ2が進行中であり、営業サイクルの高速化や会議の質の向上が期待される。KDDIは、この成功体験を基に、社内での知見共有、外販ソリューション化、そして市民開発の推進へと、生成AI活用の幅をさらに広げていく方針である。
Part 5: まとめ
Chapter 12: KDDIの生成AI活用が示す未来
本章では、KDDIのミドル業務革新事例から得られる教訓と、今後のAI社会実装への示唆について考察する。
Section 12.1: ミドル業務革新の成功要因
KDDIのミドル業務革新プロジェクトが大きな成果を上げた背景には、いくつかの重要な成功要因が考えられる。
- 明確な課題設定: 営業現場の「時間泥棒」となっていたミドル業務の非効率性をデータで可視化し、具体的な課題として捉えたこと。
- 経営層のコミットメントと全社的推進体制: KGA CoEという専門組織を立ち上げ、トップダウンでの強力な推進体制を構築したこと。
-
適切な技術選定: セキュリティと信頼性、開発効率を考慮し、
Azure OpenAI Service
というエンタープライズ向けの生成AI基盤を選択したこと。 - 段階的アプローチ: 資料検索、資料作成、自動化という段階的なフェーズを設定し、着実に成果を積み重ねたこと。
- アジャイル開発とユーザー中心主義: 短いサイクルでの開発と、利用者からのフィードバックを重視する開発プロセスを採用したこと。
-
モデルの適切な使い分け:
GPT-4o
とGPT-4o mini
をタスクの特性に応じて使い分け、性能とコストのバランスを最適化したこと。
これらの要因が複合的に作用し、短期間でのシステム構築と目覚ましい効果創出に繋がったと言えるだろう。
Section 12.2: 今後の社会実装への示唆
KDDIの事例は、生成AIが単なる技術的な興味の対象ではなく、具体的な業務課題を解決し、企業の生産性を大きく向上させる実践的なツールであることを示している。特に、情報集約型・資料作成型の業務が多いミドルオフィス領域において、生成AIの適用ポテンシャルは非常に大きいと考えられる。
また、セキュリティやガバナンスを重視したAzure OpenAI Service
のようなプラットフォームの活用、そして「クライアントゼロ」として自社で徹底的に活用しノウハウを蓄積するアプローチは、他の企業が生成AI導入を進める上でも参考になる点が多いだろう。
今後、Microsoft Power Platform
とCopilot
のようなツールとの連携が進むことで、専門的な開発者だけでなく、現場の従業員自身がAIを活用して業務を改善する「市民開発」が加速することも期待される。KDDIの取り組みは、そのようなAIがより身近な存在となる未来を先取りしているのかもしれない。
この事例は、テクノロジーの力を借りて人間の創造性やコミュニケーションといった本質的な業務に、より多くの時間を割けるようにするための、意義深い一歩と言えるのではないだろうか。
本記事の内容は2025年3月25日時点の情報に基づいています。