AI's Trillion-Dollar Opportunity: Sequoia AI Ascent 2025 Keynote
https://www.youtube.com/watch?v=v9JBMnxuPX8
目次
- Part 1: AIビジネスの現状と成長潜在力
- Part 2: AIスタートアップの成功条件
- Part 3: AIの最新ブレークスルーとユースケース
- Part 4: エージェントエコノミーの到来
- まとめ: AIビジネスにおける成功の鍵
Part 1: AIビジネスの現状と成長潜在力 🚀
クラウドからAIへ: 市場規模の比較
AIは単なる新しいテクノロジーツールではなく、クラウドコンピューティングの移行よりもさらに大きな転換を表しています。Sequoiaのパートナーが示したデータによれば、クラウド市場は現在約4000億ドル規模ですが、これはクラウド移行が始まった時点でのグローバルソフトウェア市場よりも大きいです。
AIが狙うのはサービス市場だけでなく、ソフトウェア市場の両方です。この点がAI革命の規模を特に大きくしています。
この図からわかるように、AIの出発点はクラウドよりも少なくとも1桁大きく、10年後の到達点は「massive」と表現されるほど巨大になる可能性があります。
AIの進化は従来のソフトウェアを変えていくプロセスを経ます:
- 従来のソフトウェアが少し賢くなり「コパイロット」になる
- さらに賢くなって「オートパイロット」に進化
- 最終的に「ツールを売る」から「成果を売る」ビジネスモデルへ移行
このプロセスで、AIはソフトウェア予算から人件費予算へと侵食していきます。
AIの普及速度: 過去の技術波と比較して ⚡
技術革新の波はこれまでも何度も起きてきましたが、AIの普及速度は前例のないスピードで進んでいます。その理由を「配信の物理学」で説明できます。
技術の普及には3つの条件が必要:
- 人々があなたの製品について知っていること
- 人々があなたの製品を欲していること
- 人々があなたの製品を購入できること
AI、特にChatGPTの爆発的普及は、これらの条件がすでに整っていたからです。
特に重要なのは以下の点です:
- クラウド移行開始時は、Salesforceのマーケティングが注目を集めるために奮闘した
- 対照的に、ChatGPTのリリース(2022年11月30日)以降、世界中がAIに注目
- ソーシャルメディアの存在感が大きく異なる(クラウド移行時はほぼ存在せず)
- インターネット接続人口も2億人から56億人へと劇的に増加
これらの要因により、AIのトレインが走り始めた時、普及に対する障壁はほとんど存在しませんでした。
AIスタックにおける価値創造の場所 💎
AIエコシステムにおいて、最も価値が創出される場所はどこでしょうか。Sequoiaは「アプリケーション層」に最も価値が集中すると主張しています。
過去のテクノロジー移行(クラウド、モバイル等)でも、10億ドル以上の収益を上げた企業の多くはアプリケーション層に集中していました。
しかし、現在の状況では、基盤モデル(Foundation Models)がアプリケーション層に近づいており、スタートアップにとって競争が激化しています。競争に勝つためには:
- 顧客からバックワードに考える
- 垂直特化型・機能特化型のソリューションを提供
- 複雑な問題に対してヒューマンインザループを組み込む
具体例:
- Harveyのような法務特化型AI
- Open Evidenceのような医療特化型AI
- 特定産業向けのAIソリューションを業界専門家が構築
Part 1 まとめ
AIはクラウドコンピューティングよりもはるかに大きな市場潜在力を持ち、ソフトウェア市場とサービス市場の両方を変革しようとしています。その普及速度は、すでに整った基盤(インターネット接続人口、ソーシャルメディア、世界的な注目)により前例のないレベルで加速しています。この状況下で、最も価値が創出されるのはアプリケーション層であり、スタートアップはここで顧客問題に焦点を当てた垂直特化型・機能特化型のソリューションを提供することで差別化できます。
Part 2: AIスタートアップの成功条件 🔑
"Vibe Revenue"の罠:タイヤキッキングと持続可能な行動変化の区別 🚨
AI分野での成功には、表面的な「バイブ収益(Vibe Revenue)」と本当の持続可能な収益を区別することが重要です。
「バイブ収益」とは:
- 一時的な好奇心や試用から生まれる収益
- 真の行動変化や習慣形成を伴わない
- 長期的には持続しない可能性が高い
真の収益を見極めるには:
- 採用率(Adoption)
- エンゲージメント(Engagement)
- 継続率(Retention)
を詳細に分析する必要があります。
また、顧客との「グッドバイブ」も重要です。これは単なる良い関係以上のもので、顧客があなたを信頼し、製品が改善されると信じていることを意味します。AIの進化初期である現在、製品自体よりも信頼関係の方が重要な場合もあります。
具体例:
- AIチャットボットを初めて使用してみるユーザーの一時的な高い使用率(Vibe Revenue)
- 毎日の業務フローにAIツールを組み込み、継続的に使用するユーザー(真の収益)
- AIイメージ生成を試してみて、一度だけ使うユーザー vs. マーケティング資料作成の標準ツールとして採用するユーザー
マージンの重要性: 長期的な視点で 📈
AIビジネスのグロスマージンは現時点では必ずしも良好でなくても、長期的には改善される道筋を持つべきです。
マージン改善の道筋:
-
コスト側の改善
- トークンあたりのコストは過去12-18ヶ月で99%低下
- テスト時間のコンピュートコストも今後低下の見込み
-
価格側の改善
- 「ツールを売る」から「成果を売る」へのシフト
- 価値連鎖を上昇し、より多くの価値を獲得可能に
具体例:
- AIコード補完ツールが単なるコーディング支援から、完全なソフトウェア開発自動化ソリューションへ進化
- AIカスタマーサポートが単純な回答生成から、顧客満足度向上や問題解決率といった成果にコミットするモデルへ
データフライホイールの構築: ビジネスメトリクスとの連携 🔄
データフライホイールはAIビジネスにおける最も重要な差別化要因の一つですが、そのためには具体的なビジネスメトリクスと連携していなければなりません。
データフライホイールが機能していることを確認するための質問:
- どのビジネスメトリクスがこのデータフライホイールによって改善されるか?
- そのメトリクスは具体的かつ測定可能か?
- フライホイールが回り始めた証拠はあるか?
データフライホイールがビジネスメトリクスに紐付いていない場合、それは「偽のフライホイール」であり、実質的な価値を生み出しません。
具体例:
- 顧客サポートAIが解決した問題のデータを収集→モデル改善→解決率向上→顧客満足度上昇→利用増加→さらにデータ収集
- 医療診断AIが診断例を蓄積→精度向上→より多くの医療機関が採用→より多くの診断例を蓄積
Part 2 まとめ
AI企業の成功には、表面的なバイブ収益ではなく持続可能な収益を追求し、長期的なマージン改善の道筋を持ち、ビジネスメトリクスと直結したデータフライホイールを構築することが不可欠です。現時点では製品の完璧さよりも顧客との信頼関係構築が重要であり、「ツールを売る」から「成果を売る」へのビジネスモデル転換を視野に入れるべきです。
Part 3: AIの最新ブレークスルーとユースケース 💡
AIアプリケーションの進化: エンゲージメントの向上 📈
AI分野では2023年から2024年にかけて、ユーザーエンゲージメントに大きな変化が見られました。当初、AIアプリケーションはDAU/MAU(月間アクティブユーザーに対する日次アクティブユーザーの比率)が低く、一時的な興味の対象でしかありませんでした。
2024年になると、ChatGPTのDAU/MAU比率はRedditのレベルに近づき、AIが日常的に使われるツールに進化したことを示しています。
AIの利用は単なる「楽しい体験」から、より深く価値のある用途へと進化しています:
- 広告: 正確で美しい広告コピーの作成
- 教育: 新しい概念の視覚化
- ヘルスケア: Open Evidenceのような診断支援
具体例:
- 初期のChatGPTユーザー: 月に1-2回試しに使う程度
- 現在のChatGPTユーザー: 毎日の作業フローに組み込み、文章作成、調査、アイデア発想に活用
- ジブリ風画像生成のような一時的なトレンドから、商品デザインや建築設計といった実務用途への移行
コーディングをはじめとするキラーアプリケーション 💻
2023-2024年にかけての「ブレイクアウト」カテゴリーはコーディング支援でした。AnthropicのClaude 3.5 Sonnetのリリースは、コーディングの風景を一変させました。
AIコーディング支援の急速な進化により:
- ベテランエンジニアの生産性が飛躍的に向上
- コーディングの経験がない人でもソフトウェアを作成可能に
- ソフトウェア作成のアクセシビリティ、スピード、経済性が根本的に変化
具体例:
- DocEndの代替ツールをAIでコーディングしたユーザー
- CursorやGithub Copilotを活用して開発速度を10倍に高めたエンジニア
- プログラミング知識がなくても自社サイトを改善できるようになった小規模ビジネスオーナー
垂直特化型エージェントの台頭 🏢
AI分野では、特定の垂直産業や機能に特化したエージェントが台頭しています。垂直特化型エージェントは特定のドメインに深く根ざした知識と能力を持ちます。
垂直特化型エージェントの特徴:
- ドメイン固有の深い知識を持つ
- エンド・ツー・エンドで特定のワークフローに最適化
- 合成データとユーザーデータによる強化学習で性能向上
- 特定タスクで人間の専門家を上回る可能性
この傾向は、ドメインに深い理解を持つ起業家にとって大きなチャンスを意味します。
具体例:
- Expoのセキュリティエージェントは人間のペネトレーションテスターよりも優れた脆弱性検出能力
- Traversalは複雑なシステム障害の原因を最高レベルの人間トラブルシューターよりも速く特定
- Meterのネットワーキングエージェントは複雑なネットワーク問題を経験豊富なエンジニアより効率的に解決
Part 3 まとめ
AIアプリケーションは単なる好奇心の対象から日常的なツールへと進化し、エンゲージメント指標も大幅に改善しています。コーディング支援はAIの「キラーアプリケーション」の一つとなり、開発の民主化と加速を実現しました。さらに、垂直特化型エージェントが特定ドメインで人間の専門家を超える性能を示し始めており、domain-specificなアプローチが成功の鍵となっています。
Part 4: エージェントエコノミーの到来 🌐
エージェントスワームからエージェントエコノミーへ 🔄
AIの次の大きな波は「エージェントエコノミー」です。前回のAI Ascentでは「エージェント」について話題になりましたが、それがさらに進化し「エージェントスワーム(群れ)」となり、最終的に「エージェントエコノミー」に成熟していきます。
エージェントエコノミーの特徴:
- エージェント同士が単なる情報交換を超え、リソースの移転を行う
- 取引を実行し、互いを追跡する
- 信頼性と信頼を理解し、独自の経済を形成する
しかし、このエコノミーは人間を排除するものではなく、人間とエージェントが共に働く経済となります。
具体例:
- 異なる専門分野のAIエージェントが協力して複雑なプロジェクトを完成させる
- リソース(計算能力、情報、サービス)を交換するエージェント間エコシステム
- 人間とAIエージェントが相互に補完しながら業務を行う新しい働き方
実現に必要な技術的課題 🔧
エージェントエコノミーを実現するには、いくつかの重要な技術的課題を解決する必要があります。
-
永続的なアイデンティティ
- エージェント自身の一貫性: 毎日大きく変わるエージェントとは取引しにくい
- ユーザーの記憶と理解: ユーザーのことを覚えていないと信頼関係が築けない
- 現在はRAG、ベクターDB、長いコンテキストウィンドウなどで対応しているが、真のメモリと自己学習にはまだ課題がある
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シームレスな通信プロトコル
- パーソナルコンピューティングにTCP/IPがなければインターネットが存在しなかったように、エージェント間の標準プロトコルが必要
- MCPなどのプロトコルが開発され、大手プレイヤーも協力している
- 情報、価値、信頼の転送を可能にするプロトコル群が必要
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セキュリティ
- 直接会えないエージェント間では、セキュリティと信頼の重要性がさらに高まる
- エージェントエコノミーではセキュリティ産業がさらに重要になる
永続的アイデンティティの技術的アプローチ:
- 長期記憶モデル(LTM: Long-Term Memory)の開発
- メタ学習能力の強化
- エピソード記憶とセマンティック記憶の区別と統合
通信プロトコルの課題:
- プロトコル標準化における競合企業間の協力
- セキュリティと効率のバランス
- 様々な種類の情報交換に対応する拡張性
確率的思考への移行とマネジメントの変化 🧠
エージェントエコノミーの到来は、私たちの思考方法やマネジメントスタイルにも大きな変化をもたらします。
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確率的思考への移行
- 従来のコンピューティングは決定論的: 指示通りに動作する
- AIは確率的: 例えば「73」という数字を覚えるよう指示しても、「37」や「72」や「74」を返す可能性がある
- この確率的な性質を理解し受け入れることが必要
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マネジメント思考の変化
- 優れたエンジニアと優れたエンジニアマネージャーが異なるように、AIエージェントのマネジメントも新しいスキルセット
- 「何をするか」より「何をブロックするか」「どうフィードバックするか」が重要に
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レバレッジと不確実性のバランス
- AIエージェントによって個人のレバレッジ(影響力)は飛躍的に高まる
- 同時に不確実性も増大
- この両者のバランスを取ることが新たな課題に
具体例:
- AIに「ウェブサイトを構築して」と指示した際、毎回異なるデザインや構造が生成される可能性
- AIエージェントチームのマネージャーとして、具体的な指示よりも制約条件の設定が重要になる
- 少数の人間が多数のAIエージェントを管理し、前例のない規模のプロジェクトを実行
Part 4 まとめ
エージェントエコノミーは、単なるAIツールの集合体ではなく、資源を交換し取引を実行する自律的なエージェントのネットワークとなります。この実現には永続的アイデンティティ、通信プロトコル、セキュリティといった技術的課題を解決する必要があります。また、私たち人間も確率的思考への移行、新しいマネジメントスタイルの習得、そして大きなレバレッジと不確実性のバランスという新たな挑戦に直面することになります。
まとめ: AIビジネスにおける成功の鍵
AIビジネスにおける成功の鍵をまとめると:
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アプリケーション層に焦点を当てること
- 顧客の問題からバックワードに考える
- 垂直特化型・機能特化型のソリューションを提供
- 複雑な問題に対してヒューマンインザループを組み込む
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「バイブ収益」に惑わされず、真の収益を見極めること
- 採用率、エンゲージメント、継続率を詳細に分析
- 顧客との信頼関係(グッドバイブ)を構築
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長期的なマージン改善の道筋を持つこと
- コスト低減と価値向上の両面から考える
- 「ツールを売る」から「成果を売る」へのシフト
-
ビジネスメトリクスと連携したデータフライホイールを構築すること
- 収集したデータが具体的なビジネス指標の改善につながるか確認
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エージェントエコノミーの到来に備えること
- 永続的なアイデンティティ、通信プロトコル、セキュリティの課題に取り組む
- 確率的思考へのシフトを受け入れ、新しいマネジメントスタイルを学ぶ
AIの進化速度は前例のないほど速く、今こそ最大速度で前進するべき時です。自然は真空を嫌うように、市場もAIソリューションを求めています。そのニーズを満たすのが他社でなく、あなたの会社であるべきです。