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Google Cloud: エンタープライズAIにおけるAIコスト最適化

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The Secrets Inside Google Cloud’s Growth with Sarah Kennedy, Vice President Google Cloud Marketing より
https://www.youtube.com/watch?v=aBNEnNPGmJY

目次

  1. はじめに:AIコストに関する認識の変化
  2. エンタープライズAIの経済性
  3. Google Cloudの成長戦略とAI
  4. 開発者主導のAI採用トレンド
  5. Google-Salesforce提携から見るAIの未来
  6. リアルイベントの復活とAIコミュニティ形成
  7. 次世代AIインターフェースの展望
  8. まとめ:コスト最適化がもたらすAIイノベーションの加速

はじめに:AIコストに関する認識の変化

エンタープライズAIの世界では、わずか1年前までコストに関する大きな懸念がありました。「AIの導入は非常に高価で、普及は限定的だろう」という見方が一般的でした。しかし、Google Cloud MarketingのVP、Sarah Kennedyによれば、現在の状況は大きく変化しています。

「コストは常にCIOの関心事ですが、彼らがより心配しているのはコストよりも競争に遅れをとることです。実験や構築、学習、テストのための適切なリソースを確保することを重視しています」

この認識の変化には複数の要因があります。AIモデルとインフラストラクチャーの継続的な改善、開発者やユーザーのスキル向上、そして何よりも、企業がAIの戦略的価値を認識し始めたことが挙げられます。本記事では、Google Cloudの事例を中心に、AIコスト最適化の現状と展望について探ります。

エンタープライズAIの経済性

AIインフラストラクチャーの効率化

Google Cloudは、AIインフラストラクチャーの効率化に積極的に取り組んでいます。Kennedy氏によれば、Google Cloudのデータセンターは世界で最も効率的であり、特にAIモデルのトレーニングや推論に使用されるTPU(Tensor Processing Unit)の最適化に注力しています。

これらの効率化は、顧客がAIワークロードを実行する際のコスト削減に直接貢献しています。特に注目すべきは、先進的な冷却システムによる電力需要の削減です。AIモデルのトレーニングと推論は計算集約的であり、効率的な冷却システムがなければ膨大な電力を消費します。

コストからROIへの視点シフト

企業のAIに対する見方は、単なるコスト要因からROI(投資収益率)を生み出す戦略的資産へと変化しています。特に年間売上1億ドル以上の成長企業では、AIコストに関する懸念は減少傾向にあります。

この変化の背景には以下の要因があります:

  1. AIの価格低下と性能向上のバランスが改善
  2. 開発者とユーザーのAI活用スキルの向上
  3. リソース使用の効率化とベストプラクティスの確立
  4. AIによるビジネス価値創出の成功事例の増加

企業はAIをコストセンターではなく、競争優位性を築くための投資と見なすようになっています。これにより、「AIをどれだけ安く導入するか」ではなく、「AIをどう活用して最大の価値を引き出すか」という議論へとシフトしています。

「No Limits」時代の到来

Jason Lemkin氏は、AIのコスト効率が向上し続けることで、アプリケーションレベルでの「No Limits(制限なし)」の時代が近づいていると指摘しています。これは、コスト制約を意識せずにAI機能を実装できる状態を意味します。

「アプリケーションレベルでは、賢く使うことさえできれば、ほぼ何でもできるほどコスト効率が良くなる時代が来ると思います。No Limits(制限なし)です」

この見方は、AIを特別なものではなく、すべてのアプリケーションに当たり前に組み込まれる機能として捉える未来を示唆しています。ML(機械学習)エンジニアがすべてのCPUやGPUリソースを消費できるわけではありませんが、アプリケーション開発者にとっては、AIの導入障壁が大幅に下がることを意味します。

「No Limits」時代では、AIはユーティリティのように、必要なときに必要な量だけ、合理的なコストで利用できるようになります。これにより、AIの民主化がさらに加速するでしょう。

Google Cloudの成長戦略とAI

市場シェア拡大の背景

Google Cloudは直近の四半期で30%の成長を記録し、市場シェアを拡大しています。Kennedy氏によれば、Google Cloudの年間実行レートは5年前の約120億ドルから3倍以上に成長しました。この成長を支える戦略には、顧客がGoogle Cloudを段階的に採用できる柔軟性があります。

多くの企業は初めに単一のワークロード(特にモダンアプリケーション開発など)をGoogle Cloudに移行し、その経験を通じてサービスの価値を認識します。そして3〜4年かけて徐々に追加のワークロードを移行するというパターンが一般的です。

AIファーストのアプローチ

Google Cloudが市場シェアを拡大できている重要な要因として、AIへの早期かつ大規模な投資があります。Kennedy氏は、Google Cloudがクラウド市場で長らく「第3位のプレイヤー」であったにもかかわらず、AIにおいては「最初の選択肢」となっていると述べています。

この強みの背景には、以下の要素があります:

  1. 世界クラスのインフラストラクチャー: 全世界に展開する高効率データセンター
  2. 強力なAIプラットフォーム: Vertex AIを通じた数百の異なるAIモデルへのアクセス
  3. 多様なモデル選択肢: GeminiだけでなくAnthropicやLlamaなどのモデルも提供
  4. プライバシーとセキュリティの重視: 設計段階からのセキュリティ実装

特に注目すべきは、GoogleがSearch、YouTube、Gmailなど20億人以上のユーザーを持つ7つのプロダクトを運営していることによる実践的知見です。これらのサービスに実装されるAI技術と同じものをクラウド顧客に提供できることが、強力な差別化要因となっています。

顧客獲得の長期戦略

Google Cloudの顧客獲得アプローチは、「長期的な取り組み」として位置づけられています。Kennedy氏によれば、顧客との信頼関係構築や、顧客の学習・実験・テストをサポートすることに重点を置いています。

この長期的視点は、特にAIの文脈では重要です。AIの導入は単なるテクノロジー導入ではなく、組織の変革を伴うため、即座のROIよりも持続的な価値創出が重要視されます。Google Cloudは顧客の開発者コミュニティへの投資や教育にも力を入れており、これがさらなる採用拡大につながっています。

開発者主導のAI採用トレンド

意思決定における開発者の影響力

AIの導入プロセスでは、開発者の影響力が急速に高まっています。特にAI/ML領域では、ボトムアップの意思決定が顕著になっています。Kennedy氏によれば、多くのCIOは既にAI/MLに精通した情熱的な開発者に頼り、彼らから学ぶ立場にあります。

これは従来のクラウドインフラ導入とは対照的です。大規模なクラウドインフラの契約は、CIO、CFO、調達部門が主導する「トップダウン」の決定プロセスが一般的でした。しかしAIでは、「どのモデルをテストするか」「どのAIプラットフォームで実験するか」といった判断は、開発者が主導するケースが増えています。

CIOと開発者の関係性の変化

この変化は、CIOと開発者の関係性にも影響を与えています。多くのCIOは、AIの急速な進化に追いつくことが難しいと感じています。昨日発表されたモデルが今日には古くなるような状況では、組織内のAI専門家に依存せざるを得ません。

Kennedy氏は、Google内ですらモデルの進化を追跡するためにAIを活用していると述べています:

「AIニュースやアナウンスを要約するためにAIを使用しています。それは本当にメタな環境です」

この状況はCIOにとって新たな挑戦ですが、同時に組織内の人材育成と後継者計画にも影響を与えています。AIへの情熱と専門知識を持つ開発者が、将来のテクノロジーリーダーシップのパイプラインに組み込まれるようになっています。

開発者向けマーケティングの重要性

開発者の影響力増大に伴い、開発者向けマーケティングの重要性も高まっています。Kennedy氏は「開発者へのマーケティングは常に重要でしたが、現在ほど重要だったことはない」と強調しています。

Google Cloudの開発者マーケティング戦略の特徴として:

  1. YouTubeを活用した知識共有: 開発者がGoogleのテクノロジーについて教え合うプラットフォームとしてYouTubeを活用
  2. 開発者イベントの重視: Google Next 2024では約32,000人の参加者のうち15,000〜17,000人が開発者
  3. ハンズオンラボと実践的トレーニング: 理論だけでなく実践的なスキル習得の機会を提供
  4. スタートアップエコシステムの育成: 数千のスタートアップ創業者やリーダーをサポート

このアプローチは「Ask Your Developer(開発者に尋ねよう)」というTwilioの古典的なマーケティングメッセージを思い起こさせますが、現在のAI時代ではその重要性がさらに高まっています。

Google-Salesforce提携から見るAIの未来

インフラストラクチャーの統合

2023年にはGoogle CloudとSalesforceの大規模な提携(約25億ドル規模)が発表されました。この提携の重要な側面の一つに、SalesforceがGoogle Cloudインフラストラクチャー上で動作するようになることがあります。

この提携は、クラウドインフラストラクチャー、エージェントAI、カスタマーサービス、コラボレーションなど広範な領域をカバーしています。特に注目すべき点として:

  1. SalesforceのCRMがGoogle Cloudインフラストラクチャー上で動作
  2. GeminiモデルがAgent Force(Salesforceのエージェントプラットフォーム)に追加
  3. Google WorkspaceとSlackの統合(Google DriveファイルをSlack内でアクセス、SlackでGoogle Calendarにアクセスなど)

セキュリティとデータの重要性

Kennedy氏によれば、企業がSalesforceをGoogle Cloud上で実行したいと考える主な理由の一つはセキュリティです。AI時代においては、セキュリティの重要性がさらに高まっています。

「データがどこに存在し、セキュリティがどのように確保されるかは、来年さらに重要になります。AIを活用するすべては、データエステートが存在する場所を中心に構築されます」

この視点から、Google Cloudのセキュリティ機能は大きな差別化要因となっています。特にAIの文脈では、データの所在とセキュリティは密接に関連しており、カスタムモデルのトレーニングやBigQueryを使用したデータ分析など、Google Cloudのデータ基盤と連携することで大きな価値が生まれます。

AIエージェントの可能性

Google-Salesforce提携の最も革新的な側面の一つは、Agent ForceへのGeminiモデル統合です。これは、企業のCRMデータとGoogleの高度なAI能力を組み合わせる可能性を示しています。

CIOとITリーダーシップは、エージェントテクノロジーに関して様々な言葉遣いをしていますが、最終的にはエージェントの自律性と知能が、単なる自動化を超えた価値を生み出すことに関心を持っています。

Kennedy氏によれば、顧客の多くはまだ「自動化」という言葉を使っていますが、より先進的な企業はエージェントの「自律性」と「知能」について議論しています。この言語の統一と概念の理解は、CIOが非技術系の同僚とコミュニケーションする上で重要な要素となっています。

リアルイベントの復活とAIコミュニティ形成

パンデミック後の世界では、物理的イベントの価値が再評価されています。Kennedy氏は、リアルイベントの復活について当初の予想を覆す強い回復を見せていると説明しています。

Google Next 2024は約32,000人の参加者を集めると予想されており、そのうち約半数が開発者です。この参加者構成の変化は、AIの採用においてエンジニアリングコミュニティの重要性が高まっていることを反映しています。

Kennedy氏によれば、イベントへの投資と労力は「最も価値のある気晴らし」であり、製品発表やコミュニティ構築の重要な要素です。特にAIの領域では、週単位で新しいリリースが行われる環境の中で、複雑な変化を整理して伝える場としてのイベントの価値が高まっています。

イベントでの4,500件の顧客ミーティングは、既存顧客と新規見込み客の境界が曖昧になっていることも示しています。特にAIの文脈では、長年のGoogle Cloud顧客であっても、AI領域では「新規顧客」と同様の教育とサポートを求めています。

次世代AIインターフェースの展望

AI技術の進化は、ユーザーインターフェースの根本的な変化をもたらしています。Kennedy氏が注目している最新トレンドの一つは「思考モデル(thinking models)」と「深層研究モデル(deep research models)」です。

これらの新しいモデルの特徴は、単に「何を」出力するかだけでなく、「どのように」「なぜ」その結論に達したかを示すことです。例えば、Kennedy氏はAI Studioの「thinking model」を使って会議の録音を分析し、以下のような思考プロセスを確認できたと説明しています:

  1. ペルソナとタスクの理解
  2. ビデオの初期分析と全体的な印象の把握
  3. 詳細分析(構造、フロー、コンテンツ、発表スタイルなど)
  4. 改善提案の作成

これは、かつてGoogleがAIを「隠していた」時代からの大きな変化です。Google PhotosのようなアプリはAIの力を活用していましたが、そのプロセスはユーザーに見えませんでした。現在では、ユーザーはAIがどのように考えているかを見たいと考え、すべてのアプリが対話的であることを期待しています。

Kennedy氏は、「AIツールが同時により高性能になり、より使いやすくなっている」と強調しています。リアルタイムの対話機能により、AIとのインタラクションがより人間的になり、ユーザー自身も人間らしさを保てるという特別な体験が生まれています。

まとめ:コスト最適化がもたらすAIイノベーションの加速

AIコストの最適化とROIへの視点シフトは、企業のAI導入を加速させる重要な要因となっています。Google Cloudの事例が示すように、効率的なインフラストラクチャーと多様なAIモデルの提供は、顧客がAIの可能性を最大限に引き出すための基盤となります。

この変化のなかで特に注目すべき点は:

  1. コスト懸念の減少: AIの費用対効果が向上し、競争力維持が優先事項に
  2. 開発者の影響力増大: AI採用の意思決定において開発者が重要な役割を果たす
  3. インフラとAIの融合: Google-Salesforce提携に見られるように、クラウドインフラとAIの統合が進行
  4. インターフェースの進化: AIとのインタラクションがより透明で自然に

Kennedy氏とLemkin氏が対談の最後で言及しているように、AIの進化はあまりに急速で、12ヶ月後にはこの議論を振り返って「笑ってしまうほど」状況が変わっているかもしれません。

重要なのは、「No Limits」時代の到来を見据え、AIをコスト要因ではなく戦略的資産として位置づけることです。効率的なインフラストラクチャー、開発者エンパワーメント、そして長期的視点でのAI投資が、この新時代における成功の鍵となるでしょう。

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