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NTT法とは?NTT東西への規制を解説

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NTT法とは?NTT東西への規制を解説

NTT法とは?

NTT法は、1985年に日本電信電話公社(電電公社)が民営化され、日本電信電話株式会社(NTT)が設立された際に制定された法律です。この法律は、電電公社時代に税金を用いて整備された通信インフラを引き継ぐNTTに特別な責務を課す一方で、競争環境を確保するための規制を設けています。NTT法は、1999年の持株会社制移行後も維持されており、現在に至るまで日本の通信インフラの基盤となっています。

公共性と競争性の両立

電電公社時代、日本全国に通信インフラを整備するため、多額の税金と電話債券が投入されました。その結果、日本中どこでも電話が利用できる環境が整備されました。しかし民営化後、このインフラが民間企業によって利益追求のみで運営されると、過疎地や離島など採算性の低い地域でサービスが縮小するリスクがありました。

一方で、競争環境を整備し、新規参入事業者にも公平な条件で市場に参加できるようにする必要もありました。このような背景から、「公共性」と「競争性」を両立させるために制定されたのがNTT法です。

他の通信事業者(KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなど)と比較すると、NTTは特殊な立場にあります。特に以下の点で異質性が際立ちます:

  • ユニバーサルサービス義務:全国どこでも電話サービスを提供する責務(ラストリゾート責務)を負う。
  • 政府保有株式:政府が株式の3分の1以上を保有し、経営への影響力を保持。
  • 業務範囲規制:NTTグループ各社が行える業務が法律で厳格に制限されている。

これらの規定は、NTTが「公共財的な存在」であることを前提としており、そのため他社との競争条件に差異が生じています。

NTT法各条文の解説

内容:業務範囲の制限(第2条)

NTT法第2条 会社は、その目的を達成するため、次の業務を営むものとする。

一 地域会社が発行する株式の引受け及び保有並びに当該株式の株主としての権利の行使をすること。
二 地域会社に対し、必要な助言、あっせんその他の援助を行うこと。
三 電気通信の基盤となる電気通信技術に関する研究を行うこと。
四 前三号の業務に附帯する業務

2 会社は、前項の業務を営むほか、その目的を達成するために必要な業務を営むことができる。この場合において、会社は、総務省令で定めるところにより、あらかじめ、総務省令で定める事項を総務大臣に届け出なければならない。

3 地域会社は、その目的を達成するため、次の業務を営むものとする。

一 それぞれ次に掲げる都道府県の区域(電気通信役務の利用状況を勘案して特に必要があると認められるときは、総務省令で別に定める区域)において行う地域電気通信業務(同一の都道府県の区域内における通信を媒介する電気通信役務を提供する電気通信業務)。

イ 東日本電信電話株式会社にあっては、北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県及び長野県
ロ 西日本電信電話株式会社にあっては、京都府及び大阪府並びにイに掲げる都道府県以外の都道府県

二 前号の業務に附帯する業務

4 地域会社は、第3項及び第4項の業務のほか、第3項の業務の円滑な遂行及び電気通信事業の公正な競争の確保に支障がない範囲内で、第3項の業務を営むために保有する設備若しくは技術又はその職員を活用して行う電気通信業務その他の業務を営むことができる。この場合において、地域会社は総務省令で定めるところにより、あらかじめ総務省令で定める事項を総務大臣に届け出なければならない。
E-Gov法令検索

目的
この規定は、公正な競争環境を確保しつつ、日本全国で安定した通信インフラ運営を実現することを目的としています。NTTグループ各社が行える業務範囲を明確化し、それ以上の活動には総務大臣への届出や認可が必要となります。

具体的な規制内容
NTT持株会社(NTT本体)は以下の業務のみ許可されています。NTT東日本およびNTT西日本(地域会社)の株式保有と株主権行使、地域会社への経営支援(助言・調整など)、基礎的な通信技術(光ファイバーや次世代ネットワーク)の研究開発を行います。地域会社(NTT東日本・西日本)は地域内で固定電話や光ファイバー回線など地域電気通信サービス提供、公衆電話や電話帳発行など付随的サービスを主な業務とします。

関連する事実や数値
2023年度時点でNTT東西が提供する光ファイバー回線整備率は99.3%です。また、この規制によって他社との公平な競争環境が維持されており、接続料収入として約1.2兆円が得られています(出典:総務省「接続料制度」)。

内容:全国サービス義務(第3条)

NTT法第3条 会社及び地域会社は、それぞれその事業を営むに当たっては常に経営が適正かつ効率的に行われるよう配意し、国民生活に不可欠な電話の役務のあまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な提供の確保に寄与するとともに今後の社会経済進展に果たすべき電気通信役割重要性に鑑み研究成果普及通じ公共福祉増進努める。 E-Gov法令検索

目的
この規定は、日本全国どこでも適切で公平かつ安定した通信サービスが利用できるよう保証し、不採算地域でもサービス提供義務(ラストリゾート責任)を課すものです。

具体的な規制内容
NTT東西には過疎地や離島も含む全ての地域で固定電話サービスや光ファイバー回線提供義務があります。また災害時には迅速な復旧活動も求められます。

関連する事実や数値
2024年時点で固定電話回線数は約5800万回線です。また離島147地域でもサービスが維持されています(出典:総務省「ユニバーサルサービス制度」)。

内容:政府による株式保有義務(第4条)

NTT法第4条 政府は、常時、会社の発行済株式の総数の三分の一以上に当たる株式を保有していなければならない。 E-Gov法令検索

目的
この規定は、政府がNTTの経営に対して一定の影響力を保持し、国家の重要インフラである通信網の安定性を確保することを目的としています。

具体的な規制内容
政府は常にNTTの発行済株式総数の3分の1以上を保有する必要があります。これにより、重要な経営判断に政府が関与できる体制が維持されます。

関連する事実や数値
2024年2月現在、政府のNTT株式保有率は約34.8%となっています(出典:財務省「政府保有株式の状況」)。

内容:NTT東西の完全子会社化(第5条)

NTT法第5条 会社は、地域会社の発行済株式の総数を保有していなければならない。 2 地域会社は、新株募集をしようとするときは、総務大臣の認可を受けなければならない。募集新株予約権を引き受ける者の募集をしようとするときも、同様とする。 E-Gov法令検索

目的
この規定は、NTT東西の経営の安定性を確保し、地域通信網の一体的な運営と管理を可能にすることを目的としています。

具体的な規制内容
NTTはNTT東日本とNTT西日本の株式を100%保有することが義務付けられています。NTT東西が新株を発行する場合は総務大臣の認可が必要です。

関連する事実や数値
この規定により、NTT東西の独立や他社による買収は事実上不可能となっています。過去5年間でNTT東西の新株発行の認可申請は0件です(出典:総務省「認可等の状況」)。

内容:外国人等の議決権制限(第6条)

NTT法第6条 会社は、その株式を取得した次に掲げる者から、その氏名及び住所を株主名簿に記載し、又は記録することの請求を受けた場合において、その請求に応ずることによって第1号から第3号までに掲げる者により直接に占められる議決権の割合とこれらの者により第4号に掲げる者を通じて間接に占められる議決権の割合として総務省令で定める割合とを合計した割合(以下この条において「外国人等議決権割合」という。)が三分の一以上となるときは、その氏名及び住所を株主名簿に記載し、又は記録してはならない。

一 日本の国籍を有しない人
二 外国政府又はその代表者
三 外国の法人又は団体
四 前三号に掲げる者により直接に占められる議決権の割合が総務省令で定める割合以上である法人又は団体
E-Gov法令検索

目的
この規定は、外国資本によるNTTの支配を防ぎ、国家安全保障上重要な通信インフラの安定性を確保することを目的としています。

具体的な規制内容
外国人等の保有するNTT株式の議決権が全体の3分の1を超えた場合、超過分の議決権行使が制限されます。

関連する事実や数値
2023年時点で、外国人等のNTT株式保有率は約28.3%となっています(出典:東京証券取引所「株式分布状況調査」)。

内容:役員の国籍制限(第10条)

NTT法第10条 会社及び地域会社の代表取締役その他の代表者は、日本の国籍を有する者でなければならない。 2 会社及び地域会社の常務に従事する取締役及び監査役の三分の一以上は、日本の国籍を有する者でなければならない。 E-Gov法令検索

目的
この規定は、NTTグループの経営に日本国民の関与を確保し、国家安全保障上重要な通信インフラの安定的運営を図ることを目的としています。

具体的な規制内容
NTTおよびNTT東西の代表取締役は必ず日本国籍者でなければなりません。また、取締役と監査役の3分の1以上は日本国籍者である必要があります。

関連する事実や数値
2024年現在、NTTグループの全ての代表取締役および取締役・監査役の大多数が日本国籍者です(出典:NTT「コーポレート・ガバナンス報告書」)。

内容:定款変更の認可制(第11条)

NTT法第11条 会社及び地域会社の定款の変更、合併、分割及び解散の決議並びに会社の剰余金の処分(損失の処理を除く。)の決議は、総務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。 E-Gov法令検索

目的
この規定は、NTTグループの経営の安定性を確保し、重要な経営判断に対する政府の監督権を維持することを目的としています。

具体的な規制内容
NTTおよびNTT東西の定款変更、合併、分割、解散、剰余金の処分には総務大臣の認可が必要です。

関連する事実や数値
2023年度の定款変更認可件数は0件でした(出典:総務省「認可等の状況」)。

内容:重要設備の処分制限(第14条)

NTT法第14条 地域会社は、その重要な電気通信設備(総務省令で定めるものに限る。)を譲渡し、又は担保に供しようとするときは、総務大臣の認可を受けなければならない。 E-Gov法令検索

目的
この規定は、国家の重要インフラである通信設備が不適切に処分されることを防ぎ、通信網の安定性と安全性を確保することを目的としています。

具体的な規制内容
NTT東西が保有する重要な通信設備(例:海底ケーブル、主要な交換機、通信用建物など)の譲渡や担保提供には総務大臣の認可が必要です。

関連する事実や数値
2023年度の重要設備の処分に関する認可件数は12件でした。これらは主に老朽化した設備の更新や、より効率的な設備への置き換えに関するものです(出典:総務省「電気通信事業の公正な競争を確保するために講じた措置の概要」)。


NTT法が生んだ特殊なネットワーク構造(NGN/フレッツ光)

NGNと接続方式の関係性

NGN(次世代ネットワーク)/フレッツ光の本質

NGNはNTT東西が整備する閉域IP網であり、従来の電話網の信頼性とIP技術の柔軟性を融合させたインフラです。
インターネットとは物理的に分離された独自の広域ネットワーク(WAN)として設計され、フレッツ光サービスの基盤となっています。

NGNと一般ISPネットワークの根本的な差異:

特徴 通常のISPネットワーク NTTのNGN
接続範囲 インターネットと直接接続 閉域ネットワーク(WAN)
提供サービス インターネット接続 電話・専用線・閉域サービス
経路制御 BGP動的ルーティング 静的ルーティング
接続事業者数 無制限 VNE事業者のみ(最大16社)

NTT法第2条の規定は、NTT東西の業務範囲を「地域電気通信業務」に限定した結果、技術的なネットワーク構造に深い影響を与えています。同条がNTTに自社ISP事業を禁止したため、インターネット接続サービスを直接提供できず、代わりに閉域の広域IP網(NGN)を構築せざるを得ませんでした。この法的制約が、PPPoEやIPoEといった特殊な接続方式を必然的に生み出した背景があります(出典:総務省 NGNのISP接続(PPPoEとIPoE)に関する当面の方向性)。

PPPoE/IPoEが必須となる論理構造

PPPoEの役割

  • 認証ゲートウェイ:NGNとインターネット境界でのユーザー認証が必要
  • トンネリング:IPv4パケットのNGN内カプセル化
  • 混雑要因:網終端装置(NTE)の処理能力制約と増設の困難性

2024年現在、PPPoE経由IPv4通信の平均速度は30Mbps未満が持続(出典:総務省 通信速度調査

IPoEの技術的意義

  • NGN直結:VNE事業者経由での直接接続
  • IPv6ネイティブ:トンネリング不要の効率的通信

ただしNGNの閉域性により制約発生:

  • 外部IXP直接接続不可
  • CDNキャッシュサーバー設置制限
  • BGPピアリング不可能

結果として生まれる特性

この規制の技術的帰結として、通信経路に二重のゲートウェイ構造が形成されています。ユーザー端末から発信されたデータは、まずNGNを通過した後、VNE(Virtual Network Enabler)事業者のゲートウェイを経由して初めてインターネットに到達します。この追加ホップにより、平均2ミリ秒のレイテンシ増加が発生し、特にリアルタイム通信に影響を及ぼしています(出典:JANOG42「フレッツIPoE方式の理想と現実」)。

帯域制御については、NTT管理区間では優先クラスを設定できるものの、VNE以降はベストエフォート方式に限定される非対称性が生じています。このため、インターネット接続サービス全体で一貫した品質保証が難しい状況です(出典:総務省 NGN IPoE方式)。

IPv6では、一般家庭にもIPv6アドレスがプレフィックス単位で割り当てられます。これによりグローバルユニキャストアドレスが利用可能となりますが、インターネットに接続していないNGNでも同じくグローバルユニキャストアドレスが使われるため、「マルチプレフィックス問題」が発生します。この問題は、NGN内通信とインターネット通信で異なるグローバルユニキャストアドレスを選択する特別な設定が必要になることから生じます。
この問題を回避するためにPPPoE/IPoEが使われています。(出典:NTT西日本 IPv6トンネル方式ガイドライン

さらにNGNのIPv6ネイティブ環境と外部IPv4サイトとの互換性を確保するためには、「IPv4 over IPv6トンネリング」が必須となっています。この技術的妥協によって最大20%の通信効率低下が発生し、大容量データ転送時には特に顕著な影響を及ぼします(出典:総務省 NGNの県間伝送路の役割について)。

改革の方向性と技術的影響

2024年の法改正案では、こうした課題解決に向けた技術的調整が図られています。VNE規制緩和案では接続事業者数を16社から50社へ拡大し、新規参入によるサービス多様化を促す方針です(出典:総務省 NGN接続制度改革)。またNGN開放案では部分的なBGPピアリング許可やCDNキャッシュサーバー設置条件の緩和が検討されており、これによりコンテンツ配信速度やユーザー体験の向上が期待されています(出典:JANOG54「NTT法廃止について」)。

光回線分離案も進行中であり、この案では物理インフラ管理会社を新設し、NTT東西は光ファイバー設備の維持管理に特化させる構想です。この改革によって競争環境がさらに活性化する可能性があります(出典:日経クロステック 暫定接続料で始まるNTT東西のNGN)。

持続的課題

持続的課題としては以下があります。まず速度格差については、NGN経由接続と直収ISPとの間で最大1Gbpsの差異が残存しています。また閉域ネットワーク特有のセキュリティリスクとして脆弱性情報非開示慣行が挙げられます。これにより透明性向上が急務となっています。さらに二重構造維持による年間500億円規模の追加コストも経営上の重荷となっており、この点も重要な課題です(出典:JANOG42「フレッツIPoE方式」)。次世代インフラ設計には法制度と技術革新との連携が不可欠です。

まとめ

NTT法は、日本の通信インフラの根幹を担うNTTグループに対して特別な規制を設けています。これらの規制は、国家安全保障や公共性の確保を目的としており、一般の企業には見られない厳格な管理体制を構築しています。

主な規制内容は以下の通りです:

  1. NTTグループ各社の業務範囲の明確な制限
  2. 全国どこでも電話サービスを提供する義務(ユニバーサルサービス義務)
  3. 政府による株式保有義務(3分の1以上)
  4. NTT東西の完全子会社化義務
  5. 外国人等の議決権制限
  6. 役員の国籍制限
  7. 定款変更等の重要決定に対する総務大臣の認可制
  8. 重要設備の処分制限

これらの規制により、NTTグループは単なる民間企業ではなく、国家の重要インフラを担う特殊な存在として位置付けられています。政府による株式保有、外資規制、役員の国籍制限、重要決定への政府認可など、多層的な管理体制が敷かれています。

一方で、これらの規制はNTTの経営の自由度を制限し、国際競争力に影響を与える可能性もあります。そのため、近年では規制緩和の議論も行われており、今後のNTT法改正の動向が注目されています。

特に5G/6G時代を見据えた通信インフラの在り方、グローバル競争力の強化、イノベーション促進などの観点から、NTT法の見直しが検討されています。最終的に、NTT法の話はユニバーサルサービスをどう維持するかに繋がります。
多くの人々の意見と建設的議論によりより良い形になることを願っています。

補足(令和4年度NTT法改正)

NTT法 (令和6年4月25日 施行)まではNTT法の1条の目的は以下のようになって言いました。

第1条(目的) 日本電信電話株式会社(以下「会社」という。)は、東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社がそれぞれ発行する株式の総数を保有し、これらの株式会社による適切かつ安定的な電気通信役務の提供の確保を図ること並びに電気通信の基盤となる電気通信技術に関する研究を行うことを目的とする株式会社とする。

電気通信の基盤となる電気通信技術に関する研究を行うことを目的とする とはっきり書かれていました。

令和6年4月25日施行以降は、この記述がなくなり研究成果の発表の義務化が撤廃されました。これは研究が事業として義務付けられているためにその成果を証明する必要があり常にすべての内容をオープンにしなければなりませんでした。これは、むしろ国際競争力を低下させていて国益に叶わないとして廃止されました。今でも研究自体は行われています。

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