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【あなたは”そこ”にいますか?】量子力学の不確定性原理を導出する

Last updated at Posted at 2019-10-26

 宇宙の深淵からこんにちは!

\displaystyle\int {\rm d}\boldsymbol{r}\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})ぽっぴんフレンズ\hat{\psi}(\boldsymbol{r})

です!

 突然ですが、皆さんに問いかけたいことがあります。

         あなたはそこにいますか?

 こちらは「蒼穹のファフナー」というアニメに登場する有名な問いですね!ファフナーの世界では、人類の敵であるフェストゥムが戦闘中にも「存在」を問いかけてくるわけです。普通に考えたら我々は「存在」するので、この問いの答えは「はい」となるでしょう。(ちなみに、ファフナーの世界では、この問いに「はい」と答えるとフェストゥムに「祝福」され、結晶化していずれ無に帰してしまいます。「いいえ」と答えると「存在しないはずのものが存在している」ということで殺されます。なので問いには答えないのが正解らしいです。初見殺しすぎますね。。。)

 「あなたはそこにいますか?」という問いは一般的に「あなたはこの世界に存在するか」という直接的な意味で解釈されるとおもいます。そこで、本記事では**「あなたは"そこ"にいますか?」、すなわち「その空間的位置に確定して存在するか」という解釈をしてみましょう。すると、なんだか量子力学の不確定性原理**っぽく見えてきませんか?ということで、今回は量子力学の不確定性原理の導出を紹介したいと思います!これを通して、「あなたは"そこ"にいますか」という問いに対する皆さんなりの答えが得られるといいですね!

こんな方にオススメ:

  • 基礎レベルの量子力学の知識(エルミート演算子、交換関係など)の知識がある
  • ブラ・ケット表記にある程度慣れている
  • 不確定性原理の証明を見てみたい
    $$
    \def\bra#1{\mathinner{\left\langle{#1}\right|}}
    \def\ket#1{\mathinner{\left|{#1}\right\rangle}}
    \def\braket#1#2{\mathinner{\left\langle{#1}\middle|{#2}\right\rangle}}
    \def\E#1{\mathinner{\langle{#1}\rangle}}
    $$

位置と運動量の不確定性原理

 位置と運動量の不確定性原理とは、以下の不等式を指します。

\Delta\hat{x}\Delta\hat{p}\ge\frac{\hbar}{2}

$\Delta\hat{x},\ \Delta\hat{p}$ はそれぞれ位置と運動量のゆらぎですが、この2つの積がある値 $\hbar/2$ より必ず大きくなるということを意味します。ゆらぎとは、簡単に言えば測定結果が平均値からどれぐらいばらつくかを表し、ゆらぎが小さいほどその値のばらつきが小さくなり、ゆらぎが 0 の場合は値が一定値で確定します。そして、この不等式が述べるとことは、ミクロな粒子(電子など)の位置と運動量のゆらぎを同時に 0 にすることはできないということです。

 この不確定性原理に、さきほどの「問い」の答えがあると踏んだので、~~それを探るためにアマゾンの奥地へと足を運んでみましょう!~~不等式を深く理解するために導出してみましょう!

ロバートソンの不等式

 不確定性原理の証明の手始めに、不確定性原理の一般形であるロバートソンの不等式について紹介・導出していきたいと思います!2つのエルミート演算子 $\hat{A},\ \hat{B}$ について、次のように交換関係が定義できるとします。

\hat{A}\hat{B}-\hat{B}\hat{A}\equiv[\hat{A},\ \hat{B}\ ].

 この $\hat{A},\ \hat{B}$ について、以下のような不等式が成り立ちます。

(\Delta\hat{A})^2(\Delta\hat{B})^2 \ge \frac{1}{4}\left|\E{[\hat{A},\ \hat{B}\ ]}\right|^2

これがロバートソンの不等式で、一般的な不確定性原理を表す式です。ただし、$\E{\hat{O}\ }$ および $\Delta\hat{O}$ はそれぞれ演算子 $\hat{O}$ の期待値とゆらぎ(標準偏差)で、規格化された(任意の)状態 $\ket{\psi}\ (\braket{\psi}{\psi}=1)$ に対して

\begin{align}
&\E{\hat{O}}\equiv \bra{\psi}\hat{O}\ket{\psi},\\
&\Delta\hat{O} \equiv\sqrt{\bra{\psi}({\hat{O}-\E{\hat{O}}})^2\ket{\psi}}=\sqrt{\E{\hat{O}^2}-\E{\hat{O}}^2}\\
\end{align}

と定義されます。

 不等式の証明に入る前に、不等式の解釈を考えてみましょう。左辺は2つの演算子 $\hat{A},\ \hat{B}$ それぞれの分散の積(分散=標準偏差の2乗であることに注意)、右辺は $\hat{A},\ \hat{B}$ の交換関係に対する期待値の絶対値の2乗を含みます。これは、

「2つの演算子 $\hat{A},\ \hat{B}$ の交換関係 $[\hat{A},\ \hat{B}\ ]$ が消えないとき、$\hat{A},\ \hat{B}$ のゆらぎは一般に同時に 0 とすることはできない」

ということを表します。$[\hat{A},\ \hat{B}\ ]$ が 0 でなければ一般には $\E{[\hat{A},\ \hat{B}\ ]}$ も 0 とはならないので、不等式の左辺は正の値をとります。すると、$\Delta\hat{A}$ と $\Delta\hat{B}$ が同時に 0 となてしまうと「$0\ge正の値$」という矛盾した結果になってしまいます。なので、一般には、$\Delta\hat{A}$ が小さくなるような状態 $\ket{\psi}$ を用意すると $\Delta\hat{B}$ が大きくなってしまい、逆に$\Delta\hat{B}$ が小さくなるような状態 $\ket{\psi}$ を用意すると $\Delta\hat{A}$ が大きくなってしまいます。これはまさに不確定性原理を表していますね!

ただし、一つだけ例外があります。それは、$\E{[\hat{A},\ \hat{B}\ ]}=0$ となる状態が存在する場合です。$[\hat{A},\ \hat{B}\ ]$ も演算子なので、たまたま$\E{[\hat{A},\ \hat{B}\ ]}=0$ となるような状態 $\ket{\psi}$ が存在するかもしれません。その場合、不等式の右辺が 0 となるので、$\Delta\hat{A}$ と $\Delta\hat{B}$ が同時に 0 になる可能性があります。

ロバートソンの不等式の導出

 さっそく不等式を導出してみましょう!まず、演算子 $\hat{A},\ \hat{B}$ 規格化された状態 $\ket{\psi}\ (\braket{\psi}{\psi}=1)$ に対して、以下のように新しい演算子を定義します。

\begin{align}
&\hat{A}'\equiv\hat{A}-\E{A}\hat{I},\\
&\hat{B}'\equiv\hat{B}-\E{B}\hat{I}.
\end{align}

$\hat{I}$ は単位演算子です。$\hat{I}$ はすべての演算子と可換であるため、$\hat{A}',\ \hat{B}'$ の交換関係は結局 $\hat{A},\ \hat{B}$ の交換関係と等しくなることに注意してください。(※$[\hat{O_1}+\hat{O_2},\ \hat{O_3}\ ]=[\hat{O_1},\ \hat{O_3}\ ]+[\hat{O_2},\ \hat{O_3}\ ]$ を用いて示すこともできます)

[\hat{A}',\ \hat{B}']=[\hat{A},\ \hat{B}\ ]

また、$\hat{A},\ \hat{B}$ の分散は $\hat{A}',\ \hat{B}'$ を用いて

\begin{align}
(\Delta\hat{A})^2&=\bra{\psi}(\hat{A}-\E{\hat{A}})^2\ket{\psi}=\bra{\psi}\hat{A}'^2\ket{\psi}\\
(\Delta\hat{B})^2&=\bra{\psi}(\hat{B}-\E{\hat{B}})^2\ket{\psi}=\bra{\psi}\hat{B}'^2\ket{\psi}
\end{align}

と表せることにも注意してください。さらに、便宜上以下のような演算子も導入します。

[\hat{A},\ \hat{B}\ ]\equiv i\hat{C}

$i$ は虚数単位で、$\hat{C}$ は上式が成り立つように定義された演算子です。右辺に $i$ がついているのが少し気持ち悪いですが、このように定義することで $\hat{C}$ がエルミート演算子になります(両辺のエルミート共役をとたとき、左辺の交換関係の共役で出てくるマイナスと右辺の $i$ によって出てくるマイナスがキャンセルします)。

 次に、天下り的に以下のような状態を定義します。

\begin{align}
\ket{\phi}&\equiv (t\hat{A}'+i\hat{B}')\ket{\psi}\\
\Longleftrightarrow\ \bra{\phi}&=\bra{\psi}(t\hat{A}'-i\hat{B}')
\end{align}

ここで、$t$ は実数のパラメーターで、$\bra{\phi}$ は $\ket{\phi}$ のエルミート共役であり、$\hat{A},\ \hat{B}$ がエルミート演算子であることに注意して 1 式目のエルミート共役を取ると 2 式目となります。ここで、$\ket{\phi}$ のノルム
$||\ket{\phi}||=\braket{\phi}{\phi}$ が 0 以上であることを利用すると、以下の不等式が得られます。

\begin{align}
0\le\braket{\phi}{\phi}&=\bra{\psi}(t\hat{A}'-i\hat{B}')(t\hat{A}'+i\hat{B}')\ket{\psi}\\
&=\bra{\psi}\left\{t^2\hat{A}'^2+it(\hat{A}'\hat{B}'-\hat{B}'\hat{A}')+\hat{B}'^2\right\}\ket{\psi}\\
&=\bra{\psi}\hat{A}'^2\ket{\psi}t^2+\bra{\psi}i[\hat{A},\ \hat{B}\ ]\ket{\psi}t+\bra{\psi}\hat{B}'^2\ket{\psi}\\
&=(\Delta\hat{A})^2t^2+\E{\hat{C}}t+(\Delta\hat{B})^2
\end{align}

ここで、最右辺は $t$ に関する2次式となっています。高校数学を思い出すと、2次式が常に 0 以上のとき、その判別式は 0 以下になるという定理がありました。これにより、

\begin{align}
&D=\E{\hat{C}}^2-4(\Delta\hat{A})^2(\Delta\hat{B})^2\le0\\
\Longleftrightarrow\ &(\Delta\hat{A})^2(\Delta\hat{B})^2\ge\frac{1}{4}\E{\hat{C}}^2
\end{align}

となります。ロバートソンの不等式にかなり近づきましたね!

 最後に $\E{\hat{C}}^2$ を $\hat{A},\ \hat{B}$ による表記に戻します。$[\hat{A},\ \hat{B}\ ]=i\hat{C}$ より、$\E{\hat{C}}=-i\E{[\hat{A},\ \hat{B}\ ]}$ となります。$\hat{C}$ はエルミート演算子なので、$\E{\hat{C}}$ は実数となり、したがって $\E{[\hat{A},\ \hat{B}\ ]}$ は純虚数となります。$\E{[\hat{A},\ \hat{B}\ ]}=iy\ (yは実数)$ とおくと、$-i\E{[\hat{A},\ \hat{B}\ ]}=y$ となるので、

\E{\hat{C}}^2=(-i\E{[\hat{A},\ \hat{B}\ ]})^2=y^2=\left|\E{[\hat{A},\ \hat{B}\ ]}\right|^2

となります。

 以上より、ロバートソンの不等式

(\Delta\hat{A})^2(\Delta\hat{B})^2 \ge \frac{1}{4}\left|\E{[\hat{A},\ \hat{B}\ ]}\right|^2

が示されました!

位置と運動量の不確定性原理の導出

 最後に、位置と運動量の不確定性原理を導出しましょう!前節で導出したロバートソンの不等式を用いれば、位置と運動量の不確定性を簡単に導出することができます。位置演算子 $\hat{x}$ と運動量演算子 $\hat{p}$ および交換関係

[\hat{x},\ \hat{p}]=i\hbar

をロバートソンの不等式に代入すると、

(\Delta\hat{x})^2(\Delta\hat{p})^2 \ge \frac{1}{4}\left|\E{[\hat{x},\ \hat{p}\ ]}\right|^2=\frac{\hbar^2}{4}

となるので、両辺のルートをとって

\Delta\hat{x}\Delta\hat{p}\ge\frac{\hbar}{2}

となります。位置と運動量の不確定性について注意すべきことは、交換関係 $[\hat{x},\ \hat{p}]=i\hbar$ が 0 でない定数となるため、その期待値 $\E{[\hat{x},\ \hat{p}]}=i\hbar$ も 0 でない定数となります。すると、全前節の最後に述べた「交換関係が消えなくても分散の積が 0 となる場合」があり得なくなります。なぜなら、どのような状態を持ってきても必ず $\E{[\hat{x},\ \hat{p}]}=i\hbar$ となるため、不等式の右辺が 0 になることはありえないためです。これにより、

「量子力学の枠組みでは、粒子の位置と運動量のゆらぎが同時に 0 となることはできない」

ということになります。

 とすると、量子力学の枠組みの中では、「"そこ"にいるか」、しなわち**「その空間的位置に確定して存在するか」**という問いに対する答えは「No」になるような気がしてきますね。。。

まとめ

 いかがだったでしょうか?今回は量子力学の不確定性原理の導出をきっかけに、「あなたは"そこ"にいますか?」という問いの答えはを探ってみました。みなさんなりの答えは出せたでしょうか?「不確定性原理があるんだから、ほぼ答えは出かかっているのでは」と思ている方もいるかもしれません。しかし、その思考はいささか短絡的かもしれません。なぜなら我々のようなマクロな存在に量子力学をどれほどあてはめてよいのかという疑問がまだ残っております。つまり、問いの答えはまだ決まっていないのです!といことで、引き続き問いに対する統一的な答えを出すにはまだまだ時間がかかりそうですね。。。!

 それでは、また次の記事で会いましょう!

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