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一歩一歩が未来を創る――エンジニアの本質と生産性の極意

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【タイトル】

一歩一歩が未来を創る――エンジニアの本質と生産性の極意


【目次】

  1. はじめに
    1-1. 本記事の目的と概要
    1-2. “エンジニアの本質”とは何か

  2. エンジニアという存在の意義
    2-1. 社会におけるエンジニアの役割
    2-2. 「モノづくり」と「問題解決」
    2-3. エンジニアリング思考の本質

  3. 世界の一流エンジニアたちの共通点
    3-1. 生産性は“量”ではなく“インパクト”
    3-2. 余裕が生む革新とクオリティ
    3-3. 日本とアメリカの仕事観・計画観の違い

  4. “理解”こそ最大の武器
    4-1. なぜ「理解」に時間をかけるのか
    4-2. アンダースタンディングと生産性の関係
    4-3. 「分からない」を素直に認める勇気

  5. 失敗を恐れない――フィードバックの力
    5-1. 失敗は“避ける”より“生かす”
    5-2. 小さく試し、素早く学ぶ
    5-3. 生産性向上と失敗データベース

  6. 優先順位という思考ツール――P0の発想
    6-1. “まずは1番大事なことだけ”の衝撃
    6-2. たった1つに集中するからこそ生まれる成果
    6-3. やめる勇気がチームを強くする

  7. チームワークとコミュニケーション
    7-1. 他者に頼ることの大切さ
    7-2. アンブロックするリーダーシップ
    7-3. 衝突ではなく“議論”で進む文化

  8. 自己変革と学び続ける姿勢
    8-1. 型にはまらない――アジャイルでもウォーターフォールでもない世界
    8-2. 常に変化し続ける組織と個人
    8-3. プロフェッショナルとしての専門性と誇り

  9. 日本のエンジニアリングの課題と展望
    9-1. なぜ日本は変化が苦手とされるのか
    9-2. 「下請け構造」と手を動かす人の低評価
    9-3. 教育とキャリア形成への提言

  10. 高校生にも伝えたいエンジニアの世界
    10-1. 進路としてのエンジニア
    10-2. 「文系でもエンジニア」は可能か
    10-3. 未来を見据えた学びのヒント

  11. エンジニアとして生きるとは――仕事観のまとめ
    11-1. 生み出す楽しさと責任
    11-2. 自己探求と社会貢献の両立
    11-3. 失敗と成功を繰り返し、個人も世界も変わる

  12. おわりに
    12-1. 変化を恐れず、一歩ずつ進む力
    12-2. まとめと今後の展望

  13. 参考文献


【本文】

1. はじめに

1-1. 本記事の目的と概要

本記事では「エンジニアの本質」に焦点を当て、世界一流と言われるエンジニアたちの思考法や行動原則を紐解きながら、“量”より“インパクト”を重視する生産性の高め方、失敗との付き合い方、そしてチームワークやコミュニケーションのあり方などを解説します。高校生でも理解できるよう、なるべく専門用語を避け、具体例を交えながら丁寧に進めていきます。

エンジニアという職業は、いまやソフトウェア産業に限らず、あらゆる分野で求められるようになっています。AI、クラウド、スマートフォンをはじめとするテクノロジーが社会の基盤となる現代では、エンジニアの力があらゆる可能性を切り開く原動力になっているのです。

1-2. “エンジニアの本質”とは何か

エンジニアの仕事は、単にプログラムを書くことだけではありません。モノの仕組みを理解し、問題を定義し、解決策を設計し、それを作り上げていく総合的な行為です。これには、以下のような要素が含まれます。

  • 新しい技術・知識を習得し、どう使うかを考える
  • ユーザーや社会が抱える課題を捉え、最適なアプローチを見つける
  • 自分だけでなく、チームや周囲の助力を得ながら解決策を作り上げる

こうした作業には、高度な専門知識も必要ですが、最終的には「いかにして価値を生み出すか」という問いが中心にあります。この「価値を生み出す」という部分に深く関わるのが“エンジニアの本質”と言えるでしょう。


2. エンジニアという存在の意義

2-1. 社会におけるエンジニアの役割

かつてエンジニアといえば、機械工学などの工学系領域に携わる専門職のイメージが強いものでした。しかし、21世紀に入り、ITや情報産業の急速な成長とともに「コンピューターエンジニア」が大きな注目を集めるようになります。クラウドサービスからスマートフォンアプリ、AIやデータサイエンスといった分野に至るまで、社会の基盤となる領域を支えているのがエンジニアです。

社会におけるエンジニアの役割は「問題を解決し、価値を創出すること」です。医療や建築、農業や製造業など、ほとんどあらゆる領域でエンジニアの力が必要とされています。新しい技術を使って現場の課題を解消し、より効率的かつ質の高いサービスを提供する――その中心にいるのがエンジニアと言っても過言ではありません。

2-2. 「モノづくり」と「問題解決」

エンジニアリングとはよく「モノづくり」と言われますが、同時に「問題解決」という側面が非常に大切です。モノづくりと問題解決は表裏一体であり、成果物(モノ)やソリューション(解決策)を通じて社会やユーザーの抱える課題に答えるのがエンジニアの本質的な仕事になります。

ただし、問題の定義が不明確なままモノだけを作っても、社会は望む価値を得られません。そこで必要なのが「課題を発見する力」と「課題を適切に表現する力」です。これこそがエンジニアの真骨頂であり、単に“技術を持っている”だけでは担いきれない部分でもあります。

2-3. エンジニアリング思考の本質

エンジニアリング思考を端的に言えば、「論理的思考」と「実践的試行」の往復です。具体的には次のようなサイクルを回していきます。

  1. 問題の把握:ユーザーやチーム、社会が抱える課題は何か
  2. 要件の整理:実現するべき要件や制約、技術的なハードルは何か
  3. 設計と実装:実際に動く仕組みをどう設計・構築するか
  4. テストと検証:想定した通りに機能するか、品質は十分か
  5. 学習とフィードバック:結果を振り返り、次に活かす

このサイクルは決して1回で終わるわけではなく、何度も繰り返されるのが通常です。この反復の積み重ねこそが、優れたサービスやプロダクトを生み出す鍵になります。


3. 世界の一流エンジニアたちの共通点

3-1. 生産性は“量”ではなく“インパクト”

世界の一流エンジニアたちは、とにかくたくさんコードを書くから偉いわけではありません。彼らが口をそろえて言うのは、「仕事の本質は“量”より“インパクト”で測るもの」という考え方です。特に米国の大手IT企業では、一人ひとりが「いかに大きな価値をもたらせるか」を重視し、「同じ1時間で10個の仕事をする」より「高い価値を持つ1つを徹底的に仕上げる」ことが理にかなうとされています。

これは一見効率が悪いようにも感じるかもしれません。しかし「大量のタスクをこなす」ことと「インパクトが大きい成果を出す」ことは必ずしも同じではないのです。むしろ複数の仕事を抱え続けることで、どれも中途半端になるリスクが高まります。結果としてトータルの価値が低下する。だからこそ、「今やるべき最も大事なこと」を明確にし、そこに集中する姿勢こそが生産性を最大化する秘訣と言えるのです。

3-2. 余裕が生む革新とクオリティ

たとえば、米国マイクロソフトのエンジニアたちが強調するのが「余裕」の大切さです。多くの人は「スピードこそ正義」と思い込みがちです。しかし、無理やり短期間で仕上げようとすると、必ずどこかで品質を犠牲にしたり、精神的な疲弊を招いたりしてしまいます。結果、ユーザーからの評価が下がり、信頼を失うことに繋がりかねません。

余裕のあるスケジュールと作業環境を維持できれば、エンジニアは技術面や仕様を深く理解しつつ、より良いアイデアを生み出す時間的・精神的なゆとりが得られます。それが革新的な機能を実現したり、高品質なプロダクトを提供したりする下地になるのです。

3-3. 日本とアメリカの仕事観・計画観の違い

日本の企業文化では、あらかじめ詳細な計画を立て、その通りに進めることがよしとされる傾向があります。目標を決め、期限を厳守し、工程表(WBS)をきっちり作り、遅延なくこなすことに高い価値を置くわけです。

一方で、ソフトウェア開発の現場では「想定外」が起こりやすい特徴があります。すでにあるライブラリが翌週にはバージョンアップで動かなくなったり、新しい革新的ツールがリリースされて仕様が大きく変わったり、競合他社が優位なサービスを発表して市場のニーズが変わったり……。こうした常時変化する環境の中では、事前に立てた計画そのものを流動的に変更する覚悟が必要です。
アメリカのエンジニアはそれを「良いことだ」と捉えます。変化が起きるたびに柔軟に動き、その都度最適な仕事を選ぶからです。そのための鍵が「大きな意味があるタスクだけに集中する」という優先順位の徹底なのです。


4. “理解”こそ最大の武器

4-1. なぜ「理解」に時間をかけるのか

一流エンジニアが時間を最も割く部分は「理解」――つまりアンダースタンディングだ、としばしば言われます。たとえば新しいツールやライブラリを導入する前に、そのドキュメントを繰り返し熟読したり、動作原理を深く掘り下げたりする。その段階を省略すると、後々になってバグや障害の原因を見つけるのに何倍もの時間を費やす羽目に陥りやすいのです。

逆に「最初に腰を据えて理解を深める」ことで、その後の実装や検証で迷うことが少なくなり、生産性と品質が飛躍的に高まります。言い換えれば「最初の数日や数週間は“遠回り”をしているようで、実はそれが近道なのだ」ということ。多くの日本企業は「とにかく手を動かせ」「走りながら考えろ」という方針を取りがちですが、高度なエンジニアリングにおいては“理解”が何よりも大事なのです。

4-2. アンダースタンディングと生産性の関係

「理解すること」がなぜ生産性を高めるのでしょうか。その理由の一つは、「余計なやり直しを最小化できるから」です。ソフトウェアに限らず、設計や要件を誤解したまま作業を進めると、あとになって手戻りが大発生します。これは工程全体のコストと時間を劇的に増やす要因になります。

もう一つの理由は、「チーム内の意思疎通をスムーズにするから」です。自分の担当領域と隣接するパーツを正しく理解しておくと、他のエンジニアとの協業もスピーディに進みます。結果的にエラーや衝突が減り、不要な会議や報連相が少なくなるわけです。

4-3. 「分からない」を素直に認める勇気

理解を深めるためには、「分からない」ときに「分からない」と声を上げることが不可欠です。日本人の多くは「そんな基本的なことを聞くのは恥ずかしい」とか「相手に迷惑をかけるかもしれない」と考えがちです。しかし、世界の一流エンジニアは堂々と質問します。

「さっきの説明、もう一度繰り返してくれない?」
「ここの仕組みは、どうしてこういう動きになるの?」

こうした素直な姿勢こそが「誤解」を最小化し、結果的に高い生産性を生むのです。周囲もまた、簡単に断る・断られる風土をセットで持っているため、質問が気軽に行われ、しかしそれを無理に全員が受けるわけではありません。結果としてストレスなく知識を共有できる環境が出来上がるのです。


5. 失敗を恐れない――フィードバックの力

5-1. 失敗は“避ける”より“生かす”

日本では「失敗=悪」という考え方が根強く残っている面があります。しかし、アメリカのエンジニアリング文化では「失敗は上等」「失敗こそデータの宝庫」と捉えます。うまくいかないことは、次のアクションを決めるためのフィードバックに他なりません。

新しい機能を入れたら障害が起きた――それは「その機能とシステムの相性が悪い」か「設計に抜け漏れがある」ことを教えてくれる良い材料になります。失敗を攻め立てるより、その根本を見直すチャンスと考えて改善を積み上げるのです。こうしてエンジニアとしての技能は磨かれていきます。

5-2. 小さく試し、素早く学ぶ

失敗を前提にするからこそできるのが「小さなサイクルを回す開発スタイル」です。大きなプロジェクトを一気に完成させようとするのではなく、まずは要素を切り分け、小さいスケールで試し、早期にフィードバックを得る。そして必要があれば方向転換をする。多くのアメリカのIT企業が取り入れているこの仕組みは、まさに「失敗してもすぐ学び、次に生かす」文化を体現しています。

5-3. 生産性向上と失敗データベース

大規模なシステム運用では、障害を起こした際にその原因と対処法をしっかりとデータベース化することが一般的です。これは単に管理目的だけでなく、次に同様の障害を起こさないための学習ツールとして活用されます。新人でもベテランでも、そのデータベースを参照することで「過去の失敗」を学び、同じミスを繰り返さない。それにより、全体としての品質と生産性が高まっていくのです。


6. 優先順位という思考ツール――P0の発想

6-1. “まずは1番大事なことだけ”の衝撃

米国IT企業でしばしば語られるのが「P0」「P1」「P2」という優先順位の概念です。

  • P0: 「死んでもやるべき」最優先タスク
  • P1: 「状況次第で次にやりたい」タスク
  • P2: 「時間とリソースに余裕があればやる」タスク

日本流の「優先順位をつけたら全部やる」は、結局“全部やる”意識があるため、数多くのタスクに同時並行で手を付けて疲弊したり、品質を落としたりしがちです。しかし、「P0以外はやらない」「P0が終わったら新たなP0に着手」と決めると、結果として最も価値の高い仕事を連続してこなすことになり、“総インパクト”が非常に大きくなるのです。

6-2. たった1つに集中するからこそ生まれる成果

たとえば、あるエンジニアが10個の仕事を抱えていたとします。それをすべて同時並行で進めると、それぞれの納期を守るのに必死になり、どれも中途半端になるリスクが高まります。一方で「これは絶対に外せない重要案件だ」という1つだけに集中すれば、そこで突出したパフォーマンスを生み出せる可能性が高まります。

この“突出した成果”が会社やユーザーに大きなインパクトを与え、結果的に評価が上がったり、事業が成功したりするわけです。量ではなくインパクト――ここでも同じ原則が働きます。

6-3. やめる勇気がチームを強くする

優先度が低い仕事をストップしたり、会議を廃止したりすると、周囲から反発の声が上がる場合もあるでしょう。「あれは必要なんじゃないか」と。ただし、そこで大事なのは「本当に必要かどうかを検証する」姿勢です。

米国の多くの企業では「この会議いらないよね?」という声があれば、次の週にはスパッと削除されることが珍しくありません。チーム全体で合意を取り、なるべく素早く判断を下すのです。無駄な仕事や会議を“きちんとやめる”勇気が高い生産性の源泉になります。


7. チームワークとコミュニケーション

7-1. 他者に頼ることの大切さ

エンジニアの仕事は一人で完結するものではありません。特にソフトウェア開発では、機能の一部を専門とする仲間がいることが多く、「ここは自分より詳しい人に助けてもらう」ことがスムーズな解決への近道になります。

しかし日本では、「人に聞く前に自分で調べろ」「人の時間を奪うな」といったプレッシャーが働きがちです。もちろん無闇に質問攻めをするのは望ましくありませんが、世界の一流エンジニアたちは「分からないことを放置するくらいなら、早めに助けを求める」ことを重視します。

相手に断る権利があり、同時に気兼ねなく頼ることができる風土――これがエンジニアリング文化を豊かにするポイントの一つです。

7-2. アンブロックするリーダーシップ

マネージャーの最も重要な仕事は「指示を出す」ことではなく、「ブロック(障害)を取り除く」ことだと言われます。メンバーが実装を進める中で、権限や承認、技術的な制約、他部署との連携など、さまざまなブロックにぶつかります。そこで「これは誰に相談すると解決できるか」「どのルートならすぐ承認が得られるか」といった手続きを高速で片付け、メンバーが自由に動けるようにするのがリーダーの大切な役割です。

7-3. 衝突ではなく“議論”で進む文化

チーム内で意見が対立するのは当然のこと。しかしそれは個人的な感情の対立ではなく、より良い方法を探るための議論と捉えられます。エンジニア同士が激しく論じ合ったとしても、「最終的に決定を下すのは担当者」といったルールが明確にあるため、感情的なわだかまりは残りにくいのです。フィードバックの応酬はあっても、「どうすれば良い解決策に近づくか」が共有の目的だからです。


8. 自己変革と学び続ける姿勢

8-1. 型にはまらない――アジャイルでもウォーターフォールでもない世界

日本では開発の手法を「ウォーターフォールにするかアジャイルにするか」など型にはめて議論することが多くあります。しかしアメリカの企業、とりわけ大手IT企業の内部を覗くと、そもそも「型そのものが存在しない」ことも珍しくありません。
どんな手法を採用しても、状況が変われば臨機応変に再構築する――それを繰り返しているのです。そこには「このやり方こそが正解だ」という信仰はなく、「常に変化することが唯一の正解」と言える文化があるのです。

8-2. 常に変化し続ける組織と個人

ソフトウェアはとにかく外部要因の変化が早い分野です。新技術が登場するペースも早く、プロジェクトの要件やビジネスモデルが数か月でガラッと変わることも珍しくありません。そのときに重要なのは「変化は前提」だと考えておくこと。その上で、自分自身も学び続ける姿勢を持つことです。

一流エンジニアほど「知らないこと」を喜びます。知らないことがあるということは、成長の余地があるということ。新しい言語やフレームワークに出会ったとき、「また勉強するのか……」と嘆くのではなく、「これでさらに面白いものが作れる」と考える。こうした前向きな態度が自己変革を後押しします。

8-3. プロフェッショナルとしての専門性と誇り

エンジニアリングの世界で成功するためには「技術力」が大きなウエイトを占めるのは事実です。少なくとも基礎的なコンピューターサイエンスの素養は必要になります。ただしそれ以上に重要なのは、「自らの専門性を磨き続けようとする姿勢」や「仕事への誇り」です。

日本では往々にして「手を動かす人」を低く見る文化が残ってしまっていますが、海外の先進企業ではむしろその技術的貢献をリスペクトする体制が築かれています。自己変革と継続的な学習に励むことで、エンジニアは医師や弁護士のような高い専門性を持つ職業人として地位を確立しているのです。


9. 日本のエンジニアリングの課題と展望

9-1. なぜ日本は変化が苦手とされるのか

日本は高度経済成長期や製造業の全盛時代、「カイゼン」「品質管理」などの手法で世界をリードしました。しかし近年のデジタルシフトにおいては、変化のスピードが速すぎて既存のやり方が通じないケースが増えています。

また、いったん始めたことを止められない文化、ミスを過度に責め立てる風土、上下関係が厳しく権限委譲が行われにくい組織構造などが重なり合い、迅速な変化への対応が滞りがちです。こうした特徴はG7の中でも際立っているという調査もあるほどで、日本全体の課題と言えるでしょう。

9-2. 「下請け構造」と手を動かす人の低評価

IT業界においては「多重下請け構造」が、エンジニアの評価やモチベーションを大きく損ねています。本来は“モノを作る人”が社会の価値を支えていますが、発注側やコンサル側が「上流」とされ、実装を担うエンジニアは「下流」のように扱われるケースが多いのが現実です。

この構造は短期的なコスト削減やリスク分散には役立つかもしれませんが、長期的には国内のエンジニアの技術力を伸ばしにくくする負の側面があります。失敗の責任を押し付けられたり、低単価で長時間労働を強いられたりする中では、「技術を磨こう」という意欲や「最先端のチャレンジをしよう」という気概を保ちにくいのです。

9-3. 教育とキャリア形成への提言

日本でも個人のレベルでは、海外の大学院に留学したり、オンラインで最先端の講義を受講するなどの手段が増えています。企業サイドも、ジョブ型雇用や社内勉強会を活性化させるなど、一部では前向きな動きが始まっています。

しかし本質的な解決には「手を動かす人にこそ高い報酬が払われる」「技術的チャレンジを奨励する」「失敗した人を過度に責めない」文化を広げることが欠かせません。高校生や大学生が「エンジニアになりたい」とワクワクする未来を創るためにも、社会全体での認識改革が必要でしょう。


10. 高校生にも伝えたいエンジニアの世界

10-1. 進路としてのエンジニア

高校生の中には「エンジニアになりたい」と考えている人も多いでしょう。しかし一方で「理系の勉強が得意じゃない」「プログラミングは難しそう」といった不安を抱く声も珍しくありません。結論から言えば、確かに基礎的な数学や論理的思考がある程度必要にはなります。けれども「最初からできる人しかなれない」わけではないのです。

むしろ大切なのは「分からないことを面白がれる好奇心」や「新しい知識を吸収し、試す意欲」です。高校生のうちから簡単なプログラミングやロボット制御を体験することで、その魅力に気付くケースも多いでしょう。

10-2. 「文系でもエンジニア」は可能か

近年、「文系だけどエンジニアになった」という人も増えています。もちろん大手IT企業や海外の企業では、コンピューターサイエンスの学位が求められることが多いのも事実です。しかし、それと同等の知識を身に付ければ、学歴そのものが必須条件というわけではありません。

独学やオンライン学習サービス、プログラミングスクールなどを活用して、実力を示すポートフォリオを作ったり、インターンシップで経験を積むという道もあります。大切なのは「自分はこれを作った」「こんな課題を解決した」という実績を積むこと。学ぶのに遅すぎるということはありません。

10-3. 未来を見据えた学びのヒント

これからの社会では、AIやロボット、IoTなどがさらに進化し、エンジニアの需要はますます高まると考えられます。一方で、それらを適切に使いこなし、新しい価値を創出する人材も必要です。高校生の皆さんにとっては、大きなチャンスの時代でもあります。

  • 論理的思考:数学や情報科目を通じて、筋道を立てて考える力を養う
  • コミュニケーション能力:チームでモノを作るための議論やプレゼンテーションスキル
  • 英語力:最新情報は英語で得られるものが圧倒的に多い
  • 自学自習の習慣:テクノロジーの変化は早く、常に新しい知識に触れる

これらを意識しながら、日々の勉強や部活動、趣味などで経験を積んでいくことが、将来の糧になるでしょう。


11. エンジニアとして生きるとは――仕事観のまとめ

11-1. 生み出す楽しさと責任

エンジニアの仕事には、まるで魔法のように世界を変えてしまう可能性があります。新しいアプリが生まれ、それを使った人々の行動が変わり、産業構造や生活様式にまで影響を与えるかもしれません。これは大きな楽しさであると同時に重い責任でもあります。

11-2. 自己探求と社会貢献の両立

エンジニアリングの道は奥が深く、学びも終わりがありません。「こんなサービスを作りたい」「この問題を解決したい」という探求心を持ち続けている限り、エンジニアとしてのキャリアは尽きることなく広がっていきます。同時に、その成果を社会に還元することで、人々の生活を便利にし、世界を少しずつ良い方向に変えていくやりがいも得られるでしょう。

11-3. 失敗と成功を繰り返し、個人も世界も変わる

何度も述べてきたように、「失敗は絶対に避けるべきもの」ではありません。むしろ生産性やイノベーションを高めるための糧です。失敗を糾弾するのではなく、そこから学ぶ文化を育てることで、エンジニア個人の成長だけでなく、チームや社会の成長へとつながる道が開かれます。

エンジニアという職業の本質は「変化に立ち向かい、変化を起こす」ことです。これこそが、エンジニアリングが常に世の中に必要とされる理由なのです。


12. おわりに

12-1. 変化を恐れず、一歩ずつ進む力

ここまで述べてきたように、世界の一流エンジニアほど、変化に対してオープンであり、「理解すること」に時間と労力を惜しまない姿勢を持っています。大量のタスクをこなそうとするよりも、「いま最も価値の高いタスク(P0)」を明確化し、そこに集中する。分からないことは素直に周囲に尋ね、また周囲も気軽に断れるからこそ助け合いが機能する。その結果、一人ひとりが高い生産性と質を両立できるようになるのです。

12-2. まとめと今後の展望

  • 量よりインパクト
    インパクトの大きな仕事を見極め、そこにリソースを集中すること
  • 理解を深める
    「手を動かす前の理解」が長期的な品質と生産性を左右する
  • 失敗を生かす
    失敗は宝の山。そこから学習して、次の行動に活かす姿勢
  • チームでのコミュニケーション
    質問と断りを気兼ねなくできる環境が強いチームを作る
  • 変化する勇気
    計画を立てても状況次第で柔軟に変更する。その方が最終的な価値は大きい

高校生をはじめとする若い世代の皆さんには、大きな可能性が広がっています。テクノロジーの進化に伴い、エンジニアにはさらに多くの求められる領域が生まれるでしょう。重要なのは「変化は前提」と受け止め、学び続ける態度を持ち、挑戦を続けることです。エンジニアリングの世界は難しさだけでなく、大きなやりがいと達成感をもたらしてくれるはずです。

皆さんの一歩一歩が、未来の革新を生み出し、世界を少しずつ豊かにしてくれることを願っています。


【参考文献】

  1. 【仕事に圧倒的な生産性を】世界一流エンジニアは、タスクの量ではなく“インパクト”|いちばん重要な仕事をする「余裕」が大事|「速さ」より大切なこと|一番時間をかけるのは「理解」【米マイクロソフト牛尾剛】

  2. 【世界一流エンジニアのチーム作り】成果を上げるチームとは|人に頼るハードルを下げる|同僚と意見が対立したら?|無駄な会議はどんどん削ろう|「理解」ファーストで取り組もう【米マイクロソフト牛尾剛】

  3. 【世界一流エンジニアの自己変革法】日本のIT業界を変革するには/米マイクロソフトの考え方/日本人は型にこだわりすぎる【PIVOT TECH】

  4. 牛尾剛『世界一流エンジニアの思考法』

    • 文藝春秋 / 2022年
  5. その他参考

    • 『LEAN UX』(Jeff Gothelf, Josh Seiden)
    • 『LEAN STARTUP』(Eric Ries)
    • 『SCRUM BOOT CAMP THE BOOK ―スクラム実践者が知りたい全てが詰まった一冊―』

以上が「エンジニアの本質」について、高校生でも理解しやすいようにまとめた記事となります。エンジニアリングの世界は、日進月歩で進化を遂げています。変化を受け入れ、自らの力で課題を定義し解決する喜びは、何物にも代えがたい魅力です。ぜひ多くの方がエンジニアの道に興味を持ち、その本質を追求し、世界を変えていく一員となっていただければ幸いです。

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