趣味で宇宙開発を行う団体「リーマンサット・プロジェクト」がお送りする新春アドベントカレンダーです。
SONODA(@OzoraKobo)です。本業は組込みソフトエンジニアで、リーマンサットでは、RSP-00 と RSP-01 の通信系ソフト開発を担当していました。
9日目 @ytakuro0926さん 「C# & Unityで小型衛星姿勢制御ツールを作ってみた①」に続く、10日目の記事です。今回は開発のことではなく、技術書典7に出展するため制作した技術系同人誌、その名も「RSP-00『激レア』開発記」ができるまでの軌跡を書いていきます。
1.きっかけ
2019年2月、Developers Summit 2019 のセッション【15-E-8】アウトプットのススメ 〜技術同人誌・LT登壇・Podcast〜 で、技術書典の存在を知る。この時は自分で本を作るなんてすごい人たちがいるものだと感心するばかりだった。
同年4月、全体ミーティングのなんでもプレゼン(*1)で技術書典経験者のDさんから「リーマンサット・プロジェクト × 技術書典」で本を作りましょうと呼びかけがあった。rsp.と技術書典の親和性が高そうであり、RSP-00開発の記録を形として残せないかと思っていたことから、新たに作られた書籍作成サークルに加えてもらった。
2.気づかれなかった(?)企画発表
5月26日、1回目の編集会議。ここで秋の技術書典に向けてRSP-00の本を作ることと私が取りまとめ役になることが決まった。読み物をメインとし、
- 開発ストーリー(モデル 「東大 中須賀研究室CubeSat XI-IV物語」(http://www.unisec.jp/cubesatstory/xi-iv/index.html)
- 技術情報(活動報告書)
- Web掲載記事の再録
で構成する。順序や配分は未定。
6月2日、開発チームのLINEに開発エピソードの募集を告知するも他の話題に埋もれまったく反応なし。サークル内では動き出したので、追加アクションは起こさなかった。
3.技術書典7申し込み
6月5日、Dさんより9月22日開催との情報がもたらされる。
6月9日、個人で本を出すDさんとリーマンサットサークルとして私がそれぞれ申し込み、一方だけ当選したら相乗りすることに決定
6月28日、申し込み
一般コース,リーマンサット・プロジェクト,科学技術,1部 200冊
「リーマンサット・プロジェクトは、一般のサラリーマンや学生による民間宇宙開発団体です。文理を問わず様々なコミュニティやクリエイターとコラボレーションし、人工衛星開発を始めとして「身近なものを」を「宇宙」につなげる活動をしています。今回は、2018年秋に打ち上げ、国際宇宙ステーション(ISS)から放出された超小型人工衛星「RSP-00」の開発物語と技術資料をまとめた書籍を頒布します。」
4.企画の発表と執筆者募集
6月30日、全体ミーティングのなんでもプレゼンで企画と開発エピソードの寄稿募集を発表。反響なし!
手を上げてくれる人がいないどころか反響すらないとは自分の甘さを思い知らされ、いっそのこと落選してほしいと思いはじめた。 そんな中、サークルメンバーがいろいろと考えてくれている。ひとりじゃないないんだ。
5.当選 あとに引けなくなった
7月10日、Dさんから落選の報が届く。
技術書典のマイページを見にいってみると「入金待ち」という表示、サークルメンバーに「当選したっぽい」と伝える。
経験者のDさんから今後やらなければならないことが示された。
- サークルカットの作成
- 紹介文の作成
- 表紙などの装丁
7月21日、参加費を入金。これで本当に後に引けなくなった。
暫定の構成案を出し、サークルメンバーにテーマを示して執筆をお願いした。
6.執筆者再募集
7月28日、全体ミーティングのなんでもプレゼンで、当選の報告と再度の執筆者募集のお願い。
辞退するとペナルティ「本をつくって、出すしかない」と訴え
懇親会で何人かに直接執筆をお願いした。また、2名から執筆の申し出あり。本当にありがたい。
7.原稿の締切迫る
9月10日までに入稿すれば割引が適用されるそうなので、原稿の締め切りを8月末におき、その後の10日間で編集することとした。
執筆は大変な作業だ。1ページが全部文字だとすると1,000~1,100字、Twitterの140字を書くのでさえ時間がかかる私が頑張って書いた原稿がちょうどそれくらい。このままでは薄っぺらい本になりそう。
8月は私の仕事が超忙しく、原稿取りまとめと粗編集はKさんお任せになってしまった。RSP-00 PMのSさんが長ページの開発記を執筆中である。私じゃない方が、物事が進むんじゃないかという気になる。
8月下旬、締切が近づき、ぼちぼち原稿があつまってきた。私も、締切当日、出張帰りの新幹線で残りの1本を書く。
9月3日 著者自身による修正が終わり、すべての原稿が出そろった。忙しい中、原稿を提出してくれた執筆陣には感謝しかない。
8.編集 Wordあるあるに悩まされる
9月6日、原稿締め切り前から原稿およびコンパクト化した活動報告書の統合・編集をしてくださっていたKさんから編集を引き継ぐ。
まず取り組んだのはページ数の削減、ページ数が多いほど製本費用が増えるため売れ残りリスクを考えると少しでもページ数を減らしておきたい。余白を若干減らし1ページ当たりの字数を増やすことによって、280ページを260ページ台にまで減らすことができた。
次に行ったのが、見出しや箇条書きのフォーマット、インデント幅など体裁に統一性を持たせ整えること。しかし、そこに手を出してしまったが故、レイアウトが一時ぐだぐだに、項番や図表番号が思いどおりにならないとか、ヘッダの章内容を変更したら別の章まで変わってしまったりとか、Wordのあるあるに悩まされた。
表紙は私が画伯と呼んでいるNさんに依頼したイラストができあがっていて、それを使ってデザインセンスのあるN君が表紙に仕上げてくれた。LINE上で意見を出し合いながら、表紙が仕上がっていくのは楽しく、みんなで作ってるライブ感があってとてもよかった。
9.入稿データの作成 モノクロPDFの作成に悩む
入稿予定日前日の9月10日、21時過ぎに仕事から帰り22時頃入稿データの作成を始める。今回作成する本は表紙がカラー、本文は白黒印刷であり、表紙はPhotoshopデータ、本文はWord文書をPDFに変換して入稿する。
本文のPDFはフォントを埋め込む必要があり、印刷会社(日光企画)ではWordのエクスポート PDF/XPSドキュメントの作成からPDFに出力することを推奨している。しかし、これではカラーのPDFになってしまい、白黒印刷の入稿データとして使うことができない。白黒のPDFにする手は2つ、Word文書を白黒にするか、カラーPDFを白黒に変換するかだ。Word文書の白黒化は、図や写真をひとつずつモノクロに変換する必要があり、また、カラーの電子書籍版の販売も行うのでドキュメントを二重管理したくないこともあり断念。PDFの白黒変換の方法を探った。だが、お金をかけずにすぐできる方法は見つからなかった。ひょっとしたら会社員時代仕事で使っていたCubePDFで変換できるかもしれないと思い、インストール。残念ながら白黒に変換する機能はなかったが、Wordから白黒PDFに出力できることがわかった。フォントの埋め込みができれば入稿データとして利用できるかもしれない、いや、もうそうするしかなかった。出力されたPDFのプロパティをチェック、フォントが埋め込まれていることを確認。
表紙は、日光企画のサイトからA5表紙用テンプレートをダウンロードし、Photoshopで編集する。まず、本文の紙質とページ数から背表紙の幅を計算、その幅に収まるように背表紙の文字を入れた。次に、K君が作ってくれた表紙の画像データを背表紙の半分だけ右にずらした位置に貼り付け。裏表紙には、表紙のイラストを描いてくれたNさんの別のイラストとrsp.のロゴを配置。こちらはすんなりと終わった。
この夜は、午前2時からAppleのWWDCキーノートスピーチの中継があったのだが、再生していたもののほとんど注意を向けることができなかった。入稿データ作成を終えたのは中継がすでに終了しいた4時半だった。
10.入稿 不安だったので持ち込み入稿
入稿データを持ち込むとその場でチェックしてくださるそうなので、私にとって初めての同人誌づくりであり持ち込むことにし、9月11日午前、御茶ノ水の日光企画さんを訪れた。
まず、申込書に書名、住所氏名等を記入、あとは担当の方が話を聞きながら記入していった。
製本の仕様と料金
製本は、表紙が4色フルカラークリアPP、本文は上質紙90kg オフセット印刷スミ刷りを選択、264ページ×100冊で表紙・本文セット料金(PP貼りのセット 早割りセット)の場合と、表紙・本文個別の場合で料金の試算結果を示してくれた。セットは早期割引20%が適用され、思ったより安くなったので150冊に変更、表紙と本文の間に遊び紙という印刷しないページを入れることができる(有料で3円/ページ)、入れると高級感がでる気がして追加することにし、rsp.のロゴカラーに近い水色を選んだ。搬入料金は、技術書典7ブース搬入でサービス。トータルで100,100円となった。
入稿データのチェック
USBメモリに入稿データをコピーして渡す。はじめは表紙のチェック、位置や貼り付けた画像の解像度・画質がチェックされた。表紙の帯っぽいところが背表紙に1mmくらいかかるかもしれないのと裏表紙のイラスト画像の画質がよくないことが指摘されたが、構わないと伝えた。そして、本文では、PDFのプロパティを開きフォントが埋め込まれていることを確認、次に頭から末尾までなめるようにスクロールしていった。最後の2ページにページ番号がなかったのを指摘され、その場で修正。CubePDFの出力でも問題なかったようで、1回で入稿は終了した。
11.なんと入稿データ修正の要請
入稿した日の夕方日光企画さんから電話、本文はまえがきから目次まではローマ数字のページ番号、第1章から通常のページ番号をつけていたのだが、1ページ目から通しのページ番号(ノンブル)が必要とのこと。ノンブルは綴じたら見えなくなるところにつけるそうだが、Wordでできるのかできないのかわからなかったので、不本意ながら1ページ目から通常のページ番号につけ直しデータを送付した。その後、指摘はなく紙の本は技術書典当日を待つばかりとなった。
12.電子書籍版の作成
技術書典7では、紙の本の他に電子書籍(PDF)版の販売を行う。Word原稿に表紙・裏表紙を追加しPDFにする。こちらはフルカラーなので、Wordのエクスポートで出力した。電子書籍版は、ダウンロードのURLと解凍パスワードが印刷されたダウンロードカードを販売するしくみである。ダウンロードカードの作成と電子書籍版の販売サイトの準備は、はじめに編集を担当してくれたKさんが行った。
13.技術書典7 当日を迎える
9月22日技術書典7当日、出展者なのにさんざん待たされたあげくリーマンサット・プロジェクトのブースにたどりつくと、本の入った段ボール箱が積まれていた。売れ残ったら持ち帰ることができるのだろうかというほどのボリュームである。そして、ご対面、思った以上にしっかりしたちゃんとした作りだった。
最低目標は黒字になる77冊以上売れることだったが、当日参加してくれたメンバーの頑張りにより110冊を購入していただくことができた。また、ダウンロードカードは21枚購入していただけた。
当日の様子を知りたい方は、Twitterの検索で“@rymansat 技術書典”を検索していただきたい。
14.その後
技術書典の後手に入った本をチェックしたところ、文字の欠け、位置ずれやフォントの不揃いなど細かいミスが見つかった。そして、著者の一人からの指摘で、著者名を取り違えるという大ミスが発覚。残った本には訂正シールを貼り、ダウンロード版PDFは細かなミスの修正と合わせて訂正し第2刷としてリリースした。
売れ残った紙版の本は、おかげさまで11月23日に開催されたリーマンサット5周年イベントでほぼ完売、12月22日の全体ミーティングで完売となった。また、8冊を広報部外部メディア課に移管、お世話になった方への献本や、外部メディアに資料として提供される予定。
* * *5周年文化祭のブースご紹介。こちらは #リーマンサット 書籍サークル📚。#技術書典 で販売した『RSP-00「激レア」開発記 ~趣味で人工衛星を開発して、宇宙にいっちゃいました~』🤗ご要望多数のため、抽選販売しました!#宇宙開発
— リーマンサット・プロジェクト (@RymanSat) December 2, 2019
『RSP-00「激レア」開発記 については👇https://t.co/qknivVVbTi pic.twitter.com/1e1G8sWNXk
電子書籍版(PDF)をBOOTHで販売中
【電子書籍版】RSP-00「激レア」開発記
https://booth.pm/ja/items/1576318
リーマンサットが出展するイベントで、見本誌の展示やダウンロードカードの販売をすることがあります。見本誌を手に取ってみて、興味が出たら電子書籍版の購入をご検討ください。購入代金は衛星の開発費に充当いたします。
リーマンサット・プロジェクトは「普通の人が集まって宇宙開発しよう」を合言葉に活動をしている民間団体です。
他では経験できない「宇宙開発プロジェクト」に誰もが携わることができます。
興味を持たれた方は https://www.rymansat.com/join からお気軽にどうぞ。
次回 11日目は @Ushinjiさんの「バーチャル地球儀上で、国際宇宙ステーションの現在位置が分かるWebアプリの開発」です。