この投稿はWARPSPACE Advent Calendar 2020の17日目の記事です。
2020年 WARPSPACEのアドベントカレンダー2回目の登場となる園田です。技術寄りの内容なのでQiitaに書きます。
今年は、セオドア・メイマン(Theodre Harold Maiman, 1927-2007)が1960年に世界初のレーザー発振に成功してからちょうど60年になります。そこで、還暦を迎えたレーザーについて振り返りたいと思います。
レーザーとは
レーザーをライブステージで赤や緑の細い光線が動き回るのを目にされた方は多いと思いますが、細くてまっすぐ進む光線はレーザーの特徴ひとつです。CDやDVDに書き込まれたデータの読み取り、スーパーのバーコードリーダーや光通信など身近なところでも使われています。また、高いエネルギー熱を発生させて物体の切断や溶接にも使われています。近年は、レーザーによる衛星通信も実用段階になってきました。
では、レーザーとは何でしょうか。理化学辞典を引いてみると
誘導放出を利用した光の増幅器または発信器。light amplification by stimulated emission of radiationの頭文字をとって名づけられた。はじめは光メーザーとよばれた。代表的な型のレーザーは光共振器の中に入れたレーザー媒質を励起して反転分布状態にして動作させる。(中略)レーザーは、他の光源の発生する自然放出光とちがって、ほとんど完全に位相のそろったコヒーレントな光波(コヒーレント光)を発生するので、レーザー光はスペクトル幅のきわめてせまい単色光で、干渉性がいちじるしく、指向性鋭い細いビームとなっている。
これを書くにあたり、いくつかの文献をあたり、わかったつもりではありますが、説明する自信はありませんので、以下を見ていただきたいと思います。
レーザーが生まれるまで
1951年
コロンビア大学でアンモニア分子のマイクロ波スペクトルを研究していたチャールズ・ハード・タウンズ(C.H.Townes)は、反転分布(上準位の電子数を下準位の原子数が多い状態)をさらに大きくして実験すれば、アンモニアのスペクトルでマイクロ波の増幅器や発信器が作れそうだと考えた。
1954年
タウンズと大学院生のジェームズ・P・ゴードン(J.P.Gordon)と博士研究員のハーバード・J・ザイガー(H.J.Zeiger)が実験に成功。メーザー(Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation:誘導放出によるマイクロ波の増幅)と呼ぶ。メーザーは、水晶発信器より安定度に優れ、増幅器としても従来の増幅器よりもはるかに低雑音であった。
1955年
ソ連のP.N.レベデフ物理研究所のニコライ・G・バソフとアレクサンダー・M・プロホロフが、ポンピング法と呼ばれるnegative absorption(負の吸収?)の生成方法を提案
タウンズ、バソフ、プロホロフの3人は、1964年に「量子エレクトロニクス分野の基礎研究および、メーザー・レーザー原理に基づく振動子・増幅器の構築」でノーベル物理学賞を受賞
1956年
ハーバード大学のニコラス・ブルームベルゲン(N.B.Bloembergen)がマイクロ波固体メーザーを提案
1957年
コロンビア大学の大学院生ゴードン・グールドが、レーザーを構築するためのアイディアを公表(レーザーの最初の使用と言われる)
1958年
メーザーは、真空管発信器では発生できないような短波長のミリ波やサブミリ波の発信器になり得ると期待され、研究が進められてきた。
タウンズとベル研究所のアーサー・L・ショーロウ(A.L.Scawlow)は、サブミリ波を通り越して、赤外か可視光でのメーザー発振の方が可能性が高いという「赤外および光メーザー」と題する論文を発表。この論文はレーザーの可能性を詳しく論じたもので、研究者の間にレーザーフィーバーを引き起こした。
1960年5月16日
ヒューズ研究所のセオドア・H・メイマン(T.H.Maiman)が、初のレーザー発振に成功した。
そのレーザーは、両端を銀でコーティングした直径1cm、長さ2cmのルビーを取り巻くらせん状のフラッシュ放電ランプでできており、ランプの添付によりレーザーの点滅を確認できた。
5月16日は、2018年ユネスコにより「光の国際デー(International Day of Light)」として制定された。
メイマンは、「ルビーにおける光の誘導放出(Scimulated Optical Radiation in Ruby)」というタイトルの300語弱の論文を学術雑誌「Nature」に発表した。(1960年8月6日)そして、特許を申請し、1967年11月14日に取得した(US3353115A)。
1960年12月12日
ベル研究所のジャバン、ウィリアム・ベネット、ドナルド・ヘリオットは、ヘリウムネオン(HeNe)レーザーで、1.15μmのビームを常温での連続発振に成功した。
1962年
ベル研究所が、最初のイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)レーザーを報告
1964年
ベル研究所クマール・パテルが炭酸ガス(CO2)レーザーを発明
半導体レーザー
1962年
米国では半導体レーザーの競争が行われており、4つのグループがほとんど同時に発疹に成功した。
GE研究所のロバート・ホール(R.N.Hall)のグループが、液体窒素で冷却したGaAsダイオードレーザで初の半導体レーザー発振(パルス発振)に成功した。IBMのマーシャル・ネイサン(M.I.Nathan)のグループ、MITのテッド・クイスト(T.M.Quist)のグループもそれぞれ独自のGaAsレーザーの発振に成功した。
また、GE半導体事業部のニック・ホロニャック・ジュニア(N.Holonyak Jr.)はGaAsにリンを加えたGaAsPで赤色レーザーの発振に成功した。
その後、InAs、InPをはじめとする多くの化合物半導体でレーザー発振が観測されたが、1960年代後半になると、使いにくさから半導体レーザーへの関心が急速に失われていった。
1970年
GaAlAs/GaAsダブルヘテロ構造レーザーの発明によって、発振に必要な光増幅率が簡単に得られるようになり、適当なヒートシンクを装着したレーザーで室温連続発振が可能になった。
1970年代後半
日本の電気メーカーが半導体レーザーの安定化技術でアメリカのレベルを凌駕するようになり、光通信だけでなくさまざまな分野への応用研究が広がり始めた。
- レーザーディスク(LD) 1978年発売(HeNeレーザー、その後半導体レーザー)
- コンパクトディスク(CD)1982年発売(780nm GaAlAsレーザー)
- 半導体レーザーのレーザープリンター 1979年発売(GaAsレーザー)
レーザーを発明するきっかけとなった気体分子によるマイクロ波発信の可能性から半導体レーザーの発展までを時系列で振り返ってみた。1958年当時は光メーザーと呼ばれていたレーザー発振の可能性が示唆されてからの数年間は、世界中の研究者が可能性を追い求め、国際会議ではライバルと情報交換も行うという “Chase one chance”と“Decide with fact”を体現していた時代ではなかったかと思う。
私とレーザー
1988年
卒論の一環で、ステッピングモーターとボールねじからなるアクチュエータで光センサを移動させ、1軸の光強度を測るシステムを作成し、He-Neレーザーの回折光の強度分布を測定した。暗い光学実験室に 一人こもって開発・実験をしたのは、なつかしい理系的青春の1ページである。
光衛星通信の新たな1ページを
光衛星通信の主な実績
- 技術試験衛星きく6号(ETS-VI,静止衛星,日)が静止軌道⇒地上の光通信に成功(1994年)
- ARTEMIS(静止衛星,欧州)-SPOT4(低軌道衛星,仏)が、低軌道⇒静止軌道の衛星間光通信に成功(2001年)
- ARTEMIS(静止衛星,欧州)-きらり(OICETS,低軌道衛星,日)が、静止軌道⇔低軌道間の衛星間光通信に成功(2005年)
- NFIRE(低軌道衛星,米)- TerraSAR-X(低軌道衛星,独)が、低軌道⇔低軌道間の衛星間光通信に成功(2008年)
- EDRS(静止衛星,欧州)- Sentinel-1(低軌道衛星,欧州)が、静止軌道⇔低軌道間の衛星間光通信の実証試験を実施(2013-16年)
- EDRS-C(静止衛星,欧州,2019年打ち上げ)が2021年以降Pléiades Neoとの光データ中継を計画
- JDRS(静止衛星,日,2020年11月29日打ち上げ)がALOS-3,情報収集衛星との光データ中継を計画
- LCRD(静止衛星,米,2021以降打ち上げ予定)
このように、光衛星通信では日本が世界に先んじた成功を収め、現在は日米欧が実用化を目指してしのぎを削っている状況である。
WARPSPACEでは、現在光通信による衛星間データ中継サービス"WarpHub InterSat"構築のため、開発を進めている。2023年、レーザーの歴史に新たな1ページが加えられることを期待して待っていてほしい。
参考文献
- 霜田光一:レーザーがもたらしたもの,応用物理 Vol.79 No.6 487 (2010)
伊藤良一,茅根直樹:半導体レーザーの歩みと今後の展開,応用物理 Vol.79 No.6 496 (2010) - Melinda Rose, Hank Hogan:"A History of the Laser: 1960 - 2019", Photonics Media (2019)
- Jeff Hecht:"Short history of laser development", SPIE Digital Library (2010)
- "60 years of laser", DPMA (2020)
- "Bright Idea: The First Lasers", American Institute of Physics
- NICT宇宙通信研究室:高速・大容量な光衛星通信技術の衛星への適用等に向けた研究開発,NICT(2017)
- NICT宇宙通信研究室 豊島守生:光衛星通信システムの研究開発の動向,NICT(2019)
- Airbus expands its SpaceDataHighway with second satellite, AIRBUS News Release (16 Jul 2020)
- Laser Communications Relay Demonstration:Introduction for Experimenters, NASA (Jul 2019)
おわりに
ここまでお読みいただきありがとうございます。WARPSPACE Advent Calendar 2020では、のべ15名が各々趣のある記事の投稿を予定しています。よかったら、他の記事もご覧ください。