はじめに
前回、使い衛星が発信するCWテレメトリ信号を受信してみたい方向けに、八重洲無線のCATコントローラ搭載トランシーバを使用しCALSAT32で受信周波数のドップラー補正を行うための日常設定の手順を解説する記事を投稿した。「CALSAT32を使って衛星のCWテレメトリを受信する」今回は、2021年3月14日にISSから放出された超小型衛星のCWテレメトリ(ビーコン)をアイコムのIC-705で受信する手順を解説する。
IC-705
IC-705はアイコムのHF~430MHzオールバンド・オールモードトランシーバーで、バッテリー搭載でアウトドアに持っていけるところやウォーターフォール表示機能(リアルタイムスペクトラムスコープ)で人気が出ている。かく言う私もウォーターフォール表示でこの機種を購入した。
IC-705はパソコン等から外部コントロールできるCI-Vシステムを搭載しており、CALSAT32を使った受信周波数のドップラー補正を行うことができる。また、USBケーブルでパソコンとつなぎUSB仮想シリアルポートで通信を行うことができる。なお、IC-705にはサテライトモードがないので、これ1台で衛星通信を行うことはできない。
USB AF/IF出力機能を持ち、USBで接続したパソコンにサウンド入力デバイスとして扱うことができる。CI-Vと共通のUSBケーブル1本で、受信周波数のドップラー補正とソフトを利用したCWデコードを同時に行うことができる。
CI-Vアドレス設定
- CI-Vシステムには機種を表すアドレスがあり、機種毎に固有のアドレスが割り当てられている(IC-705はA4h)。
- CALSAT32はC-820(42h)、IC-910(60h)の制御を行うことができるがアドレスが異なるためそのままではIC-705の制御を行うことができない。
- そこで、IC-705のCI-Vアドレスを60hに変更し、IC-910のふりをさせる。(取扱説明書 13-14 ■外部端子 > CI-Vアドレス)
PCシリアルポートの設定
ポート番号の確認
- IC-705とWindows PCをUSBケーブルで接続し、IC-705の電源を入れる。
- コントロールパネルからデバイスマネージャーを開き、「ポート(COMとLPT)」でIC-705 Serial Port Aのポート番号を確認する。IC-705のシリアルポートとしてSeial Port AとSerial Port Bが表示されるが、CI-Vとして使用するポートはAである。
- ポート番号は同じケーブルやUSC-シリアル変換アダプタを使う限りあまり変わることがないので毎回行う必要はない。
CALSAT32のシリアルポート設定
IC-901コントロールパネルを開く
- CALSAT32を起動し、コントロール(R) > トランシーバ(T) > IC910(9) を選択すると、FT910コントロールパネルが開く。
シリアルポートを設定する
スピードを設定する
- IC910コントロールパネルの シリアルポート > スピード を選択し、トランシーバで設定された通信速度に設定する(デフォルトは96)
軌道要素ファイルの更新
データ取得
- CALSAT32メインウィンドウの ファイル(F) > 軌道要素ファイルの更新(K) を」選択すると、軌道要素の更新・追加ダイアログが表示される。
- 「データ取得」ボタンを押すと、最新の軌道要素がダウンロードされる。
- 軌道要素データは、AMSATやcerestrak.comで提供されている。2021年3月14日にISSから放出された8機の超小型衛星の軌道要素データ(TLE)は、http://celestrak.com/NORAD/elements/cubesat.txt に登録されているので、このデータを取得する。(すべてではないがSpace StationsやAMSATにも登録されている。受信したい衛星のTLEが登録されたデータを選んでほしい)
軌道要素を更新する
- 初めてデータを取得したときは、「新規更新」、2回目からは「追加更新」または「既存更新」を押す。(例は既存更新の場合)
- 次に、確認ダイアログの「OK」を押す。
- 更新が終了すると再度確認ダイアログが表示される。「OK」を押すとCALSAT32が終了する。
衛星グループ設定ファイル(GROUP.TXT)の編集
- CALSAT32で衛星の軌道予測とドップラー補正を行うには、CALSAT32のインストールフォルダにある衛星グループ設定ファイル(GROUP.TXT)に衛星を登録する必要がある。
軌道要素ファイルの確認
- まず、同じフォルダにある軌道要素ファイル(ELEM.TXT)で目的の衛星の軌道要素の有無と衛星名を確認する。
- この衛星名は衛星グループ設定ファイル(GROUP.TXT)や衛星情報ファイル(SATINFO.TXT)で使用する。
例)2021年3月14日にISSから放出された8機の超小型衛星は、WARP-01, RSP-01, TAUSAT-1, TSURU, STARTS-EC, MAYA-2, HIROGARI (OPUSAT-II), GUARANISAT-1で登録されている。
WARP-01
1 47924U 98067SA 21106.90304166 .00011651 00000-0 20995-3 0 9997
2 47924 51.6423 285.6142 0005036 234.6393 125.4126 15.50247951 5242
RSP-01
1 47925U 98067SB 21106.90030302 .00009765 00000-0 17689-3 0 9995
2 47925 51.6432 285.5984 0002528 163.4906 196.6166 15.50317932 5227
TAUSAT-1
1 47926U 98067SC 21107.02298006 .00012745 00000-0 22536-3 0 9996
2 47926 51.6425 284.9174 0003736 168.5931 191.5143 15.50693652 5236
TSURU
1 47927U 98067SD 21106.96504824 .00008716 00000-0 15896-3 0 9991
2 47927 51.6425 285.2804 0002506 161.0418 199.0665 15.50279174 5234
STARS-EC
1 47928U 98067SE 21106.90163506 .00007943 00000-0 14590-3 0 9995
2 47928 51.6424 285.6050 0005810 240.5754 119.4655 15.50210379 5202
MAYA-2
1 47929U 98067SF 21106.89987882 .00008858 00000-0 16125-3 0 9997
2 47929 51.6426 285.5952 0002652 158.5227 201.5873 15.50309872 5188
HIROGARI (OPUSAT-II)
1 47930U 98067SG 21107.09326763 .00014060 00000-0 25051-3 0 9997
2 47930 51.6428 284.6370 0002627 159.7488 200.3606 15.50381991 5251
GUARANISAT-1
1 47931U 98067SH 21106.89959930 .00008997 00000-0 16357-3 0 9994
2 47931 51.6432 285.5939 0002709 158.2357 201.8748 15.50324414 5225
衛星名を衛星グループ設定ファイルに追加する
- ひとつのグループに6個まで衛星を登録することができる。(軌道の近い衛星を同じグループに登録すると可視範囲の円が重なってわかりにくくなるので注意)
- ここでは、CWテレメトリ(ビーコン)の周波数が430MHz帯の衛星をグループE、144MHz帯の衛星をグループFに登録する。
@グループE
TSURU
STARS-EC
WARP-01
@グループF
HIROGARI (OPUSAT-II)
RSP-01
衛星情報ファイル(SATINFO.TXT)の編集
- CALSAT32で衛星の位置に合わせて周波数のドップラー補正を行うには、CALSAT32のアプリケーションフォルダにある衛星情報ファイル(SATINFO.TXT)に衛星と周波数・モードを登録する必要がある。
- SATINFO.TXTには衛星毎に周波数・モードが記載されている。周波数は1個ないし3個あり、上から順にIC-910コントロールパネルのビーコン周波数、アップリンク周波数、ダウンリンク周波数に対応している。
- ここでは、グループ設定ファイル(GROUP.TXT)のグループEとグループFに登録した衛星のCWテレメトリ(ビーコン)周波数を追加する例を示す。
- SATINFO.TXTをエディタで開く
- @衛星名 を検索し、あればそこを編集、なければ追加する
- [追加の場合] ファイルの末尾に移動し、下記のように記述する(CWテレメトリしか聞かないので1番目だけ記述)
- SATINFO.TXTを上書き保存し、エディタを閉じる
@TSURU
437.375 CW
@WARP-01
437.425 CW
@STARS-EC
437.245 CW
@HIROGARI (OPUSAT-II)
145.900 CW
@RSP-01
145.810 CW
@終わり(SATINFO)
以下は、コメント。
受信する
衛星を選択する
- CALSAT32のメインウィンドウ右下の矢印ボタンで、目的の衛星を選択する。
- 例では、メニュ-バーの下に XW-2A,XW-2F,CAS-4A,CAS-4Bが表示されており、ハイライト表示されたCAS-4Aが選択されていることを示している。
- 画面左下のリストは、観測点(ファイル(F) > 観測点の設定と変更で設定)における衛星の可視時刻(JST)と方向を表している。
- DATE : 日付
- AOS : 可視開始時刻 方位 MA
- MAX El : 最大仰角時の時刻 仰角(水平線から衛星方向までの角度) 方位
- LOS : 可視終了時刻 方位 MA
※方位は北を0°としたときの時計回りの角度
※MAは衛星軌道上の位置 近地点を0、左回りで遠地点を128、一周して近地点を256とする
- 地図上の丸印の色と衛星名左の色が対応しており、各衛星の現在位置がわかる。また、衛星の周囲にある輪がその衛星の可視範囲を表している。
- ウィンドウ右の円には観測者の可視範囲の衛星の予測進路が点で示される。足跡のボタンをクリックすると、現在選択されている衛星の予測進路が表示される。
- 衛星が可視範囲に入ると衛星が丸印で表示され、航跡が実線で表示される。
これより先は、WARP-01のCWテレメトリ(ビーコン)の受信を例に説明する。
- 上または下向きの矢印ボタンでWARP-01を含むグループを表示させ、次にWARP-01を選択する。
ドップラー補正の設定
- IC910コントロールパネルパネルの ドップラ補正メニューを選択し、衛星固定を選ぶ。(衛星固定がデフォルト)
CALSAT32をIC-705に接続する
- IC910コントロールパネルパネルの「COM」ボタン、「CAT」ボタンを順に押すあと、CALSAT32とIC-705が接続され、IC-705の周波数・モードがビーコン周波数に表y時された周波数とモードに切り替わる。
- 次に、「FREQ」ボタンを押すと、SATINFO.TXTに登録された周波数・モードに切り替わる。
受信開始
- 衛星の可視時間が近づいてきたらドップラー補正を開始する。CALSAT32 メインウィンドウ左下のリストが可視時間を示しており、実際に衛星を目視できるわけではないが、AOSが見え始め、LOSが見え終わりの時刻である。
*「NOR」ボタンと、「DOP」ボタンをドップラー補正を開始する。トランシーバーの周波数表示が変わり、時間とともに周波数が変わっていくはずだ。
受信周波数の微調整
- 受信されたCWのトーンが低かったり、逆に高かったり、あるいは、CWが聞こえないときはつまみで受信周波数を可変することができるRIT機能で調整できる。(取扱説明書 4-3 ■RIT(リット)機能
- ウォーターフォールがに信号が見えたとき、それがセンターに近づけるようにMULTIつまみを回す。
IC-705の機能を使う
録音
- IC-705はmicroSDカードに受信内容を録音することができる。(取扱説明書 7-1 ■交信(QSO)内容を録音する)
- 録音開始:QUICKボタン押下 → 《録音開始》をタッチ
- 録音終了:QUICKボタン押下 → 《録音停止》をタッチ
- IC-705をCI-Vで制御中(IC910コントロールパネルでCI-V選択状態)はクイックメニューの録音開始/録音開始ができないので、CI-V制御開始前に録音を開始し、CI-V制御終了後に録音を終了する。