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宇科連2020 放射線耐性に関する講演まとめ

Last updated at Posted at 2020-11-22

 第64回宇宙科学技術連合講演会[主催 日本航空宇宙学会 2020/10/28-30 オンライン開催]の講演の中から放射線耐性に関する講演を紹介する。

はじめに

 地球上は、昨今の異常気象や自然災害があるとは言っても非常に安定した環境である(だからこそ生まれてきた生物が進化しながら今も生き続けているわけ)。その理由として、大気の温室効果によって気温が保たれ、地磁気と大気によって太陽や宇宙から降り注ぐ高エネルギーの放射線を防いでくれることがあげられる。逆に、大気のない宇宙ににいくと、日向と日陰で激しい温度差にさらされ、弱くなる地磁気で放射線にもさらされるようになる。従って、人工衛星は、大きさがわずか10cm立方の超小型衛星であっても、真空状態での高低温と温度変化や放射線に耐える設計や部品選定が行わなければならない。

 宇宙機(宇宙船や人工衛星のこと)は放射線にさらされるため、放射線に強い(放射線耐性の大きな)部品が使われる。宇宙用として高い信頼性と放射線耐性を持つ既製部品が販売されているが、ちょっと調べてみたところ小さなFPGAが高級車ほどの値段で大変驚いた。宇宙用部品は非常に高価であるため、非宇宙用の市販部品(COTS:Commercial Off-The-Shelf 市販品のことなので宇宙用も含まれることになるが非宇宙用のことを指すようだ)を採用する動きがトレンドになっている。宇宙での実績がなかったり、放射線耐性が未知数の部品は、採用可否を判断するため実際に放射線を当てる試験が行われる。昨年の宇科連の革新的衛星技術実証のセッションでは、必ずといっていいほど放射線試験の実績が尋ねられていた。

半導体の放射線による影響

トータルドーズ効果 (TID:Total Ionizing Dose effects)

放射線が半導体デバイス内を通過したときに発生した電離現象によりしきい値電圧のシフトやチャンネル移動度の低下が起こる。放射線の種類やエネルギーによらず、それらが発生させた電離の総量で決まり、入射放射線量が多くなると特性劣化も大きくなる。

シングルイベント(SEE:single-event effects)

単一荷電粒子の入射により半導体デバイス内部で発生する電荷が引き金となり誤動作や破壊に至る現象である。発生する現象には、発生電荷により記憶情報が反転してしまうシングルイベント・アップセット(SEU:SingleEvent Upset)、発生電荷が引き金にな り寄生サイリスタをオンさせてしまい意図しない電流が流れてしまうシングルイベント・ラッチアップ(SEL:Single Event Latchup)などがある。

講演より

2C05 レーザのトータルドーズ耐性試験

〇守屋 佑一,渡邊 実(静大)

 FPGAの回路構成は、ROMに記録された回路情報をFPGAのコンフィグレーションメモリに転送することに行うが、1か所でも故障があると再構成ができない。そこで、ホログラフィックメモリに書かれた情報をレーザー光で書き込むことによって再構成を行う「光再構成型ゲートアレイ(ORGA)」が検討されている。今回、2種類のレーザーダイオードのTID試験を行い少なくとも40Mradの耐性があることがわかった。

2I17 1U CubeSatによるシングルイベントラッチアップ防護素子の実証実験

〇村瀬 友顕,趙 孟佑,増井 博一,金 相均(九工大),Wei Shu,Chang Joseph(Nanyang Technological University)

 これまで九州工業大学で開発した衛星には、COTS部品を用いた過電流保護回路が搭載されているが、リミット電流を変更することができなず(変更する場合は抵抗を付け替える必要がある)、過電流後、再びONするには外部から制御が必要である。南洋理工大学(シンガポール)が提供するLDAP(Latch-up Detection and Protection)と呼ばれる防護素子は、1チップデバイスで、制限電流はプログラミングベースで変更可能、SELが発生すると自動的にOFF/ONすることができる特徴を持つ。EMにおいて放射線試験を行い、SEL保護が行われることが確認された。この防護素子が搭載される衛星「BIRDS-4」(3機)はJAXAに引き渡され、2021年中にロケットでISSに運ばれたのちに、日本の実験棟「きぼう」より放出される予定。(※LDAPの放射線耐性は測定されているが外部非公表)

3L05 宇宙用高速通信カメラシステムのためのイーサネットデバイスの放射線耐性評価

〇山口 知朗,木村 真一(東理大)

 画像情報を利用したミッションの増加に対し、小型化、低コスト、高速通信インターフェイスが求められている。そこで、宇宙用高速通信カメラシステムのためのイーサネットIFデバイスに着目した。イーサネットは、Ciscoのルーターが軌道上実証に成功し(2009年)、SpaceXがロケット内の通信インターフェイスとして採用している。2種類のイーサネットデバイスについて、1種類はTIDとSEE試験、もう1種類はSEE試験を行なった(TIDはガンマ線照射、SEEはプロトン照射)。前者のデバイスではSEU未発生、SELが発生し、後者のデバイスではどちらも発生しなかった。TIDは今後試験する予定。

3L06 民生FeRAMの宇宙利用に向けた放射線・熱環境評価

〇山下 智輝,木村 真一(東理大)

 放射性耐性が高いと言われるFeRAMに着目した。FeRAMは強誘電体メモリで、不揮発性、高書き換え耐性、高書き換え速度、高い放射線体制(放射線による分極の頻度が低い)、低消費電力という特長を持つ。2種類のFeRAMについて、1種類はγ線照射試験(TID)、プロトン照射試験(SEE)、熱衝撃試験、もう1種類は熱衝撃試験のみを行なった。TID試験では、途中電流上昇し動作が停止したが、FeRAMに故障はなくマイコンの故障とみられる。SEE試験では、SEUによるデータエラー、SELによる電流上昇は見られなかった。

4C11 冗長MEMS IMU(MARIN)の軌道上実証計画の検討

〇小見山 瑞綺,松本 秀一,桜井 康行,嶋根 愛理(JAXA),森口 孝文,川淵 綱貴,内納 亮平,堂山 英之(住友精密工業)

 近年の車載用部品は品質向上がめざましく、温度・振動環境の要求値も高く、ロケット用部品の要求と大差ない。車載用とロケット用部品の要求の差は放射線耐性の要求の有無のみで、回路技術により放射線耐性を持たせることが可能であることがわかった。冗長MEMS IMU(MARIN)は、MEMS加速度計、MEMSジャイロ(直交3軸)、車載MPU2式を搭載した、慣性計測装置である。主要部品は単体部品のでの放射線試験を実施し、放射線耐性がある程度あることを確認済みで、MARINの基板にプロトンを照射し、放射線エラー発生確率を評価した。結果、SEL、SEFI(Single-Event Functional Interrupt シングルイベント機能インタラプト)は全ての基板で発生しなかったが、制御基板でSEUが発生した。また、軌道上での放射線エラー発生確率を計算するツールであるCREME96を使用して、放射線エラー発生確率の算出を行なった。

4L03 技術試験衛星9号機による超高速光フィーダリンク通信ミッションの研究開発の概要

〇久保岡 俊宏,國森 裕生,白玉 公一,高橋 靖宏,鈴木 健治,布施 哲 治,斎藤 嘉彦,宗正 康,竹中 秀樹,Kolev Dimitar,Carrasco Casado Alberto,Trinh Phuc,豊嶋 守生(NICT)

 ETS-9は電気推進でトランスファ軌道から静止軌道へ移行するが、化学推進の衛星に比べて移行期間が長く放射線環境が厳しい。レーザーの対放射線性の向上のために、装甲板を厚くすることは考えておらず、放射線に強いであろうというデバイスを選んで使う。

ご注意

  • 本記事は、講演の聴講メモを元にしており、記憶違い、聞き違いにより記述内容に誤りがある恐れがあることをお断りしておきます。
  • 評価を行なったデバイスや詳しい試験結果については、講演を行なった各機関にお問い合わせをいただければと思います。
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