正規化の要点を理解する
正規化の背景
データベース設計において「正規化」は、データの冗長性を排除し、一貫性と整合性を保つための基本的な手法です。正規化が不十分だと、データの重複や矛盾が発生しやすくなります。以下の例を見てみましょう。
矛盾の発生例
社員の所属部署と部長を管理するテーブルを考えます。
社員名 | 所属部署 | 部長名 |
---|---|---|
田中 | 営業部 | 佐藤 |
鈴木 | 営業部 | 佐藤 |
佐藤 | 経理部 | 吉田 |
ここで、人事異動により営業部の部長が「中山」に変更されたとします。この際、営業部のレコード全てを「中山」に更新しなければなりませんが、更新漏れが発生すると以下のようになります。
社員名 | 所属部署 | 部長名 |
---|---|---|
田中 | 営業部 | 中山 |
鈴木 | 営業部 | 佐藤(更新漏れ!) |
佐藤 | 経理部 | 吉田 |
このように、部長名の更新漏れが発生するとデータに矛盾が生じます。正規化を適切に行うことで、このような矛盾を設計段階で防ぐことができます。
正規化を理解する
正規化の目的
正規化の最大の目的は、データの重複を排除し、データベース内の「矛盾」の発生を「設計レベル」で防ぐことです。これにより、データの一貫性が保たれ、メンテナンスが容易になります。
正規化によって得られるもの
正規化を正しく行うことで、以下のメリットがあります。
- データ整合性の向上: 矛盾が発生しにくくなります。
- 冗長性の削減: 重複データを排除し、ストレージの効率化。
- メンテナンスの容易さ: データの更新や削除が簡単になります。
正規化を行わない場合の対応コスト
正規化を行わない場合、以下のような方法で矛盾を防ごうとしますが、いずれもコストがかかります。
- 実装で対処する: アプリケーション側でデータの整合性を保つためのロジックを追加する必要があります。
- 運用でカバーする: 手動でデータの整合性をチェックし、修正する作業が発生します。
- 仕様でカバーする: 矛盾が発生しないようなシステム設計を行う必要があります。
正規化を行うことで、これらのコストを削減し、システムの信頼性を高めることができます。
正規化の手順
正規化手順の理解に必須の用語
正規化を理解するために、以下の用語を押さえておきましょう。
- 候補キー: テーブル内の任意のレコードを一意に特定できるカラムの集合。主キーやユニークキーが該当します
- 非キー属性: 候補キーに含まれないカラム
- 関数従属性: カラムAの値が決まれば、カラムBの値も一意に決まる関係(A → B)
- 部分関数従属性: 非キー属性が候補キーの一部に依存している関係
- 推移関数従属性: 非キー属性が他の非キー属性に依存している関係(X → A, A → B ⇒ X → B)
正規化の手順
正規化は、以下の順序で進めていきます。今回は第3正規形(3NF)までを対象とします。
第1正規形(1NF)
条件:
- テーブル内の各セルに単一の値のみが存在する
- 各レコードが一意である
例:
非正規形:
社員名 | 所属部署 | 電話番号 |
---|---|---|
田中 | 営業部 | 090-1234-5678, 080-9876-5432 |
第1正規形:
社員名 | 所属部署 | 電話番号 |
---|---|---|
田中 | 営業部 | 090-1234-5678 |
田中 | 営業部 | 080-9876-5432 |
第2正規形(2NF)
条件:
- テーブルが1NFを満たしている
- すべての非キー属性が主キーに対して完全に従属している
例:
非正規形(部分依存):
注文ID | 顧客ID | 顧客名 | 注文日 |
---|---|---|---|
1001 | 1 | 山田 | 2023-01-01 |
1002 | 1 | 山田 | 2023-01-02 |
第2正規形:
- 顧客情報を別テーブルに分割
顧客テーブル:
顧客ID | 顧客名 |
---|---|
1 | 山田 |
注文テーブル:
注文ID | 顧客ID | 注文日 |
---|---|---|
1001 | 1 | 2023-01-01 |
1002 | 1 | 2023-01-02 |
第3正規形(3NF)
条件:
- テーブルが2NFを満たしている
- すべての非キー属性が主キーに対して直接従属している(推移依存がない)
例:
非正規形(推移依存):
クラス | 担任 | 経験年数 |
---|---|---|
2-A | 田中 | 3 |
1-C | 鈴木 | 11 |
第3正規形:
- 担任情報を別テーブルに分割
クラステーブル:
クラス | 担任 |
---|---|
2-A | 田中 |
1-C | 鈴木 |
担任テーブル:
担任 | 経験年数 |
---|---|
田中 | 3 |
鈴木 | 11 |
まとめ
正規化は、データベース設計においてデータの整合性と効率的な管理を実現するための重要な手法です。以下のポイントを押さえておくことで、基本的な正規化の理解と実践が可能になります。
- 正規化の目的を理解する: データの冗長性を排除し、矛盾を防ぐ
- 各正規形の要点を押さえる: 第1正規形から第3正規形までの条件とその適用方法を理解する
- 正規化のメリットを活用する: データ整合性の向上、冗長性の削減、メンテナンスの容易さを享受する
- 実務での適用を考える: 正規化を通じて設計レベルで問題を防ぎ、後々のコストを削減する
正規化を適切に行うことで、堅牢で効率的なデータベース設計が可能となります。初心者の方はまず第3正規形までを目指し、実際のプロジェクトで応用してみましょう。
この記事が正規化の要点を理解する助けとなれば幸いです。質問やフィードバックがあれば、ぜひコメント欄でお知らせください。