この記事では、電池で駆動するデバイスにおける電源ICと消費電流との関係性について記載します。
電気設計者向けというよりは、「電気設計者の考え方を知りたい」、「電気設計者と今より深い議論がしたい」という方向けです。
そのため、技術的な厳密さよりも、「そもそも電源ICのとは何なのか?」の様な基本的な考え方や概念の説明に重点を置いていますので、そのあたりご了承下さい。
自己紹介
初投稿のため、簡単に自己紹介を書いておきます。
元々は大手カメラメーカーにて電気設計者として働いており、現在はファームウェアの設計を担当しています。
経歴は以下の通りです。
- 大手カメラメーカーで一眼レフカメラの電気設計 7年
- Bitkeyでスマートロックやその他IoTデバイスの電気設計 1年
- Bitkeyでスマートロックやその他IoTデバイスのファームウェア設計 1年
カメラメーカーにいたときは、主に電気回路設計や基板・アートワーク仕様設計を担当しつつ、ディスプレイやセンシングデバイス(GPS、加速度センサなど)についてのファームウェア制御仕様の検討やコマンド仕様の策定を担当していました。
その経験を元にBitkeyで働いている中で、「ファームウェア設計者に向けて、電気設計者の自分だからこそ共有できる知見がある」ということに気付いたので、それを記載していこうと思います。
背景
スマートロックやIoTデバイスは電池駆動のモノも多く、お客様が頻繁に電池を交換することがない様に設計する必要があります。
具体的には、デバイスの待受状態では数十uAオーダーに抑え込んだりします。
そんな中で、あるデバイスの電気回路を見つつ、消費電力の削減を検討しているときに、
「電源ICを変えたら、電池寿命が大幅に上がりそうだね」と気付いた場面があったわけです。
それを聞いていたファームウェアチームメンバーにウケが良く、この投稿をすることにしました。
前知識
「そもそも電源ICってなんだ?」という方は以下を読んでみてください。
ちなみにこの記事では直流(Direct Current:DC)電源に絞ります(我々が扱っている多くのデバイスが電池駆動のため)。
要点は以下の通りです。
- 電源ICは、ある電圧を入力として別の電圧を生成するICである
- 他の電子部品は、電源ICによって生成された、その部品に合った電圧を用いて駆動することができる
- 電源ICの中で、電池駆動デバイスにおいてよく使われるのはDC/DCコンバータである
- DC/DCコンバータとは、あるDC電圧を入力として、別のDC電圧を生成する電源ICのことである
- 代表的なDC/DCコンバータには、リニアレギュレータとスイッチングレギュレータの2つがある
- リニアレギュレータは、入力された電圧よりも低い電圧にしか変換できない
- スイッチングレギュレータは、回路によって入力された電圧より低い電圧にも高い電圧にも変換できる
電源ICと消費電流
ここからが本題です。
このサイトの"リニアレギュレータ"のページで軽く書いてある以下の部分の話について詳細に見ていきます。
(リニアレギュレータは)制御素子で降圧するため、入力と出力の電圧差(降圧度合)が大きいと損失が大きくなり効率も悪くなります。
私がよくリニアレギュレータとスイッチングレギュレータについて、他の人に伝えるときに使うのが以下の考え方です。
- リニアレギュレータは、入力に対して出力の電流が保持されるICである
- スイッチングレギュレータは、入力に対して出力の電力が保持されるICである
冒頭でも書いた通り、これはあくまで電源ICでの損失等もろもろを無視した考え方です。
どういうことか、を図にすると以下の様になります。
例として、入力電圧 Vin=6V から出力電圧 Vout=3V に電圧変換し、負荷で消費する電流 Iout=1mA とした場合を考えます。
そのときの各部での電圧・電流は以下の様になります。
ここで、我々製品開発者が下げるべき電流は、電池の放電電流(上の図でいうと Iin)です
この例では、スイッチングレギュレータを使ったときの Iin は、リニアレギュレータのときの半分になります。
この半分というのは、スイッチングレギュレータの電力が保持されるという特性を元に Vin と Vout の比から算出できます。
具体的には、入力電力 Pin = 出力電力 Pout を、 P = V × I の公式を使って変換すると、 Iin = Vout / Vin × Iout となり、 Iin は Iout にVin と Vout の比である Vout / Vin を掛けたものであることがわかります。
そのため、入出力電圧の降圧度合が大きい( Vout / Vin が小さい)電圧変換のときはスイッチングレギュレータを使った方が消費電流を節約できるわけです。
実際に部品を選定する際は、消費電流に応じた電源ICの損失含めた変換効率や出力電圧の変動、電源ICから出るノイズの影響、周辺部品のコスト、更に、最近では部品調達性などまで考えなければなりませんが、上記の考え方を知ることで、皆さんの電気領域の知識を広げることに少しでも役に立てばと思います。