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Python の Active Record 系フレームワークを拡張してみた

Last updated at Posted at 2016-09-27

入社すると、そこは Active Record だった

2015年夏に、ある AI 系のスタートアップに入社した。5年ぶりくらいのまともな開発だった。

使用しているのは Python Django (のちにPython の Google App Engine も)。Rails とよく似たフレームワークである。7年くらい前にRails をさわったことがあった。なので、フレームワークの考え方にはついていけた。

ほとばしる無能、ほとばしるアンチパターン

しかし実際に運用されているコードはひどいものだった。そして1ヶ月ほど前に入社したサーバエンジニアのコードにはメダパニの呪文が内蔵されていた。

以下、目についた症状をリストアップする。

  • Smart UI
    • API View にロジックを詰め込みすぎ
  • Smart バッチインターフェース
    • Smart UI 同様にロジックを詰め込みすぎ。引数パラメータをパースした後、具体的な処理を実行する別のクラスに移譲すべきじゃね?
  • 役割と責任がわからない Model
    • 重複するが View にもロジックが入っていて、Model と View の間の役割と責任の分担が不明
    • ある Model が、他の Model をつかって、データを結合・加工している
  • 「くさいものに蓋」な機械学習アルゴリズム
    • 命名規則がめちゃくちゃ。インターンが書いたコードをコピペしているだけ。
    • 無駄なクエリを発行していて後にパフォーマンスに問題が…
      • 負荷テストをやりたいと言うだけで、実際にやった経験がない
        • 後日一部については、自分が JMeter でテストした
  • ってゆーか、データをこねこねする AI 系の要件で Active Record っておかしくね?
    • 自由度が高い Flask + SQL Alchemy が正解だった気がする
      • まぁ、リリース当初は情報がなかったらしいが
    • そして引き返すことが難しい…

私は混乱した。

なんでこんなことになった

原因を考えてみた。

原因1

そもそも設計・分析ができない

  • 「あとで変わるから」といってまったくドキュメントがない
    • 引き継ぐ人に不親切な思想
    • システム基本設計すらない
    • せめてバッチ系のデータフロー、主要な画面遷移くらいはほしかった
  • クソエンジニア認定初段の「コードを読めばわかる」発言
  • 設計ドキュメントがあっても粒度が粗すぎる
    • UML とか見たことがない
    • サーバサイドで重要なのはテーブル設計とデータフローなんだが、「何それ、おいしいの?」と言わんばかり
  • テーブル、クラス、メソッド、変数の命名規則が常識なさすぎてつらい
    • Model クラスの名前に Set とか List とか使うのはやめてほしい
    • メソッドの名前が動詞から始まってない

原因2

エンタープライズアプリケーションアーキテクチャパターンを知らない

  • Rails だけでアーキテクチャを知っている気になっていたクソエンジニアがいた
    • いや、Rails にいいエンジニアがいるのも知ってるんですけどね。。。
  • 最低限、マイクロサービスアーキテクチャかドメイン駆動設計くらいは知らないと、アーキテクチャの実装はきつい
  • AI のコードがあったのだが、それについてはインターンのコードをコピペし、utils ファイルに貼り付けるだけ
    • 企業がリリースするアプリ・サービスなら、レビューしないとダメだろう。。。

原因3

経営者が営業系で、IT のプロダクト作り・モノづくりについて無知すぎる。営業経営者がテック事業をよく理解しないまま始めるのはスタートアップ・アンチパターンのひとつ。

  • プロダクト管理の素人すぎる
    • 創業時から CTO/プロダクトマネージャがいないときつい(CTO が入って、苦戦しながら改善中)
    • ユーザインタビューはスキルがない人たちにアサインされた
    • CEO が営業系。コードを書かないのに、インタビューにも行かず、マスコミの取材を受けたり、イベントに登壇する。
      • 一度だけインタビューしたことがあったが説明・説得していた。いやいや、ユーザがかかえている問題を聞いて深掘りすることが目的だろうに。。。
      • 資金を集めるのに必要なこともあると思うが、もっとも説得力を持つのはプレゼン資料ではなく、プロダクトである。その品質をあげる活動をしないで、どうするのだろう。。。
    • COO が営業系。あるプロダクトを改善する前提で作ったが、スケールしようとしている。
      • 問題仮説、ソリューション仮説、プロダクト仮説、スケール仮説のうち、いろいろステップと検証をすっとばしてスケールしようとしている
      • アントレプレナーの教科書とかInspiredをもとに見解を述べても、高速 PDCA とごっちゃにされる
  • プロジェクト管理の素人すぎる
    • 「開発期間は1ヶ月」と聞いた時には残り3週間
    • 別のタスクを終わらせて残り2週間で開発開始、と思ったら顧客プレゼンがあった。実質残り1週間。
    • 3日前の全社 MTG で開発最終日が顧客プレゼンの日と知った。マイルストーンを開発期間に含めるとかありえん。。。開発日程、残り2日に前倒し。
      • そのことを全社 MTG で指摘したら、「サーバサイドはDBを見るだけ」と言われた。その時点で AI のコードを受領しておらず、データ構造含め、どうなるか不明。
      • 結局、AI との繋ぎこみとGCE 環境を徹夜して間に合わせた
  • プロダクトの品質が軽視される
    • 納期優先、とりあえずリリースしとけ的な進め方
    • 工数を告げても、結局交渉力でリリース日が前倒しされる
      • 週末作業と徹夜でリカバリするハメに
      • 体調を崩すと「勤怠がわるい」「バリューを出してない」と言われる
    • 社内の交渉力で仕様が決定される
    • プロセス改善のために対策を決めても、守られたことがない

対策

原因1 は ICONIX プロセスの勉強会をやってみた。参考にした本はコチラ

原因2 の解決策について述べてみる。

Active Record パターンについて補足

誤解が多いように思うが、Active Record パターンは Rails から始まったわけではない。ファウラーのエンタープライズ・アプリケーション・アーキテクチャ・パターンに記述されている。

View と DB のテーブルが 1:1 にするものであり、その中間にある Model も含めれば、View: Model: Table が 1:1:1 になると私は理解している。シンプルな構成、シンプルなサービス、複雑な機能を追加しない場合に採用されるものである。

しかし、システムが複雑化してテーブルとモデルが成長すると大変なことになる。ぐちゃぐちゃになりやすい。

上記の症状と重複するが、その問題もいくつかのパターンに分類できると思う。以下に問題パターンと対応した内容を述べてみる。

問題パターン1: プレゼン層にロジックが入り込んでいる

ビューやバッチインターフェースのやることは三つだけにしぼった。

  • request や引数のパラメータのバリデーション
    • 入力バリデータを作成し、移譲することもあった
    • しかし多すぎて直しきれず。。。
  • request・引数のパラメータをパースして別のレイヤーに処理を移譲
  • ビューの場合、戻ってきたオブジェクトを response に詰めなおす

問題パターン2: 他のモデルと結合する処理がある

サービス層の導入

ここではサービス指向アーキテクチャの言葉を使っている。よくあるこんなヤツ。

ServiceLayerSketch.gif

ビューやバッチインターフェースからサービス層のメソッドを実行するようにした。

用語の整理

ドメイン駆動設計だとアプリケーション・コントローラが該当する。ドメイン駆動設計でサービスとよんでいるものとは、違うので注意(Evans Classificationを参照)。

また、エンタープライズアプリケーションアーキテクチャパターンに Web プレゼンテーションパターンがあり、そこでもアプリケーションコントローラがある。

ああ、ややこしい。

命名規則

ビューにたいして粒度のあらい API を提供する。以下の2パターンで命名規則をわけた。

  • ひとつのモデル (テーブル) のみで CRUD: XxxService
  • 複数のモデル(テーブル)を結合して CRUD: YyyEngine

Singleton 化

ビューから呼び出すたびにインスタンスを生成するのも無駄になる。class デコレータで singleton 化するレシピを採用した。

カスタマイズした QuerySet

バッチ処理で JOIN した方が早い場合、結合した QuerySet で拡張したようなモデルで自由に使えるようにした。Foreign Key が貼られている場合について記述する。

想定される ER 図

item からあとから追加情報をもったモデルを作成することがあった。

Untitled Diagram.png

これを JOIN したデータをひとつのモデルのようにあつかう。

基本的なモデル

大体こんな感じ。

models/item.py
class Item(models.Model):
    name = models.CharField(max_length=128, blank=True)
    description = models.CharField(max_length=1024, blank=True)
    image = mdoels.ImageField(upload_to='hoge', blank=True, null=True)
models/item_feature_1.py
class ItemFeature1(models.Model):
    item = models.ForeignKey(Item)
    feature_1 = models.TextField()
models/item_extra_info.py
class ItemExtraInfo(models.Model):
    item = models.ForeignKey(Item)
    info = models.TextField()

結合用の QuerySet, Manager, Model

結合用 QuerySet はこんな感じ。select で join する前提で他は考慮しない。

joined_query_set.py
class JoinedItemFeatureQuerySet(models.QuerySet):
    def __iter__(self):
        queryset = self.values(
            'id', 'name', 'description', 'image',
            'itemfeature1__feature_1',
            'itemextrainfo__info')

        results = list(queryset.iterator())

        instances = []
        for result in results:
            item_feature = self.model(
                result['id'],
                result['name'],
                result['description'],
                result['image']
            )
            item_feature.feature_1 = result['itemfeature1__feature_1']  # モデルのプロパティを追加・詰めこむ
            item_feature.info = result['itemextrainfo__info']

            instances.append(item_feature)

        return iter(instances)  # iterator プロトコルに詰め直し

※ もっと他によいやり方がありそう。self._fetch_all() をオーバーライドして、self._result_cache に詰め込むほうがよかったかも。

custom_manager.py
class JoinedItemFeatureManager(models.Manager):
    def get_queryset(self):
        queryset = JoinedItemFeatureQuerySet(self.model, using=self._db)
        queryset = queryset.filter(del_flg=False, itemfeature1__isnull=False, itemextrainfo__isnull=False)  # null にならないように
        return queryset
joined_item_domain.py
class JoinedItemFeatureDomain(Item):
    objects = JoinedItemFeatureManager()

    class Meta:
        proxy = True  # テーブルを作成しない。

joined_item_features = JoinedItemFeatureDomain.objects.filter(...) で自由にデータを使えるようになる。。。ハズ。

問題パターン3: モデルの処理が多すぎ・複雑すぎる

再利用できそうなメソッドは適度に抽象化(機械学習系とか)

strategy として切り出したり、計算専用クラスとして再利用できるようにした

  • あとで使い回せそうだったり、企業の固有ライブラリにできそうなモノが対象
  • 機械学習系の学習済みmodelはサイズが大きい。なんども load したくないので一部 singleton 化した。
    • 計算途中の変数メモリが残っていたかも
    • pickle.dump で predict するパラメータのみを保存することもあった

Model はテーブルと対応づけるのみにして、処理はサブクラスで実装

Django だと proxy model という方法があって、サブクラスでその設定をした。

以下、個人プロジェクトのコードを抜粋しておく。

intro/models/abstract_model.py
from django.contrib.auth.models import User
from django.db import models


class AbstractModel(models.Model):
    registered_at = models.DateTimeField(auto_created=True)
    registered_by = models.ForeignKey(User, related_name='%(class)s_registered_by')

    updated_at = models.DateTimeField(auto_now_add=True)
    updated_by = models.ForeignKey(User, related_name='%(class)s_updated_by')

    class Meta:
        abstract = True
intro/models/article.py

from django.contrib.auth.models import User
from intro.models.abstract_model import AbstractModel

class Article(AbstractModel):
    title = models.CharField(max_length=128)
    description = models.CharField(max_length=2048)
    author = models.ForeignKey(Author)  # Author クラスの記述は省略
    categories = models.ForeignKey(Category, null=True, blank=True)  # Category クラスの記述は省略
    url = models.URLField()
intro/models/article_domain.py
from intro.models.article import Article
from intro.consts import DEFAULT_MECAB_PATH

class ArticleDomain(Article):
    class Meta:
        proxy = True

    def __init__(self, *args, **kwargs):
        # Do initialize...

    def __call__(self, mecab_path=None):
        if not mecab_path:
            self.mecab_path = DEFAULT_MECAB_PATH

    def parse_morpheme(self):
        # Do morpheme analysis

    @classmethod
    def train(cls, filter_params)
        authors = filter_params.get('author')
        articles = None
        if authors and articles:
            articles = Articles.objects.filter(authors__in=authors)
        # Do some extraction

        # Do training


    def predict(self, texts)
        # Do prediction

テストコードの導入

リファクタリングしつつ、from django.test import TestCase で単体テストを作成
当たり前だけど、コードの見通しがめちゃくちゃよくなった

(カスタマイズした QuerySet で)データ抽出条件をかえたサブクラスの実装

CustomManager クラスで get_queryset の中でデータ抽出条件を変え、その CustomManager を proxy クラスで保持するようにした。

バッチ用に複雑化したドメインモデルで威力を発揮した。

Email 送信/外部サービス連携はヘキサゴナル・アーキテクチャを採用

モデルの中で email の送信実装を書いたり、外部サービスへの連携のために urllib2 をベタに描くのは流石にカッコわるい。

2304.gif

外部連携用の Gateway クラス(上記の図では adapter と書いている)をつくって、ドメインモデルクラスかモデルクラス(上記の図では Application と書いている)で Gateway クラスを継承して使用するようにした。

通常、モデルクラスはお便利メソッドをスーパークラスから継承して使用している。それにならって、Gateway クラスを継承してお便利メソッドを使用する形にした。

最後に

原因3については、経営者に見切りをつけて転職することにした(CTO だけまともだが)。

時間をかければもっと会社をよくすることはできたかもしれない。しかし人が変わることにかかる時間、技術が進歩する速度、他の企業からの条件を検討すると、残った場合は自分の時間・人生を無駄にすると思った。そういう無駄を許容できるほど、私はもう若くないのである。独りよがりな他人の思い出作りに付き合うほど、私はもう若くないのである。

スタートアップにかぎらないが、経営者は超重要と認識したのだった。

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