前置き
サイバートラスト(株)OSS事業本部 / OSPO、および The Linux Foundation Japan Evangelist の池田です。2024年10月28・29日に開催された Open Source Summit Japan 2024 に、Program Committee として参加しました。そこで感じたことについて、特に今後こういったオープンソースイベントへのセッションプロポーザルを出そうと考えている方に向けて記したいと思います。
Open Source Summit とは
Open Source Summit は、世界最大のオープンソース団体である The Linux Foundation が主催するイベントです。毎年春に北米、秋口に欧州、年末に日本の三極で開催されており、このうち日本で開催されるのが Open Source Summit Japan です。今年は例年より少し早く10月末の開催となりました。業界・オープンソース界のリーダーからのキーノートスピーチを含め、コミュニティの動向、技術、組織づくり、オープンソースへの貢献の仕方などをテーマとした100本程度のセッションを軸に、2日間にわたりイベントが行われました。
なお Open Source Summit の前後を含む期間には、複数の併催イベントが開催されます。OpenSSF 主催でセキュリティに特化したイベントである Secure OSS Community Day、ライセンスなどの話題を扱う Open Compliance Summit などいつもの併催イベントに加え、今年は SBOM(Software Bill of Materials:ソフトウェア部品表)に関して複数のコミュニティや産業セクターのメンバーが一同に会する機会となった Japan SBOM Summit も開催されました。
セッションプロポーザルとは
こういったオープンソースのイベントで行われるセッションは、公募に応じた提案を選定・選考し、採用されたもので構成されます。公募は「CFP(Call For Proposals)」と呼ばれ、応募を「セッションプロポーザル」または単に「プロポーザル」と呼びます。プロポーザルはイベントの3ヶ月程度前に締め切られ、厳正なる審査により採用されたプロポーザルでセッションスケジュールが組まれ、イベントが開催されることになります。
Open Source Summit へのプロポーザル数は、公式な発表はありませんが開幕のキーノートなどで軽く触れられることもあり、それによると大まかな感覚で5〜10倍程度の競争率と見られます。
Program Committee とは
Open Source Summit はオープンソースのイベントなので、運営も多くの部分がオープンソースの精神に則って行われます。この運営を担うのが Program Committee です。Program Committee には様々な仕事がありますが、プロポーザルの選考もその一つです。今回筆者はこのプロポーザルの選考、つまりレビュワーとして Program Committee に参加しました。
採用されるプロポーザルとは
さて、ここからが本題です。
筆者もこれまでいくつもプロポーザルを提出し、採用されたりされなかったりしてきました。今回選ぶ側の立場になったことで、採用されるために気を付けたいポイントが見えてきたのでここで共有したいと思います。
まず第一にタイトル。タイトルは大事です!
あるプロポーザルを読むとき、最初に目に入るのがタイトルです。レビュワーは複数のプロポーザルを限られた時間で読み採点する必要があります。読む前に「おっ。これは面白そうだ」と思ってもらえたら、興味を持って読んでもらえます。興味ないなーと思って読まれるよりも、興味を持って読んでもらった方がきっと内容が伝わりますよね(レビュワーも人間なので)。そのためにはタイトルで、このセッションでは何を言いたいのかを端的に表すことが大事です。また、夢を見てもらうことも大事ですね。ウソはいけませんが、期待を持ってもらえるようなタイトルは良いと思います。
次に内容。タイトルも大事ですが、内容はもっと大事です!
特に Open Source Summit のような国際イベントでは、プロポーザルは英語で書くことが要求されます(ついでに言うと、採用されたらセッションのスピーチも英語です)。私はもとより、レビュワーも全員が英語ネイティブというわけではありません。したがって、言いたいことを簡潔に分かりやすく書くというのは、読んでもらう・理解してもらうための絶対条件です。
その上で、このセッションに参加すると何を得られるのか分かるように書くことが大事なポイントとなります。有意義なセッションはオープンソースイベントの価値そのものです。このセッションに参加したい!とレビュワーに思ってもらうことで採用に一歩近づきます。
更に、セッションがコミュニティへの貢献になることを示すことが大切です。貢献(contribution)は、オープンソースの根本にある考え方であり、それはイベントにおいても変わりません。セッションにより情報が共有されることがオープンソースコミュニティへの貢献につながることが分かれば、採用の確率はさらに高まります。貢献は、プロポーザルのネタとなる普段のオープンソース活動から心がけておくべき視点でもあります。
最後に、セッションに参加して意見を述べたい、議論したいと思わせるように書くことです。オープンソースの世界ではインターネットを通じたコミュニケーションが日常ですが、対面で行われる密度の高いコミュニケーションはオープンソースイベントの価値でもあります。イベントのセッションは、セッションスピーカーにとっても参加者にとっても、自分が参加しているオープンソース活動について議論を深めるためのまたとない機会です。より多くの人が議論したくなるような内容であれば、そのプロポーザルは採用間違いなしと言えます。
まとめ
長々と書きましたが要するに、プロポーザルは「あ、このセッションに参加したい。お話しを聞いてみたい」と思ってもらえるように書きましょう、というのが今回レビュワーとして Program Committee に参加して感じたことです。当たり前すぎて「お前はいまさら何を言っているんだ」という感じですが、これまで応募する側としてなんとなく感じていたことが、今回レビュワーという視点を持つことで具体的な確信となったのは良い経験でした。
その昔、Linux カーネル関連の最も大きなイベントとして「Ottawa Linux Symposium」がありました。Open Source Summit は、ある意味この OLS の流れを受け継いだイベントです。初めて OLS に参加したとき、開幕前のリピートスライドで錚々たる名前が Program Committee のメンバーとして表示されているのを見て、自分もいつかここに名前を載せたい!という目標を持ちました。
今回 Open Source Summit Japan の Program Committee に名を連ねることができたのは、私にとって最高の栄誉です(活動が評価されたというよりは、「そこにいた」のが主な理由ではありますが)。また、多少ではありますがオープンソースコミュニティに貢献できたことも誇りに思っています。今後も Program Committee にお声がかかるよう、2025年も積極的に活動していきたいと思います。また、この駄文が今後セッションプロポーザルを提出しようとしている方々にとって少しでも参考になれば僥倖です。
みんなもセッションプロポーザル出そうぜ!
そして Program Committee やろうぜ!