本記事は、Siv3D Advent Calendar 2024 の19日目の記事です。
動機
構造を持った文章や装飾のある文字列を画面内に表示したいとき、あると思います。
例えば
- アプリの説明をするとき
- ゲームでの操作方法
- 開発者や協力者のクレジット表示
- ライセンスや依存ライブラリの情報
- 項目の詳細を表示するとき
- ゲームでのアイテムの効果やフレーバーテキスト
- ツールのボタンの説明をポップアップで
など。
このような文章を書く際、Markdown は非常に便利です。
Siv3D でも Markdown で書いた文章を描画したい。
ので、そんなクラスを作ってみました。
作成したもの
Windows において Siv3D v0.6.15 で作成しました。
対応した記法は以下のもののみです。
- 見出し (h1 ~ h6)
- 強調 (strong, italic, 両方)
- リスト (unordered, ordered)
- リンク (任意のコードの実行)
今回作成したこのクラス、描画結果や機能に関しては自分にしてはかなりいい出来ではと思っています。
しかしコードの方はとてもお見せできるものではないです。
同じく Siv3D で Markdown を描画したい方はこれをコピペなんかせず、参考程度に見ていただければと思います。
概要
最もシンプルな使い方は以下のようになります。
void Main(){
MarkdownTextStyle style{20};
// style.strongColor = Color{ 36, 145, 212 };
MarkdownText md{ U"Hello, **Siv3D**!", style };
while (System::Update()){
md.draw(Vec2{ 100, 100 });
}
}
描画例としては以下のような感じです。
これらは上のリンクの Main.cpp
で描画されるものです。
中身
読む価値ないですが、自分の考えの記録として。
クラスの構造
MarkdownText
クラスがメインで、以下のような構造です。
class MarkdownText
{
public:
String markdown;
MarkdownTextStyle style;
MarkdownText(String markdown, MarkdownTextStyle style);
RectF draw(const Vec2& topLeftPos, const double width = Math::Inf);
RectF region(const Vec2& topLeftPos, const double width = Math::Inf);
void build();
private:
double m_width = -1;
struct GlyphInfo
{
Glyph glyph;
Vec2 pos;
double scale;
Color color;
std::function<void()> callback;
RectF callbackHitbox;
};
Array<GlyphInfo> m_glyphInfos;
Vec2 addGlyph(...);
Vec2 addGlyphs(...);
};
これは MarkdownTextStyle
クラスの変数を持ちます。
これは表示する文字のスタイルを指定するためのもので、強調などのフォント、Heading のフォントサイズ、文字色などを格納します。
スタイルについては置いておいて、MarkdownText
の処理の説明をします。
コンストラクタでは、与えられた Markdown 文字列とスタイルを受け取り格納だけします。
build
メソッドを呼び出すことで、Markdown 文字列を解析し、描画するためのグリフ情報を生成します。
描画する際は draw
メソッドを呼び出します。
その引数には描画する左上の座標と、描画する領域の幅(デフォルトは無限)を指定します。
幅が前回と異なると build
メソッドが呼ばれ、グリフ情報を更新します。
region
メソッドは描画しない draw
です。
グリフ情報というのは、どのフォントのどの文字を(Glyph)、どこに(Vec2)、どの大きさで(double)、どの色で(Color)描画するかを格納します。
一度この情報を生成すると、内容が変わらない限りはこれを使って描画するだけでいいので効率がいいです。この方法は SimpleGUI::TextArea
(TextAreaEditState
) の実装を参考にしました。
マウスカーソルに追従するツールチップのようなものを表示する際、カーソルが画面端に近いときには描画範囲を変更する必要があるので、draw
メソッドの引数に幅を指定できるようにしました。
しかしよく考えると、これは単に描画位置を変えればいいだけですし、描画範囲を狭めても見にくくなってしまうので、この機能は不要だと気づきました。
一方、文字列やスタイルが変わったときには手動で build
メソッドを呼ぶ必要があります。スタイルがもつ変数が多いために面倒だと思ったのが当初の理由でしたが、利用用途からして描画内容は滅多に変わらないと思われるので、このままで問題ないと考えました。
Markdown 文字列からグリフ情報の生成
調べた限りの Markdown パーサは HTML に変換することを目的としたものばかりで、そのほとんどが構文木を生成していました。
そんなものを得ても描画するための情報に変換するのはまた別の手間がかかるので、全く別の方法で実装しました。
といっても単純に、頭から正規表現で Markdown の構文を判別して、状態を変化させるだけのものです。
例えば、**
を発見したら強調の開始として、それ以降の文字を強調のフォントで描画するようにします。再度 **
を発見したり、行末に達したら強調の終了として、通常のフォントで描画するようにします。
リストは ordered/unordered やネストのために複雑になりましたが、基本的には同じです。
そして描画する文字を1つずつ、その時の状態に応じて描画するフォントや色などのグリフ情報を記録していきます。
リンク
リンクは、キー文字列とそれで呼ばれる関数をスタイルのクラスの HashTable
に登録しておきます。
通常のリンクの型式 [表示文字列](キー文字列)
で、表示文字列をクリックするとキー文字列に対応する関数が呼ばれます。例えば
style.callbackTable[U"Siv3D_HP"] = []() {
System::LaunchBrowser(U"https://siv3d.github.io/");
};
とすると、Markdown で [Siv3Dホームページ](Siv3D_HP)
と書いたときに、Siv3Dホームページ
をクリックするとブラウザで開かれ、本来のリンクと同じように振る舞います。
ですがもちろんこれ以外の関数オブジェクトを登録することもできるので、他の用途にも使えます。例えばゲームのアイテムの効果説明に用いれば、「攻撃力」をクリックするとヘルプ画面に遷移するなどの使い方が考えられます。
まとめ
Siv3D で Markdown を描画するクラスを作りました。
対応している記法は限られていますが、アプリ内での需要に対してはおおむね事足りると思います。
今後の展望としては
- 対応記法の追加
- 引用は欲しいかも
- 表組み、画像はあってもいいかもだけど絶対難しい
- (インライン)コードブロックはアプリ内表示でたぶん需要ない
- 数式はそれ単体で開発するべき代物
- Markdown 解析部分の抜本的な変更
- 現状、例えばリンクの表示文字列内での
*
などがそのまま表示されてしまう
- 現状、例えばリンクの表示文字列内での
- 効率化
- スタイルクラスが持つフォントやリンクで呼ぶ関数オブジェクトなどのデータ構造をなんにも考えずに使っているので、改善の余地があると思われる
- コードの整理
- 今回は機能を追加するたびにコードを追加していったので、コードが冗長になっている
- また、コードのコメントが少ない
- 細かな表示
- 見出しに下線
- リンクにマウスオーバーしたときにアンダーライン、カーソルスタイル変更
- (挙げだしたらきりがない)
あたりでしょうか。
だれかの参考になれば幸いです。
ご読了いただきありがとうございました。
参考