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2020 年代に入り、Remix や Hono といったモダンな Web フレームワークが「Web 標準」を掲げるようになりました。HTML、CSS、JavaScript といった基盤技術は 1990 年代から存在しているのにも関わらず、なぜ 30 年を経た今、 Web 標準が再び注目を集めているのでしょうか?

Web 標準について解説している記事はたくさんあるものの、なぜ今再注目されているかについて書かれた記事が見当たらなかったので、記事にしたいと思います。

この記事の趣旨

この記事では、この流れの背景にある技術的、文化的な要因を振り返り、2025年のフロントエンド開発におけるWeb標準の役割について解説します。Web標準がどのように進化し、現在のフレームワークでどのように活用されているのかを把握することは、今後のフロントエンド開発を理解する上で重要だと考えます。

「Web 標準とは何なのか」については、複雑な歴史が絡んでくることと、優れた記事がたくさんあるのでここでは扱いません。

Web 標準から離れた理由

仮想 DOM や宣言的 UI といった概念を含む技術全般を簡略化して「React」と記載しています。

React 以前、Web 標準はアピールポイントにならなかった

SPA 以前に主流だった MVC フレームワーク、例えば Ruby on Rails や Laravel では、Web 標準に準拠することが当然とされていました。MVC フレームワークのコントローラでは HTML / CSS / JavaScript をそのまま生成して使用することが一般的であり、 API として使用される場合でも、 RESTful API の設計が標準的な手法でした。

このような環境では、Web 標準に従うことは特筆すべき点ではなく、単なる前提条件でした。しかし、React の登場により、Web 標準の捉え方が大きく変わることになります。

React の登場

React を初めとする仮想 DOM を採用した SPA ライブラリやフレームワークの登場により、従来の Web 標準ベースのパラダイムが大きく変化しました。

従来の MVC フレームワークが直接 HTML や CSS を生成していたのに対し、React では仮想 DOM によって UI 構築が抽象化され、プログラマが Web 標準に直接縛られる必要がなくなったのです。

これにより、 JSX のような新しい記法や、 CSS-in-JS といったスタイリングの手法が普及し、Web 標準を直接操作する機会が少なくなりました。

Web 標準が再注目される理由

ブラウザ間の環境差異の減少

理由の一つとして、Internet Explorer (IE) の廃止や、モダンブラウザの普及によって、ブラウザ間の環境差分が大幅に縮小したことが挙げられます。この変化により、従来は環境差分を吸収するために必要とされていた jQuery や Babel といったツールの重要性が薄れました。現在では、モダンブラウザが HTML、CSS、JavaScript といったWeb標準を広くサポートしているため、Web 標準に従った開発のメリットが増しています。

SSR の普及による実行環境の多様化

SEOや初回表示速度の改善が求められる中、シングルページアプリケーション (SPA) においても SSR (Server-Side Rendering) の採用が一般的になりました。これにより、JavaScript の実行環境はブラウザに加え、サーバ側にも広がり、多様化しています。

SSRでは、サーバでのレンダリング時にはサーバの実行環境、ブラウザでのレンダリング時にはブラウザの実行環境に依存します。このような異なる環境間での互換性を確保するため、環境固有の仕様ではなく、標準仕様に準拠することが重要視されるようになりました。

エッジコンピューティングの普及

エッジコンピューティングの普及は、Web標準を意識する理由の一つと言えます。Cloudflare Workers や Deno Deploy などのエッジプラットフォームは、Node.js や Deno とは異なる独自の JavaScript 実行環境を提供しており、各サービスごとに仕様が異なります。

従来は、数種類の主要ブラウザと Node.js などの環境を考慮するだけで済んでいました。しかし、エッジコンピューティングの普及により、アプリケーションがデプロイされるエッジ環境ごとの仕様も考慮する必要が生まれています。このような多様化した環境間の互換性を確保するため、Web 標準に準拠することが重要性を増しています。

WinterCG

近年、WinterCG (Web-interoperable Runtimes Community Group) の活動が、Web 標準が再び注目される理由の一つとして挙げられます。このコミュニティグループは、Cloudflare Workers、Deno、Fastly などの主要なエッジコンピューティングプロバイダーが協力し、Web 標準に準拠したサーバーレス実行環境の共通仕様を策定することを目的としています。

グループの最終的な目標は、コードがブラウザ、サーバー、エッジ ランタイムのいずれで使用されるかに関係なく、JavaScript 開発者が信頼できる包括的な統合 API サーフェスをサポートするランタイムを促進することです。

WinterCG のもう 1 つの目標は、Web プラットフォーム API を超える機能を必要とするランタイム、特にサーバー側およびエッジ ランタイムに、統一されたサーフェスが維持されるようにすることです。

https://wintercg.org/faq

Next.js の課題

Next.jsは、フロントエンドのデファクトスタンダードであり、その思想やパフォーマンスは非常に優れています。しかし、その一方で、Web標準を直接扱う機会を減らす設計が、いくつかの課題を生んでいます。

例えば、Next.js 独自のルーティングやデータフェッチングの方法は、標準的な仕様とは異なるため、他のフレームワークやライブラリを使用する際に役立てるのが難しい場合があります。また、Next.jsを習得するためには、その特有の概念やツールを学ぶ必要があり、これに伴う学習コストが大きいのも課題です。

さらに、Next.js 特化の知識に依存することで、フロントエンドエンジニアのスキルセットが特定のツールに偏るリスクがあります。標準的な技術を理解し、複数のツールに応用可能なスキルを育成する観点から、Next.js の利用には慎重な判断が求められるでしょう。

このような課題を意識するフロントエンドエンジニアにとって、Web 標準を掲げる Remix のようなライブラリが魅力的に映るのは間違いありません。

まとめ

2025年現在、Web標準が再び注目される背景には、技術の進化と実行環境の多様化が大きく影響しています。Reactの登場以降、Web標準から一時的に離れる流れがありましたが、SSRやエッジコンピューティングの普及による多様な実行環境の登場が、互換性と移植性を重視する潮流を生み出しました。

特に、WinterCG の活動は、異なるプラットフォーム間での相互運用性を確保し、開発者がどの環境でも統一的に動作するコードを書ける未来を目指しています。このような動きは、Web標準が単なる「基盤技術」ではなく、分断された技術エコシステムをつなぎ、効率的で持続可能な開発を可能にする鍵であることを示しています。

Web 標準の価値を再評価し、その進化を理解することは、フロントエンド開発者にとって不可欠です。これからのフロントエンド開発は、Web標準を軸にしつつ、新しい技術とのバランスを取ることで、さらに豊かなエコシステムを形成していくでしょう。

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