概要
インターネットの大まかな歴史について、自身の勉強を兼ねてまとめてみました。
目次
通信技術の歴史
そもそもの通信技術の歴史を簡単に触れておきます。
手旗信号や狼煙 (のろし) 等、アナログな通信自体は昔から行われてきました。デジタルな通信技術は電信機が最初といわれています。
電信とは、符号の送受信による電気通信のことです。
電信機は様々な国の科学者や発明家が関与していて、それぞれ独自の貢献をしていますが、有名なのは1832年にロシアのパヴェル・シリングが発明したシリング式電信機や、1837年に、モールス符号で知られるアメリカのサミュエル・モールスが発明したモールス電信機です。
電信は長期間にわたり、主要な情報伝達手段として使用されてきました。その過程で色々な応用された技術も考案されてきました。
19世紀中ごろでは電信が実用化され普及していった時代でしたが、そのタイミングで応用された技術のひとつとして「音声電信 (電話)」の発明が行われました。この電話の技術が20世紀ごろから広まっていくと、電信を使用した電報の使用は徐々に少なくなっていきます。
インターネットの通信技術も元をたどれば電信から発展した技術のひとつといえます。
こちらのサイトによると、昔に「長い針金を使用すれば電流の早さをはかれる」と考えた学者がいたらしく、川や湖を越えて針金を張って電流を流したそうです。ただ電流はあまりに速く、どんなに針金を長くしても速さがはかれなかったとのことでした。
ただこの実験により、「針金を張れば遠くまで電気を運ぶことができる」という考えが生まれたらしいです。
インターネット (ネットワーク) の歴史
(ARPANET誕生から1980年代まで)
1969年 ARPANET (世界初のインターネット)
1969年にアメリカで世界初のインターネット「ARPNET (アーパネット)」が誕生しました。
当時の大型コンピュータを、遠隔地からでも利用できるようにするために開発されました。
よくある説明として「冷戦の際中のアメリカは、ソビエト連邦がジェット爆撃を使用してアメリカに核攻撃で奇襲するのではないかという懸念をもっており、そのため核攻撃を受けても全体が停止することはないコンピュータをつくった」という説明がみられます。ただ当時はそうではなく、軍事目的での開発ではなかったらしいです。
軍事目的での開発だったということは、インターネット協会が否定しています。
誤った開発経緯が広まったのは、当時のARPAの管理者に、軍事目的で開発したという旨を説明する人がいたり、ARPANETのプロジェクトの前に、ランド研究所という場所が軍事目的で、ARPANETと似たパケット通信による分散ネットワークを提唱していたためとされています。
参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/ARPANET
AEPANETの名前は「Advanced Research Projects Agency NETwork」の略になります。
1958年に、最先端科学技術を軍事目的へ転用するための研究組織として、アメリカ高等研究計画局(「ARPA (Advanced Research Projects Agency) 」) が設置されましたが、その名前のARPAからNETをくっつけて、ARPANETという名前になりました。
※ARPANETはネットワーク名であり、コンピュータ名ではありません。
また、ARPANETを構築するために使用されたのが、IMP (インプ) と呼ばれるパケット交換機です。
Steve Jurvetson from Menlo Park, USA - The First Internet Router, CC 表示 2.0, リンクによる
IMPはARPANETの開発に参加していたメンバーにより、1969年に開発されました。通信する大型コンピュータはIMPに直接つながるようになっています。IMPは今日でいうルーターの起源ともいわれています。
相互通信の経緯としては、まず1969年10月29日の午後10:30に、カリフォルニア大学ロサンゼルス校とスタンフォード研究所間の2台のコンピュータで、世界初となるメッセージの配信を行いました。その際、パケットはこの2拠点の間を電話回線を通じて無事に伝わりました。
その後、1969年12月5日にカリフォルニア大学サンタバーバラ校とユタ大学を含む、4ノード相互のネットワークが完成しました。
通信方式はパケット交換方式なので、インターネットの起源であると同時に、世界初のパケット通信のネットワークといえます。
パケット通信方式について
ARPANETのパケット通信方式は、イギリスの科学者であるドナルド・デービスと、アメリカのリンカーン研究所のローレンス・ロバーツの設計をもとに作成されました。
今日ではパケット通信方式は世界中で使用されていますが、もちろんこの時代では新しい概念でした。
ARPANETの通信プロトコルについて
1970年の中ごろに、ARPANET用の通信プロトコルであるNCPが開発されました。
NCPの開発前までは、通信するコンピュータ同士で主従関係になるマスタースレーブ方式が一般的でしたが、NCPの開発過程で通信するコンピュータ同士が対等に通信するという考え方がうまれました。
NCPはTCP/IPの原型となっています。
ちなみにTCP/IPはNCPに替わるプロトコルとして、1973年に開発が開始されました。
1974年11月にTCP/IPの最初の仕様が公開され、その後に現在と同様の仕様が1981年9月に公開されました。1983年1月1日にはNCPからTCP/IPへの移行が行われています。
1970年 ALOHAnet
1970年にハワイ大学が「ALOHAnet (アロハネット)」というネットワークを開発しました。
これは無線システムを利用したネットワークでした。
ハワイ大学は島をまたいで大学のキャンパスがあり、そのキャンパス同士で通信を行うため、有線ではなく無線で通信を行う必要がありました。ALOHAnetもARPANETと同様、パケット通信方式のネットワークでした。
ALOHAnetでは同じ周波数でコンピュータ同士が通信を行うため、 データの衝突が頻回に発生していました。 最初は手動でデータを再送信していましたが、そもそも衝突が発生しないように制御するする仕組みとして、現在の無線LANでも使用されているCSMA/CAという仕組みが生まれました。
またこれは有線LANで使用されているCSMA/CDのアイデアの元にもなっています。
1973年 CYCLADES
1970年代の前半には、フランス独自で「CYCLADES(キクラデス)」というネットワークの研究が進められていました。ARPANETとは異なる設計を模索するために開発されており、1973年に公開されました。
フランスの計算機学者であるルイ・プサンが設計しており、CYCLADESのネットワーク設計で採用された概念は後のTCP/IPでも使用され、その後のインターネットに大きな影響を及ぼしました。
1974年 N-1ネットワーク
1974年に、東京大学と京都大学間を結ぶ「N-1ネットワーク」というネットワークが運用を開始して、日本でもパケット通信網による大学間の情報交換が実現しました。
1981年には日本で最初の全国規模のネットワークとなり、正式な運用が開始されました。
このサービスは2000年問題の関係で、1999年12月に終了しています。
1979年 UUCPNET
1979年には、UNIXコンピュータ同士を接続するUUCPといわれるプロトコルが開発されました。電子メールやネットニュースの転送において、このプロトコルを使用して沢山のコンピュータが相互接続しており、UUCPを使用したネットワークはUUCPNETと呼ばれていました。
1981年 CSNET
1981年にはCSNET (Computer Science Network) の運用が開始されました。
AUP (利用規約) によりARPANETを利用したくても利用できない組織に、ARPANET上のネットワークと同じような電子メールの機能を提供する目的で設立されました。
最初はアメリカの3大学 (デラウェア大学、プリンストン大学、パデュー大学) 間で接続する形で開始されました。
1981年 BITNET
1981年7月には「BITNET(ビットネット)」が誕生しました。IBMのメインフレームを利用している研究者間を接続するためのネットワークとして、ニューヨーク市立大学とイェール大学のメインフレームを専用線で結ぶ形で開始されました。
名前は「Because It's. Time Network」の略からです。
BITNETは、IBMの内部ネットワークであるVNETで使用されていたRSCSとNJEというプロトコルを採用していました。
1985年4月30日に東京理科大学からもニューヨーク市立大学とメッセージ交換が成功し、日本のBITNETの参加が実現しました。その後は次第に国内のメインフレームを接続していき、1993年の時点で120以上の大学がこのネットワークに参加していました。BITNETの日本国内のネットワークは特にBITNETJPと呼ばれています。
1982年 EUnet
1982年には、ヨーロッパで生まれたネットワークのEUnetが開始されました。
イギリス、オランダ、デンマーク、スウェーデンの4か国間で、UUCPで運用が開始されました。
名前は「European UNIX Network」からです。
1984年 JUNET
1984年には日本で「JUNET (ジュネット) 」が開発されました。
1984年9月にもともと村井純が、「ファイルをテープメディアで送るのが面倒」ということで個人的なデータの移動のために、慶應義塾大学と東京工業大学に許可を得ず接続したことから始まりました。一か月後の10月には東京大学が加わり、3拠点間での実験的なネットワークとして運用が開始され、最終的には約700の機関を結ぶ大きなネットワークになりました。
その後、1991年10月にJUNETは終了しました。
名前の由来は「Japan University Network」から、と言われることが多いです。
UNIXコンピュータ同士でデータをやりとりするUUCPが使用されており、電子メールやネットニュースなどの情報交換を行うことができるシステムでした。
電子メール等で日本語を表現するために使用されていたエンコーディング方式はJUNETの初期段階で開発され、当時は「JUNETコード」と言われていました。これが現在の「JISコード」になります。
1988年 JAIN
1988年には、日本でJAIN (Japan Academic Inter-University Network) が開発されました。
当時の日本はネットワーク環境が欧米と比べて遅れており、そのため高度な学術研究を行うために必要なネットワークを構築するための研究として開始されました。
大学間のネットワークをTCP/IPのプロトコルを使用して相互接続されていました。
1993年2月時点では、参加大学は82校にもなっていたそうです。
参考:日本のアカデミアを結集したネットワーク研究プロジェクト JAIN
インターネットのその後 (まとめ)
このように、インターネットは元々はARPANETからはじまり、大きなネットワークに他のネットワークが接続される形でどんどん拡張されていっていました。
またARPANETでも記述しましたがNCPに替わるものとしてTCP/IPプロトコルが開発され、このプロトコルは1982年に標準化されており、このタイミングでインターネットの基盤となる技術が確立されたといえます。
その後、1980年代後半から1990年代にかけて、多くの国でTCP/IPを使用したネットワークが開発されていき、徐々にTCP/IPを用いたネットワークはグローバルになっていきました。
1990年代には一般家庭でも契約しやすいISPも登場していき、一般家庭からもTCP/IPを使用する大規模なネットワークに接続できるようになりました。
Webブラウジングやメールの送受信、ファイル転送等、現在のインターネットにおける多くの機能はTCP/IPを使用しています。ISPが提供するインターネット接続もTCP/IPを使用して通信を行っています。そのため現在は、ISPと契約すれば、だれでも広く普及しているTCP/IPを使用したインターネットが利用できる形になっています。
「インターネット」という言葉は、もともとは一般名詞の「インターネットワーク(internetwork)」でした。インターネットワークは、「ネットワーク間のネットワーク」という意味になります。
その後、この言葉がいろいろと使用されているうち、世界で一番規模の大きいネットワークを指す固有名詞になりました。
日本におけるインターネットの普及の歴史
1992年 日本でISPサービスが開始
1989年にはアメリカで世界初の商用ISPである、PSINetが設立されました。
1992年にはAT&T Jens株式会社が、UUCPによる接続サービス「SPIN」を開始しました。これが日本で最初のISPのサービスになります。
ちなみに接続サービスにおける通信回線は当初専用線で、使用料金は月額数百万円以上でした。
1995年 日本でインターネットが普及しはじめる
1995年はISP事業を行う企業が急増し、料金の低価格化がみられました。またこの年はWindows 95が発売された年でもあります。これにより、一般人でもインターネットを使用できる敷居がとても低くなり、インターネットが広く認知されるようになりました。
1996年にはニュースを配信するサイトや検索サービスサイトなど、色々なWebサイトが広まっていきます。
1996年 ホスティングサービスが普及し始める
1996年に、株式会社さくらインターネットや株式会社ASJなどがホスティングサービスを開始しました。
Webサーバー以外にもメールを中継するサービスも提供され、パソコンでメールがどんどん使用されるようになっていきます。
1990年代 ISDNが普及
1990年後半は、通信手段としてISDNも少しずつ普及していきました。
ISDNが普及する前に一般的だった通信手段は、電話線を使用したアナログ回線であるFAXの技術を使用してインターネットを行う、ダイアルアップ通信でした。
※インターネットが普及し始めた頃は、電話回線を利用してインターネットを行う方法が一般的でした。
ダイアルアップ通信は上記の通り電話と同じアナログ回線を使用しているため、引いている回線の数がひとつの場合、通話中にインターネット接続や、インターネット接続しながら通話するということはできませんでした。
それに比べてIDSNはデジタル回線を使用しているため、アナログ回線の電話を使用しながらインターネットの利用ができ、かつ速度もダイアルアップ通信より高速でした。
そのような理由もあり、企業や一般家庭にISDNが少しずつ普及していきました。
- ISDN自体は、NTTが1988年に世界初となる商用のISDNの接続サービスを開始しています。
- youtubeでみつけた当時のISDNのCMです。
2000年初頭 ADSLが普及
2000年代初頭には、ADSLが普及しはじめました。
ADSLはアナログ回線で電話線を使用するため、既存の電話線を使用して電話とインターネットが同時に使用できます。そのため、登場から間もなくして広く普及していきました。
なぜ電話線でインターネットと電話が同時に使用できるのかというと、ADSLは電話回線で利用されていなかった周波数帯を利用してデータ通信を行うためです。なので電話線の一部を使用しているイメージで、電話線全てを占有している形ではありません。そのため電話とインターネットが同時に利用できます。
- ADSLは「タイプ1」と「タイプ2」という種類があります。タイプ1は上記のような電話と共用できるものですが、「タイプ2」はインターネット接続専用になるため、電話は利用できません。
- youtubeでみつけた当時のADSLのCMです。
2000年代後半 光回線が普及
光回線は、1995年にNTTが光ファイバーを使用した光回線の通信システムを商用化しており、それに伴い少しずつ広まっていました。2005年あたりから、光回線技術の改善にともなうコストや削減と品質向上や、そもそもインターネットを使用する一般家庭もさらに増えてきたことで、急速に広まりました。
このころから、光回線とADSLの比率が逆転し始めます。
2023年8月末の時点で、日本の光回線の普及率は86.9%になっています。
youtubeでみつけた光回線のCMです。
おわりに
インターネットの歴史は個人的に知らないことばかりでした。また古いネットワークについては本稿に記載したもの以外にも多く種類があり、何をまとめるか少し悩みました。
またネットワークによっては意外と情報が少ないものもありました。
本稿で記載したネットワークや通信技術以外にも、プロトコルの歴史等もまたまとめたいと思いました。