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AWS東京リージョンにある Local Zones の存在価値とは【2023年9月時点】

Last updated at Posted at 2023-09-21

みなさん AWS の東京リージョンにある Local Zones を知っているでしょうか?
この話をすると「東京リージョンに Local Zones は無いと思う……」という
回答を聞くことが何度かありました。

しかし、実際には東京リージョンに Local Zones はあるのです。
今回の記事では、そんな誤解の多い Local Zones について取り上げたいと思います。

1.Local Zones とは

そもそも Local Zones が何かですが、Local Zones はエンドユーザーの近くで、EC2などのコンピューティングなどのAWSサービスを提供するサービスです。エンドユーザーが超低レイテンシーを求めている場合に、リージョンのAZ内にあるデータセンターでは遠すぎて実現できない場合があります。そんな時に、更にユーザーに近い場所でAWSのサービスを提供して、超低レイテンシーを実現している訳です。

レイテンシー

ネットワークレイテンシーは、ネットワーク通信における遅延です。ネットワーク経由でデータが送信されるのにかかる時間を示します。遅延またはラグが長いネットワークはレイテンシーが高く、応答時間が速いネットワークはレイテンシーが低くなります。

例えば「米国東部・バージニア北部」リージョンの例です。Local Zones は必ずどこかのリージョンと親子関係にあるのですが、バージニア北部リージョンと親子関係にある Local Zones が図の青色の都市になります。現状でも14カ所あり、これから開設予定の場所もあります。

これを見て頂ければ分かる通り、例えばリマに住んでいる人がバージニア北部リージョンに直接アクセスするより、リマの Local Zones にアクセスしてサービスを利用した方が、物理的距離が近い分、超低レイテンシーでサービスが利用できる訳です。

超低レイテンシーが必要なワークロード

リアルタイムゲーム、ライブストリーミング、オーグメンティッドリアリティやバーチャルリアリティ (AR/VR)、バーチャルワークステーションなど

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ちなみに、超低レイテンシーの AWS サービスとして、よく名前が挙がるのが AWS Outposts です。これは、ユーザのいる建屋の中にAWSサービスを提供するラックを設置するサービスなので、最も低いレイテンシーを提供できるサービスとなります。LocalZones はリージョンにある通常のアベイラビリティゾーン( AZ ) より地理的に近いデータセンターでAWS サービスを提供します。分かりやすくまとめたのが下の図ですが、例えばEC2のサービスを提供する際に、ユーザにできるだけ近い場所にあるデータセンターからサービスを提供出来た方がレイテンシーは下げる事ができます。

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ただし、AWS Outposts はラックの搬入・据付けといった現地作業が必要になります。それに比べて、Local Zones は AWS のマネジメントコンソール上の設定のみで利用できるため、非常に手軽に利用できます。

2.東京リージョンの Local Zones はどこですか?

それでは質問ですが、

「日本国内に Local Zones がありますか?」










答えは「日本国内に Local Zones はありません」です。

日本国内には Local Zones はないのです。

それでは次の質問ですが、

「東京リージョン、大阪リージョンに Local Zones はありますか?」










答えは「大阪リージョンには無いけれど、東京リージョンにはあります」です。
この答えは AWS Local Zones ロケーションの一覧を確認すると分かります。

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そう、台北 Local Zones です。

台湾ですね。

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物理距離的には、香港リージョンの方が近いですが、そこは色々な問題があるのだと推測します。これまで、台湾ユーザは東京リージョンを利用する際には、その物理的な距離から高いレイテンシーが発生していましたが、台湾に Local Zones が誕生したことにより、超低レイテンシーでのサービス利用が可能になった訳です。

最近、色々な人と話していて、「日本リージョン(東京・大阪)には Local Zones が存在しない」という間違った認識がされている場合があることに気付きました。「Local Zones はリージョンのある国に依存する」と誤解しているのが問題だと思いますが、実際はリージョンのある国に依存しません。

最初に事例として記載したバージニア北部リージョンが解り易く、リージョン自体は米国ですが、Local Zones は、米国、アルゼンチン、ペルー、メキシコ、チリと、多くの国に存在します。この前提は認識しておく必要があります。

3.Local Zones の使い方

それでは、Local Zonesの開始方法ですが、実は非常に簡単です。
今回は東京リージョンで設定する前提での説明となります。
Local Zones はEC2 のダッシュボード画面で設定が可能です。
まず、以下の画面の通り、「ゾーン」を選択します。
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そうすると、Settings のゾーン画面が表示されます。
そこには東京リージョンと親子関係にある Local Zones 情報が表示されます。現在は、台北 Local Zones のみであり、当初は「無効」になっています。
その画面で「管理」を選択します。
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ゾーングループ画面で、「無効」から「有効」に変更して、「ゾーングループを更新」を選択します。
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状態が「有効」に変更になります。
これで、台北 Local Zones が利用可能になります。
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具体的に、どのように利用できるかというと、アベイラビリティゾーン( AZ )と同様に、台北 Local Zones が表示されるようになり、利用可能になります。
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このアベイラビリティゾーンを選択した Subnet で EC2 を起動させると、台北にあるデータセンターでEC2が起動されるため、超低レイテンシーでの通信が可能になります。
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非常に簡単な設定で、超低レイテンシーの通信が実現可能な訳です。

3.Local Zones で利用可能なAWSサービス

Local Zones では多くのAWSサービスを利用できます。ただ、Local Zones ごとに利用できるサービスに差があります。利用できるAWSサービスに Local Zones ごとのサービス内容がまとめられています。以下の図では、最も提供サービスの多い「ロサンゼルス Local Zones 」と 「台北 Local Zones 」を比較していますが、2倍のサービス数の差があります。そして利用できるインスタンスタイプやストレージタイプの数にも差があります。
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この差があることを認識しておくことが重要です。

4.Local Zones での EC2 利用時の注意点

Local Zones でEC2 を利用する際に、多くの人がはまってしまう注意点を記載します。
例えば台北 Local Zones で利用できるインスタンスタイプは「T3、C5、R5、G4dn、および M5 インスタンス」との記載が公式資料にあります。なので、普通にそのインスタンスファミリーのインスタンスタイプであれば起動できると思ってインスタンスを起動させると、多くの場合は、以下のメッセージが出力されます。
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日本語訳で「要求された構成は現在サポートされていません。サポートされている構成についてはドキュメントを確認してください。」と表示されるのです。一体何が問題なのかメッセージからは読み取れずに困惑するかと思いますが、大抵の場合は、インスタンスタイプの問題です。例えば「T3」がサポートされていると記載されていますが、「T3」のすべてのインスタンスタイプがサポートされている訳ではありません。

それでは、どのインスタンスタイプがサポートされているのか。
そこで、台北 Local Zones を例に、利用できるインスタンスタイプの確認方法を2点ご紹介します。

1つ目は EC2 のインスタンスタイプ画面で検索する方向です。
以下の「インスタンスタイプ」を選択します。
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インスタンスタイプ画面で検索フィルタとして「アベイラビリティゾーン」「contains(含まれる)」「ap-northeast-1-tpe-1a」で絞り込むと、台北 Local Zones で利用できるインスタンスタイプの一覧が表示されます。
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現状は7種類です。

c1ef0b57-4482-9aa2-a058-4f6d84e9ec0e.png Local Zones の説明資料に記載されているインスタンス情報だけ見ると、多くのインスタンスタイプが利用できると誤解するかと思いますが、実際に利用できるインスタンスタイプは限定されているので注意が必要なのです。

また、もう1つの確認方法は、EC2の起動画面になります。
EC2を起動する際にはインスタンスタイプを選択しますが、台北Local Zones で利用できるインスタンスは、その価格が表示されます。
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これは、東京リージョンと台湾 Local Zones でインスタンスの提供価格が違うために記載されていますが、見分けるために有用です。

Local Zones を利用する際には、インスタンスタイプにはご注意ください。

5.Local Zones のレイテンシーについて

レイテンシーはは低い方がよく、Local Zones は超低レイテンシーであることが価値となっています。
レイテンシーの低さを確認するには、Local Zones が存在する台北からアクセスすれば分かりやすいのですが、私が日本にいるため、それは難しいところです。なので、私がいる日本からアクセスすることで、台北 Local Zones へのアクセスの方が アベイラビリティゾーン ( AZ ) へのアクセスより遅い事で、物理的距離による影響を受けている事を確認しようと思います。

以下の通り、EC2を2台起動しています。片方は東京リージョンのアベイラビリティゾーン ( AZ ) 、もう片方が 台北 Local Zonesになります。台北 Local Zones が東京リージョンと親子関係にあるため、EC2 のマネジメントコンソール画面では、以下の通り同列で表示されます。

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2つの EC2 の構成は以下の通りです。同じVPCの中で、それぞれのサブネットで起動して接続されています。
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この環境に、日本からPingを実施して、それぞれの応答速度を確認します。
それぞれ 1,000 バイトのデータを送信した結果は以下の図の通りです。
台北の EC2 の方が明らかに高レイテンシーとなっていることから、物理的に台北にあるデータセンターにアクセスしている事が分かります。本来の使い方は台北近辺からアクセスするユーザが台北 Local Zones を利用することで、超低レイテンシーを享受できることがポイントになりますが、その利用方法に効果があることが分かります。
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これが、Local Zones の 超低レイテンシーという価値になります。

6.Local Zones のデータレジデンシーについて

データレジデンシーも、重要なポイントになります。
データレジデンシーは、データがどの国・地域に設置されているかを指します。
例えば、台北 Local Zones で起動させた EC2 や EBS は台北のデータセンターを利用します。その為、台湾国内にデータが存在すると言えるわけです。システムを構築する際に、データを国内から持ち出してはいけない要件等がある場合は、Local Zones を利用することで実現できる可能性があります。日本でもデータは国内に保持することが要件となっている案件も多く、その場合は東京リージョン、大阪リージョンが選定されます。台湾の場合は、この台北 Local Zones でそれが実現できる可能性がある訳です。
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Local Zones 利用の1つの大きなポイントになるかと思います。

7.Local Zones の可用性について

Local Zones を利用した場合は、高可用性を保持するサービス構成が一部利用できなくなります。例えば台北 Local Zones は ELB ( ALB )に対応していていません。なので、ELBを利用した障害対応構成を作成することはできません。

実際にELB( ALB ) の作成画面では 台湾 Local Zones の選択可能です。
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その後作成を進めようとすると以下のエラーが出力されて、作成することができません。ELB の機能は現状では利用できないのです。
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ただ、現状 34 の Local Zones のうち 17 の Local Zones では ALB が利用可能です。その為、将来的には台北 Local Zones でも ALB が利用可能になる可能性はあります。

8.Dedicated Local Zones について

東京リージョンにある台湾 Local Zones について記載してきましたが、日本国内には Local Zones がありません。その登場を待つしかないところでしたが、2023年8月になって「AWS Dedicated Local Zones」が発表されています。これは、名前の通り「専用の Local Zones 」となります。公式の説明では「AWS Dedicated Local Zones は、お客様またはコミュニティ専用に構築された Local Zones です。Dedicated Local Zones には Local Zones と同じ利点があり、追加の利点として、AWS はお客様と協力して、お客様が必要とするセキュリティとコンプライアンス機能をプライベートゾーンで提供します。」とあります。そして、実績としては「シンガポール政府のスマート ネイションおよびデジタル ガバメント グループ (SNDGG)」での利用が発表されています。利用条件等は明確には分かりませんが、例えば1企業向けに特定の場所に Dedicated Local Zones が開設されるといったことも出来そうです。今後について注目したいサービスです。

9.まとめ

ということで、Local Zones について、色々と記載してきましたが、以下にまとめます。

ポイント 内 容
1 日本国内には Local Zones は無い。
2 東京リージョンには 台北 Local Zones がある。
3 Local Zones の利用自体は簡単に開始できる。
4 Local zones によって利用可能なAWS サービスが大きく違う。
5 EC2で利用できるインスタンスタイプも限られているので要注意。
6 Local zones のある地域に住んでいれば超レイテンシーを享受できる。
7 Local zones はデータレジデンシー要件にも対応可能。
8 Local zones は可用性を維持するサービスで利用できないものもある。
9 Dedicated Local Zones が新たに誕生。

東京リージョンにも Local Zones があることや、その特性を理解いただくことができたでしょうか。今後新しい Local Zones が日本国内に開設されるかもしれません。そして、直近で公開された Dedicated Local Zones の活用も広がっていくかと思います。

少なくとも国内に Local Zones の拠点が誕生した場合、その地域で AWSサービスを利用する際には、Local Zones の利用は選択肢になって来るかと思います。この投稿を見て頂いて、Local Zones に関心を持っていただけたら幸いです。

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最後までお読みいただき、ありがとうごじました。

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