「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著 (2008年出版, 金井壽宏 (監修), 金井真弓 (翻訳)) の要点を引用形式でまとめた記事です。
TL;DR
サーバント・リーダーシップは、以下の 10 点に総括される。
- 傾聴 (Listening)
- 共感 (Empathy)
- 癒し (Healing)
- 気づき (Awareness)
- 説得 (Persuasion)
- 概念化 (Conceptualization)
- 先見力、予見力 (Foresight)
- 執事役 (Stewardship)
- 人々の成長に関わる (Commitment to the growth of people)
- コミュニティづくり (Building community)
本書の総括
本書は第1章から第3章がサーバント・リーダーシップの定義と概要を説明しており、第4章以降は各組織 (教育、企業、財団、教会)におけるサーバント・リーダーシップの具体例を示していた。多様化した働き方が存在する現代においてサーバント・リーダーシップは、部下の育成、教育、動機付けに悩む管理職層にリーダーシップの指針として役立つ。従来のカリスマ型(または、ビジョン型)リーダーシップと比較して、取り組みやすく感じる。
一方、本書はサーバント・リーダーシップを提唱した書籍であるため、対象領域が広く抽象的な部分が多い。各組織やビジネスの行動規範に落とし込んだ書籍などを合わせて書籍を合わせて読むことで理解が深まると感じた。
要点の抜粋
本書を読んで重要と感じた部分を引用します。
第1章 リーダーとしてのサーバント
「リーダーとしてのサーバント (召使い)」という発想
レーオはこのグループに「サーバント(召使い)」として同行し、雑用をしていたが、持ち前の快活な性格や、歌を歌ったりすることによって、一行の支えとなっていた。この男の存在はとても大きなものだ。すべてがうまくいっていたのに、突然レーオは姿を消す。すると一行は混乱状態に陥り、旅は続行不能になってしまった。サーバントのレーオがいなくては、どうにもならなかったのだ。旅の一団のひとりである語り手は、何年か放浪したのちにレーオを見つけ、あの旅を主宰した教団へ行くことになる。そこで彼は、サーバントとして知っていたレーオが、実はその教団のトップの肩書きを持つ人物で、指導的立場にある偉大で気高い「リーダー」だったと知るのだ。
――― p44, 「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著
サーバント・リーダーとは誰か
サーバント・リーダーとは、そもそもサーバントである。レーオのように。まずは奉仕したい、奉仕することが第一だという自然な感情から始まる。それから、意識的な選択が働き、導きたいと思うようになるのだ。そうした人物は、そもそもリーダーである人、並々ならぬ権力への執着があり、物欲を満足させる必要がある人とはまったく異なっている。そもそもリーダーである人にとって、奉仕は後回しにされる――リーダーシップが確立されてからになる。つまり、そもそもリーダーである人と、そもそもサーバントである人とは両極端なのだ。
――― p53, 「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著
需要と共感
かつてある大学の学長がこう言った。「教育者は、学生に拒絶されることがあるかもしれないが、そうなっても文句は言ってはいけない。だが、教育者はいかなる状況にあっても、どんなことをした学生であれ、どの学生も拒絶してはならない」
――― p64, 「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著
予見――リーダーシップの核となる倫理
予見とは、リーダーの持つ「引き紐(リード)」だ。いったんリーダーがこの引き紐を失い、出来事のほうがリーダーを引っ張るようになると、彼らは名ばかりのリーダーとなってしまう。導いているのではなく、目の前の出来事に反応しているだけで、リーダーとしては長続きしないだろう。普通なら予見できたはずのことを予見できず、行動の自由があるのに、知識に基づいて行動を起こせなかったため、リーダーシップを失った人の例は最近多い。
――― p73, 「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著
トラスティ――信託を受託するもの
組織には二種類のリーダーが必要だ。組織の内部にいて、実際に毎日の任務を遂行していくリーダー。そして、外部にありながらも密接に関わり、距離があることを利用して、実際に活動するリーダーたちを監督するリーダーである。後者は「トラスティ(受託者)」と呼ばれる
―― p94, 「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著
サーバントを見分けるにはどうすればいいか
ラビのヘシェルは、旧約聖書の預言者に関する講義を最近行った。その中で彼は、真の預言者と偽の預言者の話をしている。すると、ある受講者が質問した。真の預言者と偽の預言者をどうやって見分けるのか、と。ラビの答えは簡潔で的を射ていた。「見分け方などない」。彼はそう言ってから、詳しく話し出した。「もし、そんな方法が見つかり、預言者の頭にかざせば、その預言者が本物かどうか瞬時に証明される計測器があったなら、人間のジレンマなどなくなるし、人生に意味も存在しないだろう」
これはサーバントの問題にもあてはまる。「こちらはいるだけで周りを豊かにする人で、こちらは普通の人、そして、こちらは搾取する人」と区別する確実な方法があったら、人生にやりがいなどなくなってしまうだろう。とはいえ、自分についても他人についても、その人の与える最終的な影響が、人を豊かにするものか、凡人並みのものか、それとも人の能力を弱めて枯渇させるものか、という点を知ることは非常に重要だ。
―― p98, 「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著
第3章 サーバントとしてのトラスティ
定義
トラスティの役割は、組織の活動的な計画の外に位置し、「管理する」ことえある。内部で運営を行う役員にトラスティが任せるのが、「経営(administration)」だ。このコンセプトと言葉の組み合わせ(このふたつは密接に関わっている)とともに、CEOという肩書きや、その肩書きが伝えている、ひとりの責任者というコンセプトは、時代錯誤のものとして消えるべきである。
―― p169, 「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著
トラスティの役割――対応するのではなく、主導する
トラスティが積極的な役割を担うためには、何が必要だろうか。有能で献身的で、組織が最大限に機能するように行動を起こして支援するトラスティには?
この問いへの答えは、組織の中で人々が最も機能できる役割に関する新しい視点がトラスティに求められるということだ。この視点を簡潔に言い表すとこうなる。人は誰しも完璧ではない。すべてを任されるべき人はいないのだ。完璧さというものは、対等なメンバーとして関わる人々と能力を補い合うことによってのみ見いだされる。 これは経営の心得の前提――ほぼ原則と言っていい――として、長年大事にされてきたものに逆らうことになる。つまり「理事会は管理などできない!権限は個人に委託されねばならない」というものだ。われわれはどう対処すればいいだろうか。
<略>
新しい前提とは、トラスティから運営担当の役員に権限を委託する際、何人かのチームに渡されるのが最も望ましいということだ。チームのメンバーは優れた才能で互いを補い合い、それぞれが対等な関係で、そのメンバーの第一人者(これについては前章で述べた)のリーダーシップに従っている。
―― p197, 「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著
トラスティの判断
有能なトラスティがおらず、ほぼ自分たちだけで活動している経営者と専門家は(今のところ、ほとんどがその状態だ)、組織の生き残りを決定づけるための一歩が踏み出せないかもしれない。彼らは組織を管理できているという妄想にしがみついている。強力で有能なトラスティが警戒しなかれば、そんな過ちがあっても気づかれず、行動を起こそうという要求もされないだろう。
<略>
トラスティとして優れた判断ができ、より良い組織を作るために前進したいと考える人は、のちに実を結ぶ行動をとるのに、三つの斑点が必要だとわかるだろう。
- 優れたアイディアがあるか。
- 優秀な人々がひたむきに、その実行に尽力しているか。
- 彼らを自由に使える資源はそろっているか。
ほかの人の判断と同列に扱われ、組織関係者の全員に尊重されているトラスティの優れた判断は、この三つの要素すべてにおける良い点が融合したものだ。どれかひとつでも過ちがあると、その行動は失敗する。
―― p210, 「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著
第4章 企業におけるサーバント・リーダーシップ
原則はこうだ。**良心を律しようとする個人の意欲を減少させないため、どんな行動も法律によって制限するべきではない。**もっとも、その法律が一般的な倫理規範と一致していれば、話は別だ。これについては、禁酒法の経験から学ぶべきだろう。合衆国憲法は第一世界大戦後、(大多数の人間によって)一般に知られたアルコールがもたらす害を抑えるために改正された。一九三三年、禁酒法は廃止されたが、アルコールの害への見方が変わったからではなく、禁酒法を無視した者が多かったため、その法を強制し続ければ、国家の存続が危ぶまれたからである。
―― p229, 「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著
「どうすれば、法人と呼ばれるこの抽象的な概念を愛せるのか」と。愛するのは無理だろう!人が愛せるのは、法人が社会に参加するための権利として与えられたサービスを提供するために集まった人間だけである。つまり、人こそが組織なのだ!
解説
サーバント・リーダーシップを実践するための十の気づき
サーバント・リーダーシップの考えを広めるために設立されたNPO グリーンリーフ・センターの前所長を務めたラリー・スピアーズは、このグリーンリーフの考えを次のように整理し、解説している。元祖のグリーンリーフ大先生にはもうしわけないが、こちらのほうがわかりやすいので、ぜひ紹介しておきたい。
―― p573, 「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著
スピアーズによるサーバント・リーダーの属性
1. 傾聴 (Listening)
大事な人たちの望むことを意図的に聞き出すことに強く関わる。同時に自分の内なる声にも耳を傾け、自分の存在意義をその両面から考えることができる。
2. 共感 (Empathy)
傾聴するためには、相手の立場に立って、何をしてほしいかが共感的にわからなくてはならない。他の人々の気持ちを理解し、共感することができる。
3. 癒し (Healing)
集団や組織を大変革し統合させる大きな力となるのは、人を癒すことを学習することだ。かけているもの、傷ついているところを見つけ、全体性 (wholeness) を探し求める。
4. 気づき (Awareness)
一般的に意識を高めることを大事だが、とくに自分への気づき (self-awareness) がサーバント・リーダーを強化する。自分と自部門を知ること。このことは、倫理観や価値観とも関わる。
5. 説得 (Persuasion)
職位に付随する権限に依拠することなく、また、服従を強要することなく、他の人々を説得できる。
6. 概念化 (Conceptualization)
大きな夢を見る (dream great dreams) 能力を育てたいと願う。日常の業務上の目標を超えて、自分の志向をストレッチして広げる。制度に対するビジョナリーな概念をもたらす。
7. 先見力、予見力 (Foresight)
概念化の力と関わるが、今の状況がもたらす帰結をあらかじめ見ることができなくても、それを見定めようとする。それが見えたときに、はっきりと気づく。過去の教訓、現在の現実、将来のための決定のありそうな帰結を理解できる。
8. 執事役 (Stewardship)
エンパワーメントの著作でも有名なコンサルタントのピーター・ブロック (Peter Block) の著書の署名で知られているが、執事役とは、大切なものを任せても信頼できると思われるような人を指す。より大きな社会のために、制度を、その人になら信託できること。
9. 人々の成長に関わる (Commitment to the growth of people)
人々には、働き手としての目に見える貢献を超えて、その存在そのものに内在的価値があると信じる。自分の制度の中のひとりひとりの、そしてみんなの成長に深くコミットできる。
10. コミュニティづくり (Building community)
人間の歴史のなかで、地域のコミュニティから大規模な制度に活動の母体が移ったのは最近のことだが、同じ制度の中で仕事をする(奉仕する)人たちの間に、コミュニティを創り出す。
参考情報
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NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会
サーバント・リーダーシップに関するNPO日本法人。支配的リーダーに従うメンバー行動と、サーバントリーダーに従うメンバー行動の対比図がある。
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サーバントリーダーとは?組織を強くする「支援型リーダー」10の特徴
導入事例と、今後の市場が求めるリーダー像の提案の記載がある。
支配型リーダーが企業を大きく引っ張っていけたのは20世紀まで。現在のように市場が成熟し、個人の価値観が複雑かつ多様化した社会では、突き進むリーダーを周囲が支えるという組織ではなく、チームのメンバー全員がどのように目標を達成するかを考え抜ける環境が必要です。それを可能にする一つの形がサーバント・リーダーシップです。
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サーバントリーダーシップが陥れる「良い兄貴問題」
サーバントリーダーシップの是非の記載がある。
馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない
あくまで、大事のなのは本人のやる気です。
システムインテグレーターのPMは、ヒエラルキーのはっきりした組織の長という性格があります。今でこそアジャイルが浸透しサーバントリーダーシップが注目されていますが、いわゆるウォーターフォール型のプロジェクトにおけるPMは、ヒエラルキーの頂点に立つプロジェクトの絶対的な責任者です。プロジェクトの成功のために組織とぶつかることも少なくありません。
補足:目次
「サーバント リーダーシップ」 ロバート・K・グリーンリーフ著の目次です。
第1章 リーダーとしてのサーバント
第2章 サーバントとしての組織
第3章 サーバントとしてのトラスティ
第4章 教育におけるサーバント・リーダーシップ
第5章 企業におけるサーバント・リーダーシップ
第6章 財団におけるサーバント・リーダーシップ
第7章 教会におけるサーバント・リーダーシップ
第8章 サーバント・リーダー
第9章 官僚主義社会におけるサーバントとしての責任
第10章 アメリカと世界のリーダーシップ
第11章 心の旅