AtCoderのAIルールについて思うこと
執筆時点で一昨日、AtCoderのAI利用ルールについて改定された。
改定されたルールぺージのお知らせぺージ
https://atcoder.jp/posts/1347
前回6月7日時点ではざっくり「機械にコピペで問題文を入力してはいけない」といった内容だったが、
11月15日発表のルールではもう完全に「生成AIの利用をしてはならない」とされた。
これらの発表について2つ思ったことがあったのでお気持ちをこちらに記していこうと思う。
なおこの記事では生成AIをプログラミングに使うことへの賛否は述べない。
私自身にも生成AI、とりわけLLMをプログラミングに利用することへの意見はあるものの、それはセンセーショナルな部分でありインターネットという氷山の一角を見るだけでも多種多様な意見が見られる。したがってここで述べることに意味を為さないだろうと考えた。
この記事では純粋に発表されたルールぺージとそのお知らせの文面や、ルールの内容にのみフォーカスして述べる。
また、非常にややこしいため登場する記事を4つ先出しする。混同してしまわないように気を付けていただきたい。
- A.6月のルール変更お知らせぺージ
- Bが発表されたというお知らせと、その制定背景
- B.6月のルールぺージ
- 1回目の生成AIに関するルール発表
- C.11月のルール変更お知らせぺージ
- Dが発表されたというお知らせと、その制定背景
- D.11月のルールぺージ
- 2回目の生成AIに関するルール更新
目次
ルール制定背景の一貫性が担保されていない
まず、A.6月のルール変更お知らせぺージから引用する。
競技性が少し失われ、レーティングの信頼性が減少しております。
生成AIは、現在のプログラミング環境から切り離すことは非常に難しく、一括禁止をするべきものではありません。ですが、生成AIに問題を解かせるだけの行為は、競技としても、ITエンジニアとしての能力証明としても価値があるとは言い難く、AtCoderとして禁止するべきだと考えております。
このように、6月時点では一括禁止するべきではないと述べている。また、ARCにおいても「生成AIを使って問題を解く、というのもひとつの選択肢であり意味がある」といったことが書かれていた。
たしかに、B.6月のルールぺージではこの背景に反した内容は特になかったように記憶しているし、現時点で読み返してもルールと背景の矛盾はない。
一方で11月の生成AIルール変更では背景の説明がほぼ、というより全くなかった。
今回発表するルールは、2024年11月現在の生成AIの能力と利用状況に合わせて制定されたものです。今後のAI事情の変化に応じて、ルールを変更する予定です。
ルールの制定背景などは、以下をご確認ください。
D.11月のルールぺージにはこの文と、A.6月のルール変更お知らせぺージとC.11月のルール変更お知らせぺージのリンクが置いてあるのみだった。前回から生成AIへの立場を覆してしまっているのに、さも前回と同じような書かれ方をしているのは理解しがたい。
文意のとおり、生成AIの能力・利用状況に合わせて変更されたのであれば何が変わったことに対するルール変更なのかはっきりするべきだろう。
お知らせ文の違和感
次にC.11月のルール変更お知らせぺージへのお知らせ文冒頭を引用する。
生成AIがまた少し進化し、競技プログラミングに対する性能が上がりました。生成AIによる全体のレーティングへの影響は現状では大きくありませんが、ユーザ間での不満が大きく、競技の楽しさが大きく棄損されています。 この現状を打破し、競技プログラミングをより楽しみやすいものとするため、生成AIの利用を、以前よりもさらに厳しく禁止することにしました。ルールに大きな変化がありますので、必ずご確認ください。
この文章では確かに生成AIの利用を禁止する旨が伝えられているが、その背景となる情報がほとんど提供されていないように見える。
より具体的にはこの一言によって主張が行方不明になっている。
生成AIによる全体のレーティングへの影響は現状では大きくありませんが
本来、ルール改変するのであれば
- 生成AIが進化した→競プロに対する性能が上がった→だからユーザの生成AIの利用を制限しよう
このようなアプローチで主張されていれば十分理解できるルール改変と言える。しかし、お知らせ文からは
- 生成AIが進化した→対競プロに対する性能が上がった(けどレートへの影響はない)
- ぱっと見ユーザが不満そうだ→だからユーザの生成AIの利用を制限しよう
この2つの論理が同時に働いていることが読み取れる。というより、項目1に関していえば一般論を語っているにすぎない、ルール改変に対して何も寄与していない無意味な文となってしまっている。
以上のことから、この文を恣意的に要約するとこのようになる。
- 「ユーザーが不満を言ったし必要か知らんけどしゃーなしAIルール変えたるか」
いち個人が勝手に解釈して述べているのであればともかく、競技プログラミングの運営をする企業がこのような発信を平然と行っているのはかなり違和感がある。
まとめと筆者の気持ち
以上のように、この11月ルール制定は瑕疵だらけに思えた。
とはいえ、ルールの内容に関してきっと個々人に大小さまざまな賛否はあるだろうが、11/16のABC380では炎上等はなくプレイヤーにきちんと受け入れられていたような気がした。
おそらく実際にネット上、とりわけTwitter上のツイートで生成AIに対して不満に思うプレイヤーが多く散見され、生成AIを全面禁止するルールが受け入れやすかったからと考えられる。そう考えれば結果的には妥当なルール変更だったのかもしれないが、Twitterのツイートなんていうものは少数派の意見でも目立ちやすいものである。立ち返ってみればAtCoderの運営がプレイヤーから生成AIルールへのフィードバックを受けるような機会はあったのだろうか?筆者が忘れているだけかもしれないが、アンケートなどを取っていたように記憶していない。
そのうえでルールぺージやお知らせぺージの文面からなんとなくTwitter上の一部の意見を見て決めていたのでは?と邪推がとまらない。