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エンジニアが朝会で「それ、本当に必要ですか?」を上手く聞く技術

Last updated at Posted at 2025-07-20

はじめに:あなたの「質問」がプロダクトの未来を創る

「この機能を作ってください」

プロダクトマネージャー(PdM)からの一言。しかし、その背景には多くの"不確かさ"が潜んでいます。

  • 情報の欠落:「なぜそれが必要か」という最も重要な情報が抜け落ちている。
  • 未検証の前提:「こうすればうまくいくはず」という思い込みが検証されていない。

曖昧な要求のまま開発を進めた結果、待っているのは「誰も使わない機能」や「終わらない手戻り」、そして「かけたコストに見合わない成果」です。

エンジニアの仕事は、与えられた仕様通りに「作ること」だけではありません。技術的知見を活かして、「そもそも何を作るべきか」という根源的な問いに深く関わることです。その最も強力な武器が、建設的な「質問」に他なりません。

このガイドは、あなたが単なる「作り手」から、プロダクトの価値を最大化する「共創者」へと進化するための、思考法と実践的テクニックを解説します。

第1章:すべての要求は「検証されるべき仮説」である

まず、考え方を転換しましょう。PdMから提示される要求は「確定した仕様」ではなく、「検証されるべき仮説」です。

「(特定のユーザーの)△△という課題を、〇〇という方法で解決すれば、□□という成果が出るはずだ」

これが、あらゆる要求の根底にある「仮説」の基本構造です。

しかし、多くの場合、要求は「〇〇という方法(=解決策)」の部分だけが切り取られてエンジニアに伝えられます。私たちの最初の仕事は、質問によって、その背後に隠れた全体像を明らかにすることです。

要求を構成する4つのパーツ

要求は、以下の4つのパーツで構成されています。重要なのは、すべてのパーツが揃っている必要はないということです。特に、チケットは「解決策」のみで起票されることが頻繁にあります。

💡 仮説

  • 役割:
    • 要求の核。「何を解決したいか」という課題と、「どう解決するか」という方針、そして「期待される成果」を言語化したもの。
  • 必須/任意:
    • 必須
  • 具体例:
    • 「ユーザーの離脱率が高い(課題)のは、登録フローが複雑だからだ。これを簡略化すれば(解決方針)、継続率が向上するはずだ(期待効果)。」

🔍 現象の説明

  • 役割:
    • 観察された事実。ユーザーの行動、問い合わせ、競合の動向など、客観的に観測された出来事。仮説を立てるヒントになることもある。
  • 必須/任意:
    • 任意
  • 具体例:
    • 「競合のA社がダークモードを実装した。」
    • 「ユーザーから『ボタンが見つからない』という問い合わせが来た。」

🛠 解決策、期待するシステムの振る舞い

  • 役割:
    • 具体的な実装案。特定の機能やシステムの振る舞いに対する直接的なリクエスト。多くのチケットは、このパーツのみで構成される。
  • 必須/任意:
    • 任意
  • 具体例:
    • 「ユーザープロフィール画面に、アイコン変更機能を追加してほしい。」
    • 「CSVダウンロードボタンを設置してほしい。」

⚠️ 制約

  • 役割:
    • 実現の境界条件。期限、予算、技術スタック、法規制など、開発において遵守すべきルール。
  • 必須/任意:
    • 必須
  • 具体例:
    • 「来月のキャンペーン開始までにリリース必須。」
    • 「既存の認証基盤を利用すること。」

エンジニアリングの出発点は「仮説」と「制約」です。

この2つが明確であれば、エンジニアは専門知識を活かして最適な「解決策」を設計・提案できます。

しかし、現実には「解決策」だけが提示されるケースが後を絶ちません。このガイドの核心は、「解決策」という断片的な情報から、質問を通じて本質的な「仮説」を掘り起こし、チームで合意形成していくプロセスにあります。

第2章:仮説を解き明かす「質問の思考プロセス」

曖昧な要求に直面した時、闇雲に質問しても議論は発散します。以下の思考プロセスに沿って質問を組み立てることで、論理的に要求の本質に迫ることができます。

Step 1:まず、核となる「仮説」を特定・言語化する

多くの場合、仮説は暗黙的です。まずはそれを明確な言葉にすることから始めます。

💡 効果的な質問例

  • 「承知しました。この機能開発を通して、最終的にユーザー(またはビジネス)にとって、どのような良い変化が起きると考えていますか?」
  • 「私の理解が正しければ、『(原因)を(解決策)で解消すれば、(期待効果)が得られるはずだ』というご期待、という認識で合っていますでしょうか?」

Step 2:次に、仮説の根拠となる「現象」を深掘りする

仮説の妥当性は、その根拠となる「現象」の質に左右されます。思い込みや感覚ではなく、事実に根ざしているかを確認しましょう。

💡 効果的な質問例

  • 「そのように考えられた、具体的なきっかけ(観察した事実やデータ)は何でしたか?」
  • 「その課題に関する、ユーザーからの直接的な声や、行動を示すログデータなどはありますか?」

Step 3:そして、「解決策」の妥当性と代替案を検討する

仮説と現象が明確になったら、次に「解決策」を吟味します。提示された解決策が、本当にその仮説を検証する上で最適なのかを問い直します。

💡 効果的な質問例

  • 「その課題を解決するために、提示された方法以外に検討されたことはありますか?」
  • 「もし技術的には、より低コストで(またはより早く)同じ効果を狙える〇〇という方法もありますが、比較検討しませんか?」

Step 4:さらに、費用対効果(ROI)を問い直す

解決策の工数感が見えてきたら、その投資が妥当であるかを問いかけます。これは、ビジネスの視点を開発に持ち込むための、エンジニアからの極めて重要な働きかけです。

💡 効果的な質問例

  • 「この解決策ですと、概算で〇人月ほどの工数が見込まれます。期待される効果に対して、この投資はビジネス的に見合っているでしょうか?」
  • 「もしフル実装ではなく、必須機能に絞ったMVP(Minimum Viable Product)でリリースすれば、コストを1/3に抑えつつ期待効果の70%は得られそうです。まずはそちらから検討しませんか?」

Step 5:最後に、手戻りを防ぐ「制約条件」を明確にする

開発が進んでから「実は来月までに必要だった」とならないよう、境界条件を最初にクリアにします。

💡 効果的な質問例

  • 「この開発のタイムラインで、特に重要なマイルストーン(例:イベント、プレスリリース)はありますか?」
  • 「技術的な観点で、事前に考慮すべき既存システムとの連携や、準拠すべきセキュリティ要件などはありますか?」

第3章:仮説の「確からしさ」を育て、開発リスクを最小化する

すべての仮説は、その「確からしさ(検証レベル)」が異なります。エンジニアの重要な役割は、質問と提案を通じて、確からしさの低い仮説を、開発に着手できるレベルまで引き上げることです。

仮説の4つの検証レベル

Lv. 0:思いつき・アイデア

  • 状態: 「〇〇したら、いけると思う」という段階。
  • エンジニアのアクション: 現象の確認を促す。「そう思われたきっかけは何ですか?」と問う。

Lv. 1:定性的な根拠

  • 状態: ユーザーインタビューでの数名の声、専門文献での指摘、過去の類似プロジェクトでの経験など、質的な根拠がある段階。
  • エンジニアのアクション: 定量化を提案する。「より多くの人に当てはまるか、簡単なアンケートやデータ分析で確認しませんか?」と問う。

Lv. 2:定量的な根拠

  • 状態: アンケートで67%が支持、アクセス解析での特定行動の多発など、量的なデータで裏付けられている段階。
  • エンジニアのアクション: 実験による実証を提案する。「本格開発の前に、PoCや手動運用で簡易的に効果を試せませんか?」と問う。

Lv. 3:実験による実証

  • 状態: PoC(概念実証)やA/Bテストで効果が実証済みの段階。
  • エンジニアのアクション: 本格開発に着手する。「検証結果を基に、最適な実装方法を設計しましょう」と提案する。

私たちのゴールは、Lv.3の状態で開発を始めることです。 Lv.0やLv.1の仮説にいきなり大きな開発コストを投じるのは、非常に危険な賭けです。

エンジニアから提案する「リーンな仮説検証」

開発コストをかけずに仮説の検証レベルを上げる方法は、たくさんあります。

  • 手動オペレーション検証:「そのレコメンド機能、まずは担当者が毎週手動でメール配信して効果を測りませんか?」
  • 既存ツールでの代替検証:「そのマッチング機能、まずはGoogleスプレッドシートで管理して、運営が手動でマッチングしてみませんか?」
  • プロトタイプ検証:「画面のデザインだけ作成してユーザーに見せ、本当に使いたいと思うか反応を見てみませんか?」

これらの提案は、PdMを助け、チームを無駄な開発から守る、極めて建設的なエンジニアリング活動です。

第4章:実践のヒント - コミュニケーションと使い分け

ここまでの思考法を実践に移すための、具体的なヒントを紹介します。

1. 質問を「共創」に変えるコミュニケーション術

正しい質問も、伝え方一つで相手の受け取り方が変わります。対立ではなく、協力を生むための言葉を選びましょう。

  • 対立的な聞き方: 「それ、本当に必要ですか?」

  • 協調的な聞き方: 「ありがとうございます。より良い実装を考えるために、この機能の背景や目的をもう少し詳しく教えていただけますか?」

  • 対立的な聞き方: 「これは無駄だと思います。」

  • 協調的な聞き方: 「なるほど。同じ目的を達成するために、こんな方法も考えられそうですが、いかがでしょうか?」

  • 対立的な聞き方: 「このAPIのレイテンシが...」(専門用語)

  • 協調的な聞き方: 「技術的な観点から、この方法だと応答時間が遅くなる懸念があります。ユーザー体験を損なわない別の方法を検討しませんか?」(平易な言葉)

2. メリハリをつける:いつ質問を深掘りすべきか

すべての要求に対して、同じ熱量で質問する必要はありません。時間という最も貴重なリソースを有効に使うため、状況に応じた使い分けが重要です。

🚫 質問が不要、または最小限でよいケース

  • 法規制・コンプライアンス対応
  • セキュリティ修正
  • 明確なバグ修正
  • 技術的負債の解消
  • 小規模な文言修正

✅ 深掘りが必要なケース

  • 新機能開発
  • 大規模な改修
  • 曖昧な要求
  • 競合追随案件
  • コストが大きい案件

💡 判断のコツ:「深掘り必要度」チェックリスト

以下の項目に2つ以上当てはまる場合は、積極的に質問を深掘りしましょう。

  • □ 開発工数が1週間以上かかりそう
  • □ 要求の背景(なぜやるのか)が不明確
  • □ 期待される効果が曖昧
  • □ 開発コストに対して期待効果が見合っているか不明
  • □ 過去に類似のプロジェクトで失敗した経験がある

おわりに:質問は、批判ではなく「共創」の始まり

建設的な質問は、相手への攻撃や否定ではありません。それは**「私たちは、このプロダクトをもっと良くしたいと本気で考えている」**という意思表示であり、チーム全員で最高の答えを見つけ出す「共創」プロセスの始まりです。

明日から、ぜひ小さな一歩を踏み出してみてください。

朝会で出た要求について、心の中で「仮説は何か?現象は何か?」と考えてみる。そして、たった一つでいいので、「この機能で、最終的にユーザーはどうハッピーになるんでしたっけ?」と問いかけてみる。

その小さな問いが、チームの文化を変え、プロダクトの成功確率を劇的に高めるはずです。

付録:実践ストーリー「タスク画面を、もっと使いやすくしたい」

このガイドで解説した思考プロセスを、具体的なストーリーで追体験してみましょう。

【状況設定】

あなたはB2B向けのプロジェクト管理ツールを開発するチームのエンジニアです。ある日の朝会で、PdMがこう切り出しました。

PdM:「ユーザーから『タスク管理画面が使いにくい』という声が複数上がっています。なので、この画面をもっと使いやすく改善したいです。」

Step 1 & 2:仮説の特定と現象の深掘り

あなた(エンジニア):「ありがとうございます。『使いやすくなる』ことで、最終的に何を達成したいですか?また、そう思われたきっかけのデータはありますか?」

PdM:「『自分のタスクを探す時間を短縮できれば、ユーザー満足度が向上するはずだ』と考えています。実際、サポートへの問い合わせや、ユーザーの30%がページ内検索を使っているというログが根拠です。」

Step 3:解決策の検討

あなた:「なるほど。課題が『自分のタスクを探す時間』なら、解決策はいくつかありますね。

  • 案A: フィルター機能の追加(工数:中)
  • 案B: 『自分のタスク』タブの新設(工数:小)
  • 案C: 高性能な検索ボックスの設置(工数:大)

が考えられます。」

Step 4:費用対効果(ROI)の問い直し

ここで、あなたはビジネスの視点を持ち込みます。

あなた:「ちなみに、案B(自分のタスクタブ)であれば、工数は約0.5人月で実現できそうです。このコストでユーザー満足度を向上させるというのは、投資として見合っていそうでしょうか? もし効果が不透明なら、まずこの最小限の案で効果を測定し、良ければさらにフィルター機能(案A)を追加開発するという段階的な進め方もできます。」

PdM:「0.5人月なら十分な投資価値がありますね!それに、段階的に進める案はリスクが低くて良いです。では、まず案Bで進めましょう。」

Step 5:制約条件の確認

あなた:「この改善について、何か目標時期はありますか?」

PdM:「はい、3週間後に控えているA社への導入に間に合わせたいです。」

【得られたもの】

「0.5人月」という工数感と「3週間」という制約が明確になり、案Bが現実的かつ費用対効果の高い選択肢であることがチームの共通認識となりました。

最終的な開発タスク

当初の「タスク画面を、もっと使いやすくしたい」という曖昧な要求は、一連の質問を通じて、以下のような具体的で、誰もが納得できる開発タスクに変わりました。

【タスク】自分のタスクを一覧表示するタブ機能の実装

  • 背景(仮説): ユーザーは自分の担当タスクを探すのに時間がかかっており、作業効率と満足度が低下している。担当タスクを即座に確認できるようにすれば、これらの指標は改善されるはず。
  • 受入基準
    • タスク画面に「すべてのタスク」と「自分のタスク」を切り替えるタブを設置する。
    • 「自分のタスク」タブをクリックすると、ログイン中のユーザーが担当するタスクのみが一覧表示される。
  • 制約: 3週間以内にリリースすること。

このように、エンジニアの建設的な質問は、無駄な開発を防ぎ、チームを成功へと導くための羅針盤となるのです。

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