私は弊社で提供している SIEM 製品の開発作業のかたわら、これに関連する分野の研究開発を行っています。(言わずもがなですが)情報工学分野の進歩は非常に早く、最新研究の内容を継続してキャッチアップするにはどうするかが重要です。そこで、以下の記事に触発されてやってみた「論文読み習慣」についてお話しします:
論文読みの 5W1H
Why: 目的は新しい研究アイデアの発見+α
自分の専門と必ずしも関係のあるわけではない論文を読み、知見を広げると同時に新しい研究アイデアの発見に繋げることを目的としました。テクニカルタームのみ知っているがその内容までは分からない、ということが多くあったので、それらを自分の言葉で説明できるくらいまでは理解したかったのです。また、論文の内容まとめをチームに公開することで、ちょっとした議論ができたらなお良いとも思っていました。
When: 疲れていない朝の 1 時間がベター
始業直後の朝の 1 時間を使って論文探しから内容まとめまでを行いました。一時は終業前 1 時間に行っていたのですが、疲れている時には集中力が持たなかったので、最終的に一番元気な朝の時間に行うことで落ち着きました。
Where: 読み続けられることが大事
自宅の集中できる場所で読んでいました。 12.9 インチの iPad を使っていたので、室内をうろうろしたりソファーに寝っ転がったりして、なるべく読み続けられるようにすること を心がけました。
Who: 自分だけでなく他人のためにも
もちろん論文を読むのは自分です。しかし、その後の内容まとめは(未来の自分を含めた)他の人が読んでも分かるようにしたいと思っていました。
What: 自分の専門分野 -> 話題の分野
まず初めに、自分の専門分野に関する最新論文を検索して読み始めました。この時、なるべく論文選択に時間をかけないことを心がけました。タイトルやアブストラクトをじっくり吟味して選ぶとなかなか決められないし、そこでわかることも限られているため、気になったら読んでみるという気軽さが大事であると思います。
具体的には、国際会議の 1 セッションを網羅的に読むのが選ぶ時間も省けて良かったです。例えば、信号処理分野のフラッグシップカンファレンスである ICASSP では 分野ごとにセッションが細かく分かれている ため読みやすいです。
また、内容まとめの最後に次にどのような論文を読むかを検討して記録しておくのも良いと思います。
ある程度慣れてきたら、最近話題の分野に関連する論文を読んでいくようにしました。事前知識が少ない分、初めのとっかかりが難しいので、レビュー論文などの初学者向けに書かれたものを選ぶようにしていました。
How: 自分に合った読み書きのフレームワーク化
以下の観点が最低限分かるように読むことを心がけました:
- 主題の工学的な応用
- 目的は何か
- 従来手法とそれらの欠点
- 貢献は何か
iPad の Paperpile で上記の観点に対応する部分などをハイライトすることで、この後の内容まとめをしやすくしていました。
上記の観点だけで良い論文もあれば、そうではないものもあるため、都度柔軟に観点を増やして読めるようにしていました。理論系になるほど読むのに時間がかかり、 1 時間ではとてもではないが理解しきれないこともありました。どのように妥協するかを決めるところに難しさがありました。
まとめる際は、論文ではなくそのまとめだけ読んでも(完璧ではなくともある程度は)理解できるようにすることを心がけました。上記に挙げた観点についてを明確にし、必要であれば数式も使って記述しました。読んだ感想と疑問点も記載することで、論文の上手い書き方から次の研究の種まで幅広く考えることができて良いと思いました。
使っているツールは以下です:
- VS Code
- VS Notes (拡張機能)
- Markdown PDF (拡張機能)
- Paperpile
VS Note では論文読み専用のテンプレートを作って使っています:
"vsnote_template_papersummary": {
"prefix": "vsnote_template_papersummary",
"body": [
"---",
"tags:",
" - summary/paper",
"---",
"\n",
"# $1",
"\n",
"|Read|Write|",
"|---|---|",
"|||"
],
"description": "Template for writing paper summary"
}
タイトル、著書名、発表会議、ジャーナル名と発表年の情報を入れておけば全文検索にも引っかかりやすくて良いと思います。さらに、論文を読んだ時間とまとめを書いた時間をそれぞれ記載するようにもしました(上記テンプレートの表部分)。
最終的に出来上がった資料を PDF 出力して、Slack チャンネルへの投稿と Paperpile への登録を行いました。
感想
論文読みを 1 ヶ月間継続してみて良かった点は
- 速読の力がついた
- 論文の概要を掴むコツが分かった
- 今まで触れたことのなかった研究分野の概要が知れた
- 良い論文と悪い論文の見極め方が少し分かった
などがあり、一方で悪かった点は
- 分かった気になっているだけなような気がする
- 読んだ内容を割と忘れている
- 結構疲れる
などがありました。特に論文の選び方のブラッシュアップは必要であると感じ、初めての分野に対する最初の論文はカンファレンスペーパーではなく、レビュー論文だったり引用数の大きい論文だったりを選んだ方が、当初の目的達成への近道であると思いました。総じて色々な学びは得られたため、継続していきたいと思っています。